真由美よりも猫被っていたとは!!
「申し訳ありませんが、俺にはこの極秘任務とやらは、できないので断ります。」
はっきりとした口調でそう言い切った達也に、真夜は意外感が混じった視線を投げかける。
「あら、達也さんでも”できない”なんていうのね?」
「誰でも完璧な人間はいませんよ。その証拠に、俺は”魔法”が使えませんので。」
「そうだったわね…、だから、あなたには姉さんの魔法で、”魔法”を使えるようにしたけど。まぁ、確かに使い物になる域まではいかなかったわね。」
「ええ…。俺にもできない事はありますよ。」
「それで達也さんができない事っていうのが、”アイドル”ですか?」
「それが一番ではないですが、主に芸術系は無理です。」
「あら、そんな事はないと思いますけど…!」
達也の無理発言に真夜が突如として食いかかり、異を唱え出した。
そして、葉山に視線を向け、合図を送ると、葉山が応接間に完備されているモニター画面に向かい、何かの録画を再生し始めた。
それも見て、達也は顔には出さなかったが、驚いた。
なんとモニターに映った居た録画は、自分が中学生の頃に文化祭でやった演劇だったのだ。
なぜこのような物を取って保存していたのか、不思議ではならなかったが、その理由はすぐに本人からもたらされた。
「これ、いいでしょう?
葉山さんに頼んで、達也さんが出演する演劇を撮ってもらったのよ。何度見ても、よく鮮明に映っているわね。」
「叔母上…、まさか……」
「あら、姉さんがこのときには既に病で寝込みっきりだったから、代わりにビデオに収めてあげただけよ? 姉さんは深雪さんの事は大事にしてましたしね。後で、ゆっくりと鑑賞したいというから、葉山さんに動ける使用人を編成してもらって、録画してもらったの。」
確かに、この演劇の時は、深雪が姫役として大抜擢し、深雪の美貌を拝もうと全校生徒だけでなく、保護者も地域の人も総出で、劇場が昔の満員電車のように、観客が殺到し、一時は中止を余儀なくされたが、なんとか無事に演劇をやり遂げたのだ。
大勢の人の視線が集まるため、達也も深雪もそれほど気にしていなかった。しかし、その中にまさか葉山さん達が紛れ込んでいたとは、信じられなかった。
よっぽど深雪の演技に集中していたんだろうなと今を思えば、そう考えられる。
……しかし、なぜか、この編集された録画には、主に達也がアップで写っているように見えるのは気のせいだろうか…?
「そうですか…。しかし、俺は、代役を頼まれたに過ぎないですし、演技になっていなかったと思うのですが。」
「そんな事はありません!! 急な代役なのに、すぐに役の動きや見せ場を頭に書き込み、見事なアクションを見せてくれたじゃない!?
あれは、近くで見ても感動だったわ~…!!」
「………あの、叔母上…?」
一気にタカが外れたのか、猫かぶりが外れてしまった事に後で気づいた真夜は、慌ててフォローを葉山さんに頼む。
「奥様は、なかなか外に出る機会がありませんでしたので、私どもが撮影に行って、小型中継カメラで生中継させていただいたのですよ。
奥様は、二人の演技にとても感心しておりました。その熱が今、再熱しただけで御座います、達也殿。」
「……そのような事でよろしいのですか?葉山さん?」
「ここは、この葉山の弁舌でどうかご納得を。」
それは、ここでそう話を済ませてほしいという事か。
達也もいろいろ言っておきたい事があるが、付き合っているとそれこそ時間を取られ、深雪を待たせてしまう。
せっかく、深雪に夕食を作ってくれと話しておいたのに。
だから、達也は葉山の提案に乗って、すぐにこの任務を放棄する事を再度告げる。
「叔母上の事はともかく…、俺にはアイドルは無理です。
俺には、技術があっても、人を引きつける素質はないですから。」
「待ちなさい、達也さん。それで私が『はい、そうですか』と返事をするとでも?
これは、既に決定事項なの。達也さんに拒否権はないわよ? 今日は極秘任務の事前報告ですから。」
そう、話を終わらせて、この場を失礼させていただこうとした達也だが、真夜の冷めた視線で微笑む静かな笑みは、獲物を逃さないという意思が込められていた。
「さぁ…? まだ話が終わっていませんから、お座りになって?
葉山さん、紅茶の御代わりを。」
「畏まりました、奥様。 達也殿もどうぞお飲みください。」
達也は仕方なく、浮かしかけた腰を深くソファに腰かけ、紅茶をゆっくりと飲む。
………二人の意思がぶつかり合う前の気合補給のため。
真夜が猫かぶりを今まで達也に隠していたのはビックリだね。
でも、真夜様!! 頑張って!! 達也をうまく引き入れて~~~~!!!