真夜からの突然の連絡があって、魔法教会関東支部を訪問することになった達也。約束の時間より15分ほど早くに到着した。
着いて早々、ベイヒルズタワーのロビーに入り、関東支部のセキュリティーも通り、中に入る。
達也にも、四葉家内で使用されているアクセス権限の使用を許可されているため、警備員に止められる事もなく、真夜が待つ応接間へと足を運ぶ。
コンコン…
「ただいま参りました。」
応接間の扉にノックして、自分が着いた事を知らせる。返事はなかったが、扉に歩いてくる知った人の気配を感じる。
ゆっくりと扉が開き、招き入れられる。達也は廊下に誰もいない事を気配だけでなく、念のために眼も使って異常がないことを確認してから、応接間に入った。
入るとすぐに、大層な彫刻が施されたテーブルとソファがセッティングされていて、上座には既に真夜が座って、紅茶を淑女らしく飲んでいた。
達也は、応接間の内装と洋風なテーブルとソファがかみ合っていない事に気づき、真夜が私的に家具を引き入れたのだと理解した。
その事には何も口には出さず、案内されるまま、真夜の向かいに座り、背筋を伸ばす。
「よく来てくれましたね。 昨日は確か入学式の準備で忙しかったのでは?」
「いえ、それほど忙しくはなかったですよ。寧ろあれくらいでオロオロしているのはどうかと思いましたね。」
「それは、会長さんの事かしら?ふふふ…、達也さんは年上でも容赦ないのね。」
「あれは勝手に怯えているだけかと。俺は別に怖がらせようとしている訳ではありません。」
「そうね…、達也さんはそうかもしれないけど、達也さんの鋭い視線を向けられたら、怖気着くのも仕方ないと思うけど? それこそ、昨日の深雪さんのように。」
「…………相変わらずお耳が早いですね。」
・・・・
「ふふふ、あなた達は姉さんの忘れ形見ですからね。ちゃんと見守ってあげないと。」
「それは、深雪を、ですか?それとも俺ですかね?」
達也が眼を鋭くし、一点の動きも見逃さないという感じで真夜を睨む。それを真夜は、満足そうに見つめ、唇を薄く開く。
「もちろん決まっているでしょ?二人とも四葉の人間ですもの。そして深雪さんは私の後継者候補の一人ですし。しっかりと見守ってあげるのは当然でしょ?」
「……そういう事にしておきます。」
真夜の鉄壁スマイルで、これ以上聞いても無駄だと思い、達也はずっと真夜の後ろで控えていた葉山さんが淹れてくれた紅茶に飲む。
「相変わらず葉山さんの紅茶は美味しいですね。」
「それはありがとうございます、達也殿。 私めには、これくらいしか誇れることがありませんので。」
「そんなに謙遜する人ではないでしょう。謙遜行き過ぎるのはどうかと思いますが。」
「そうですか?いやはや、私も既に老齢ですから。 人間、衰えからは逃げられません。」
「……………」
葉山が口にした言葉で、真夜の頬が少し吊り上る。
それを見逃さなかった達也は、真夜を『やっぱり気にしているのか。』と女性なら誰でも思う悩みに反応し、平然を演技しているのを見て、やはり女性なんだなと少しの意外感を持ったのだった。
それを達也に知られたと達也の視線から察した真夜は、話を逸らすべく、本題に入る。
達也としては、ようやく本題に入ってくれたかと思っているが。
「では改めて、達也さん…。あなたにお願いしたい事があるのよ。」
「…なんでしょうか?叔母上。」
「今回の任務で貴方に………」
そう切り出しておいて、なぜか葉山に紅茶の御代わりをさせて、再び紅茶を口に入れる真夜。
いつもならすぐに言いそうなことなのに、自棄に溜めこむ真夜の行動に不審に思う達也。しかし、それほど重要な案件なのだろう。例えば、国家絡みの複雑な任務。…そう思う事にしようとした。
そして、紅茶を飲み終え、ゆっくりとカップを元に戻した真夜は……
「達也さん、あなた……”アイドル”やってみてくれないかしら?」
「…………………………………は?」
今までの任務とはまるっきり飛び越えた、真夜からの衝撃的な任務通達に、無表情で受けていた達也が、初めて戸惑いを顔に出した瞬間だった。
そんな達也の表情を見て、真夜が「勝った!」っと思ったどうかは知らないが。
達也がアイドルか~~~!!!
確かにこれは意外だな!! でも、見てみたい!!達也のアイドル姿!!
絶対にファン殺到するよ!!