…吊し上げるだけで終わればいいけど。
「ところで、容疑者って?誰を?」
「え?決まってるぜ。 さっきも言ったとおり、これは計画的犯行だ。衝動的な犯行なら事故に見せかけるほど冷静にはなれないだろう。
それに、他にも凶器になりそうなものはこの部屋にはたくさんあるのに、なぜ本棚に飾られて届きにくい高いところにある聖女の像を選ぶ必要があったのか。
強盗だったなら、ハンマーなり凶器は持参しているはずだしさ。
考えられるのは、この家の配置等を詳しく知り、被害者に恨みを持つ人物…。
身内の犯行で間違いない!!
だから、被害者の弟子だっていう人とこの家の家政婦か使用人を連れてきてくれ。
レスちゃん!!」
「はい!!ただいまお連れしてまいります!!」
大声で愛称を呼ばれたレストレードは敬礼すると、すぐに関係者を呼びに部屋を飛び出した。
その姿を見送った御神とオドリーはすでに関係者の事を知っているかの話し方だったホームズに、疑問を抱く。
その事は、ホームズもわかっていたようで、すぐに説明してくれた。
「な~に、簡単だぜ!!
レスちゃんが事件説明するときに、『弟子が来た時には既にこのようになっていた』って言っただろ? なら弟子は被害者と親密な関係で、この家を周知していてもおかしくない。
あと、家政婦か使用人っていうのは、入ってきた時もそうだったけど、見事に掃除されていて、埃が溜まっていなかったいなかったんだ。
まぁ、今日は事件のせいで、仕事が滞っているみたいだけど、毎日掃除している証拠だよ。
でも、研究三昧だった被害者もその弟子も、掃除する様には見えない。
ほら見てみろよ~~!!
被害者の書斎机は、本や書類、論文でごった返しになっているし、パソコンの上は埃が溜まっているからな。
そして何より、キーボードにコーヒーがかかっているままだし。
な? 研究熱心な被害者とその弟子が日頃から掃除とは皆無なのは明かだぜ!!
そして被害者はかなりの大物だったわけだし、家政婦や使用人がいてもおかしくない。
…という訳さ!!」
「本当に……。見ただけでそこまで読み取れるなんて…。」
「違うよ、オドリー。
ホームズは、ヘムタイしておかないと、推理思考が開かないだけなんだよ。
さっきまで、レストレードを調教していたから、気分が乗っているだけだよ。」
「さすが、御神!! おいらの事は分かっているな!!
でも………、まだ足りないんだ…。
あと少しでこの事件の真実が見えてきそうなんだけどよ!!」
頭を抱え、困った表情を取るホームズに、オドリーが歩み寄り、話しかける。
「ホームズ様、宜しければ私もお手伝いさせていただきます!!
何も御力になれずにお役目御免は嫌ですので。」
「ホント!!? だったら……」
そう言って、目を輝かせて、オドリーに頼んだ事とは………
オドリーのミニスカの中に頭を突っ込んで、ヘムタイ度を高める事だった。
すぐに御神がホームズの頭を鷲掴みにし、引き離す。
「……ホームズ、それはやってはいけないヘムタイだよ。」
「いや、これで推理しないと、事件の真相が迷宮入りして………」
「それなら、いっそホームズのヘムタイ魂ごと、迷宮入りさせてあげようかな?」
「待ってください!!御神……!!
これでホームズ様が事件解決できるのであれば、私は大丈夫です!!
ホームズ様には、2度も御命をお助け頂いてますから…。これくらいでお役にたてるなら…」
純粋な笑顔でスカートをめくるオドリーに、ホームズがすぐさま突っ込んでいき、「むふふふふふ…………♥」と女性としては危機感しか感じられない含み笑いしながら、ヘムタイ推理を脳裏で展開していく。
不自然な現場………
被害者の足りない傷……
凶器は聖女の像………
次々に疑問が出てきて、事件だと判明した。
しかし、何か腑に落ちないことがある。
みんなには、まだ言っていないが、被害者が握っていた本には、コーヒーの匂いが漂っており、シミが中のページにまで浸透していた。だが表紙のコーヒーは拭き取ってある。
そして書斎机には、零れたコーヒーが残っている。
時間的に見て、本のシミがついたのは、書斎机だ。
つまり、この本は本棚になんて収納されていなかったんだ!!
本棚に向かう必要はなかった。
なら、被害者はなぜ本棚に近づいたのか…。
そして、なぜ溢したコーヒーを拭こうとはしなかったのか…。
すると、ホームズの頭の中で何かが閃いた。
すぐに書斎机にあるパソコンを調べ始める。
だめになったのはキーボードで、パソコンは履歴を見る事が出来る。
マウスを動かし、最後に使用された履歴を調べてみると、被害者が死亡推定時刻の少し前に、知人に暗号化されたメッセージが送られていた事が分かった。
「くそ!! この暗号……かなりセキュリティがかかっているな…。
早く見たいってのに、おいらだと翌日になってしまうぜ!!」
暗号解除に悪戦苦闘していると、オドリーと御神が後ろから覗きこむ。
「ああ…、これですか。
私、この暗号、解除できますよ?」
オドリーがあっさりとした口調で言うものだから、ホームズも御神も、振り向いて、「「え?」」っと目を丸くして驚く。
オドリーはマウスを代わりに動かすとものの数秒で、暗号を解読し、メッセージの中身を読めるようにしたのだった。
「オドリー…、凄すぎる・・・。」
「どこでこの技術を…」
「……カバルレが闇情報を会得するために、暗号化された日得情報も手に入れようとして、私に…、教え込ませたの…。
だから……」
「ありがとう…。辛いこと思い出させてしまってごめんね。でもオドリーのお蔭で助かった!!」
満面の笑顔でお礼を言うホームズに、きょとんとなるオドリー。
お礼どころか、引かれると思っていたので、正反対の対応に戸惑ったのだ。
オドリーが言葉を失くしている間に、ホームズは早速暗号化されたメッセージを読む。
すると、最後に意味深な記述が記載されていた。
それが………
”0141 ● 13022 ○ 12014 ○”
「何…、これ…?」
「数字と……丸がそれぞれ3つずつ……」
「思ったとおり…、これは間違いないな…!!
これはダイイングメッセージだ!!」
「「だ、ダイイングメッセージ!!」」
「恐らく、死ぬ前に犯人の名を残したんだろうぜ!!
…やっと面白くなってきたぜ!!」
興奮するホームズは、謎のダイイングメッセージに目を輝かせる。
そしてそれを見計らったかのように、関係者を連れて、レストレードが部屋に戻ってきた。
「お待たせいたしました!!ホームズ様!!
彼らがその関係者の方々です!!」
勢いよく紹介していくレストレードの人物紹介に三人は耳を傾ける。
★ロキ・タセヤ (28)
被害者の弟子。数年前から被害者の元で、魔法開発や魔法にまつわる経済の発展技術の研究を行っており、学界からは将来有望の研究者だと評価されている。 この近くに被害者が用意した家に住んでいる。
研究者との付き合いは頑なに拒んでいた被害者には、唯一の弟子で、とてもかわいがられていた。
いずれは被害者の後を継いでいくと噂されている。
しかし、近々学会で大がかりな論文を発表する事になっているが、その件で被害者と揉めていたとも言われている。
周囲では、口論する声が最近聞こえてきていたそうだ。
★オーキイ・カラダ (39)
被害者に雇われていた家政婦。この家の家事全般を任されている。
身長は150㎝と被害者より低く、身体はぽっちゃりを通り過ぎて、まんじゅうのようだ。しかし、それを本人に言えば、埃叩きで叩かれる。
お菓子が大好きで、仕事しながら食べるのが日課。
被害者とは、仕事上の関係だったが、それ以上に仲が良く、周りからはひっそりと秘密の後妻では?ともっぱらの噂である。
そして、彼女にはたくさんの子を育てるシングルマザー。多額の借金を抱えている。
★ボス (50)
元実践魔法師の片目に傷がある中年男性。堀の深い顔つきに、長年戦地で戦ってきたことが窺える風貌をしている。
その見た目でも似合う、被害者の家の警備・護衛をしている。
被害者は多くの魔法や技術を世に広めてきたエキスパートだ。そのため、研究資料を盗もうとしたり、直接被害者を襲って、精神系統魔法で脳内の知識を奪おうとする者もいたため、被害者が昔からの付き合いがあるボスを雇ったのだ。
だから、この三人の中で唯一住み込みだ。
その彼が、自分の仕事ぶりがいいのをいい事に、こっそりと研究資料を盗み出していて他の研究者に情報をリークしていたのではないかと嫌疑をかけられていたそうだ。
…以上が関係者、…容疑者のプロフィール。
「…間違いないな。メッセージが示す者…、犯人がこの中にいるっ!!」
にやりと笑うホームズの口元が吊り上り、そう明言するのだった。
今日も頑張った~~~!!!
ダイイングメッセージ…、明日までにみんなも推理してみてね!
ヒントは…、くっつけてみてね♥