レストレードに連れられ、やってきたホームズとその助手役の御神とオドリーが辿り着いた場所は、帝都の中心街から少し離れた高級住宅街にある一軒の御宅だった。
住宅自体が全般に白く塗られており、まるで天国の世界だと錯覚するくらい、純白な御宅だった。 それでも周りの高級住宅と比べると、豪華よりも安らぎを求めており、個の御宅だけ異質に感じるかもしれない。
(あら…? 私、ここを知っている気がする……。
懐かしい……感じもする。 ………懐かしい?)
お宅に入ってから、心の中でしんみりとする感覚にオドリーは頭を傾げる。
そして、玄関を抜け、中に入ると、外見の美しさと正反対で、人がたくさん蠢きあって、慌ただしく真剣な表情で辺りを調べていた。
思わず息をのむオドリーだったが、恐縮するレストレードとこの状況に当然という態度で受け入れ、奥へと足を運ばせるホームズと御神を見て、頭の中では疑問が増える一方だ。しかし、質問してもいい空気ではないのは、理解しているため、黙って後をついていく。
更に奥まで進むと、大きな扉があり、扉の隣には、暗証ロックを入力しないと開けられないロックシステムが取り付けられていた。しかし、既に解除しており、難なく入る事が出来る。だが、人の多さで初めは気付かなかったが、内装も落ち着いた感じにしており、機械類とは無縁の設計になっている。だから、ここだけロックシステムがあるのが違和感を感じさせるくらいだ。
しかし、裏を返せば、それだけ重要な何かがこの扉の先にあるという事だ。
オドリーはカバルレの元にいた時、ロックシステムを扱っていたため、ここに取り付けられたものが、そう簡単に解除されるようには開発されていない最高級品であることを見抜いていた。
だからか、余計にこの先が気になってしまう。
緊張していると、レストレードが何ともあっさりと扉を開けてしまった。
オドリーとしては、覚悟を決めてから開けてほしかったが、何か慌てているレストレードの尋常ではない行動に逆に心配になってしまい、別にいいかなと思って、溜息をこっそりと吐く。
そして、ついに本来なら厳重にロックされているであろう扉を通り、中に入る。
そこには、円柱状に設計された大部屋があり、壁の隙間が見当たらないほど、そして高い天井まで続く本棚がそびえ立ち、本棚には大量の本が収納されていた。入りきれない本もあり、本棚の前に積み上げられていたり、書斎机だろうか…、広い机の上や横にも今にも倒れそうなほどに積み上げられていた。
「よっぽど本がお好きな方だったのですね。」
感心して、本棚を見上げながら、感嘆すると、レストレードが顔を俯かせ、帽子の唾を掴み、目を隠して、神妙な声色で話す。
「しかし、今回はそれが裏目に出てしまった悲劇ですね。本人もまさかこんな事になるとは思わなかったでしょう。」
「それはどういう事ですか?」
「ホームズ様に見てもらいたいのは、こちらです。」
意味深な言い回しをしたレストレードがホームズ達を連れて、部屋を横断し、大きなガラスが張られたテラスの横にある本棚までやってきた。なんだかここだけ本が散乱している。
しかし近くに来てようやく、レストレードが行っていた意味を知った。
散乱した本の下敷きになっている白髪と顎髭が一緒に結ばれている特徴的な髪形?をした老人が頭から血を流して、倒れていたのだ。
目を丸くしたオドリーだが、老人の哀れな姿を見ても、悲鳴をあげたり、恐怖したりという事はなかった。
カバルレの命令とはいえ、既に人の精神を凍らせ、”死”を与え、数えきれないほどの命を奪い、死体を見てきたため、驚き、後ずさる事はない。
しかし、悲しむ気持ちがまだある。
オドリーは自分の心の中に渦巻く感情に、嫌気を差しながら、レストレードが話す事件の内容説明に耳を傾けた。
まずは、自分ができる事で、ホームズ様をお助けしようと決めて。
この事件を通して、オドリーにきっかけを作れたら…。
次回からは、事件を解決するホームズのドSっぷりをどうぞ!!
…ヘムタイですが。