くろちゃんがとんでもないものを注文する少し前に遡る……
突然取りつかれたように窓の外をじっと見て、口を開けたまま固まったくろちゃんをちゃにゃんとにょきにょきは首をかしげる。
そして次の瞬間、見慣れているのは見慣れているけど、できれば見たくない顔がちゃにゃんの目に入ってきた。
…………鼻の下を伸ばして、鼻血を出しているくろちゃんのヘムタイ顔を。
それを見て、ちゃにゃんは白目をむいて冷たい視線を向ける。
にょきにょきは目を輝かせて、なぜか憧れの視線を向ける。
ちゃにゃんはくろちゃんの見ているものが気になり、窓の外に今度は視線を向けた。
すると、くろちゃんがヘムタイ顔になった理由がわかった。
いや、この場合はその理由を目撃したというべきか…?
その目撃したものとは………
女性の………
パンツだ…!!
向かいの喫茶店で行列を作る人の中に女性グループがいて、その女性グループが全員突風でワンピースの裾が捲れ、パンツ……が露わに公共の場で晒されていたのを、ばっちりと目撃してしまったのだ。
しかも連続的に起きている。
これを見て、ちゃにゃんはくろちゃんが窓に釘付けになっている理由が分かった。
(ああ…、パンツに萌えていたんだにゃ…。)
「………相変わらずのヘムタイぶりだにゃ。」
「それはどうもありがとう!! ふふふふふ♥ 吾輩はヘムタイである……からね!!」
「…褒めてないにゃ!!」
二人の間で漫才らしき会話が繰り広げられている。
しかし視線だけはまだ『風の悪戯』を堪能していた。にょきにょきと一緒に。
いまだに食い入るようにして見ている二人に、いい加減腹が立ってきたが、それ以前に女性グループたちにも腹が立ち、喝を入れてこようと思ったちゃにゃん。
普通、突風が吹いてスカートやワンピースが捲れるなんて事はあるが、それにしてもあんなに連続的にパンチラする事はあり得ない。
しかも、パンチラが起きる時は、決まって異性や馬車が通りかかる時だ。
(絶対に狙ってやっているにゃ!! こっちはヘムタイ二人を止めるのに尽力しているというのに、あの、透かしたような顔でヘムタイ魂をわき起こさせる行為…。
その尻を…、一発ずつ蹴り上げたいにゃっ!!)
余計なヘムタイ掃除をする事になったちゃにゃんは、その元凶である彼女達を警あげて、空の星となる妄想を描きながら、指を鳴らす。
ちなみに、くろちゃんとにょきにょきは制裁済だ。
二人は仲良く、頭にたんこぶの山を作って、テーブルに身体を乗り出し、気絶していた。
ヘムタイが気絶している間に…、とちゃにゃんが席を立ったその時、奥からマスターが寄ってきた。
「おや、ちゃにゃん。どうしたのかな?そんな怖い顔しては、せっかくの可愛い顔が可愛そうだよ…?
それにもう帰るのかい?まだ注文してくれていないじゃないか。何か食べていきなさい。ほら二人も……………、ん? 二人ともどうしたんだい?
そんなに頭を引き伸ばして………?」
「あ、マスター、こんにちは。
いえ、何でもないにゃ。この二人は……ほっておいて構わないから、気にしないでほしいにゃ。」
「そうかい? 変わったイメチェンだけど…。そういう事にしておくよ。」
「………ううううう…、マスタ~~~!! そこは、もっと突っ込んで…!
…ごふぅぼぉ!!」
「いたたたたたたたたた~~~~~~~~~~~!!!!」
目覚めた二人にすかさずちゃにゃんが笑顔で黙らせに掛かる。
二人の頭にできたたんこぶを掴み、思い切り力を入れて、握りしめる。
激痛で思わずたんこぶを撫でるが、山積みになったたんこぶの先を掴んでいるちゃにゃんの所までは届かず、たんこぶの付け根を擦り続けるしかない。
…あまり効果はないが。
そして最後の仕上げと言わんばかりに、二人のたんこぶの一つを一気に引き抜いた。
「「キャ~~~~~~~~~~~~!!!!!!」」
二人の悲鳴が店内に響き渡り、他の客も顔を真っ青にして、地獄絵図を目撃し続ける。マスターはというと、仲がいい事だと思っているのか、にこにこと笑みを絶やさずにただ近くで見守るというある意味、放置プレイを見せた。
二人は一気にたんこぶを抜かれた事による、激痛とたんこぶから火山が噴火したかのように溢れ出て放出している大量の出血で、身体を痙攣させていた。
あと少しすれば、三途の川までたどり着けるだろう。
ちゃにゃんの手には二人から取り上げたマリモのような大きさの血まみれのたんこぶが握られていた…。
二人が死にかけの魚のように小刻みに震えているのを見ていたちゃにゃんは、悪役面ともいえる笑みを浮かべ、二人に一言……、残す。
「ヘムタイ2名………、抹殺完了~~~♥!!」
(((((ひひひいいいいいいいぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~!!!!!)))))
事の行く末を見ていた他の客は、互いに身体を抱きしめ合いながら、目の前の恐怖に身体が強張っている。
そんな客たちには、目を向けずに、ちゃにゃんはマスターに先程の行為がまるでなかったかのように笑顔で話しかける。
「マスター、はい、これ!! いい奴が採れたんだよ~~~!!!」
そう言って、マスターの手に渡したのは、くろちゃんとにょきにょきのはぎ取ったたんこぶ……。
(((収穫したての果物みたいに言うんじゃねぇ~~~~~~~~!!!!!))
(いくらなんでも、あのマスターが受け取るはずがないって!!!)
(出入り禁止になるぜ!!こりゃ!!)
客たちが心の中で突っ込む。もし声に出していう者なら、二人のように消される…。と直感でそう思ったからだ。
しかし、客たちの予想とは違うこの恐怖の結末が待っていた…。
「ほほぉ……、これはよく育てられた見事なものですな~~…。さすがちゃにゃん。いい実りを作りました。
最高によろしいプレゼントを頂きましたな。
…ありがとう。」
「「「「「えええええええええ~~~~~~~~~~~~~~!!!!!
嘘だろ~~~~~~~~~!!!!!」」」」」
客たちの絶叫が店内だけでなく、外にまで響き、ちゃにゃんだけでなく、マスターにも恐怖を改めて感じる客たちだった…。
…………あれ?何で、こうなったんだ?
ただヘムタイを見せてあげようとしたのに、なぜか恐怖感しか与えられていない…?
完全にこれ…、ホラー話になってない?
え? どうして…?
…………何でこうなった~~~~~~~~~!!!!!
(うちが妄想を働かせすぎたからだよ!! ちゃにゃん~~~!!ごめん!!
ちゃにゃんの勇姿を描くつもりが、なぜか悪役感満載になった~~~!!)