うちはこんな人間にだけはなりたくないし、近寄りたくないな~…。
大量の瘴気に包まれ、渦巻く状況に、ROSEは事態を未然に防ぐことができずに歯軋りする。
でも、今からでも遅くない。暴れ出す前に倒せばいい。
…そうしたいのは山々だが、ROSEのみんなは苦虫を噛み締め、ただ瘴気が激しく渦巻き続けるのを、気を引き締めて警戒する事でしかできない。
なぜなら厄介な瘴気の中にカバルレがいるからだ。
ROSEのみんなは、先程は瘴気を吸い込んでも、身体の一部が感覚麻痺に陥るだけで済んだ。しかし、それはROSEのみんなが優れた実戦経験がある上、日頃から鍛錬をしている実力派魔法師だからこそ、これくらいで済んでいるにすぎない。一般の戦闘魔法師なら全身に麻痺が走り、倒れるだろうし、まだ魔法師として未熟な駆け出しの者なら、真空マスクを作る事も出来ないから、ほんの少しの瘴気を体内に取り込んだだけで死に至る…。現に、ROSEに入って間もなくて、魔法も教わりだしてばかりの幼いショウリンは、一番距離を取っているのに、顔色が悪く、吐き出しそうになっている。ミナホが耐毒効果のあるドリンクを日頃から飲ませて、今も与えて介抱しているからに他ならない…。
それだけカバルレが恐ろしい瘴気を放っているのだ。
毒にも対処できるように、準備もしていて、ある程度の耐性を持っているROSEのみんなでも、さすがに大量の瘴気に飛び込んでいけるほどの耐性を持っていない。そして、無鉄砲に突っ込んで犬死にするほどの馬鹿でもない…。
そしてカバルレの見せたこの魔法は未知の魔法なのだ。
「……こんな魔法なんて、私も知りませんでしたわ…。」
一番カバルレの傍にいたオドリーでさえ知らない魔法…。もちろん、魔法やその運用技術、知識を兼ね備えた歩く辞書こと、ワイズさんも…
「悪いが、この魔法は見た事も聞いた事もない。表立って発表されたものではないな。少しでも魔法の一端が噂されていたら、私の耳にも当然入ってくるはずだからな!」
…と自信満々に知らないと太鼓判を押す。
おそらく、カバルレが独自で開発した闇魔法なのだろう。帝国の闇に君臨していたカバルレなら、様々な研究データや魔法、アイテムを苦も無く、手に入れられただろうし、元々カバルレは魔法研究所でかなりの権力を持つ魔法開発をしてきた研究員だ。
研究データを見て、新たな魔法を一人だけで開発するのは、できない事はない。寧ろ誰にも知らせていないという事は、魔法の情報が一切ないという事…。
どのような魔法か分からないため、手も足も出ない。額に嫌な汗を掻きながら、ただカバルレが弱って瘴気の渦から出てきたところを叩く方向で考えるしかない。
戦いには、”情報”が命…。
それがまだ足りなかった事に対し、自分達の甘さをいまさらながら反省するROSE達。
しかし、元々潜入して内部調査をするのが目的だったから、まさかここまで発展するとは思っていなかったし、色々あったけど無事にボスの所まで来れたのだから、落ち込む必要はないのだが、何事にも相手の情報を知ってから作戦を立て、闘うスタイルのROSEには、納得できない物だったのだ。
そんな拗ねてしまったROSEの目の前が、黒く淀み始めた。
瘴気が広がりだしたのだ!
慌てて、後ろに大きく飛び去り、浄化効果を盛り込んだ障壁を各自で展開する。渦巻いていた瘴気が再び広がりながら、天井まで伸びていく。そして何かの形を作り始めた。その瘴気の中から、聞き覚えがありまくるあの苛立ちを募らせる高笑いが大部屋に響き渡る…。
『カ~~~~~~~バッバッバッバッバ!!!!!』
高笑いする不気味な動きをする瘴気がモフモフ…と人のような形を作り、押し固めるようにして縮小していき、立体的な体格へと変化した。
そして、未だ高笑いを醸し出す瘴気がとうとう、天井まで届かんばかりの巨大な黒い魔物となって、姿を現した!
『カ~~~~~~~バッバッバッバッバ!!!!!
ミタカ!!! オレガ、エラバレシモノダトイウアカシダ!!
モウオマエタチニハオレヲタオススベナドナイワッ!!!
カ~~~~~~~バッバッバッバッバ!!!!!』
馬鹿にする口調と絶対的自尊心の塊を吐き出す内容と言い…、間違いなくカバルレだった。
カバルレは、ROSEを…、オドリーを…、セイヤを…、自らの手で葬り去るため、人であることを捨て、”人間であり続ける”という皮を破り捨て、自ら編み出した邪悪な魔法で、”魔物”となりはてた…。
魔物と化したカバルレと、次回対戦する事になるな、これは。
でも大丈夫~~!! 昨日の魔法試合でROSEが祝600勝を果たしました!!
おめでとう!!
だから、勝ちますよ!! というより勝ってみせます!!外道に負けたくないもんね!!