これが現実にあったらいいな~~!!
セイヤがオドリーへ向けていた感情を変化させる出来事が二人の前で起きた。それは、いつものようにセイヤを連れて、ショッピングに来たオドリーの買い物に付き合っていた時の事だった。服やアクセサリーを見たりしているが、今日は妙にそわそわしている事に気づいたセイヤは、挙動不審のオドリーに自分から初めて声を掛けてみる事にした。嫌いなオドリーにどうして話しかけようと思ったのか、セイヤは自分自身でも分からなかったが、そわそわしているオドリーを見ていると、小動物のように見えて、ついほっとけなくなった。
そして声を掛けるため、話ができる範囲の距離に近づき、声を掛けようとしたその時、ナイフを持ったいかにも変質者だと分かる中年の男が隠れていた柱から飛び出し、襲ってきた。…オドリーではなく、セイヤにだ。
「お、俺のオドリーちゃんから離れろ~~!!」
男を見て、セイヤはここ最近、ずっと隠れながらオドリーを見ていた奴だな~…。とのんきに呟き、右手を拳に変えて、男の鳩尾にめりこませる…はずだった。目の前にオドリーが両手を大きく広げて、男とセイヤとの間に割り込んでこなければ…。
「やめて~~~~!!!」
「…!! くっ…、お嬢様…!」
突然の行動に驚き、目を見開くが、すぐにオドリーを腕の中に引き込み、抱きしめて庇いながら、回し蹴りを男の脳天に喰らわせ、戦意喪失させた。すぐに警備員がやってきて、男の身柄を確保し、連行していく。男が視界から消えた後、ずっと抱きしめていたオドリーが震えている事に気づき、慌てて離れる。
「…お怪我はありませんか、お嬢様?」
そう尋ねたセイヤだったが、オドリーが泣いているのを見て、固まる。
目から涙を流すオドリーに、どこか怪我したのかと全体を見回すが、目立った傷はない。だが、他にオドリーが泣く理由が考えられないセイヤは、柄にもなく、焦り顔を見せ、動揺する。
そんなセイヤを見て、オドリーは今度は目を丸くして驚くと、クスっと涙を流しながらも笑い、先程の返事をする。
「はい…。セイヤのお蔭で、怪我はありませんわ。…ありがとう、セイヤ。」
いつものような微笑みを浮かべ、安堵するセイヤは、自分がどうしてここまで動揺したのか理解できなかったが、自分の心境は横に置き、屋敷に戻る事にした。
★★★
そして、屋敷に帰ると、オドリーに部屋に来るように言われ、一緒に部屋の中に入ったセイヤは、ポーカーフェイスを取るのも忘れ、驚きのあまり、絶句してしまった。
部屋には、天井から垂れ幕がかけられ、そこに大きく『セイヤ ハッピーバースデー!!』と書かれており、部屋の中央のテーブルには、いつ用意していたのか、セイヤが好きなチョコの誕生日ケーキが置かれていた。
予想していなかった出来事にどう反応すればいいか思案していると、オドリーが満面の笑顔でセイヤの瞳を見つめ、嬉しそうにセイヤに告げる。
「誕生日おめでとうですわ!! セイヤ!! はい、誕生日プレゼントですわ!!」
そう言って、渡された大層綺麗に包まれたプレゼントに、これまた驚き、開けてみてといっているオドリーのキラキラした視線に押され、リボンを解き、包み紙を開くと、そこには立派な彫刻がデザインされた金の懐中時計があった。
「これは…」
プレゼントされた懐中時計は、オドリーとショッピングに行く時、高級時計店のショーケースに飾られていたものだ。セイヤは、それを行く度に、こっそりと眺めるのが唯一の楽しみだった。見た目は派手に装飾され、がっちりとガードしているが、中身は精巧に組まれた歯車で時を刻む…。現代普及している時計は完全に電子機能を搭載した物であるため、人の手で綿密に造りこまれたこの懐中時計が他の時計とは違った生き方をしているみたいに思え、それが自分みたいだと思い、小さな愛着を覚えていたのだった。
「…………ありがとうございます。………大事にします。」
その懐中時計が今、自分の手の中にあるという事実を噛み締めて、家中時計を見つめたまま、思わず微笑し、オドリーにお礼を言う。
しかも、最後の台詞は言うつもりもなかったのに、口を滑らせた。
自分の言動に内心驚いていると、お礼を言われたオドリーは嬉しそうな微笑みを向け、セイヤにいろいろ話しかけてくる。
セイヤがこの懐中時計を何度も眺めているのを見ていたこと…。
セイヤの好みを知りたくて、お菓子作りしてきたこと…。
セイヤのタイプが知りたくて、色んなジャンルの服を着てみたこと…。
セイヤの誕生日を祝いたくて、サプライズするために一人で準備していたこと…。
セイヤが変質者に襲われそうになった時、とっさに身体が動いて、庇っていたこと…。
セイヤが無事でほっとして、涙が溢れたこと…。
こうして、セイヤが喜んでくれる…、初めて笑顔を見せてくれたこと…。
それを、潤んだ瞳で自分の事のように喜び、話すオドリーに、セイヤは今まで感じていた嫌悪感が温かく梳けていくのを胸の内で感じた。そしてそれが愛しさに変わる…。
自分のために泣いたり、笑ったり、必死になったりするオドリーに、この人なら、自分の全てを捧げたいと心の底から思うと同時に、その笑顔を自分の物だけにしたいという今まで思っていなかった欲が現れた。
その欲をどうコントロールしていいか分からず、セイヤは自分が理性を取り戻した時には、力強くオドリーを抱きしめていた。
自分の腕の中に閉じ込めて、オドリーの温もりだけを感じたくて…。
だが、自分がオドリーの専属護衛という雇われの身であることを思い出したセイヤは、名残惜しいが、オドリーを自分の腕から解放し、頭を冷やそうと部屋を出ようとドアに向かった。
しかし、後ろからオドリーに袖を掴まれ、振り向いた時、オドリーがセイヤの首に腕を回し、セイヤの唇に自分の唇を重ねた。
必死に背伸びして、セイヤに口づけするオドリーの頬は真っ赤だった。
そして口づけを終え、近い距離でセイヤの瞳を覗き込みながら、煽るような表情で生暖かい吐息を漏らしながら、ついにオドリーは告白する。
「………私、…セイヤを愛しています。セイヤだけのものになりたいです…。
私と…、一緒に、ずっと…! 隣で生きてください!!」
告白を言いきった事で、逆上せそうになるのを必死でこらえ、セイヤの返事を身体を震えさせながら、羞恥に耐えて待つオドリー。
そのオドリーに今まで見た事がない優しい笑顔を向けて、セイヤは告白の返事をする。
「…ああ。…俺もずっと傍に居たい…。 そしてお前だけを愛したい…。
俺の全てをお前に捧げる…。だから…、お前を俺だけのものにさせてくれ、オドリー…。」
そう言ったセイヤは、オドリーの額に、瞼に、頬に、口づけを落とし、最後は深い口づけで愛を交わしたのだった…。
こうして、恋人となり、オドリーの父親からも了承を得て、ついに二人は婚約者となった…。
そして、二人が結婚式を控えた5日前、突如として訪れた災いで二人で生きていく事が叶わなくなる…。
二人の結婚式で『おめでとう~~!!』って言いたかったよ~~!!
っていうより、二人の甘々感が最高でしたわ!!(照)