カバルレから告げられた新たな事実…。
ここにいる元人間の彫刻達の”精神”を凍らせ、人としての“生”を終わらせたのが、実はオドリーだと聞かされ、雷の受けたような衝撃がROSEのみんなに走る。到底受け入れがたい事実だが、暁彰やtoko、ショウリンにはなぜか心の中で感じていた何かが解決したようで、納得した顔で頷いた。それを見たくろちゃんが疑問に思って、暁彰に視線で問いかけると、それに気づいた暁彰は一瞬、くろちゃんを見た後、視線をオドリーに固定したまま、話し出す。
「彫刻達の”精神”を凍らせる魔法…、『コキュートス』はある一族の遺伝的属性が強い魔法で、その一族しか使えない者なんだ。俺たち、タツヤ族の『精霊の眼』のように。そしてこの魔法を代々血で受け継いでいるのは、ミユキ族…。
圧倒的魔法力の適性を有し、計り知れない相子を持ち、さらには精神干渉系魔法も得意とする一族だ。…それにふさわしい他とは比べられないほどの華麗で、究極の美を詰め込んだような容姿が特徴だ。
…なんでもっと早くに気付かなかったんだ、俺は。タツヤ族はミユキ族と繋がりが深く、ミユキ族の危機には、体を張ってでも守るように”精神”を改造されているというのに…。」
最後のセリフは、小声でつぶやいたため、くろちゃんたちに聞かれることはなかった。ただ、タツヤ族のtokoとショウリンには聞こえていた。二人も暁彰に同意して、苦々しく感じる。
でも、その原因を視た三人は、言葉を飲み込み、別の事を話した。
「…オドリー…。君はそのミユキ族の人間だよね?
じゃないと、『コキュートス』は使えないし、その魅了するほどの容姿…、何より君の構造上に、ミユキ族の遺伝子が流れている。」
暁彰が結論を述べた。
そしてそれにこたえるようにオドリーはまた微笑み返した。
「カバババババ!!!ようやく理解したようだな! 俺の女はよく俺のために何でもしてくれるから便利だぜ!!
ここまで俺に尽くす女はどこにもいねぇ~な!!」
「ふさげるな!!だまって!!」
オドリーをもののように扱いだすカバルレにくろちゃんが大声を上げる。
「オドリーは物でも、道具でも何でもない!!
感情を持った人間の可愛い女性だよ!!そして、私たちの大事な仲間!!」
熱いまなざしで断言したくろちゃんに、カバルレは目を見開いて、驚く。
ここまでオドリーの事実を突きつけられて、それでもまだ仲間だと思い続けるくろちゃんに絶句したのだ。
(なぜだ? なぜそこまで信じようとする?
お前たちとの縁が切れたというのに…。)
内心で驚きながら次の策を考え始めるカバルレから、オドリーに視線を向け、手を差し伸ばすくろちゃん。そのくろちゃんを囲むようにして、ROSEのみんなも集まり、オドリーに優しく微笑む。
「オドリー、戻っておいで!」
「大丈夫、大丈夫~~~~!!」
「早く、かえっておいで!!」
…と手招きも添えて、オドリーに声をかける。
オドリーは先ほどからずっと微笑み続けている。
しかし、くろちゃんにはわかっていた。その笑顔は本心からのものではないことを。そして今もなお、猫をかぶって、感情のない笑顔の仮面をつけていることも。
だから、くろちゃんは腕に力を入れ、オドリーにさらに手を差し伸ばす。
だって……オドリーが私たちに向けていた笑顔は本物だと信じているから…。
「オドリー…、私たちはどんなに短い間の付き合いでも、仲間を大事にするし、仲間のために何かをしたいとおもっているの。
だから、一度裏切られたくらいで、「はい、そうですか」って切り替えられるほど私たちの仲間へと向ける情熱は冷めることはない!!
薔薇のように華麗に咲き誇る!!その薔薇にも棘があるように、一癖二癖もある仲間もいるんだから!!(私とかね♡)
オドリーはもう私たち、ROSEの一員なんだよ!!私たちの許可がない限り、勝手にギルド脱退とか認めません!!
さぁ!! 私たちと一緒に歩いて行こう!!」
偽りのない純粋な笑顔を向けて、オドリーにROSEの仲間だと言い切ったくろちゃんに、みんなが大きく頷いて見せた。
そんなROSEのみんなからの暖かい思いを受け取ったオドリーは、ずっと貼り付けていた仮面の笑顔に、一筋の涙が流れ落ち、唇をぎゅっと結び、また一筋…、と泣くのだった。
「…うん、私もみんなの事が好き…!!
みんなのいる場所へ、帰りたい~~~~~~!!!!」
溜め込んでいた色々な感情が込み上げてきて、ついにオドリーの本音が辺りに響く。
うん、すぐに仲間を疑ったり、敵視するなんて嫌だもんね!!?
心は折れそうになるけど、ヒビが入っても、修復するたびに強くなる!!
ROSEの絆はそう簡単に切れるほど軟なものではないぞ!!カバルレ!!