魔法科の御伽魔法書   作:薔薇大書館の管理人

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怒り心頭の暁彰、フルパワーだぜ!


炎の決着

 

 

 戦闘員たちが炎獣になり、変わり果てた状態を前にして、暁彰のドレーナに対する怒りは許容できるものではなくなった。

 例え、敵だとしても、仲間を”道具”として使うのは、許せない。

 暁彰はドレーナに鋭い視線をぶつける。その視線を向けられているドレーナは不快な視線を返し、ため息を吐く。

 

 

 「あなたって…、変わっているわね…。敵に怒りを覚えるくらい感情豊かだったかしら?タツヤ族って…。」

 

 

 「俺は至って、普通ですよ。 俺の場合は、”仲間”が唯一愛せる存在というだけですよ。たとえ、敵だったとしても、仲間をないがしろにする誰かさんを見ると、怒りを覚えるのは当然だと思うけどな。」

 

 

 「あらあら、言ってくれるじゃない。本当に、タツヤ族って融通が利かないわね~。」

 

 

 「…それは、君もだろ? 同じタツヤ族出身の君だから、俺との格闘戦でも一歩の後れを取ることなく、それどころか、全く同じ躱し方、戦い方をしていた。

  これは、タツヤ族の戦闘方法だからな。」

 

 

 「……気付いていたのね。いえ、視たから分かったという事ね。

 

  ええ、そのとおりよ。私もタツヤ族。だから、お互い、戦っても、決着がつかないことは理解できるのではなくて?

  タツヤ族秘伝の『精霊の眼』がある限り、あなたの攻撃もすべてどこから狙ってくるのかもわかるわよ。」

 

 

 そう…、ドレーナはこの国で最強ともいわれるタツヤ族の血を持つ者。暁彰と同じく、『精霊の眼』を持っている。うかつに勝てる相手ではない。

 もし、ここにホームズ達潜入組がいたら、そういう事かと納得するだろう。

 この本部棟に潜入する際に、『幻影投影』で姿を隠し、防音効果の障壁までしていたのに、そこにホームズ達がいることがわかっていて、ホームズ達の曲芸を笑いをこらえてみているような素振りをしていた。あれは、『精霊の眼』でホームズ達を見透かしていたのだ。

 謎が解けたと言いそうだけど、先にホームズ達を行かせてよかったと暁彰は思っている。特に、くろちゃんとちゃにゃんは幻影を使っての錯乱戦法を用いて、戦う事に慣れてしまっている。だから、光学系魔法を得意なちゃにゃんとの連携魔法はすぐにドレーナに見破られ、倒されてしまう。他のみんなも攻撃を『術式解散』で無効化される。その事を一番よく知っている暁彰はこの場からみんなを離した。

 ドレーナも暁彰の事は『精霊の眼』で構造を視て、タツヤ族だと理解し、暁彰に乗って、先に行かせたのだった。

 

 

 「タツヤ族ならわかっているわよね?私もあなたも所詮は”道具”。

  おのれに刻まれた唯一の感情だけを愛し、それを守るためだけにいる存在。

  私はそのために、ここにいるのよ。だから、部下達が”道具”になろうが、私には関係のないこと。構いたてするほどのものではないわ。」

 

 

 「…人を炎獣に変えてもか?」

 

 

 「言っておくけど、私はただ炎獣に変化する部下達を与えられたから、それを使ったまでの事。それだけよ、本当に。」

 

 

 「…なるほどな、炎獣へと変化させる遺伝子操作を行う薬を開発し、それを実験体として部下達に与え、君の所有物にしたという事か。カバルレなら考えそうなことだな。」

 

 

 「敵の言葉をそのまま受け取っていいのかしら? 嘘をついているかもしれないわよ?」

 

 

 「それはない。 利益を生まない”嘘”を吐くなんて、無駄な事はしないだろう?」

 

 

 「……これも遺伝というやつね~…。本当に可愛くないわ。」

 

 

 「それはお互い様だと思うぞ。」

 

 

 「そうね、…ところで、どうします? 今は大人しく従ってくれている炎獣たちをあなたは倒す事が出来るかしら。

  お仲間さんは炎獣の正体を知らなかったから、倒してしまったけど。

 

  この子達、炎獣になって、人間の時の記憶は一切消えてしまったけど、人間の時の知恵や思考力は持っているわ。知恵があるから、そう簡単には倒せないわよ。」

 

 

 挑発するような口調で、暁彰の怒りを煽るドレーナに、暁彰は微笑する。

 

 

 「それに関しては問題ない。」

 

 

 

 

 

 

 一言つぶやいた暁彰は拳銃型CADを炎獣たちに向け、引き金を引く。

 

 

 発動したのは、『雲散霧消』と『術式解散』。

 

 

 炎獣たちの炎の身体を消し去る。

 

 ちょうど、炎獣たちの心臓部分に位置した場所に、霊子が漂っていた。その霊子には、暴走を止めるためと、呪縛の起動式が張り付けられていた。それを『術式解散』で無効化し、カバルレに使う予定だった、たった一回だけの精神干渉魔法、『コキュートス』ですべての炎獣たちの霊子を凍らせた。

 

 粉々に崩れ、消えていく霊子を見送る暁彰。

 

 

 圧倒的数がいた炎獣全てをこれで撃退した暁彰は視線をドレーナに向ける。

 

 

 「やってくれたわね…。まぁ、分かっていたのだけど。

 

  それで、あなたはカバルレを倒すための切り札を失くしてしまったわね。」

 

 

 

 「ああ…、わかっている。でもまだ勝機は消えていないさ。

  

  それに、本当に君がだれを愛していて、守ろうとしているのか…。…も分かっている…。

 

 

  だから、俺はここで君と対峙しているんだ。」

 

 

 

 意味深な言葉を口にし、ドレーナに手を差し伸べる暁彰は、既に先を見通した眼差しをしていた。

 

 

 

 

 

 

 




はい、ドレーナの秘密がちらりと明らかになりました。

あの時の布石を少し取らせていただきました。うんうん、似た者同士だからこそ分かるっていいな~。 敵だけど。

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