「達也様、お帰りなさいませ。ところで、いつまで抱いていらっしゃるおつもりですか?」
達也がお姫様抱っこしている衝撃に固まっていた生徒会。その中で深雪が初めに復活し、驚愕の色から嫉妬の色へと変わり、口調や声色、表情は笑っていたが、生徒会室の温度だけはやけに寒かった。
突然の室内の温度の低下に詩奈は事象干渉力の高すぎる深雪の魔法に感嘆しつつも、白い息が見えるほど寒くなってきたため、身体を小さくする。太一も寒かったが、上着のボタンを外し、詩奈に渡そうとする。しかし、ここは達也が迅速に対応する事で、心配はなくなる。
「深雪、落ち着きなさい。」
詩奈を優しく下ろした後、右手を上げ、何かを払い去るような仕草をする。すると、室内を襲っていたいような寒げは嘘のように消えていた。
下ろされて、少し拗ねていた詩奈は、深雪の魔法を止めた達也の未知の魔法に仰天し、また尊敬の念を向けるのだった。太一は、達也が深雪の方へ歩み寄ったのをこれ幸いと思ったかはわからないが、すぐさま詩奈の傍らに近寄り、気を引き締める。
「落ち着いたか? しばらくはコントロールもできていると思っていたんだがな…。」
「申し訳ありません、達也様。その…、達也様が彼女を運んでおりましたので、動揺…、してしまいました。」
達也に頭を撫でられながら、嫉妬した理由を告げる深雪。目を逸らし、はにかんで言う深雪は、傍から見れば告白シーンに見えるほどだった。そしてもう一人の当事者である達也は、深雪が魔法を無意識に発動させた理由が自分にあるという事を知り、罰が悪そうに苦笑して、更に優しく撫でながら、深雪に謝る。
「悪かった。御前の気分を害するようなことをした俺が悪い。 ごめん、深雪。」
「いえ!達也様が理由もなく、このような行動をされたのではないと深雪は信じておりますから!」
「知っておりますから!」ではないのは、深雪自身もまだ達也が抱き上げたかったという浮気心があったのではないか?という疑念が捨てきれないためなのかもしれない。
それは深雪だけではなく、ほのかもさっきからずっと達也へ潤んだ瞳を向けて、詩奈と何もない事を否定してほしいと願っていた。
水波もまた深雪が暴走してしまうのは勘弁だと、達也の言葉を待っている。泉美は深雪の心を掻き乱した挙句に、それでもまだ愛されている達也へ嫉妬というより憎悪に近い感情を乗せた眼差しを向け、耳を澄ましている。
達也は、室内の自分に対する圧迫した空気を否応なく思い知り、ため息を吐き出したいのを堪え、弁明をする。
「深雪、お前の心配するようなことは無い。三矢さんを運んだのは、式が始まるまでの間に打ち合わせを終わらせておきたかったから、その時間を確保するためだ。
後は……」
そう言って、一度言葉を切ると、詩奈を見てから水波に顔を向け、話しかける。
「水波、悪いが三矢さんに治癒魔法をかけてやってくれ。」
「「「え?」」」
「…………なんだって。」
「……畏まりました、達也様。」
達也の命を受け、詩奈に近づき、達也の方を見ると、達也が足元へ視線を移したので、水波も詩奈の足を見る。
「申し訳ありませんが、失礼します。」
「え、え? あ、だ、大丈夫です! 私、怪我なんて…、いっ!」
短い悲鳴を上げる詩奈の顔は少し痛そうに歪む。水波が詩奈の足首を触ったからだ。詩菜の表情を見て、太一は目を丸くし、すぐに眉をひそめる。
「これはかなり強くひねってますね。これは相当痛いと思いますよ? ここはやせ我慢するより、治癒しておきましょう。 …ここは達也様の言うとおりに。」
「………はい。」
「達也の言うとおりに。」という水波の言葉に押され、観念した詩奈はずっと我慢していた足を差し出し、大人しく水波に治癒魔法をかけてもらった。
その傍らで、達也が深雪に途中だった弁明を再開する。
「彼女がどうやら足を怪我していたからな。 歩くのはこれ以上無理だと思って、抱きかかえていたという訳だ。」
「そうだったのですね、さすが達也様です! 」
「ああ、だから深雪の考えていた”浮気”じゃないからな?」
「!! …み、深雪はそんな事一度だって思っていませんよ?」
人の悪い笑みを浮かべ、からかう達也に頬袋を作って、抗議する深雪はいつの間にか仲睦まし気な雰囲気を作り、そうはさせまいとほのかが意を決して向かって行き、二人の攻防を水波に治癒してもらいながら、羨ましいのと悔しいのが混じり合った視線を向ける詩奈だった。
実は怪我していた詩奈を労わって姫抱っこしていた達也。カッコいい~~!!
でも、ブリザードは起きたな…。