勇者の行動記録   作:サトウトシオ

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<第18話>

<第18話>

儀式により契約に成功した呪文も試してみないと実戦では使えない、これは新しい武器や道具を手に入れたときでも同様だし、これまで新しい呪文を習得したときも同じだった。

マトリフの住む洞窟の近く、少し開けた場所で練習を行う。だが異世界で契約したといっても攻撃呪文は知っている呪文だし、仲間の魔法使いや僧侶が唱えるのを何度も見ている。ベタンにしたってポップ少年がドラゴン相手に唱えていたのを一度だが見ている。特に大きな支障もなく呪文を発動させることができたし、その威力も想定通りである。やはり気になるのは呪文のコントロールだ。大魔導師マトリフがやっていたように投入する魔法力を調節することでその効果を変化させるということ、これも直感的にできないわけではなかった。たしかに魔法力を多く使えば呪文の効果は向上する、攻撃呪文であれば威力という形で非常にわかりやすい挙動を示してくれる。ただコントロールがとても難しい。例えば2倍の魔法力を使ってもメラの火の玉の威力が必ずしも2倍になるわけではない、うまく魔法力が呪文に変換されていないような感触だ。このコントロールにはやはり訓練が必要なのかもしれないが、しかしメラミやイオラ、バギクロスを多めの魔法力で放ってやれば効果的な攻撃を期待できるだろうし、訓練する価値はあるかもしれない。このあたりのコントロールのうまさというのが、マトリフの言っていた「センス」という言葉に集約されているのかもしれないなとも思う。

そして重要な呪文・ルーラだ。この世界のルーラは「街と街を移動する呪文」ではなく、「思い浮かべた場所へ高速で移動する呪文」だ。やり方次第では高速なタックルとして活用、剣撃であってもルーラの高速移動によりそのまま斬りつけるなんてことも可能だろう。実際に試してみたが星降る腕輪とピオリムを組み合わせたよりも高速で移動するわけで、なるほどこれは確かに戦闘に役に立つといえるだろう。

ずっと気になっていた呪文・トベルーラもルーラの応用で習得することができた。常に微小の魔法力を放出し続け現在地を維持する、あるいは目的地へ飛び続ける、そんなイメージだし、呪文というよりもちょっとした特技に近いのかもしれない。が、やはりこれもセンスという言葉があてはまるのかもしれない。常に魔法力を放出し続け、ということをできない人もいるだろう、それがルーラを使えてもトベルーラは使えないということにあてはまるのだと思う。これも消費する魔法力の量に応じて移動速度が変わるようだ、高速であれば多めに、といってもただ単に空を飛び続けるというだけであればイオラ1発の魔法力も使わないだろう、そう大した問題ではない。ともかくこれで冒険が非常に楽になりそうだ、これまでは徒歩あるいは船で世界を巡っていたが、トベルーラとルーラを使えば効率よく世界を、たとえば北方のリンガイアやオーザムへ行くのも非常に楽になるだろう。

この訓練の最中、大魔導師マトリフが洞窟から遠目でこちらを見ていることに気づいた。怪しんでいるのか単に見守っているだけなのかはわからないが、気づかないふりをしておいたほうが良さそうだ。

 

おぼえなければならないと判断したトベルーラだが、割とあっさり習得できてしまった。いろいろとオマケもついたが、目的であったトベルーラも習得できた以上、ここにはこれ以上の用はないとも思う。

そう考え大魔導師マトリフへ礼を言おうと思い洞窟へ戻ったところ、マトリフは出かける準備をしている。彼はどこへ向かうのか…?


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