勇者の行動記録   作:サトウトシオ

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<第9話>

<第9話>

すでに竜騎将バランと3時間ほど戦いを続けている、戦いといっても敵の攻撃は避け続けているわけだが。しかしブーメラン投擲から始まったこの戦闘の決着には時間がかかりそうだ。接近戦では武器の差こそあれど身体能力は自分のほうが上、ただし斬りつけようとするとトベルーラで上空へ逃げられてしまうためこちらからの剣撃は効果がない、もちろん全部逃げられてしまうわけではない。ただ自分ができる遠距離攻撃で効果がありそうなのは炎のブーメラン投擲か、「イオラ」、ライデイン、あるいはギガデインくらいで、この戦いではどれも決定打にかける。遠距離でのイオラは試していないが、そうそう当たるものでもないだろう。かといって竜騎将バランの攻撃もすべて避けられるレベルだ、剣撃にしろ体術にしろ、ライデイン・ギガデインにしろ、カール騎士を葬ったあの謎の光線にしても、だ。したがってこのままでは決着は…時間がかかる、ということだ。

余力で考えると体力も魔法力も高い自分のほうが有利だ、相手の攻撃はすべて回避しているのでダメージは一切受けていない。このレベルの戦闘を続けていれば疲労は溜まるが、あくまでもダメージはない、疲労だけならベホイミすらを使わずとも事足りるレベルだ。遠距離戦では完全な五分五分、しかし近距離戦ではそうではない。たしかに振りかぶるような斬撃はトベルーラで回避されてしまうものの、剣術とあわせた体術、あるいはほとんど接射状態のイオラであれば攻撃を当てられないわけではない。敵の攻撃をすべて回避しながらのため力の入った攻撃は当てられないが、少しづつではあるものの着実に相手にダメージを与えることはできる。当然ながら敵も回復呪文を使うが、この戦いを続けていけばそのうち魔法力を枯渇させることができるだろう。

このまま戦いを続けていけば、なにか大きな外的要因や奥の手・切り札がない限り自分の勝ちは見えている。竜騎将バランもそれを感じ取ったのかバックステップで間合いを広くとり、こちらを睨みつける。それは敗者の視線ではない。眼で物を言うという言葉があるが、それを地で行かんばかりの視線だ、まだ何か奥の手を隠している、ということだろう。間合いをとったバランの口からは、自身よりも強い相手と戦いは初めてだとのこと、そして奥の手はあるが今は見せるべきものではないといったことが語られた。そしてマントを翻し、ルーラでこの場を脱した。どこへ飛んだのかもわからないし、トベルーラも使えない自分にはバランを追うすべはない。

10分ほど待ったがバランが戻ってくる気配もないのでこの戦闘は終了した、と判断している。

 

カール王国はほとんど全滅状態だが、「バランと自分との戦闘」という単一局面では自分の勝ちと考えてよいだろうか、しかしパプニカで戦った剣士もそうだが、この世界の賢明な戦士はみな引き際に優れているのだろうか?そんなことを思う。

すでに事切れているカール騎士の近くへ行き「ザオラル」を唱えてみたが効果がなかっ。残念だがしかたない。ザオラルを唱え続けるほど時間的に、そして魔法力的に余裕があるわけでもない。残念だがカール騎士の蘇生は諦めることにした。

事切れたカール騎士の傍らに別のカール騎士がやってきた。自分とバランとの戦いの前からほとんどやられていた騎士である。バランにやられたのはカール騎士団長のホルキンス、そして自分はその弟だということを聞く。屈強なカール騎士団の騎士団長といえど、魔王軍の軍団長には敵わない、ということか。あるいは竜騎将バランが魔王軍のなかでもトップクラスの精鋭であるという可能性も否定はできないか。

 


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