Fate/Grand Mahabharata   作:ましまし

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詰め込みました。戦闘シーンは大幅カットです。


story:第1特異点 邪竜百年戦争オルレアン3

「――ふう。はい、ここまで逃げれば大丈夫かしら?」

「ドクター?」

《ああ。反応はもう消失している。ついでに言うと、そこからすぐ近くの森に霊脈の反応を確信した》

「わかりました」

 

 よかった。霊脈があるなら消費した魔力を少しは回復できそうだ。

 ……その前に。

 

「あのっ、そろそろ、げほっ、宝具消しても、いいですか……!」

 

 大きめとはいえ、本来2~3人用の戦車に6人乗りはキツい……! しかも魔力放出使って加速させてたから余計に。仕方ないから馬に直接乗ってるけど、重い!! 女性が大半を占めている中で重いっていうのは失礼だけど! 

 

「あ、ごめんねスラクシャ。ここまでありがとう」

「いえ、大丈夫ですマスター。皆さん無事で何よりです」

 

 全員が下りたのを確認して宝具を消す。いやあ。良く逃げ切れたと思うよ。

 

 

 途中、マリー・アントワネットのことを「マリーさん」と呼ぶことが決定した。

 

 ともかく霊脈を確保するために森へ向かうことになった。途中霊脈に群がるモンスターが何体か居たが問題なく蹴散らした。

 

 

「……それでは。召喚サークルを確立させます」

 

 

 一瞬まばゆい光が走る……どうやら成功したらしい。

 落ち着いたところで自己紹介になったが……この音楽家、まさかのモーツァルト。

 

 2人ともとんでもない知名度の英霊だ。

 

 それにしても英霊の座に行く基準が全く分からない。ジャンヌ・ダルクはわかる。「救国の聖女」という非常にわかりやすい偉業をもっているから。

 マリーさんとモーツァルト、もといアマデウスは「何かを救った」とかは聞かない。

 

 まあそれを言ったら私もか。

 うーん。謎だ。

 

「ほら、わたしたちに誘われてまた何か来たみたい!」

 

 ……いや、何かってそれウェアウルフだから! そんなもん誘うな!!

 

「邪魔です!!」

 

 ドシュッ! ドォオン!!

 ギャァア……

 

「……一瞬でしたね」

「イライラして、つい」

「そんなにヴラド三世と決着つけられなかったのが嫌だったの?」

「折角盛り上がってきたところで、あのジャンヌに邪魔されてしまったもので」

 

 不完全燃焼だったんだよこんちくしょう。

 

 

 

 

「――話はわかりました。フランスはおろか、世界の危機なのですね」

予想以上だなこれは。

 

 本当にね。私はマスターに召喚されてよかったよ…………本当に。

 

「あ。わかった、わたし閃きましたわ、みんな! こうやって私たちが召喚されたのは――英雄のように、彼らを打倒するためなのね!」

「多分そうじゃないかな」

「ええ、ええ!わたしこの世界でやっと、やるべきことを見つけられた気がします!」

 

 すっごいポジティブな人だなあ。兄と同じくらいポジティブなんじゃないのか。

 

「根拠のない自信は結構だけどね、マリア。相手は掛け値なしに強敵だぞ。ジャンヌとマシュ、特にスラクシャは戦いになれているとしても、僕と君は汗を流すタイプじゃない」

 

 確かに、音楽家と王妃が肉体労働得意だったら笑うわ。

 

 それは置いといて、アマデウスの言うように戦力差は酷い。

 ヴラド三世にエリザベート・バートリー。あの騎士はマリーさんによるとシュヴァリエ・デオンらしい。

 

 しかも全員に「狂化」スキルが付与されている。

 

 ウソじゃん……兄や弟なら相手がどんなに破格の英霊の集まりでも一掃できたかもしれないのに、私じゃあ……。タイマンならともかく戦争なんだから何でもありだろうし……。

 

 しかしジャンヌによると「聖杯戦争が開始されていないにもかかわらず、聖杯を勝ち取った勝者が存在する」というバグのような状況に聖杯が対抗し、他のサーヴァントも召喚しているかもしれないということだ。

 

 それも、相手の力が強大であればあるほどその反動も大きいと。

 

「まあ……! それって、まだ新しい誰かに出会えるという事ね!」

「それが希望ってワケでもないけどね。敵が増えるだけ、なんて結末もある」

 

 そんな上げて落とすようなことを……。

 

 とりあえず、今日はもう休むことになった。

 

 

 

 

「そういえば、君の音は少し変わってるね」

「はい?」

 

 ジャンヌたちとは少し離れたところで休んでいると、ふいにアマデウスが声をかけてきた。

 

「君の音は僕たちと比べて力強く感じるんだよね。まるで生きているみたいに」

「……死んでますけど」

 

 いや、サーヴァントとして現界しているという意味では生きているのかもしれないけど。

 

「そういう意味じゃなくて……うーん。難しいな」

「はあ……」

 

 なんか気になるな。

 

「っと、複数の足音……どうやら敵襲の様だ」

「え」

 

 あわてて耳を澄ますも何も聞こえない。

 少しして誰かが走ってくる音が聞こえてきたが、この気配はマシュさんだ。

 

「敵襲です先輩! 起きてください!!」

「うぇっ」

 

「ほらね」

「すごいですね。相当耳がいいと見ました」

「音楽家ってだけでサーヴァントになったんだぜ? 大気を震わす波なら正確に聴き分ける」

 

 いや絶対音感とかならわかるけど! 大気を震わす波なら正確に聴きわけるってすごすぎるよ!

 

「ついでに言うと、相手側にもサーヴァントがいるみたいだ」

「もっと早く言ってください!!」

 

 こんな夜中にご苦労様だなおい!!

 

「アマデウス、この距離でわかるの?」

「ああ。例えばキャンプの時のマシュやマリアの寝息。どちらもきっちり堪能させてもらった。もちろん寝息だけじゃない。もっと細かな生体音までじっくりたっぷり、脳内記録(ヴォルフガングレコーダー)に記録済みさ!」

 

 いや、普通に気持ち悪い。

 

「っ…………! セ、セクハラサーヴァント……!」

「ごめんなさいマシュ。監督役として謝罪します。でも我慢して。だって、彼から耳を取り上げたらもう変態性しか残らないのですもの!」

 

 昔馴染みにここまで言わせるって……いや、昔馴染みだからこそここまで言えるのか。

 どっちにしろ気持ち悪いけど。世の音楽家が泣くぞ。

 

「何を言ってるんだか。生き物っていうのは活動するだけで」

「あの、もうそれはいいので戦闘準備に入ってください」

 

 せっかく先に相手を感知しているっていうアドバンテージがあるんだから、こんなくだらないことでそれをふいにするわけにもいかないだろう。

 

「それもそうだ。――さて。我が耳に届くは複数の足音と、鞘から抜かれた剣の音」

 

 ルーラーのサーヴァント感知レベルですっごい能力なのに、なんでこんな変態に……。

 

 

 斥候として差し向けられたっぽいウェアウルフを倒していく。サーヴァント5体だと一瞬で片が付いた。

 

 残るはサーヴァントのみ。

 

《――来るぞ、準備はいいか!》

 

 

 

 

「……こんにちは、皆様。寂しい夜ね」

 

 

 ……あれ、想像してたよりは理性あるっぽい?

 

「――何者ですか、貴女は」

「何者……? そうね、私は何者なのかしら。聖女たらんと己を戒(いまし)めていたのに、こちらの世界では壊れた聖女の使いっ走りなんて」

 

 聖女……ダメだ。ジャンヌしか心当たりない。

 一見理性があるように見える聖女は、やはり狂化されていることに変わりないらしく、今にも襲い掛かりそうなのを必死で我慢しているという。

 

 ふむ……。この様子から見るに、元が善性のサーヴァントだとやっぱり狂化も効きにくいってことか? 

 ヴラド三世やカーミラは元から「怪物」としての適性もあるから狂化を受け入れやすいのか。

 

「では、どうして出てきたのです?」

「……監視が役割だったけど、最後に残った理性が、貴女たちを試すべきだと囁いている」

 

 

「あなたたちの前に立ちはだかるのは“竜の魔女”。究極の竜種(・・・・・)に騎乗する、災厄の結晶」

 

 

 究極の竜種……? ってことはつまり……竜種のボスってことか? 最悪じゃねえか。

 なるほど。試すってのは「あの聖女を倒すというのなら、自分ごとき倒して見せろ」ってことか。

 

「我が真名()はマルタ。さあ出番よ、大鉄甲竜タラスク!」

 

 そうして出てきたのはカメと恐竜のミックス(恐竜要素が大)みたいな感じの竜だった。

ていうか森の中でそんなの出すな! 環境破壊でしょうが!

 

「マルタ……聖女マルタか!? 気をつけろ、みんな! 彼女はかつて竜種を祈りだけで屈服させた聖女だ!」

 

 祈り……なんでだろう。なんかよくわからないけど観察眼スキルが言ってる。祈り(物理)だって。

 

「わが屍を乗り越えられるか、見極めます――!」

 

 ゲームのタイトルか!?

 

 

 

 

 結果、私たちは何とかマルタを倒すことが出来た。私の放った矢を受けたのがマルタの敗因だった。

 

 もちろん刺さった程度ではサーヴァントは死なない。具体的に何をしたのかというと、あっちこっち木の上を移動しまくり、時には短刀で襲い掛かり、傷を負わせようが防がれようがすぐに撤退。

 

 勿論その隙にタラスクの対処も怠らない。眼球を徹底的に狙わせてもらった。

 

 だんだん疲弊してきたマルタにほかのサーヴァントが攻撃し、意識がそれたところで大して魔力のこもっていない矢を放つ。それが刺さったのを確認し、魔力放出の要領でその矢だけを爆発。

 

 流石に怯んだところで懐に飛び込み、短剣でとどめを刺した。

 

 本っ当に疲れた……! 聖女とか嘘だろあれ、元ヤンの間違いだろ絶対に!!

 こんな森の中で通常のブラフマーストラとか何時もみたいに魔力放出とかしたら確実に大火事になるから木に登って弓で狙ったらあの女、あろうことかあの杖で俺が登っていた木の幹フルスイングしてきたんですけど!? しかもめっちゃ揺れたし!!

 

 あんのカメ恐竜も、目潰しされてキレるのはわかるけど執拗にこっち狙いすぎなんだよ! 見ろ! お前が高速回転してきたせいで犠牲になった木の数々を!! 森林伐採もいいとこだよ!!

 

「お疲れ、大変だったね」

「マスター……その言葉だけで報われます」

 

 ……荒んでる時にかけられる労いの言葉って、なんでこんなに心に沁みるんだろう……。

 

「マルタ。貴女は――」

「手を抜いた? んな訳ないでしょ、バカ。これでいい、これでいいのよ。まったく、聖女に虐殺させるんじゃないってえの」

 

 うん、この雰囲気でいうのもなんだけどさ、やっぱりお前絶対に元ヤンだよね!? 若いころにブイブイ(死語)言わせてた人だよね!?

 

 マルタは言う。私たちでは“竜の魔女”が操る竜に絶対に勝てないと。

 超える方法はただ一つ。かつてリヨンと呼ばれた都市に行って“竜殺し(ドラゴンスレイヤー)”を見つける事。

 

 そう伝えた彼女はタラスクに謝罪しながら消えていった。

 

「……あのマルタですら、逆らえないなんて」

 

 それな。どう見ても黒いジャンヌに従うような性格には見えないのに……狂化こわっ。

 

 ともかく次の行先はリヨンに決まった。

 アマデウスの言うとおり、善は急げという。すぐにもリヨンに向かうことになった。

 

 

 

 

「でも君、執拗に狙われてたね。やっぱり大英雄は先に倒しておけって思ったのかな?」

「やめてくださいアマデウス。これから先も集中砲火受けそうです」

 

 あ、今なんかフラグが立った気がする。

 

 

 

 

 

 

 さて。リヨンに行く前に近くの町で情報収集をすることになった。

 ジャンヌが行くとパニックになりかねないので人当たりのいいマリーさんに行ってもらうと、やはりリヨンは滅んでいると聞いたらしい。今ではモンスターどもがうろついているという。

 大きな剣を持った騎士がワイバーンや骸骨兵を蹴散らしていたと。

 しかし少し前に恐ろしい人間――サーヴァントたちがやってきて、その守り神は行方不明に。

 

「かくして、リヨンも滅びてしまった――」

「いくら“竜殺し(ドラゴンスレイヤー)”でも複数のサーヴァント相手にはやられてしまったと」

「生きているといいのですが……。いえ、聖女マルタの言葉を信じましょう」

 

 それと、シャルル七世が討たれたのを切っ掛けに混乱していた兵士をジル・ド・レェ元帥が纏め上げ、今はリヨンを取り戻すために攻め入ろうとしているとか。

 

 ジル・ド・レェ……ジル……あのジャンヌが言っていた人物……サーヴァントだよな。

 この時代はジャンヌが死んでから全然時間が経って無いようだし、サーヴァントの謂わば元ネタが生きていてもおかしくないか。

 

 まあなんにせよ、リヨンの町に住みついている怪物を人間の兵士が倒せるとも思えないので急ぐことになった。

 

 途中、賊に堕ちた兵士たちをさっさと拘束した。流石に峰打ちにも慣れてきた。

 

 

 そしてリヨン。外から見てもわかるくらいにボロボロの街。

 ドクターに探査を要求しようとしたが通信状態が悪いらしく、西をマリーさんとアマデウスが。東をマスターとマシュ、ジャンヌ、私が行くことになった。

 

 探していると、生きる屍(リビングデッド)にワイバーンがぞろぞろと。ワイバーンはいい加減に慣れてきたが、リビングデッドに関しては見ていて気持ちのいいものではない。

 

 ワイバーンはみんなに任せ、リビングデッドはなるべく私が倒す。

 

「ふう……これで掃討は終了ですね。彼らの魂に安らぎがあらんことを――」

 

 

「安らぎ……安らぎを望むか……。それは、あまりに愚かな言動だ。彼らの魂に安らぎはなく。我らサーヴァントに確実性は存在しない――」

「この世界はとうの昔に凍り付いている……!」

 

 

 いきなり出てきた顔の半分を仮面で隠し、手は鋭い爪でできているサーヴァント。

 全然気づかなかった……アサシンのサーヴァントか? それにしてもいい声だな。

 

「……サーヴァント!」

「――何者ですか?」

「然様。人は私を――オペラ座の怪人(ファントム・オブ・ジ・オペラ)と呼ぶ」

 

 オペラ座の怪人!? また本を読む奴なら知ってそうな奴が出てきたな! あとすっごいいい声してるな!

 

「“竜の魔女”の命により、この街は私の絶対的支配下に。さあ、さあ、さあ。ここは死者が蘇る地獄の只中(ただなか)。――君たちは、どうする?」

 

 その問いにマスターが一歩前へ進み、言い放つ。

 

「決まってるだろ――ブッ潰す」

 

「良く言いました、マスター!」

「その通りです先輩。……行きます!」

 

 

 

 

 そしてファントムを倒すことが出来た。

 昨夜のマルタに比べれば楽だった……いや、本当にマルタに比べれば楽だった……っ!

 

「く……しかし、勤めは果たしたぞ。報われぬ、全く報われぬ勤めだったが。私の歌はここで途絶える。されど地獄はここから始まる」

 

 務めを果たした……? 負け惜しみのようにも聞こえるセリフだが、こういう時にこの言葉を使われると大体後で面倒くさいことになる。

 

「来る。竜が来る。悪魔が来る。おまえたちの誰も見たこともない、邪悪な竜が!」

 

 邪悪な竜って、もしかしてマルタの言っていた究極の竜種ってやつか? 竜種のボスの事か?

 ……おい。マズイんじゃないのか。

 

「マスター! 早くここから逃げましょう!」

「スラクシャ?」

 

 その時タイミングよくドクターから通信が入った。

 

《ああ、やっと繋がった!! 全員、撤退を推奨する! サーヴァントを上回る――超極大の生命反応だ(・・・・・・・・・)!!》

 

 やっぱりかぁああ!!

 

「……サーヴァントを上回る!? そんな生命体が、この世に存在するんですか!?」

 

 いるよ! どこぞの神とか神とか神とか!!

 しかもサーヴァントが三騎も追随。完全にこちらをつぶす気満々だ。それとも、そんなに“竜殺し”を渡したくないのか。

 

 ここでの正解は全力で逃げることだが、その場合“竜殺し”は確実に殺される。そうなったら。究極の竜種を倒すことは難易度ハードからルナティックになってしまう。

 

「マスター、指示を!」

「……このまま逃げてもじり貧だ。闘おう」

「わかりました!」

「承知しました」

 

 結局“竜殺し”を探すことになった。

 この先にある城に弱いがサーヴァント反応が1つあるらしい、そこへ向かうことにした。

 

 

 

「……居ました!」

「酷い負傷……!」

 

 そのサーヴァントは傍目から見てもわかるほどに傷だらけだった。リヨンを守るために、複数のサーヴァント相手に必死で戦ったのだろう。

 

「くっ……!」

 

 ザシュッ!

 

「きゃっ!」

「次から……次へと!」

 

 あ、これもしかして私たちのこと敵だと思ってる?

 

「落ち着いてください。私たちは貴方に危害を加える気はありませんから」

「……? ……! 赤の、ランサー……か?」

「ライダーです。そして予想が正しければそのランサーは兄です」

「兄……!?」

 

 驚いた。兄はこのサーヴァントとも面識があるらしい。案外顔が広いな……そりゃ、聖杯戦争に参加してたら私よりはあるか。

 

「とにかく急いでください! ここに、竜種がやってきます! 他、サーヴァントも数騎。戦力的にこちらが圧倒的に不利で――」

「竜……か。……なるほどな。だからこそ俺が召喚され、そして襲撃を受けた訳か」

 

 ってことはやっぱりコイツが“竜殺し”か。間に合ってよかったー。

 

「手を貸しましょう、脱出します!」

「私の肩を貸します。急いで!」

「すまない、頼む……!」

 

 外に出るとマリーさんが焦った様子で声をかけてきた。どうやら彼女にも感知できるほど近づいているらしい、っていうか近づいている。私にもわかる。

 

《視認できる距離まで接近したぞ! これは……おい、まさか……!》

「ワイバーンなんか比較にもならない。あれが、真の竜種……!」

 

 

 ギシャァアアアアア!!!

 

 

 究極の竜の雄叫びが辺りに響き渡る。

 ていうかデカァア!! 何だあのデカさ、いや、マジ、でっっか!! 嘘だろ。今肩貸してるこのサーヴァントこれ倒せるの!? 倒したの!? 

 「【日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)】」とかならいけるだろうけど! 流石俺の兄!! ヤバイ。かつてない危機に思考がパーンってなってる。

 

「……何を見つけたかと思えば、瀕死のサーヴァント一騎ですか。いいでしょう、諸共滅びなさい……!」

 

「わ、わたしが出ます!」

「マシュ!? 何を言ってるんだ!?」

「マスターの言うとおりです! 私の鎧なら耐えきれる、私が!」

「ダメです!! スラクシャさんは、彼を守ってください! マシュさん、ここは一緒に……!」

「は、はい!」

 

 くっそ!! こんな時に役に立てないなんて!!

 せめて言われた事は全うしようと“竜殺し”に覆いかぶさる。

 

「!? 何を……!」

「今の傷だと余波でも危ないでしょう! 大人しくしてください!」

 

 ……あ、鎧が痛いのか? だが仕方ない。我慢してもらおう。

 

「【我が神は(リュミノジテ)――ここにありて(エテルネッル)】!」

「仮想宝具、展開します!」

 

 巨大な竜の攻撃をマシュさんとジャンヌの宝具が防ぐ。直接ダメージを受けることはないが、それでも余波が大きすぎて瓦礫やら何やらが飛んでくるしでかなり危ない。

 

「きゃっ……!」

「ぐっ……!」

《うわっ!? 莫大なエネルギーだな、これは……! そっちは大丈夫か!? っていうか聞こえてる!? ……な、何か言ってくれーっ!!》

 

 うるっせえ!!

 

「ロマン、うるさい!」

《あっ、はい》

 

 マスター強えぇ!!

 

「くっ……ぅぅぅぅぅっ!! やはり、これでは……!」

「耐えられない、もうダメ……!」

 

 マシュさんとジャンヌも限界のようだ。

 やっぱり、私が……!

 

 

「――いや、間に合ったようだ。君たちのおかげでわずかだが、魔力を回復できた」

 

 

「……え?」

「……大丈夫なのですか?」

 

「ああ。――久しぶりだな。邪悪なる竜(ファヴニール)二度(にたび)蘇ったなら、二度(にたび)喰らわせるまでだ……!」

 

 久しぶり? ってことはこの竜……ファヴニールと会ったことがあって、しかも生きてる、生きてたって事? なにそれすごい。

 

「蒼天の空に聞け! 我が真名はジークフリート! 汝をかつて打ち倒した者なり!」

 

 かっけええええええ!! なにこの人カッコイイ!! すっごいイケメンなんですけど、ウチの兄弟に負けないくらいイケメンなんだけど!?

 

「宝具解放……! 【幻想大剣(バル)――天魔失墜(ムンク)】!!」

 

 黄昏色の光がファヴニールに向かって走る。

 しかし黒いジャンヌが咄嗟にファヴニールに上昇の指示を出し、撤退されてしまった。

 

「……はぁ、はぁ、はぁ。すまないが、これで限界だ。戻ってこない内に、逃げてくれ……」

 

 バランスを崩しかけたジークフリートを慌てて支える。

 

「今の内に撤退しましょう、皆さん!」

「【英雄の手綱(ラードヘーヤ)】!!」

 

 二回目の撤退英雄の手綱(ラードヘーヤ)。1人増えた(しかもデカい)からメッチャクチャ疲れるだろうが仕方ない。馬たちには頑張ってもらおう。

 

 

 

 

《先の極大生体反応は確認できない。だが、まだ追跡は止まっていない。急ぐんだ!》

「もう1人くらいライダーいないんですか!? 出来れば戦車とか馬車持ちの!!」

「ごめんなさい、一人乗りで……!」

 

 なら仕方ないな!!

 

「もう迎撃した方が良いんじゃない?」

「確かに、もうこうなったら迎撃するしか……!」

「待ってください。前方に何か見えます、あれは……フランス軍!」

 

 戦車を御するのに神経使ってたから気付かなかったが、確かに前の方にフランス軍がワイバーンに襲われているのが見えた。さらにゾンビまで寄ってきている。あっぶね、このまま進んでたらまとめて轢く所だったわ。

 

 そしてそのまま救出することになった。ええい、怪我人もいるのに面倒な!

 

 

 

 

 ワイバーンたちを始末し、次はいよいよサーヴァント2体だ。

 全身鎧のまさにバーサーカーみたいな声を上げている黒いのが1人、重厚なコートを羽織った銀髪童顔の……剣持ってるしセイバー? いや、そんな風には見えない。

 

「……野郎……!」

「――まあ、なんて奇遇なんでしょう。貴方の顔は忘れたことがないわ、気怠(けだる)い職人さん?」

 

 ん? 知り合いか? それにしては態度に差がありすぎる気が……。

 

「それは嬉しいな。僕も忘れた事などなかったからね。懐かしき御方。白雪の如き白いうなじ(・・・・・)の君」

 

 なんでうなじをピックアップした……肌とか手とか、セクハラかもだが足とか色々あったでしょ……。

 

「……生前のみならず、今回もマリアを“処刑”するつもり満々ときたか。シャルル=アンリ・サンソン。どうやら本気でイカレてたってワケかい?」

=アンリ・サンソン。どうやら本気でイカレてたってワケかい?」

 

 それってつまり、マリー・アントワネットを処刑したのがこの人ってことだよな?

 英霊って本当に何でもありか!? 処刑人が悪いとは言わないよ。ただマリー・アントワネットを処刑した人物を知ってるやつなんてそうそう居ないと思うぞ?

 

「……人間として最低品位の男に、僕と彼女の関係を騙られるのは不愉快だな」

 

 品位云々は激しく同意だ。

 

「人間を愛せない人間のクズめ。彼女の尊さを理解しない貴様に、彼女に付き従う資格はない」

 

 価値観の違う人間がぶつかるとこうなるのかあ……。ウチの兄と弟は価値観というか、最早あれはそういう次元を超えてたからなあ。タイミングが悪いよね、何で片方がひどい目に合ってる時に限ってもう片方来るかな?

 しかもビーマの野r……が絶妙に煽ってくるからね! 何度罵り合いをした事か……。

 

「……Arrrrrrrrrrrrr!」

 

 そしてこっちの黒いのはグイグイ来ますね!?

 

「なんて一撃……! マスター、退がって下さい……!」

 

 全身フルアーマー野郎はガンガンこっちに攻撃してくるし、あっちは犬猿の中で睨み合ってるし、空にはワイバーン飛んでるし、そのワイバーンはフランス兵襲うし……いい加減にしろ少しは休ませろ!!

 こっちは重量オーバーしてる戦車を全力で駆ってきてるから真面目に疲れてんだよ!

 

「っ……! 私がフランス軍の救出に向かいます! お二人はそのサーヴァントを!」

「分かった! スラクシャ、ジャンヌの援護を!」

「はい! ジークフリート、ここで大人しくしててください!」

 

 返事を聞く気はサラサラないので言い終わってすぐにジャンヌの後を追った。

 

 

 

 

 結論。兵士うぜえ。

 

 いや本気でウザい。ジャンヌも私も被害が行かないようにワイバーン仕留めてるのにボケッと突っ立ってるだけなんだもん。ねえ、君たちがいるから下手に魔力放出(炎)もできないんだよ? わかる? しかもカーミラまで来てチョイチョイワイバーンに指示出すわ攻撃してくるわでうっとおしい。

 

 挙句の果てには相打ちになればいいだのなんだの……お前ら目ぇ見えてる? 今ジャンヌ必死でお前ら守ってるよね? 眼科行ってこい、確実に目に異常があるから。

 

 

「守っている相手に散々な言われようですね、聖女様。彼らが呑気に見物できているのはワイバーンを貴女が引き付けているからですのに」

「……放っておいてください」

 

 それな。高みの見物しかしてねえくせに煽りスキルは無駄に高いなテメエ。はい、煽り云々は私が言えた義理じゃないね。生前の思い出(五兄弟二男とのバトル)を思い出して地味にダメージが来た。

 

「聞かせてくださらない、ジャンヌ・ダルク? 貴女はいま、どんな気分でいるのかを。死にたい? それとも殺したい?」

 

 うるっせえよ!! 覚えてるからな! 初対面の時に黒いジャンヌに遊び過ぎって怒られて引っ込められてたのを!!

 

 

「……普通でしたら、悔しいと思うのでしょうね。絶望にすがりたくなるのでしょうね。ですけど、生憎と私は、――楽天的でして。彼らは私を敵と憎み、立ち上がるだけの気力がある

 それはそれで、いいかと思うのです」

 

 

 一瞬、とある光景が過った――

 

 

 

 

 

「兄上、あんな臆病……もとい穏健派どもに言わせっぱなしでは舐められてしまいますよ! アイツら、自分では戦わないくせに兄上の実力を貶めてばかり! 一度でいいから何か言った方が……」

「……普通ならお前のように怒るのだろう。だが、オレを不当に貶めることで奴らが団結するというのならば、それもまたいいだろう」

「……いや、結局内部分裂してますよね!? 全然よくありませんよ!」

 

 

 

 

 

 

「……正気、貴女?」

「さあ、フランスを救おうと立ち上がった時点で正気ではない、とよく言われましたが……」

「そう、白かろうが黒かろうが、どちらもイカれているということね……! ワイバーン!」

「く……!」

 

 

「砲兵隊、撃ぇぇぇぇっ!」

 

 

「え……?」

「くっ……!」

「ジル……!」

 

 

「周囲の竜を優先しろ!! ありったけの砲を撃て!」

 

 

「今だ……!」

「おのれっ……! く――さすがはルーラー。力を奪われていてもこの膂力……! 撤退するわ。ランスロット! サンソン!」

「待ちなさい!」

 

 …………あ! 人が生前に思いをはせている間に逃げやがった!

 

「A―――――――urrrrrrrr!!」

 

 あれ。なんかバーサーカーだけ全然言うこと聞いてない。ていうかむしろテンション上がってないか?

 

「……どうやら、ジャンヌ・ダルクが彼の琴線に触れたらしい」

 

 なんで? ランスロットって円卓の騎士だよね、流石に知ってる。アーサー王とランスロットとマーリンとモードレッドぐらいしか知らないけど。詳しい事も知らないけど。なんで接点が無いはずのジャンヌにテンション上げてんの? 誰かに似てるのか?

 

 向こうのアサシン×2はランスロットを囮にすることにしたらしい。時間稼ぎにしては豪華すぎやしないか。円卓の騎士だろ……。

 

「……Aurrrrrrrrrrrrrrrrrr!!」

「くっ……! 何故、私を……!?」

 

 どんだけ!? 他の奴に一切見向きせずにまっすぐジャンヌに向かって突っ込んでいったんだけど、なに、お前ジャンヌかそれに似た円卓にいた人物A(仮)に恨みでもあるの!?

 

 でもこれはチャンスだ。

 

「マスター。今のうちかと!」

「騎士道に反しますが、このままランスロットを仕留めます!」

「よし、やろう! あれ、どう見ても騎士じゃないし!」

 

 確かに。どっちかっていうと狂犬だ。

 

 

 

 

 

 

 

「……A……アー……サー……」

 

 疲れた……。ヴラド公やマルタ、カーミラみたいに後付けの狂化ではなくマジのバーサーカーのくせに技量がそのままって……。流石、騎士の中の騎士って言われてただけはあるな。

 いやでも、なにあの宝具……。ランスロットだよね? 円卓の騎士だよね? なんで銃弾乱射してんだよ。その手に持ってる剣は飾りかよ。聖剣が泣くぞ。

 

 銃弾は私が前に飛び出すことによって防いだ。鎧万歳。父上ありがとうございます。

 

 というか、コイツはジャンヌをアーサー王と勘違いしてたらしい……アーサー王って男だよね? ジャンヌはどっからどう見ても女だろ私と違って。

 

「……。ああ、そうか」

「マシュ?」

「ランスロットがジャンヌさんに拘った理由がわかりました。ジャンヌさんは、アーサー王に似てるんですね。顔形ではなく、魂が――」

 

 そっちか。私はどっちかっていうと――いや、いいか。

 

「王……よ……私は……どうか……」

 

 バーサーカー……喋れたのか。声的に絶対イケメンだな。

 

 立ち去ろうとすると、ジル・ド・レェ(生きてる)がジャンヌを呼び止めたが、ジャンヌは振り返ることなく先へ進み、私たちもそれに習った。

 これで他の兵士どもも気付けばいいんだけどな……気づかなかったら、今度こそジャーマンの刑に処してやろう。




少し皆様に協力してほしい事がありますので活動報告に書いておきました。良ければ見てください。

誤字脱字・感想お願いします。

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