今回は長いし、台詞をここまで入れたのは初めてです。戦闘描写も初めてです。
因みにまともな戦闘はこの話以降、しばらくありません。
story:第1特異点 邪竜百年戦争オルレアン2
朝。
直接オルレアンに乗り込むのは難しいということで、周辺の街や砦から情報を得ることになった。
そうしてラ・シャリテという街に行くことになったのだが――その街からサーヴァントの反応が出た。反応自体はすぐに見失ったが、街が燃えているのが見えたので大急ぎでラ・シャリテへ向かった。
街についた時にはもはや瓦礫しか残っておらず、生体反応はどこにもなかった。
アンデッドが出たりワイバーンが死体を喰ってたりと嫌なものも見てしまったがとりあえず全部蹴散らす。
終わってやっと一息つけると思ったら今度は先ほど去ったはずのサーヴァントがこちらを感知したのか戻って来たらしい。しかも数は5騎。しかもメッチャ早い。
パーンダヴァの兵士の方が強かったから別にいいよ?
ただ少し展開が急すぎるので休ませろとは思う。
仙人的な格好をした女性に、
そして、黒い鎧のジャンヌ・ダルク。
「……っ!」
「――なんて、こと。まさか、まさかこんな事が起こるなんて」
予想はしていたものの、やはり受け入れられないのか絶句するジャンヌ。
「ねえ。お願い、だれか私の頭に水をかけてちょうだい。まずいの。やばい。本気でおかしくなりそうなの」
反対に、驚いてはいるが何か楽しそうな黒ジャンヌ。
「だってそれくらいしないと、あんまりにも滑稽で笑い死んでしまいそう!」
あ、楽しそうじゃなくて楽しんでるわ。ていうか語彙力が俺と大して変わらなくないかあのジャンヌ。本当に中世の人?
「ほら、見てよジル! あの哀れな小娘を! なに、あれ羽虫? ネズミ? ミミズ?」
いや。ジャンヌが小娘ならアンタも小娘だから。というか、虫から哺乳類に進化させた、かと思いきやまた虫にたとえるそのセンス嫌いじゃない。
というか本当に楽しそうだな。
「ねえジル、貴方もそう――って、そっか。ジルは連れてきていなかったわ」
居ないのかよ! てっきりそこのオジサマかと思ってたわ。今までこの場に居ない人物に話しかけてたの? ていうかジルジルってさっきからすっごい呼んでるな。お父さん?
うんごめん。話を進める。
街を襲った理由は、単にフランスを滅ぼすため。政治・経済的にとかが面倒くさくて物理的に潰す事にしたらしい。脳筋じゃねーか。いやまあ、確かにサーヴァントならそっちの方が簡単だけどさ。
「バカなことを……!」
「
「何故、こんな国を救おうと思ったのです? 何故、こんな愚か者たちを救おうと思ったのです? 裏切り、唾を吐いた人間たちだと知りながら!」
「それは――」
ああ、そっちね。ジャンヌ・ダルクについて少し調べたらだれでも1度は思うことだ。「ジャンヌ・ダルクは、最期はフランスを憎みながら死んだのでは」って。
俺も偉人の漫画みたいなのを読んだときに思ったけどさ、直接ジャンヌに会ってみるとそんなこと思わないんだなってのがなんとなくわかるんだよな。自分でもあっさり。
……ああ。身内に似たようなの居るからか。私はもしかしたら嫌われてるかもだけど……ヤバい、戦う前から精神的にダメージが。
しかし黒ジャンヌの理論がすげえ。神の声が聞こえなくなった=この国に愛想を尽かしたっていう発想がすごい。しかも自分の憎しみも解消しているところがすごい。ストレス解消の達人かよ。
「まあ、貴女には理解できないでしょうね。いつまでも聖人気取り。憎しみも喜びも見ないフリをして、人間的成長をまったくしなくなったお綺麗な聖処女さまには!」
「な……」
そのタイミングで「聖処女」って言葉使うと別の意味に聞こえるからやめろ。
《いや、サーヴァントに人間的成長ってどうなんだ? それをいうなら英霊的霊格アップというか……》
「――うるさい蠅がいるわね。あんまり耳障りだと殺すわよ?」
《!? ちょ、コンソールが燃えだしたぞ!? あのサーヴァント、睨むだけで相手を呪うのか!?》
ドクター……私も思ったけど我慢して言わなかったのに……。
「…………。貴女は、本当に“私”なのですか……?」
「……呆れた。ここまでわかりやすく演じてあげたのに、まだそんな疑問を持つなんて」
いや、今自分で演じたって言ってたじゃん。っていうかどう考えても別人だから。双子って言われた方がまだわかる。
「貴女はルーラーでもなければジャンヌ・ダルクでもない。私が捨てた、ただの残り滓にすぎません」
「……!」
それ結局ジャンヌじゃないの?
「私と同一の存在で、尚且つクラスも同じであるなら、何かしら感じ入るものもあったでしょう」
さっき自分で同じ存在っていってなかった? クラスもルーラーだよな。
「ですが貴女には何の価値もない。ただ過ちを犯すために歴史を再現しようとする、亡霊に他ならない」
「えっ」
亡霊? 亡霊ってつまり幽霊だよね? いや、サーヴァントって幽霊みたいなものだけどさ。
思わずジャンヌの手を取って確認してしまう。
「…………あの、何を……」
「いえ、亡霊というものですから……、ちゃんと触れますね。透けてもない」
あー良かった。これで触れなかったり透けてたりしたらビビってたわ。幽霊はさすがに見たこと無いし。
ん? ジャンヌの顔が赤……あっ。
「申し訳ありません。無遠慮に女性の体に触ってしまいました……」
「い、いえ! 大丈夫です、気になさらないで!」
あー良かった。許してくれた。実際の性別は女だけど、隠している以上は男だしな(精神的にも)。
そんなやり取りをする私たちを、というか私を黒ジャンヌと……何故かさっきからイケメンオジサマが見てくる。
黒ジャンヌはまだわかるとして、何故イケメンまで。
「なにをやっているんだか……。バーサーク・ランサー、バーサーク・アサシン。その田舎娘を始末しなさい」
っしゃあ! 戦闘だ! もう、座では時間の概念がないとはいえ、実際に計算したらヤバいくらい戦ってないからね俺!! 久しぶりすぎて血肉湧き踊るってやつだよ! しかも強そう!!
平和的解決? そんな選択肢なんぞ遙か彼方へ投げ捨てたわ。どんだけ退屈だったと思ってる。
「勇者を平らげる事こそが貴方たちの存在意義。存分に貪りなさい」
「――よろしい。では、私は血を戴こう」
「いけませんわ
なんて物騒&グロテスクな会話なんだ……想像するだけで気持ち悪くなってきた。
おい、やめろ。魂はどっちが貰うー? えー、そんなんのあっても可愛くなれないよー。じゃあ私が貰う! って女子高生の会話かよ! 内容全然女子高生じゃないけど!! むしろ猟奇殺人鬼のそれだけど!!
「皮肉なものだ。血を啜る悪魔に成り果てた今になって、彼女の美しさを理解できるようになったとは」
……血を啜る? あ、吸血鬼? え、ありなのそれ。サーヴァントってなんでもありなの?
「ええ。だからこそ感動を抑えられない。私より美しいものは許さない。いいえ、それより――私より美しいものの血は、どれほど私を美しくしてくれるのかしら?」
白雪姫の継母かよ!? なに自分より美しいものの血が自分を美しくするって。とんだ美容パックだな、一歩間違ったらHIVに感染するぞ。
「ああ、新鮮な果実を潰すのは楽しいわ。果肉は捨てて汁だけを嗜む――これこそ夜の貴族の特権。私の宝具で、一滴残らず絞り出してあげましょう」
ふざけんな。贅沢にもほどがある。ガキの頃は割と貧困生活送ってきた私らにケンカ売ってんのか。あと果物は実もあるからおいしいんであって。
あとあんたさっき肉と臓物も欲しいって言ってたじゃん。思いっきり果実食おうとしてるじゃん。
それと搾り出すて。人をジュースみたいに言うんじゃない。
「ところでそこの」
「…………え、私ですか」
「貴様、『赤のランサー』か?」
「髪は赤いけどライダーですね」
いや、まあそういう意味じゃないだろうってのは分かってるけど。
「ふむ……言われてみればあの男の髪は白かったな」
「どうやったら見間違える……白?」
まって。ランサーに適性があって髪が白くて、私と間違えるくらいには似ているであろう人物なんて1人しか思い浮かばない。
考える私をマスターが不思議に思ったのか尋ねてくる。
「スラクシャ、知り合いなの?」
「いえ、私ではなく、おそらく兄の方ですね。別の聖杯戦争とかで会ったのではないかと」
いいなー、兄ほどのサーヴァントなら結構引っ張り出されてそうだし、優勝も余裕……いや、あいつ変なところで運がないからな。途中退場しそう。
「ほう。あの男の弟か。我が宝具を体の内側から受けたにも拘らず、顔色一つ変えずに内側から燃やし尽くした男……」
「いろいろ言いたいことがありすぎる」
体の内側から宝具ってなに!? しかも燃やした!? 自分で!? バカなの!?
でもあの兄の事だからやりかねない、怖い!!
「貴様がどれほどの実力か、私が直々に試してやろう」
「それは光栄です。兄に及ぶほどの力はありませんが、試すつもりでやられないようにしてくださいね」
わざと挑発するように言うと、バーサーク・ランサーは楽しそうに、獰猛に笑った。
「スラクシャさん!」
「ランサーは私が相手をします。マシュさんとジャンヌさんはアサシンを」
そう伝えてランサーを真正面から見据える。
ランサーは槍を構え、私は弓に自らの魔力で編んだ矢をつがえる。
そして――同時に地を蹴った。
バーサーク・ランサーが空間を大きく薙ぐ。スラクシャはそれを上に飛んで避け、複数の矢を同時に放つ。ランサーはそれを槍で払うが、彼女自身の魔力で編まれたそれは「魔力放出(炎)」の効果を応用し、払われたと同時に爆発し土煙を上げる。
煙が晴れるとそこにスラクシャの姿はない。それを見とめた瞬間にランサーの背中に悪寒が走る。本能のまま後ろを振り向くと同時に盾にした槍がスラクシャの短刀とぶつかり高い音が響く
。
2騎のサーヴァントはお互いの目を見てにやりと笑う。
ランサーが槍を振るう一瞬前に飛びずさり、距離をとった。
「……やるな」
「そちらこそ」
「く……っ!」
ジャンヌ・ダルクはその光景を見て戦慄する。スラクシャがアサシンを任せると言って数十秒もたっていない。
マシュもあの一瞬の攻防で悟らされた。今の自分たちでは足手まといだと――。
だが、目の前にも敵はいる。
「……マスター」
「……やるしかない。スラクシャを信じよう」
「はい! ジャンヌさん構えてください、来ます!」
「は、はい!」
マスターの指示を受け、2人はバーサーク・アサシンへ向かって走り出した。
久しぶりの戦いに気分がひどく高揚する。
何度も何度も打ち合ったがお互いにかすり傷を負った程度だ。
私の方がスーリヤから貰った鎧があるので傷は少ない、それにこのくらい軽傷なら見る見るうちに治っていく。
どう考えても私の方が有利なのにとどめをさせない理由は、相手がバーサーカーだからだ。攻撃力が跳ね上がってる上に、狂化しているくせに理性がある。猪突猛進に突っ込んできてくれりゃあいいものを、しっかり避けたり、瓦礫とかを利用したりもするからやりにくいことこの上ない。
そしてもう1つ。バーサーク・ランサーの隙をついてはマシュさんとジャンヌを援護しているからだ。
昨夜、サーヴァントとしてはほぼ初陣と言っていた通り、致命傷はないがどこか危なっかしい。
その上、ほとんどはマシュさんが防いでいるものの、時折マスターへも流れ弾が飛ぶのだ。私はある程度計算して調節できるがあの2人にはまだ無理だろう。
以上2つの理由で私はランサーと決着をつけられなかった。
「そんな小僧1人仕留めきれないなんて……。もしや恩情をおかけになったのかしら。お顔に似合わずお優しいこと。“
んだとコラ。誰が温情かけられてるって?
ってかマジで吸血鬼だった!?
「“
《ヴラド三世……ルーマニアの大英雄。通称“串刺し公”か……!》
あー聞いたことあるような気がする。あくまで気がするだけど。本かなんかで読んだか?
「……人前で我が真名を露わにするとはな。その上、恩情をかけただと? 不愉快だ。実に不愉快だ」
「まったくです。誰が恩情をかけられたなどというのか。今この場において、この場で出せる全力で私たちは戦っています」
それを温情をかけただのかけられただの、不愉快っていうか侮辱だろ。戦士に対しての侮辱だろ。
というかあのアサシン怖っ! 言ってることからして拷問好きっぽいんですけど。いや、見た目からわかるか。手に持ってるの、あれアイアン・メイデンじゃん。
「最後の最後に、真に逃げ延びられた者の手で破滅に追い込まれたのは貴様の方だろう。エリザベート・バートリー。いやさカーミラよ。無残にして何とも滑稽な最期だったのはな」
エリザベート・バートリー……。あ! 思い出した。なんかテレビの怖い女性特集みたいので紹介されてた!
あれでしょ、女の子集めて血を抜き取ってそれを溜めた風呂に浸かった……うえ、気持ち悪い。
「……無粋な方ね。これだから根が武人な殿方は困ります。吸血鬼に堕ちていながら、高潔な
「――私が、いまだに信仰に縋っていると?」
まさかの仲間割れ。でも妙に息があってるような気がするのは気のせいか?
あと別に吸血鬼になったって何を信仰するかは自由じゃん。
「あなたたちが敵意を向けるのはそこの小娘たちです。仲間割れは後にして頂戴」
効率的に考えるならそのまま同士討ちしてくれた方が助かるんだが。まあ、そう簡単にはいかないか。
「まあ。誤解ですわマスター。私、先達としてヴラド公を密かにお慕いしていますのに」
突然の告白。
「なるほど、初耳だ。慕う、とは暗殺する機会をうかがう事だったとはな」
じゃなかった。
「続きを始めるぞ。『犠牲の英雄』よ」
「それやめてくれませんか」
なんか脱力するだろ!
スラクシャとヴラド公がまた目で追えないスピードで戦い始める。さっきよりもお互いに力を出しているのか、周りの瓦礫がすごい勢いで粉々になっていく。
スラクシャは強いから大丈夫だろう。
問題は俺たちだ。
「では、こちらも始めましょう。お優しいヴラド公とは一緒にしないでくださる?」
「マスター……エリザベート・バートリー。……ご存知ですか?」
「何かの本で読んだことあるよ」
血の伯爵夫人……少女の血を浴びると若返ると信じ、数百人の少女を虐殺したと伝えられる怪物――!
俺は男だから大丈夫だろうけど。万が一負けたらマシュやジャンヌがどうなるか考えたくもない。
「聖女の血は貴重品ですもの。目の前に宝石があれば、一粒たりとも見逃さないのが女という生き物よ……!」
先の戦いより力のこもった一撃に受け止めるのは愚策だと判断する。
筋力の低い私はこういう力の押し合いだと不利だ。その代りに敏捷と反動でそれ補っているが(スピード出して走った時に突然止まると力がかかるだろ? あれ)こうも怪力だと限界がある。
改めて思うけど狂化ついてるくせに技術を問題なく使える位の理性があるって反則だろ!!
とにかく、短刀で接近戦に持ち込んだら逆にやられかねない。魔力放出を使えば行けるかもしれないけどリスクが高い。
宝具を使うのもアリだけど、耐えられてしまえば意味はない。というかあれは元々サポート用だ。それにまだ黒いジャンヌのほかに2名のサーヴァントまで残っている。
アルジュナのガーンディーヴァ並みの攻撃力があったらなあ。あれは本当にビビった。避けるたびに後ろから轟音が聞こえるんだぜ? よくもまあアイツ相手にそこそこの時間持ちこたえられたと思うよ。
「考え事とは余裕だな、ライダーよ」
「低リスクであなたを倒す方法を考えてまして」
やっぱブラフマーストラいくか?
「……妙な違和感があります。そちらのお嬢さん。貴女――イヤな匂いよ。年端もいかぬ少女なのに戦闘だけは熟練の技。矛盾しているわ。何者なのかしら?」
「……デミ・サーヴァントでしょう。人間とサーヴァントが入り混じった異質な存在です」
聞こえてきた会話に意識がそっちへ行く。デミ・サーヴァントってかなりレアっぽいけど、なんで黒いジャンヌが知ってるんだ? ルーラーだから?
「……そして私の失策でした。貴方たちは他の物より残忍ですが、だからこそ遊びがすぎる。あの小娘たちの始末は、遊びの少ない残り二騎に任せるとしましょう」
「っ!」
ジャンヌの言葉と共に上から突然襲ってきたワイバーンを躱し、すれ違いざまに翼と首を射抜いて殺す。
そのままマスターの隣へ移動する。
「待て。私もカーミラも共に本気ではない。聖女の血は我らの、あのライダーは私の獲物だ。血の輝き、血の尊さを微塵も知らぬただの処刑人どもに譲るなど」
「黙れ。恥を知れ、ヴラド公」
黒ジャンヌの言葉にヴラド公が黙る。さっきのカーミラの言葉を思い出す限り、あのサーヴァントたちのマスターは黒ジャンヌなんだろうし、基本マスターには逆らえないのがサーヴァントだ。
っていうかサーヴァントがサーヴァント召喚するってできるのか? あ。聖杯を持ってるならできるのか。
「――私、そういう我が侭は嫌いなんです。だから反省して、今回は引っ込んでいてくださいね?」
「っ……! マシュさん、スラクシャさん、逃げてください! ここは私が食い止めます!」
「何をバカなことを! 今の貴女より、私の方が生き残る確率も逃げ切る確率も高い。私が残ります!」
何を言い出すんだこの聖女は! 昨日自分でサーヴァントとしては新人みたいなもの、しかもルーラーとしての力もほとんど使えないって言ってただろーに!!
《あわわ、今度は後ろの二騎をけしかけてくる気か!? ど、どうしようどうしよう何かないか何かないか》
「ドクター、落ち着いてください。こちらまでパニックになりそうです……!」
《だ、だけど絶体絶命じゃないか! あわわ、メールメール、こういう時こそネットの力だ!》
ここでネットの力は使えねーと思う。
《ネットアイドルのページにGO! マギ☆マリの知恵袋、マギ☆マリの知恵袋!》
ネットアイドルの知恵袋で何を聞く気だこの大人!?
当然役に立つわけもなく、突然見せられた特に面白くもないコントに俺が少しイラっとしただけだった。
ワイバーンやゾンビも襲ってくるし、もう面倒くさくなってブラフマーストラをぶっ放そうと思った時だった。
「?」
「ガラスの――薔薇?」
なんでこんなもんが突然。
「――優雅ではありません」
「この街の有様も。その戦い方も。思想も主義もよろしくないわ」
「サーヴァント、ですか」
「ええ、そう。嬉しいわ、これが正義の味方として名乗りを上げる、というものなのね!」
現れたのは優雅と天真爛漫という言葉が似合いそうな美少女。なんなの? サーヴァントってのはイケメンもしくは美人ばっかりなの? 元日本人に対する嫌がらせなの?
そのサーヴァントに、向こうの騎士のようなサーヴァントが反応する。
「貴女、は……!?」
「まあ。私の
あ、女なんだ。
しかも衝撃の事実発覚。この女性サーヴァント、あのマリー・アントワネットらしい。
……いや待て。マリー・アントワネットってあの!? 後に訂正されたらしいけど、あの「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」で有名な!? サーヴァントって有名だったら誰でもなれるの!?
ポカンとしている間にどんどん話は進む。
「わたしはそこの、何もかも分かりやすいジャンヌ・ダルクと共に、意味不明な貴女の心を、その体ごと手に入れるわ!」
とんでもない爆弾が投下された。
「……え」
「な……」
「え、えっと……はい?」
「あ、しまった。しっぱいしっぱい。えっと、誤解なさらないでくださいね? 今のは単に、『王妃として私の足元に跪かせてやる』という意味ですから」
どっちにしろひどい。
「――茶番はそこまでだ。いいでしょう。ならば。貴女は私の敵です。サーヴァント、まずはあの鬱陶しいお姫様を。雑兵はとっととあの連中を始末しなさい」
痺れを切らした黒ジャンヌがサーヴァントやワイバーンを差し向けてくる。
――が、曰く茶番の間に準備は整えてある。
「【
「なに!?」
襲い掛かるワイバーンをブラフマーストラによって全て焼き尽くす。サーヴァントには流石に避けられてしまったが、ワイバーンたちは断末魔を上げながら消えていった。
……もちろん手加減してるからね? 威力0.5位には押さえてるからね。あれ一応対国宝具だしさ。抑えて です。
「貴様……!」
「やっと勘が戻ってきました……そう簡単にやられませんよ?」
こちらを睨みつけてくる黒ジャンヌを見返す。うお、すっげえ形相。
「やるなライダー……」
「ありがとうございます、ヴラド公。残念ですが、今日はここまでです」
「そうですわね。ここは戦場ですもの、語らいはこのあたりで。貴女は世界の敵でしょう? では、何はともあれ――まずはあなたが殺めた人々への鎮魂が必要不可欠」
「お待たせしました、アマデウス。機械みたいにウィーンとやっちゃって!」
「任せたまえ。宝具、【
え、もう1人いたの!? しかもルーラーの探査能力に引っかからずに隠れられてたの!?
「もう1人……!! ああ、でもなんて壮麗で邪悪な音でしょう!」
どっち!?
「くっ、重圧か……!」
「ちっ……!」
重圧……私らには感じないけど、音なのにコントロールしているってことか? というか音楽家の英霊?
どっちにしろチャンスだ。
「【
「ありがとう! それではごきげんよう皆様。オ・ルヴォワール!」
こうして私たちは黒ジャンヌたちから逃れることが出来た。
誤字脱字、感想ありましたらお願いします。