今回はだいぶダイジェストされてますが、ご容赦ください。
「……あの、マスター?」
目の前で固まっている、私のマスターだろう少年と眼鏡をかけた白衣の少女。
どうしようか困っていると、入り口が開いて医者のような恰好をした男性と……かの有名なモナ・リザが入ってきた。え?
「ちょっと玲くん!? 今とんでもない魔力が……って誰!?」
「す、すごいです、先輩! 初めての召喚でここまで強い英霊を呼び出すなんて!」
「そんなに強いのこの人!?」
「あの魔力の流れから察するにかなり破格の英霊だねー」
私がどうやって声をかけようと悩んでいる間にすっごい盛り上がっている。
なに、私そんなにすごいの? サーヴァントとして召喚されるの初めてだから良くわからないんだけど。
何故か座に行っても誰にも会えなかったし。
「えーと、ごめんね? 俺の名前は玲。良ければ真名を教えてくれないかな?」
「は、はい。私の真名はスラクシャといいます」
答えるとマスター以外の面々の顔が驚愕に染まった。
「スラクシャだって!? あの『守護の英雄』!?」
「なにその異名!?」
召喚早々素が出てしまうくらいには驚いた。おま、『守護の英雄』ってなんだ。なんでそんな二つ名がついた?
「マシュ、『守護の英雄』って?」
「はい先輩。マハーバーラタに登場する大英雄――『施しの英雄』カルナの弟であり、『守護の英雄』のほかに『犠牲の英雄』とも呼ばれています」
マシュと呼ばれた少女の説明に唖然とする。『施しの英雄』と兄が呼ばれるのはわかるけど。守護て、犠牲って!!
ていうか連呼するのやめて! すっごい恥ずかしいから!!
後性別はばれてないみたいだ、やったね!
「へー。俺は英霊に詳しくないけど、すごいんだね」
「いえ、私は大したことなんてしていません」
兄について回ってただけだし。
「序盤から強力な英霊がいるのは心強いよ。特異点に行く前に強い英霊に来てほしくて」
「あの、すいません、マスター。その件なんですが」
「実は何が起こっているのか理解できていないので、できれば説明をお願いします」
さらに驚かれた。
各時代に特異点を作り出している聖杯を確保。
あー、それで座が揺れたのか。……私としてはそのおかげで座から脱出できたわけだから複雑な心境だ。
「と、いうわけです。それにしても、知識に関してのバックアップを受けていないなんて」
「故障はないはずなんだけど……」
「いえ、現代知識に関してはある程度あるんです。ただそれ以外は……申し訳ありません……」
やばい、いたたまれない。聖杯仕事して。現代知識だけ(転生してるから)あるとか最悪かよ。
「っていうことは、自分が死んだあとの事もわからないのかい?」
「ええ」
「(ドクター。これはマハーバーラタを書庫から撤去した方がいいのでは?)」
「(うーん……。でももしインド系統のサーヴァントが来たら、後から大ダメージ受けるんじゃないかな)」
マシュさんとドクターは何を話しているんだ。
「気にしなくていいよ。来てくれてありがとう、スラクシャ」
「マスター……こちらこそ、私を呼んでくれてありがとうございます。いえ、本当に」
「……なんかあったの?」
「……座に召し上げられてから、今の今まで誰にもあったことがなかったもので」
今2015年ってことは……ダメだ、考えるのも嫌になるくらいに時間過ぎてんじゃん。
「えー? 英霊の座って結構好き勝手に訪問できるけど」
「嘘でしょう」
一歩も外に出られなかったんですが。
これはマジで縁切られてるんじゃないのか俺……。
「な、なんにせよ、スラクシャのような強力な英霊が来てくれたのは心強い。そろそろレイシフトを始めよう」
「そ、そうですね!」
その後、微妙に気を使われながらレイシフトをした。
フォウという謎生物も一緒にレイシフトしてしまったという小さい事件があったが特に問題はなかった。
レイシフトをしたのは百年戦争時代のフランス。ただし今は小休止期間。という説明をマシュさんがしている中、何故か空をポカンと見上げているマスターに釣られて上を見上げると……なんだあのでっかい輪。どう考えても未来消失の理由の一端だ。正体はドクターたちが調べておいてくれるとか。
とりあえずやる事は大量にあるので、まずは街に向かうことになった。
途中、フランス兵がいたので話しかけたら突然戦闘になった。コイツら怪し過ぎるぞ! というフランス兵の言葉に何も言い返せない。
殺すわけにはいかないので峰打ちでやる事にしたが、なんていうか……手加減って難しいんだな。生前は常に全力じゃないと死んでたから、危うく本気でやるところだった、セーフ。
使ったのは鎧を引きはがすときに使った短剣。柄の方でこう、どすっと。
弓はね。あれ、私の魔力で矢を編んでるから。神秘帯びてない鎧とか軽く貫通する。
それにしても弱すぎないかフランス。アルジュナもクリシュナももっと強かっ……比べる対象間違えた、アイツら半神半人と神だった。しかも兵じゃなくて将だ。
完全に基準が可笑しくなってしまってることに地味にダメージを受けつつ勝利。しかし甘かったのか逃げられてしまったので追いかけることになった。
砦まで辿り着いたのはいいが……外壁は無事だが中身はボロボロ、大量の負傷兵。戦時中でもないのにどういう事だ。
っていうか、外が無事で中がボロボロってなんでだ。空襲でもあったのか?
と、先ほどの兵を見かけたので話しかける。今度はフランス語で挨拶をする。と、兵は警戒を解いた。おい、いいのかそれで。
話を聞くと、和平条約を結んだはずのシャルル七世は殺されたらしい。……竜の魔女、ジャンヌ・ダルクに。
竜か……空も飛べるし、だから中がボロボロだったんだなってどうでもいいわ。ジャンヌ・ダルクって。おま、最後に歴史を習ったのが……とにかくかなり前の私ですら覚えてるくらい有名だよ? 聖女ではあるが魔女ではなかったはず。
そうこう話していると今度は骸骨兵の襲来。人間じゃないので特に手加減する必要はなし。弓の出番だぞ、やったね。流石にあの量を短剣オンリーで処理するのはきつい。
マシュさんと協力して全部粉砕してからもう一度詳しく話を聞く。なんでも、このフランス兵はオルレアン包囲戦と式典に参加したらしい。髪や肌の色は異なるが、まぎれもなくジャンヌ・ダルクとのこと……いや、髪と肌の色が異なってたら案外別人だ。私が言うんだから間違いない。
まあとにかくジャンヌ・ダルクは悪魔と取引して戻ってきたんだとか。
そして来るワイバーン。おい、マジか。マジで竜種か。あんなのが十五世紀のフランスに存在するなんておかしいとはマシュさんの談。いてたまるかあんなもん。
当たり前だがさっきの骸骨兵とはランクが違う。兵士に被害を加えないように動くなら少してこずりそうだと弓を構えた時だった。
「兵たちよ、水を被りなさい! 彼らの炎を一瞬ですが防げます!」
「!」
そういって現れたのはでかい旗を持った金髪の美少女。ドクター曰くサーヴァントだが反応が弱いらしい。
とにかく彼女と協力してワイバーンを蹴散らすことにした。
マシュさんとドクターが漫才をしている。何してんだあの大人。何をする気だこの子。
「そんな、貴女は――いや、お前は! 逃げろ! 魔女が出たぞ!」
「え、魔女……?」
あー、なるほど察した。この美少女がジャンヌ・ダルクね。ていうか兵士よ。お前今の戦い見てた?
「あの。ありがとうございます」
「気にしないで。それより、君の名前は――」
「ルーラー。私のサーヴァントクラスはルーラーです。真名をジャンヌ・ダルクといいます」
ですよねー。
「ジャンヌ……ダルク!?」
「死んだはずじゃないの?」
「マスター。もう少しオブラートに包んでください」
率直すぎるだろ! しかも兵士たちの言い方からすると、火あぶりにされてからそう時間経ってないんじゃないか!?
とりあえず移動することになった。
「……此処ならば落ちつけそうです。まず、あなた達のお名前をお聞かせください」
「了解しました。私の個体名はマシュ・キリエライト」
「スラクシャです」
「玲っていうんだ。一応、マシュ達のマスター」
「マスター……? この聖杯戦争にもマスターはいるのですね」
おしい。残念ながら聖杯戦争とは無関係だ。聞きかじりでしかないけど。
というか、骸骨兵だのワイバーンだのが大量にいる聖杯戦争とか恐ろしすぎるわ。
話を戻そう。
なんでも彼女は、確かにサーヴァントだし、クラスも理解している。
しかし、本来与えられるべき聖杯戦争の知識が大部分無い、加えてステータスもランクダウン。ルーラーの特権であるサーヴァント用の令呪も、真名看破もできないとか。
こういっちゃなんだが、それもうルーラーじゃなくね?
「聖杯戦争の知識が与えられていない……スラクシャと似たようなものかな?」
「どうでしょう……」
そもそもサーヴァントどころか、英霊になって座以外で自由に行動したことないからわからない。自由って言っても、やることなんて鍛練と石切りくらいだし。あ、賽の河原のごとく石積みはできた。
「先ほど、あの兵士が云っていました。ジャンヌ・ダルクは“竜の魔女”になった、と」
「……私も数時間前に現界したばかりで、詳細は定かではないのですが。どうやら、こちらの世界にはもう一人、ジャンヌ・ダルクがいるようです」
うわ。面倒くさい。
って、サーヴァントって同じ英霊から分霊っていう形で派遣されるんだろ? じゃあ、どっちにしろジャンヌ・ダルクが竜の魔女っておかしい……ん?
いまなんか引っかかったような……まあいいや。
ドクターによると、シャルル七世が死に、オルレアンが占拠されたということはフランス国家の崩壊を意味する。
フランスが人間の自由と平等を謳わなければ、2015年あたりに生きる人間は未だ中世レベルだったかもしれないとか……フランスマジで感謝だな。
と、何にもないところから聞こえてくるドクターの声に驚いたジャンヌ・ダルクに事情を説明する。
やっぱりサーヴァントだからか簡単に信じてくれた。
「私の悩みなど小さなことでした。ですが今の私は――」
「フォウ?」
「サーヴァントとして万全ではなく、自分でさえ“私”を信用できずにいる」
……いや、聖杯戦争に関する知識どころか、それこそスタンダードな英雄でない限り真名聞いてもわからない私よりマシだと思う。
マジでなんで俺だけ聖杯仕事しないの!? ジャンヌ・ダルクは同時に2人召喚、しかももう1人はマジでジャンヌか怪しいっていう状況だから何かしらバグが起こっても仕方ないけど!! 俺は別に異常ないからね!?
……あ。気づかないうちにジャンヌ・ダルクと共闘することになってた。別にいいけど。
さて。ジャンヌと協力することになり問題が発覚。
ルーラーのクラスはサーヴァントの探索機能が付いてくるらしいが、今のジャンヌには通常のサーヴァントと同様、ある程度近づかないと無理だとか。
しかし、もう1人のジャンヌ……通称黒ジャンヌもルーラー。つまりこちらの居場所はすぐにばれると……マジかぁ。奇襲がかけられないのは痛い。
まあ、それはもう仕方ない。明日に備えてマスターは就寝することにした。
「玲さんは眠りましたか?」
「ええ。慣れない野宿でしょうに意外とあっさり」
「お休み3秒とはこのことですね」
すっごい寝つき良いな。
しっかし、このジャンヌの様子……。
「……ジャンヌ・ダルク。まだ私たちに何か言ってないことが?」
「……」
「詮索するつもりはありませんが……。戦いの障害になるのであれば、払拭しておいた方がいいかと思います」
「そう、ですね。わかりました、告白します」
ジャンヌによると、召喚が不完全だったせいか、はたまた本来のジャンヌが数日前に死んだばかりからなのか。
今の彼女はサーヴァントの新人のような感覚らしい。
「新人、ですか」
「はい。英霊の座には過去も未来もない。ですが、今の私にはその記録に触れる力すらもない。故に、サーヴァントとしてふるまう事すら難しい」
生前の、初陣のような気分だという。自分の方が、私たちの足手まといになるのではないかと。
「ジャンヌさん、それなら大丈夫です」
「え……?」
「だってわたしも、初陣みたいなものですから。わたしもジャンヌさんと同じです」
デミサーヴァントの彼女は、英霊としての力をフルには発揮できていないという。
しかし、マシュさんの内側にいる英霊は「それで良い」と言ってくれたと。
「先輩――マスターはこんなわたしを信頼してくれています。……うまく言えませんが、先輩は”強いから”戦ってるんじゃありません」
「あの人は当たり前に、当たり前のことをしているんだと思います」
…………。ああ、そうだ。
当たり前なんだ。万全ならともかく、ボロボロの兄を戦に向かわせるバカがどこにいる。
私/俺は当たり前のことをやっただけだ。
だから例え神々に、父に、弟に、兄に嫌われたのだとしても。
そこに後悔なんて一切ない。当たり前のことを、しただけなんだから。
「ですので、この中で一番戦いに長けているのはスラクシャさんということになります。何かあれば、彼を頼ってくれればいいかと」
「待ってくださいマシュさん。確かに生前戦に出てましたし慣れてはいますが、私もサーヴァントとして戦うのは初めてなんですからね」
勝手に頼らないでくれるかな!?
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