Fate/Grand Mahabharata   作:ましまし

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 これでマハーバーラタは終了です。
 恐らくこのシリーズ最大の捏造、改変がありますので注意してください。
 書いていない話(嫁争奪戦とか)は番外とか幕間の物語的な感じで出そうと思います(多分)。

 5月8日:少し編集しました。カルナが呪われた理由が主人公にあります。


prologue:マハーバーラタ2

 後に「クルクシェートラの戦い」と呼ばれる戦いが本格的に始まる前のことだった。

 此処に至るまでに本当に色々あった。

 

 

 兄が嫁を獲得しに行ったり。

(テストに合格したのに相手が「御者の息子を夫とするつもりはない」と言ったらしい。絶拒)

 

 師であるドローナが奥義を全然授けようとしないから

(俺のミスで兄が呪われて、結局大事な場面で奥義使えなくなった。俺? 庇われてしまったチクショウ)

 

 パーンダヴァ5兄弟が賭けに失敗して身ぐるみどころか嫁さんまで巻き上げられた場面にでくわし、カルナがいつものように足りなさすぎる言葉で誤解を招いたり。

(即座にボディーブロー決めて真意をまくし立てた後にダッシュで逃げた。たぶん意味ない)

 

 

 他にも色々あったけど割愛。もう話すのが面倒臭いというかキツイ。主に俺の精神と胃がヤバい。何なの、俺の兄はどんだけ運が悪いの。

 

 そして俺は今、カルナと関係なく窮地に立たされている。

 

「……………」

「そんな、野生のクマに出会ったみたいな反応しなくても」

 

 安心しろ、野生のクマの方が危険だから。何も安心できなかった。

 

 目の前にいるのは兄の宿敵アルジュナ………の従兄、クリシュナだ。

 一応敵意はない(今のところ)みたいだが、危うく喉をかき切るところだった。避けられたけど。ていうかやればよかった。避けられたけど!

 

「…………態々敵の陣地にまでご苦労様です。それで? 暗殺でもしに来たのですか?」

「すっごい刺々しいね。親戚なんだから仲良くしようよ」

「当たり前でしょう。敵を警戒するのは当然……今何て?」

 

 親戚? え、気のせいだよね、親戚って聞こえたんだけど。誰と誰が?

 

「私と君だよ。勿論、アルジュナもね。むしろ、アルジュナの方が血筋としては近いけど」

「……………………」

 

 前を警戒してたら上から降ってきた、くらいの衝撃はあった。

 予想外とかそういうレベルじゃすまされない激白に驚いて固まっている俺を見て、クリシュナは話し始めた。

 

 カルナと俺、パーンダヴァの王子様達は異父兄弟だという事。

 兄弟同士で戦うなんて無意味だ、パーンダヴァと共に栄光を掴もう、とのことだ。

 

「つまり勧誘ですか」

「そうなるね。君たち……というよりカルナは本来、パーンダヴァの長兄なんだから。戦いはまだ始まっていないんだ。やりなおせるさ」

「何故私のところに? 長兄のカルナに言うべきでは?」

「カルナのところにはクンティーが、君たちの母親が行ってるよ」

 

 ―――母親。

 

「……カルナはおそらく、こう言ってるでしょうね」

 

 ――『あなたが俺を捨てた事に負い目を感じないというのなら、俺も恥じることなく過去を受け入れよう』――

 

「大体こんなことを言ってると思いますよ。……クンティーは、この質問に是と答えられる人間ですか」

「……答えられないだろうね。確かに彼女は身勝手だけど、恥を知らないわけじゃない」

「決まりですね。パーンダヴァにはつきません。クンティーを連れてさっさと帰って下さい」

 

 さっさと帰れという意味を込めて手でしっしと追い払うようなそぶりを見せると、クリシュナは苦笑する。

 

「ひどいねえ。でも、君の言い方だと『カルナが残るから自分も残る』と言ってるように聞こえるけど」

 

 君自身はどうなの? とあざとくも首をかしげながら言うこの親戚に思わず舌打ちが出た。このまま無視したいところだが、目が「答えないと帰らないし、帰さない」と言っている。

 

「それに、さっきから『クンティー』って。自分の母親なのに他人行儀だね」

「……俺は兄のように心が広くないんですよ。今までは名前すら知らなかったので便宜上母と呼んでましたが、俺達を捨てた時点で他人です」

 

 カルナは捨てられたことに対しては特に、恨みとか怒りとかそういう感情は抱いていないだろうが、俺は心が広くない。

 多分、直接会って謝られたとしても許せないくらいには。

 

 いや、現代日本と違って仕方ないことくらいは分かるよ? もし正直に不義を言っていたところで許される確率はかなり低いだろうし。最悪クンティーも兄も俺も殺されてただろうし。

 

 だとしても、理解していても納得はできないんだよなあ。

 

……なんて格好よく言ってるけど実際は「今更遅いんだよばーかばーか!」という男子高校生的な感じだ。言ったら台無しだから言わないけどね。

 

「仮に兄がパーンダヴァについたとしても私は絶対に行きませんよ」

「…………へえ」

 

 …………………………どうしよう。クリシュナすっごく楽しそうな顔してる。なんか選択肢をミスったような予感がする。これ以上下手なことを言わないようにしないと何かが終わる気がする!

 

「とにかく、帰って下さい。万が一誰かに見られでもしたら面倒ですし、そろそろ兄の方だって話は終わるでしょう。ほら、行ってください」

「わかったよ。次に会う時は戦場だね……アルジュナはカルナを殺したがってるし、私は君と戦おうかな」

「(絶対嫌だ)そうですか。どうでもいいですが、アルジュナに期待を掛け過ぎでしょう。戦う前に潰れないよう、少しは息抜きでもさせればどうです」

 

 アイツの事は苦手だけど、見てて可哀想になるくらいに期待を掛けられてるし。褒められるのは嬉しいけど、あんなん息が詰まるだけだろ。

 あれだよな、アイツ優等生タイプ。君ならできるよね~とか勝手に言われて学級委員長まかされて、しかもうまくいっちゃうもんだから益々仕事とかが増えるやつ。俺そんな立派じゃねーよ! って言いたくなる。ソースは前世のクラスメイト。

 

 って、昔の話はどうでもいい。

 

 アルジュナを気にしたのは、(あくまで他人事だが)そういう経緯で俺も期待を掛けられ過ぎる心痛を分かるからだ。主にいがみ合いしかしてないけど、あの堅物な性格だと早々弱音を吐くなんてことはしないだろうことは分かる。

 

 だから先の言葉は若干の同情と兄だってどうせ宿敵と戦うならお互い全力が良いだろうという意味があった。

 

「何を言ってるんだい。アルジュナは素晴らしい戦士だ、潰れやしないさ」

 

 思わず顔が引きつった。マジか、ちょっと本気で同情するわアイツ。

 

「でも、アルジュナのことをよく観察しているんだね。……女の子だったら面白かったのに、ってなんで逃げるの」

「悪寒がしたので。近づかないでください、ってかいい加減に帰れ」

 

 最期の部分が聞き取れなかったけどすっごい寒気がした!! でも聞いたら死亡ルートが確定しそうだから言わない。最後に思わず素が出ちゃったけどこれ位いいよね。だって三回目だし。仏の顔も三度までですよこの野郎。

 

「確かに長居しすぎたようだ。今度こそ帰るよ」

 

 そういって今度こそクリシュナは去って行った……すっごい疲れた……もう二度と来るんじゃねーぞマジで。

 

 その後、兄に会ったけどお互い特に何も言わずに夜を過ごした。

 

 

「俺は母との誓いでアルジュナ以外の兄弟を殺すことはできない。何かあったら頼むぞ」

「どんな誓いしてんですかそこは敵の大将以外を殺さない約束にしてくださいよ!!」

 

 嘘だろマジでこの性格なんとかしないといけないんじゃないの。

 

 

 

 クルクシェートラの戦い。

 あれから兄は何度もアルジュナとぶつかった。俺は御者としてついてったのでクリシュナとやり合う事も何度かあった。超怖かった。

 

 その最終決戦直前のある日。

 

 兄が沐浴をしている間に馬の面倒を見ていると、向こうの方がざわめき始めた。しかも悲鳴まで聞こえてくる。

 そして風に乗って漂ってきたのは……血の匂い。

 

 急いで騒ぎのする方向へ向かった。

 

「すいません、通してください。何があっ……た……」

「どうした、顔色が悪いぞ」

 

 騒ぎの中心にいたのは全身血まみれで、顔色悪いとか人に言えないくらいに全身真っ青(いつもよりひどい。たぶん、貧血)な兄の姿だった。

 

「……っ! 何があったのですか!? まさか暗殺でも仕掛けられて!?」

「落ち着け。これは自分で剥いだだけだ」

「剥いだ!? 剥いだって何を! それより早く手当をしないと!」

 

「落ち着け! 何があったんだ!」

 

 背後からの大声に後ろを振り返るとドゥリーヨダナの姿があった。どうやら彼のところにまで騒ぎが聞こえてしまったらしい。

 ドゥリーヨダナは騒ぎの中心の俺とカルナ――特にカルナを見てさあっと顔を青ざめさせた。

 

「カルナ!? どうしたんだその怪我は!? それに鎧まで……その槍は一体?」

「え? あ」

 

 怪我に気を取られていて気付かなかったが、確かに皮膚と同化しているはずの鎧が無く、手には見た事のない槍が握られている。

 

「インドラからの贈り物だ。鎧の代わりに授かった」

「「は」」

 

 おい待てやこら。インドラってアルジュナの父親じゃん? え、ちょっと意味が分からないんですけど。

 

「カルナ……すまないが、詳しく説明してくれ」

「沐浴をしていたところにインドラ神が来て鎧を譲ってくれと言われたのでな。鎧の対価にこの槍を貰い受けた」

 

 ……流石に、カルナが父の子である証ともいえる鎧をくれと言われて、あっさりあげるとは思えない。だけど兄の性格上、食い下がられると渡すだろう。

 インドラが来た理由はアルジュナだ。不死の鎧を息子のために取り払いたかったって所だ。兄はそれを見抜いたうえで渡したんだろう。

 

 なんで槍をくれたのかは知らんけど……とりあえずさ。

 

「こんの……っバカ!! ああもう、言いたいことがありすぎて何から言っていいかわからん!!」

「……ここまで言葉を乱れさせるお前を見るのは初めて見たな」

「言ってる場合か……場合じゃないです! 説教はあとでしますのでとにかく止血!」

 

 

 

 

 とりあえず体中に包帯を巻いて大人しくさせることにした。

 いまカルナは、枕に体をもたれさせている状態だ。

 

 医師が調合した薬を水に混ぜて飲ませる。

 

「兄上、あなたのその性格は長所でもあります(言葉が足りなさすぎるけど)。でも何でもかんでも施さないでください」

「しかし……」

「貴方の持論は立派ですが、血まみれの兄を見た私の気持ちにもなって見てください!」

 

 よっぽどひどい顔をしていたのか、兄は目を逸らしてすまない……とだけ答えた。

 

「だが、俺は生き方を変えられないだろう」

「しってますよ。兄上は妙な所で頑固ですからね。明日の戦もどうせ出る気でしょう。死にますよ?」

「ああ。それでも、奴とは闘わねば」

「そういうと思いました。止めません」

「そうか……」

 

 そう、止めはしない。止めは。

 

「ですが、少しでも体調を回復せねばあちらも納得しないでしょう」

「? 何を……っ」

 

「大人しく寝ていてください」

 

 ガシャン、と音を立てて湯呑が割れる。

 耐え切れなくなったカルナはそのまま横に倒れる。兄は何かを言おうとしたようだったが、すぐに目を閉じた。

 やっぱり鎧が無い上に弱っていると薬も効きやすいらしい、あんまり知りたくなかった情報だ。

 

 一度報告しようと寝所を出ると、既にドゥリーヨダナが待っていた。

 

「うまくいったのか……。お前だからカルナも油断したんだろう」

「……我儘を聞き入れてもらい、ありがとうございます」

「頼まれたものだ。後は、ここに人が近づかないようにすればいいんだな」

「ええ」

 

 渡されたものを受け取るとドゥリーヨダナはじっと俺を見詰め、溜息をついた。

 

「カルナのことを頑固だのなんだの言っていたが、お前も似たようなものだな……死ぬ気か?」

「まさか。呪いが無い分、兄よりはマシでしょう。そもそも、最初から死ぬ気で戦場に出るものなんていませんよ」

「それもそうだ。では、余り遅くならんように」

「はい」

 

 そう言ってドゥリーヨダナは寝所の前から立ち去った。それを見送り、俺もカルナの寝所の隣に用意されている自分の寝所へ引っ込む。

 

 いつも持っている小刀を取り出した。蝋燭のわずかな光が、刃に反射する。

 

 そして俺は――。

 

 

 

 

 

 血のにおいが漂い砂埃が舞う戦場で、アルジュナは宿敵の姿をとらえた。

 

「カルナ……!」

「いたいた。……? 彼がいない?」

 

 目を向けると、確かにそこに座っているのはカルナの片割れではなく別の姿があった。

 

「彼が居ないなんて、何かあったのか? まあ、邪魔されないのはいいことだ。彼以外じゃ、腕はよくてもカルナと息を合わせることは難しいだろう」

 

 宿敵に瓜二つの赤い男は、アルジュナと戦っているカルナが呪いによって窮地に陥ると絶妙なタイミングで横やりを入れてくる。

 馬に飛び乗って矢を射ってきたときには流石に度肝を抜かれた。

 

 しかし、それはクリシュナの言うようにあの2人が通じ合っていたから出来た事だ。他の者では到底不可能だろう。

 

「これはまたとない機会だよ、アルジュナ。彼がいないのなら、カルナも十全に力を発揮できないだろう」

「……そうですね」

 

 本音を言えば、万全の状態のカルナと雌雄を決したかったが仕方がないだろう。

 ……一瞬、己の闇を見透かされたあの日を思い出す。

 

 

 ―――奴と長く話したのはアレが最初で最後だったな。

 

 自分がカルナを殺したとなれば、あの男は自分の前に現れるだろうか?

 

 そんな考えが頭を過るが、すぐに頭から振り払う。

 雑念は戦場に於いて死につながるのだから。

 

 

 

 

 

 激戦。

 まさにその一言に尽きた。

 

 ともに一歩も引かずに、死力を尽くす姿は神々しく見えた。

 しかし、カルナは数々の呪いに足を取られているのだろう、動きが鈍い。また、攻撃にもどこか迷いがあるように見えた。

 

 ――だが、その時は訪れる。

 

 ガタンッ、とカルナの乗る戦車が大きく揺れ、彼はバランスを崩した。バラモンの牛を誤って殺した際に掛けられた「緊急時のさいに戦車が動かなくなる呪い」だろう。

 

 千載一遇の機会。だが、アルジュナは弓を引くことを躊躇った。

 

 ――相手が動けぬ状態で、こんな謀殺に近い形で殺していいのか――

 

「アルジュナ? どうしたんだ、早く弓をひくんだ」

「だが、」

「忘れたのかい、カルナが我々パーンダヴァに何をしてきたのか」

 

 クリシュナの言葉に押され、アルジュナは矢を放った。

 

 

 ――その瞬間、目が合った。

 

 ……血のように暗く、しかし強い光をたたえる赤い目と。

 

 

「、な」

 

 クリシュナも気付いたのだろう、驚愕に目を見開いている。

 

 ニヤリ、と決してカルナは浮かべないだろう笑みが目に焼き付いた瞬間。

 

 

 

 ――宿敵の弟の首に、放たれた矢が突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 いや、分かってたよ。俺じゃアルジュナに勝てないことくらい。でも結構いい線いってたと思わないか? 

 まさか兄に掛けられたはずの呪いが俺にまで作用するとは思わなかったけど……呪いすら勘違いさせるほど演技が上手かったって事かな? だとしたら死ぬ思いをして鎧を剥いだ甲斐があるってもんだ。

 

 これまでもが神々に仕組まれていた何て言ったら罰当たり覚悟で、全身全霊をかけて逆に呪ってやるけど!! 

 

 寝ている兄には俺の体から引きはがした鎧を装備させているし、起きる頃には傷も癒えてるだろう……大丈夫だよな? まあ、無いよりは遥かにマシだろうけど。

 

 

 ――人間、死ぬ時は周りがスローモーションに見えるってのは本当なんだな。

 

 避けきれないと分かる矢に、そしてその矢を放った本人を見やる。

 

 アルジュナと目が合った。どうやら気が付いたらしい、クリシュナも虚をつかれた顔をしている、やったぜ。

 ……弟、なんだよなあ、あれ。悪いことしたな、姉殺しとか。カルナは自分で殺そうとしてるんだからともかくねえ。クリシュナやクンティーが言わなければオールオッケーなんだけど、後は兄上がうっかりばらさないことを祈る。主に性別を。

 

 アルジュナ自身は悪くないけど、インドラやドローナの行動でかなり煮え湯を飲まされているんだ、これ位いいだろう。

 

 そう思いを込めて、矢が首を貫く直前、ニヤリと決して兄がしないだろう笑みを浮かべた。

 

 

 ――誰かの声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 ――これは、未来を取り戻す物語――

 

 

 

「――サーヴァント、ライダー。大したことはしてませんが、身代わり程度にはなります。よろしくお願いします、マスター。」




三人称難しいですね。


 ちょっとした質問、というかアンケートです。

Q.主人公の名前いりますか?

 一応考えてはいるんですが、何しろインド系の名前って難しいので。最悪「おい」「きみ」「ねえ」などで済ませようかとも考えています。
 「いるんじゃね?」「いや、なくてもいいっしょ」程度の気持ちでいいのでお願いします。


追記です。
アンケートですが、3日後を目安に締め切ります。それまでに多かった方の意見を採用します。
改めてご協力お願いします。

更に追記
すいません、私の不手際でアンケートを感想で取ってはいけないというルールに反してしまいました。
活動報告に改めて設置するので、これからはそちらでお願いします。
ご迷惑をかけて申し訳ありません。


誤字脱字・感想在りましたらお願いします。

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