次回で終わります。絶対に今月以内に投稿します。(戒め)
マスターのもとには既に全員が集結していた。多少傷ついてはいるけど、誰1人欠けることなく勝てたのだ。
これから逃げたジャンヌ・オルタを追跡するのだが……追跡班、つまりマスターにマシュさん、ジャンヌと私のグループに清姫とエリザベートが付いてくることになった。
「(宝具を使われると耳が痛くて……。清姫は敵味方関係なく炎を吐くし……)」
「(両者共に宝具が……)」
「(エリザベートのアレは世界最低の宝具だ、と断言したい)」
男三人衆、心の声がまる聞こえである。その場にいた全員が「あっ……(察し)」といった表情になった。本人たちには伝わって無いようだけど。
……私もそっちがいい。
「コホン。い、行きましょう二人とも!」
なんかしまらないなあ。
城には簡単に入ることが出来た。が、おそらくジャンヌ・オルタがいるだろう場所までが遠い。
っていうかあっちこっち血が飛び散ってるわ、破壊された家具はほったらかしだわですごい有様なんだけど。
「急ぎましょう! 遅れてしまえば、また新たなサーヴァントが召喚されてしまいます!」
もー! なんで古今東西城の造りってこうも面倒くさいかな!? 元現代日本人としてはシンプル・イズ・ザ・ベストでいいと思うんだよね!
「わ、わかってるってば! でもほら、この城ちょっと見所あるっていうか。なんでいうの、趣味が、ほら?」
「「ああ、最悪だ/です!」」
いるよね、女子高生に目玉のキーホルダーとかつけてるやつ!!
立ちふさがる雑魚を薙ぎ払い、一気に駆け抜ける。
その先、立ち塞がったのはさっきジャンヌ・オルタに撤退を進言した男だった。
「――おやおや、お久しぶりですな」
何故邪魔をするのか、何故ジャンヌ・ダルク(オルタ)を殺そうとするのかと激昂するジル・ド・レェにジャンヌは静かに聞いた。
「彼女は本当に、
「……何と、何と何と何と許せぬ暴言! 聖女とて怒りを抱きましょう、聖女とて絶望しましょう!」
彼は言った。あれは紛れもなくジャンヌだと。その闇の側面だと。
……そうだと、彼は信じているのか、望んでいるのか。
さて。ジル・ド・レェが召喚したこの巨大ヒトデ。強さは大したことないが数が多すぎる。まさしく数の暴力。ヴラド三世のように本人も肉弾戦が得意(しかも強い)とかじゃなくてよかった。
しかもワイバーンまで襲ってくる始末。清姫の言うとおり、こんな狭い城内で器用なことである。
が、狭いことに変わりはないのかワイバーンは思うように身動きが出来ずヒトデごと清姫の炎の餌食となった。
私の魔力放出も炎だけどアレには押し負ける気がする。いろんな意味で。
次はジル・ド・レェ本人が襲ってきたが、一対多数の上に相手は筋力や耐久がほぼ紙のキャスター。対してこっちは弱体化(体調不良)しているとはいえジャンヌと私、清姫にエリザベート。それから防御特化のマシュさん。
止めは刺せなかったが、清姫とエリザベートが残ってくれたお蔭で先に進むことができた。
とうとうジャンヌ・オルタとご対面だ。彼女1人しかいないところを見ると、新たなサーヴァントを召喚されずに済んだらしい。
「――“竜の魔女”」
「とうとう、此処まで辿り着いてしまったのですね。ジルは――まだ生きていますが足止めされましたか」
準備は整っていると余裕の表情を見せるジャンヌ・オルタに、ジャンヌは静かに問い掛けた。
「極めて簡単な問い掛けです。貴女は、
「…………………………………え?」
「ジャンヌ……さん?」
予想外で簡単で、何ともない質問。だけど、ジャンヌ・オルタは虚をつかれた顔をして、すぐに狼狽した顔になった。
「戦場の記憶がどれほど強烈であろうとも、私はただの田舎娘としての記憶の方が、遙かに多いのです」
ああ、分かる。
怒号と血の匂い、体に刃が、首に矢が突き刺さったあの瞬間は絶対に忘れられないくらい強烈だ。
それでもカルナと一緒に走り回ったり、共にドゥリーヨダナとバカやったり。「英雄」としてはどうでもいいだろう記憶の方が多くて、大事で。
「忘れられないからこそ――裏切りや憎悪に絶望し、嘆き、憤怒したはず」
「私、は……」
「――記憶が、ないのですね」
……確定だな。
「それが……それが、どうした! 記憶があろうがなかろうが、私がジャンヌ・ダルクである事に変わりはない!!」
「確かにその通りです。貴方の記憶があろうがなかろうが、関係はない。けれど、これで決めました。私は怒りではなく哀れみを以て“竜の魔女”を倒します」
「――サーヴァント!」
ジャンヌ・オルタの呼び声に反応し、現れたのはサーヴァントというには薄く、凶悪な影。
「これは……冬木の街にいたサーヴァント! それもこんなに……!」
「通常のサーヴァントを召喚する程の暇はなかったですが、この程度ならばいくらでも量産できます」
む。つまりこの影もどきはサーヴァントの超劣化版みたいなものか。簡単に召喚できる代わりに本来の力とかは出せない感じか。
「屠れ!」
「マスター、来ます!」
サーヴァント(影)の群れを倒しきった。予想していたよりは弱くて助かった。
「今度こそ決着の刻です。“竜の魔女”――!」
「黙れ! ならば、勝負だ! 絶望が勝つか、希望が勝つか――あるいは殺意が勝つか、哀れみが勝つか。この私を、超えてみせるがいい――ジャンヌ・ダルク!」
「はあっ!」
ジャンヌ・オルタが突きだしてきた槍を避ける。物凄い音を立てて扉が木端微塵に吹っ飛んだ。見た目に反して凄い力だ。武器の鋭さとか重さとか抜きにしても凄い。
「マシュさんは玲さんの傍に居てください! スラクシャさん、手伝って!」
「はい!」
「分かりました」
矢をつがえ、放つ。それと同時に短刀を出して走り出してジャンヌ・オルタに接近する。矢は簡単に落とされ、短刀も黒い旗で受け止められる。
「どうしました? こんな単純な攻撃では私に届きませんよ」
「でしょうね」
「?」
「はっ!」
「……!」
背後からジャンヌが白い旗を振るう。ジャンヌ・オルタ……面倒くさくなってきたから以下オルタ、はギリギリで躱すがその頬に赤い線が走る。
身を翻したオルタを、そのまま追撃し短刀を振り抜く。僅かだが、血飛沫が舞う。神経には達していないだろうが、彼女の腕にそこそこの深さで傷つけることが出来た。
「くっ!」
「チッ!」
「きゃあっ!」
しかし相手もただでやられるわけがない。オルタが大きく薙いだ旗に吹き飛ばされる。
私はすぐに体制を整えるが、3秒にも満たない内に旗を構えなおしたオルタは上に跳び、体勢を崩したままのジャンヌへと振り下ろした。
「――っ!」
「ジャンヌさん!」
咄嗟に二人の間に割り込み、オルタの旗を弓で受け止める。よほど力を込めていたのか足元の床にクレーターが出来た。
全身の骨が軋んだ音が聞こえたような気がしたが、というかむしろ罅が入ったような気もしたが無視する。
「ぐっ……!」
「スラクシャさん!」
「っ、ジャンヌ! 早くどいて!」
「は、はい!」
マスターの指示に慌ててその場からジャンヌさんがどいたのを確認してから旗を振り払い、さらに短刀を突きだす。
オルタは後方に飛びずさってそれを避けた。
すぐに矢を放つが、先のダメージがかなりデカかったらしく、完全に回復できていなかったので上手くコントロールすることができなかった。
しかも、一瞬だけど膝をついてしまった。
「っ、!」
「スラクシャ!?」
「さっき攻撃を受け止めたときに……!」
「大丈夫です、もう回復しました」
立ち上がって油断なく弓を構え、オルタの方を見る。
オルタは余裕そうに、しかし忌々しそうな顔でこちらを、正確に言えば私を見ていた。
「……骨に罅か、関節が壊れるくらいはしていたと思うのですが。厄介な鎧ですね」
「よく言われます。褒め言葉ですね」
「減らず口を!」
オルタが手をあげると、地獄を連想させるほどに禍々しく憎悪を感じさせる火球が彼女のまわりに幾つも浮かぶ。
「貴女の属性は炎。鎧の効果も考えるとこの程度では大したダメージにならないでしょうが」
火球が集合する。バスケットボール程の大きさだったそれが1つに合わさる。軽く人を飲み込むほどの大きさになったそれは、狭い室内とはいえ、それなりに距離を取っているにも関わらずとてつもない熱気を感じた。
「これなら、貴方はともかくその足手纏いな聖女さまやデミ・サーヴァントは無事では済まないでしょう!」
「なっ……!」
マズイ、私の炎で相殺するにしても結局マスター達も巻き込んでしまうし、そもそもアレが直撃したら怪我が治る間もなく燃え尽きる。
「ここは私が!」
「ジャンヌ……!?」
「我が旗よ、我が同胞を守りたまえ! 【
威力だけで言えば先日のファヴニールの攻撃よりはマシだろうが、熱やそこに込められている魔力、なにより憎悪と悪意。
それらを旗一本のみで耐えるジャンヌの姿は、まさに聖女だった。
しかし、サーヴァントとしてかなり弱体化してしまっているジャンヌは既に限界が近いようだった。
「ダメ……この、ままじゃっ……!」
「っ! ジャンヌさん、私も……!」
「ダメです! マシュさんは、玲さんを守って!」
「どうやら盾としても役に立たないようね。さあ、そのまま燃え尽きてしまいなさい!!」
「いいえ、役に立っています」
「!? なに!?」
ハッとこちらに向き直るが遅い。既に放った矢が何本か腕や脚に突き刺さり、振り抜いた短刀がオルタの脇腹を切り裂いた。
「っ、そんなっ! いつの間に……そうか、令呪……!」
オルタがキッとマスターを睨みつける。その視線にマスターは一瞬体を震わせるがすぐに挑発するような(ぶっちゃけ童顔だからそこまで効果はない)笑みを浮かべる。
そう、ジャンヌが私たちを守ってくれていたあの時、マスターに念話で「令呪でジャンヌ・オルタの近くに移動させてくれ」と頼んだのだ。
炎によって視界も悪くなっていたこともあり、気づかれずに成功した。
「……先にそのお綺麗な聖女さまと『犠牲の英雄』から片付けようと思いましたが……気が変わりました。貴方から先に殺してあげましょう!」
「!!」
オルタが地を蹴る。まるで弾丸のような勢いで魔力を纏った彼女が進む先は――
「マスター!!」
「マシュさん! 宝具を!!」
「先輩、私の後ろに! ――【
マシュさんの盾にジャンヌ・オルタがぶつかる。一点集中は相性が悪いのか、火球よりも魔力を込めているのか、騎士王の聖剣すら防いだらしいマシュさんの宝具は不穏な音を立てている。
「くっ……!」
「っ、令呪を以て命ずる! 耐え切れ! マシュ!」
「! はい、マスター! はぁあああああ!」
マシュさんは耐え切った。オルタは盾を破れないことを悟ったらしく、魔力を霧散させて華麗に宙返りをして後方に――
――ニヤリ、と笑った顔が見えた。
「――罠だ! 皆さん、そこから離れて!!」
「えっ……!?」
「これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮!」
くそっ! マシュさんもジャンヌもあのバカみたいに威力の高い攻撃を、宝具を使ってギリギリで持ちこたえたせいですぐには動けない!
「【
頼む、間に合え――!
「
「マスタァアーーッ!!」
――――
「ゲホッ……!」
「スラクシャ!!」
良かった、マスターたちは無事だったらしい。
そう思った途端に全身から力が抜けて、無様にも床に倒れ込む。
全身が火傷と、それから串刺しにされた傷で痛いなんてものではない。致命傷はないようだが、生前でもそうそうなかった大ダメージに回復も追いついていないようだった。防御の方も、余りに凄まじい攻撃にほぼ貫通したようだった。
いや、それでも早いけどね。ただ内臓にもダメージ受けてるし、なにより呪いも喰らったようで、そっちのせいで回復が邪魔されているらしい。
「っはははははは! 予定とは違ったけど、この中で一番厄介な『犠牲の英雄』はこれで暫らく使い物にならない。あとはジャンヌ――貴女と、そこの2人を殺せば終わりです!」
「くうっ!」
「っ! マシュ、頼む!」
「はい! 先輩、スラクシャさんをお願いします!」
大ダメージを受けて動けない私の代わりにマシュさんがジャンヌと一緒にオルタと戦っているが、2人とも宝具を使って消耗しているので押され気味だ。
オルタの攻撃を、業火をマシュさんが防ぐ。その隙にジャンヌがオルタへ突っ込むが躱される。
「このままじゃ……!」
「ぐっ、……マスター……」
熱で喉もやられたらしく、結構痛むが無視してマスターに話しかける。
「スラクシャ!? 喋ったらダメだろ!」
「大丈夫です、それより打開策を思いつきました」
「え……」
マスターには猛反対されたが、このままじゃ全滅だと説き伏せて無理矢理承諾させた。リアル言いくるめ成功である。
震える足を叱咤しながらマシュさんたちの方に向き直ると、オルタの鋭い一撃がジャンヌに当たるところだった。
「! ジャンヌ!」
「マシュ防いで!!」
「はい、くっ!!」
ギリギリで間に合ったらしく、その攻撃は防げたがマシュさんは大きくバランスを崩してしまう。
すかさずオルタが追撃しようとした。
「【
「!?」
部屋が吹っ飛ばないギリギリの威力でブラフマーストラを放つ。まさか私がこんなに早く動けると思ってなかったのか(私もこんな早く動けるようになるとは思わなかった)、まともにそれを喰らったオルタは壁に叩きつけられた。
「くっ……この、死にぞこないが!!」
威力を押さえたとはいえ、かなりダメージがあったはずなのだが怒りがリミッターを外したとかいう奴か、ジャンヌ・オルタは一直線にこちらに向かって突っ込んできた。
「喰らえ!!」
「っ!!」
繰り出された旗を致命傷を避けつつ、でも完全に躱さずに受け止める。脇腹を深く抉られるが、サーヴァントなのでこの程度では死なない。
「がっ、ぁ……!」
「ハァッ、ハッ……くっ、ふふふ。馬鹿ね。余計なことをしなければ、まだ生きられたものを……!」
「は、はは。これで、いい……」
「なんですって?」
「そこですっ!!」
「! しまっ……!」
ジャンヌの旗が、ジャンヌ・オルタを切り裂いた。
2、3、4章飛ばして5章から始めちゃダメかなぁ……(遠い目)
次の話投稿と同時に、活動報告の番外編リクエストでいただいたジューンブライドネタを投稿するので良ければ見てください。
誤字脱字・感想在りましたらお願いします。