Fate/Grand Mahabharata   作:ましまし

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運よくというか、確認するとバックアップに残ってたので投稿し直します。




story:第1特異点 邪竜百年戦争オルレアン4

 放棄された砦でジークフリートの容態を見るが、どうやら呪いの類らしく回復効果のあるマリーさんの宝具でも無理らしい。

 私の鎧なら……いや、呪いは関係なかったな(兄参照)。じゃあ、ダメか。

 

「あ、私の宝具に」

「やめてくれ」

 

 はやっ!?

 

「え? スラクシャ治せるの?」

「いや、治すというか、移すというか」

「移す?」

「頼む、やめてくれ。どのような宝具かは知らないが、君が移すと口に出してから寒気が止まらない」

 

 ええ……。そんな危険なものじゃないのに……。でもまあ、そこまで言うなら仕方がない。

 

「すまない……。君が悪い訳ではないんだ……ただ悪寒が……」

「いえいえ。気にしないでください」

 

 しっかし、この人なんか親近感感じるんだよなー。どっかで見た事があるっていうか、いや無いんだけど、知り合いに似てるっていうか……。でも1人じゃないんだよなー。複数に似てる……?

 んんー? 経歴を知ったらわかると思うんだけど……スッキリしないな。ああもう、ほんと聖杯仕事してくれ。

 

 

 ジークフリートは比較的早く召喚されたらしく、マスターもいないし放浪していたところをリヨンが襲われているのを見つけて助けに行ったと。

 生前とは違うが幻想大剣(バルムンク)もあるので何とかなったが、複数のサーヴァントを一気に相手どるのはさすがに難しかったと。

 

「……ただ、その中の一騎が俺を城に匿ってくれた。傷は治らず、誰かに助けを求める事もできず。ああして、待つしかなかった」

「それは、もしかして竜を操る女性でしたか?」

「竜……? いや、あれは亀……いや竜……竜亀……言われてみれば……なるほど、ああいう竜もありか……」

 

 ほら!! やっぱり亀だよね!! 竜殺しが戸惑うくらいなんだから、やっぱり亀だよねあれ!!

 

「そうだ、雰囲気はルーラー、君に似ていたな」

「聖女マルタ……でしょうね」

 

 なるほど。だからリヨンに行けって言ったんだ。

 

 ジークフリートには複数の呪いが掛かってるようで、ジャンヌ曰く「生きているのが不思議」とのこと。なにそれ……こわ……。誰だよ呪いを、しかも死んでもおかしくないのを複数掛けやがったのは。ふざけんなよ、直接死に至らない呪いでも一つあるだけで戦闘で相当ヤバいんだぞ。それが複数?

 

 呪いを解くには高位のサーヴァントによる洗礼詠唱が必要。ジャンヌならと思ったが、彼女の力だけでは足りないらしくもうひとり聖人が必要だとか。

 

 いや、ジャンヌ・ダルクって世界的に有名な聖人の1人だろ? 幾ら弱ってるとはいえ、そのジャンヌが解けないってどんだけ強いのよ。

 

 それで肝心の聖人だが“竜の魔女”たるジャンヌが聖杯を持っているなら、その反動――抑止力的な何かで聖人が召喚されている可能性はあると。

 

 ただし当てがない。

 ジークフリートにとっては私達が初めて出会うサーヴァントだし、私らは敵のサーヴァント以外はわからない。

 

 結果、手分けしてフランス……と言っても半分以下を巡る事になった。

 マリーさんの希望でチーム分けはくじ引きで決まった。私はジャンヌとマリーさんと一緒に行くことになった。

 

 

「ジークフリート。気を付けてくださいね。貴方があのデカブ……失礼。邪竜を倒すカギなんですからね。あと兄について聞きたいことが幾つか」

「ああ。俺も、君とは話してみ……!」

「え、なんですか!?」

「いや、また寒気が……」

 

 なにそれこわい。

 

 

 

 

 

 

 

 しっかし、深い話だったなあアマデウスとマリーさんの会話。

 「愛されたから、憎まれた」ね。ふっつーに聞いたらヤンデレのそれだよね。しかもそれであんなにポジティブに考えられるマリーさんがすごい。「フランスに恋された女!」って……。

 

 

 逆に言えば、憎まれてたってことは愛されてたってことか?

 

 じゃあ、奪われ続けてたカルナは、与え続けられていたのか?

 

 ……いや、流石に無理矢理すぎるか。

 駄目だ。軽く考えてただけなのにドツボに嵌りかけてる。やめやめ。

 

 

「ジャンヌ、スラクシャも。怖い顔をしてますわよ?」

「え……こ、怖いですか!?」

「本当ですか」

 

 顔に手を当ててみるがいつも通りに感じる。

 

「うふふ、怖いっていうか……難しい?」

「はぁ……。そう、ですね。少し考え事をしていたもので」

「それは“竜の魔女”について?」

 

 黒いジャンヌの話題が出た事に顔をあげる。

 

 ジャンヌは神の啓示を受けて走り出し、振り返ることなく進み、英霊となり、ルーラーとして召喚された。そのことを当然のことと受け止めている。

 

 “竜の魔女”の言葉には何一つ、身に覚えがないと。

 

「あの“私”は、一体……誰なのでしょう」

「――うん、やっぱりジャンヌは綺麗よね。すごく、すごく、すごく――美しいわ」

「か、からかわないでください」

 

 いや、その王妃様の言葉は全部本心だぞ。短い付き合いだけど分かる。

 

「いいえ、真実よ。だってもし、わたしがジャンヌの立場だったら――“竜の魔女”の話を、多分受け入れているもの」

「……マリー?」

 

 マリー・アントワネットは自分を処刑した民を憎んではいない。それは9割の確証を持って言える事。

 だが残り1割、ほんの小さなものだが。

 

 彼女は、自分の子供を殺した人たちを――少しだけ、憎んでいる。

 

 

「…………」

 

 少し、彼女の子供が羨ましいと思った。

 

 

 

「――……シャ? スラクシャ?」

「! はい、なんでしょうか」

 

 いけない、いけない。ついぼーっとしてしまった。

 

「そろそろ連絡しないといけないんじゃないかしら?」

「ああ、すいません。今連絡を取ります」

 

 

 

 

 

 

 

 街についたころ、こちらにサーヴァントが向かったという連絡がマシュから来て、ほぼ同じく、おそらくそのサーヴァント――聖ゲオルギウスとコンタクトを取れた。

 

「そちらで止まって下さい。何者ですか?」

「わたしはサーヴァント、クラスはライダー。真名をマリー・アントワネットと申します」

「同じくライダー。真名はスラクシャです」

「……なるほど、狂化されてはいないようですね」

 

 よかったー、まともなサーヴァントだ。まともっていうか常識のあるサーヴァントっぽい。マシュとジャンヌ以外に初めて常識のあるサーヴァントを見た気がする。

 

 ジークフリートの呪いのことを説明するとゲオルギウスは街の人々を完全に避難させてから出発すると言ってくれた。

 

 

 

 

 ! ワイバーンの鳴き声……いや、違う!

 

「ワイバーンの襲撃か? ここのところ激しいですね」

「違います! この気配は……」

「この感覚は……“竜の魔女”……!」

 

 くっそ! このタイミングで来るか普通、いや、このタイミングだからか! ええい、別に幸運が低いってわけでもないのに!!

 

「撤退しましょう、ゲオルギウス! 今の我々では歯が立ちません!」

「……そういう訳にもいきません」

 

 そう、市民の避難がまだだ。

 残れば死ぬと分かっているのに、市長から守護を任されたと言って譲る気配は全くないゲオルギウス。

 

 ああもう! 聖人とか、なんか、信念もってるやつってみんなこうなの!?

 

「ゲオルギウスさまったら、頭も体も、そしておひげも堅い殿方ですのね」

「なんですと?」

 

 おいおい。いきなり何を言い出すんだマリーさん。

 

「でも、そんなところがたいへんキュートです。わたし、感動してしまったみたい。ですので――どうか、その役目をわたしにお譲りくださいな」

 

 ――は?

 

「え……?」

 

 ちょ、ちょ、おい待て。待てって。今なんて言った? 譲る?

 つまり……ここに残る?

 

 ジャンヌも血相を変えてマリーさんを止めるが、彼女は言う。自分はこのために召喚されたと。

 その目を見る限り、決意を変える気はないことがわかる。

 

「あ、でもアマデウスには謝っておいてくださいね。ピアノ、やっぱり聴けなかったって」

 

 ……待っていると、すぐに追いつくという敵わないだろう約束を交わし、私達は街を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん。やっぱむり。

 

「…………すいませんジャンヌ! 先に行ってください!! 絶対に来ないでくださいね!!」

「え、スラクシャ!?」

 

 あははー、きこえませーん。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――宝具展開。【愛すべき輝きは永遠に(クリスタル・パレス)】!!」

 

 

 マリー・アントワネットは宝具を展開させるが、邪竜の攻撃を防ぐのは不可能だろうと分かっていた。

 それでも、わずかでも時間を稼ぐために全力を注ぐ。

 

「……さよなら、ジャンヌ。ええ、会えて良かったわ」

 

 

 

 

「そのまま宝具を発動させていてくださいっ!!」

 

 

 

「――えっ!?」

「なにっ!?」

 

 魔力放出も利用しながら全力ダッシュでマリーさんの正面に回り、抱き込む。文句も平手もあとできっちり受けることにしよう。

 

 そしてファヴニールの攻撃が直撃した。

 

「ぐっ……あ゛あああああ!!」

「スラクシャ!?」

 

 ――――――!!!

 

 生前でも早々味わうことなかった衝撃と痛みを体全体に受ける。皮膚が焼け爛れるそばから修復していく。

 

 鎧効果で治るから余計に辛い! あ、でも鎧を皮膚から剥したときよりはマシかも。そう考えたら余裕出てきた。

 ちょっと父上本気出し過ぎじゃないですか? よかったのか、強請られたとはいえこんなの赤ん坊2人に渡して! いや、おかげで色んなところでむちゃくちゃ助けられているから良いんだけどさ!

 

 邪竜の攻撃が止まり、思わず膝をついてしまった。

 

「い゛っ……つぅ……」

「スラクシャ! どうして戻ってきたの!?」

 

 どうしてって、

 

「仲間を、みすみす死なせられますか……。少なくとも、私が生きている内は、絶対に死なせない……!」

 

 目の前で死なれるくらいなら、私/俺が代わりになってやる。

 

 

 それが私/俺の生き方だから……!!

 

 

「わざわざ死にに来るなんて……ファヴニール!」

 

 ジャンヌがファヴニールに指示をだし、邪竜がまた攻撃の準備を始める。

 

「……っ!」

「マリーさん後ろに! 絶対に離れないでください!」

 

 弓を呼び出し、構え、矢をつがえる。

 

 ――大丈夫。使える魔力をギリギリまで込めての攻撃だ。

 

 

「死になさい!!」

「【梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)】ッ!!」

 

 邪竜の攻撃とブラフマーストラがぶつかり合う。

 

 周囲をなるべく破壊しないように威力を出来る限り抑えているので対国宝具本来の力には届かない、それでも込めれる分の魔力は全力で込めたその矢は――

 

 

 ――ファヴニールの翼を貫いた。

 

「な、に……っ!?」

 

 

 チャンス!!

 

「失礼っ!」

「きゃあっ!」

 

 マリーさんを横抱きにして待機させてた【英雄よ、手綱を取れ(ラードヘーヤ)】……の馬に飛び乗って一気に走らせる。

 私の宝具であるこの馬も魔力放出で加速させる事もできるので、少人数の時は魔力の消費を抑えるためにこいつだけを召喚する。

 

「しっかり捕まってください!」

「でも……!」

「ファヴニールの治療ともなればそれなりに魔力も時間も使うはずです! 今のうちに引き離します!!」

 

 それまではずっとこの体勢(横抱き)なわけだが我慢してほしい。

 

「……ありがとう。でも、女の子が無茶してはダメよ。体に傷が残ったらいけないもの」

「ご忠告感し……いま、なんて」

「ふふっ。大丈夫よ、誰にも言わないわ。アマデウスももしかしたら気付いてるかもしれないけど、口止めしておきます」

「……お願いします」

 

 危うく落馬するところだった。

 

 

 

 

 

 

 

 そういえば通信機を持っていたことを思い出してドクターに連絡を取ったら死ぬほど驚かれた。間違いなく私らは助からないと思ったらしい。そりゃそうか、私も大怪我くらいすると……あ、いや。鎧が無かったら死んでた。

 

 ドクターにマスターたちの現在位置を教えてもらい、なんとか合流したまでは良かった。

 

 が、さすがにファヴニールの攻撃が直撃したのは痛かったらしい。マリーを下した途端に気絶してしまった。

 

 

 原因は多分魔力不足。街を破壊しないようにしたとはいえギリギリまで魔力を込めてのブラフマーストラ。

 加えて馬だけとはいえ魔力放出を使って加速しながらの全力疾走。

 

 その前には邪竜の攻撃が直撃。大事なことなので2回言った。

 改めて良く死ななかったと思う。

 

 ただ本当に体が鈍ってる。時間に換算して数千年戦ってない訳だから仕方ないのか? いや、英霊なんだからその辺どうなんだろ。

 というかなんか体が重いんだよな。重いというかキツイというか。こう、無理やり枠におしこめられてる感じがして思うように体を動かせないっていうか。

 

 

 まあとにかく倒れてしまったわけですが。

 目を覚ました時にはもう夜だったのはさすがに情けなかった。しかもマスターや、特にジャンヌにめっちゃ心配されたもんだから心が痛かった。

 

 そういえば気絶する直前に悲鳴を聞いたような気がする。

 

 

「申し訳ありませんマスター、ジャンヌ」

「いやいや。マリーさんから聞いたよ、すっごい頑張ってくれたじゃん」

「そうです! むしろもっと休まないと」

「そういうわけにはいきません! この程度で倒れるなんて兄に顔向けできない……」

「インドの英雄ってどうなってるの?」

 

 それは私も聞きたい。

 

「しかしあのファヴニールの攻撃が直撃してもほぼ無傷、その上傷を負わせるとは……」

「無傷というよりは怪我をした傍から修復した、が正しいですね。それに文字通り一矢報いたとはいえ翼のみ。おそらく回復されてるでしょうし」

 

 せめて胴をやれたら良かったんだろうけど……。

 

「……すまなかった。」

「? なにがですか?」

「いや、君には大分迷惑をかけてしまったからな……」

 

 ああ、そういうこと。

 

「別に迷惑ではありませんよ。それに、こういう時はすまないではなく、ありがとうです」

「すま、いや……ありがとう」

「はい」

 

 マスター。その微笑ましいものを見る目をやめなさい。

 

 

 

 

「それよりマスター」

「ん?」

「そちらのお二方は?」

 

 目線の先にはゴスロリっぽい服を着て角と尻尾の生えた少女、もう1人は白が基調の清楚な着物の少女。こっちも角が生えてる。

 さっきからきゃんきゃんと言い争いをしている。犬猿の仲という奴か? いやどっちかっていうと腐れ縁的な距離感か。

 

「エリザベートと清姫だよ。聖人探しの時に会ったんだ」

「なるほど」

 

 ……エリザベートって、たしかヴラド公がカーミラに言ってたような……英霊って過去の姿で、しかも同一人物が同時に召喚されることもあるのか?

 

「何を考えているかは分からないが、君はもう寝た方が良い」

「え、あの、さっき起きたばかりなんですが」

「でも、スラクシャ今日だけですっごい宝具使ってるよね……魔力大丈夫?」

「ぐっ……」

 

 反論できない。カルデアから供給があるとはいっても、元々バカみたいに力を使うのだ私は。計算したとはいえ今日だけで……3? 3回も宝具を使ってるのか。

 

「うぅ、わかりました……あ。それではジークフリート」

「?」

「兄に会ったことがあるのでしょう? どういうふうに戦ったのか、寝物語代わりに聞かせてください」

「俺が実際に彼と会ったのはほんの僅かだぞ?」

「構いません!」

 

 生前はずーっと、それこそ戦場にもついて回ってたので何気にすっごい楽しみだったのだ。

 

「あ、俺も聞いてみたい」

「そ、そうか。では……あれは――」

 

 話は確かに短かったが、第三者から聞いた兄の話はスっごく面白かった。

 ただ出会った理由に頭が痛くなった。こう言っちゃあなんだが、この時代に召喚されたジャンヌがその時の記憶を持っていなくて良かった……もしあったら土下座だな。

 

 というかあのカルナと数時間も戦ってしかも生還って……ジークフリートがこちら側でよかった。

 

 いやマジで。


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