5月10日 雨
今日、私は雨の中、とびきりの美少女と出会った。
海のような青のふわふわの髪と
フランス人形のような、自分とは全くの別次元の存在なのではないかと疑ってしまうほどに端正な顔をしていて
いや、そこはあまり問題ではないのかな。
問題なのは、この子に夜刀神さんやあの子と同じようなナニカがあることであって。
そのことに気がついてしまった私は、知らず知らずの内に少女に接近しまっていた。焦りながらどうしようか考えていると、少女がパペットの口をパクパクと動かしながら、腹話術のように甲高い声を発しながら話しかけるものだから驚いてしまった。
あ、そうそう。こんなゴミ虫以下の存在である私がこんなに近づいてしまうと可哀想だから、急いで一定の距離をとっておいたら、パペットに体を揺らしながら笑われてしまった。
たまにノイズがかっているように言っている言葉が聞こえなかったが、そこは無視して少女、というかパペットと話をしてみたら、こんなことが分かった。
・少女の名前は四糸乃
・パペットの名前がよしのん
・よしのんは四糸乃を守る為に存在する?
・四糸乃は精神的に弱いので、いつもはよしのんにどんな行動をするか任せている
・この世界に来ると、びゅんびゅん飛んでいる人たちに攻撃される(しかし四糸乃には傷1つつくことはない)
・要約するとこの少女は別次元から来た存在らしい
纏めてみてなお頭が痛い。つまりどういうことなんだろう。四糸乃ちゃんは人じゃないんだよね?
ビームとかで攻撃されても傷ひとつつかないって可笑しいし、この世界に来るって言葉もこの世界以外があるってことを暗示しているのだし。
四糸乃ちゃん可愛いなー別次元の存在みたいだなーとは思ったけど、本当にそうだとは思わなかった。 混乱するけど、多分本当のことだろうし受け入れよう。そうだとすると、夜刀神さんに謎の攻撃が向かっていた理由も分かるし。
だとすると鳶一さんは夜刀神さんや四糸乃ちゃんの敵対組織に所属しているのだろうか?
だとしたら、いつも2人が喧嘩している理由も納得だな。ただ五河君を取り合っているだけなのかと思っていたけどそういう訳ではなさそうだ。
新しい情報はこんなものかな?
そこまで聞いたあとで、これ以上雨に濡れちゃうと風邪引くかもしれないから、四糸乃ちゃんを自分の家に招待し、体が冷えないようにホットミルクと、家にあったお菓子を四糸乃ちゃんにあげたら小さな声ではあるけど、幸せそうな顔で美味しいと言ってくれた。
自分が作った訳でもないし、自分が作った物を食べさせる訳には行かないから買ってきたお菓子をあげたけど、幸せそうな顔が見られて満足である。
それで、次は何しようなんかと考えていたら四糸乃ちゃんは部屋からいなくなってしまった。
四糸乃ちゃんはこの世界と他の世界を行き来できると言っていたから別にそのことは不思議ではないのだけど、それは何でなのかと考えた結果、彼女は私が嫌でいなくなったのだろうと言うことに気が付いた。
まあ私のような存在が好かれる訳がないと思っていたけど、なんかちょっと悲しいな。
5月11日 晴れのち雨
今日は学校で料理実習があった。
作ったものはクッキーで、結構上手く作れたかなと思って五河君にあげようとして、やめた。
私が作ったものなんて食べたら五河君は深刻な病気にかかってしまうというのもあるのだが、鳶一さんと夜刀神さん、どちらのクッキーを五河君に食べてもらうかという内容で喧嘩しているのを横目に五河君に私のクッキーを渡すなんてことをしたら、夜刀神さんは分からないが、鳶一さんには殺されそうだからだ。
流石にそんな危険を犯してまで食べて貰いたい出来ではないし、理由もない。
5月12日 曇りのち雨
朝。殿町君がグラビア雑誌を広げて、この中でどの服がいいかということを五河君に聞いていた。
それに対して五河君はメイド服と答えた。
メイド服、今度取り寄せようかな?
いやまあ私みたいなやつが来ても宝の持ち腐れというやつだろうとは思うけどもただ取り寄せるだけ、そうただ取り寄せるだけ!
その後、教室に入ってきた夜刀神さんが五河君とこそこそと話をしていて、その内容が聞こえていたらしい数名の生徒に対して夜刀神さんが、『違うんだからな!私とシドーは一緒に暮らしてなんていないんだからなっ!』となんか凄い怪しいことを言い始めた。
……そんなことを言ったら一緒に暮らしていると言っているも同然ではないか。
そう思いながら事の顛末を見守っていると、五河君が焦ったような声で、夜刀神さんと今朝たまたま会ったという旨の話をした。
……いやいや、クラスの皆さんはそれで納得したようだけど私は納得出来ない。
可笑しい、明らかに怪しいし。
そんな風に不満を持ちながらに授業を終えて昼休みになって昼ご飯を齧っていると、いつものように夜刀神さんと鳶一さんが五河君の机に自分たちの机をくっつけていた。
いいなー私もその中に入りたいなーなどとは思っていても入ることはない。
だってあんなにも眩しい美少女たちに混ざるなんて無理だし、昨日も日記に書いた通り鳶一さんに殺されそう。殺すまでは行かないかもしれないが、陰湿なナニカはされるかもしれない。
ここまで書いたあと、何故か胸がちくりと痛んだ。なんなのだろう。何で痛むのかはよく分からない。だけどもうやめにする。
そう、それで話の続きなんだけど、鳶一さんが夜刀神さんと五河君の食べている弁当の中身が全く一緒だったことに気がついて、鳶一さんがそのことについて理由を聞くと、五河君は慌てたように答えを返すのだが、鳶一さんによってだんだんと追い詰められる中、突然空間震警報が鳴ったのでその話は中断された。
しかし夜刀神さんと五河君が同棲しているということは私の中で確定している。
だけど気になるから五河君の家に突撃しようかと、やっぱり無理だな。
前の日記にも書いたけど、五河家の皆さんが困ってしまう。
とは言っても五河君のお母さんとお父さんは家にいないから、五河家とは言っても実質、琴里ちゃんと五河君だけなんだけど、それでも私には無理だ。
今日も空間震が起こり、シェルターに移動したのだが、五河君の姿が見当たらず、夜刀神さんと鳶一さんの姿も見当たらなかった。
三人共どこへ行ったのだろうか。
5月13日 雨
今日は土曜なので学校が休みである。
そして部活にも入っていない私は、することがなくて自分の部屋でグダっていたのだが、いつまでもこうしているのは良くないと感じて家を出た。
時刻は11時くらいだっただろうか?
商店街に向かう途中で、気になる二人を発見した。
五河君と四糸乃ちゃんである。
……何でこの二人が一緒にいるのか分からなかったのだが、この前知り合ったらしい。
五河君も私と四糸乃ちゃんが知り合いだったことに驚いたようだが、私の方が驚いていると思う。
だって夜刀神さんだけでなく、四糸乃ちゃんまで知り合いって、何か意図的なものを感じるというか……
まあそうはいっても偶然だろうから、態度には出していないけども。
何でも二人はよしのんを探していたらしい。
言われてみると、四糸乃ちゃんの左手についていたパペットがなくなっている。
それで、私も協力したいと言って失くしたと思われる場所を探したのだが、見つけることが出来ずに昼になって、五河君の家でお昼ご飯を食べた。
五河君の家で!!五河君の作った親子丼を!!食べた!!!
そのことが嬉しすぎて私の中のキャパシティーが超えた音がしたが、気にしたら負けだろう。
何で五河君はこんなにも料理が得意なのだろう。
美味しすぎて涙が出た。
誰かが作ったものを食べたのも久しぶりだから、そういったものを相まって涙が出てしまったのかも知れない。決して私が涙もろいからではない。
しかし泣いてしまったことで自分のゲロ豚のような顔が更に酷くなり、顔面崩壊してしまっているかもしれないので、洗面所を貸してもらって顔を洗い、気持ちを落ち着かせてからリビングに戻ったら、動きが完全に固まっている夜刀神さんに遭遇した。その夜刀神さんの目の映る方を見たら、キスしてしまうのではないかと思えるくらいに顔を近づけている五河君と四糸乃ちゃんの姿があった。
顔がちょっと近くにあるだけ。そうそれだけのことだ。別に2人はそういう関係ではなさそうだし、いや何か不安になってきた。それにやっぱり夜刀神さん五河君の家に住んでいるんじゃんなどと言うその時の私の心情はともかく、固まっていた夜刀神さんが泣きそうな顔で五河君と四糸乃ちゃんのそばを走り抜けて、上の階の自室と思われる所に入ったようだ。
夜刀神さんが乱暴に扉を閉める音を聞いた瞬間、私は息を吐いた。
何か修羅場見ていたみたいで怖かった。周りを見渡したら、また四糸乃ちゃんがいなくなっていた。大方、夜刀神の身にまとうオーラが凄いヤバイことになっていたからだろう。私だって失神しそうになっていたのだから、四糸乃ちゃんが家から逃げ出したとしても不思議ではない。
まあ私のことが嫌で、逃げたいというのもあったかも知れないけど、あれ、もしかして全部私のせいなのじゃないか。私が一緒によしのん探すと言ったばかりに、こうなったんじゃないかな。何かそんな気がしてきた、
あと五河君によしのんのことを聞かれたので、この前聞いた話を自分なりに整理して話したら、驚かれた。
よしのんは四糸乃ちゃんの
その話をした後、長居をするのも良くないと感じた私は昼ご飯のお礼をして家に帰った。
私が、五河君に昼ご飯のお礼をした後、休みの日はいつでも俺の家に来てもいいから、という様なことを言われた。
私みたいな奴が五河君の家に遊びに来ても良いのだろうか?
嘘じゃないのだろうか?
……嬉しすぎて、幸せすぎて、この後にとてつもなく嫌なことが起こってしまうのではないかと不安だ。
5月14日 晴れ
朝に寝ぼけてパジャマで五河君の家に行ってしまった。すぐにそのことに気がついて家に戻って私服に着替えたのだが。
家で、恥ずかしいことしたと思いながらベッドでバタバタしていたら、呼び鈴が鳴ったので玄関に行くとそこには五河君が立っていた。
だっていきなりゴミ屑が家に来て、しかも何も言わずに帰りやがったんだ。彼が来るのも当然だ。だから謝罪をしたのだが、五河君は全然構わないと言ってくれた。
……流石五河君。天使よりも寛容な心を持っている。
そして何か言いたそうな顔をしている五河君をずっと立たせるのも悪いかと思って、家に招き入れた。
今気がついたけど、私、五河君を家に上がらせたんだな。自然にあげちゃってたから、気づかなかった。
今更だけどちゃんと掃除をしておいて良かったな。
花は捨て忘れちゃってて、少し恥ずかしかったけど。まあ大丈夫、五河君はきっとそんなに気にしないだろうし!
家に五河君を入れた後、居間の椅子に座ってもらい、机に冷たいお茶を出して、話を聞いた。
内容はこんな感じだった。
・昨日、よしのんを一緒に探したお礼
・夜刀神さんと五河君が同棲していることは、クラスの人には内緒にしていて欲しいこと
・四糸乃ちゃんのこと
1つ目のことは、別にお礼も何も五河君が親子丼を作ってくれたからお礼を言われるどころか、私の方からもっとお礼を言わないとって思ってたんだけどな。
そう思い、家の中に何があるか探していたのだが、叔父さんが家に置いてったクッキーしかなかったので、とりあえずそれを渡したのだが、受け取れないと言われてしまった。 しかしごり押しすると、根負けした五河君が受け取ってくれた。
そして2つ目のことだが、話を聞くと、どうやら特別な事情があって夜刀神さんは五河君の家にいるらしいけど、そのうちちゃんと別の所にいくらしい。
だから、それまでの間、秘密にしていて欲しいということらしい。
まあ別になんの問題もない。それに私が五河君の嫌がることをするわけにはいかない。絶対にそんなことしちゃいけない。
まあ特別な事情って言うのは気になるけど、それも聞いたらいけないことなんだろうし。
3つ目のことだけど四糸乃と仲良くして欲しい、ということらしい。
勿論、こちらから仲良くしたい。最初は興味本位で近づいてしまったが、あんなにも優しい子には出会ったことがなかった。
だから仲良くしたいと思うけど、向こうから嫌われているだろうからと呟くと、五河君からそれはないと力強く言われてしまった。
五河君にそう言われると、そんな気がしてくる。
四糸乃ちゃんが私と仲良く出来るかもしれないということが嬉しかった。
大切な話はここまでだったらしいのだが、そこから先は2人で話をしていた。
別になんてこともない話だったのだが、だからそれ故に五河君の大切な時間を奪ってしまっていて大丈夫なのかと不安を隠し切れない。
その私の様子が分かったのか、五河君はそろそろ帰ると言った。
帰り際に、鳶一と十香とも仲良くしてやって欲しいと言われたが、私はその頼みには苦笑いしか返せなかった。
夜刀神さんはともかくとして、鳶一さんとは正直仲良くなれる気がしない。
……だけど、五河君に言われたんだし、努力くらいはしようかな。
5月15日 曇り
昨日五河君に言われたことを実践しようと思い、早めに学校に来た。
とりあえず飴玉はたくさん持ってきたし、きな粉パンもパン屋でたくさん買ってきた。
あと、惜しくはあるが、何故か家にあった小さな頃の五河君の写真も何枚か持ってきた。
これで、二人を待つのみである。
そう思って一番乗りの教室に入り、自席に座って扉を見ていたら鳶一さんが入ってきた。
予想通りである。あとは、ちゃんと彼女と話すことが出来るかどうがが問題になってくる。
そう思い、彼女に話しかけたのだが返事が帰ってこなかった。
……私の硝子の心が割れそうになったが、めげずに話しかけて、大切な話があると言ったら屋上の前に連れて来られた。
そして凄い物を見つけたと言ってあの写真を見せると、凄い勢いで食いついてきた。
その姿は、まるで腹ぺこのライオンが餌をみつけたときのようだった。
その様子に驚きながらあげるといったら、何が目的?と言われた。別に目的も何も無かったからそんなもの無いと言ったら、それでは私の気が済まないから今日の帰りに私の家に来てと言われた。
そして先に教室へ戻ろうとする鳶一さんに並んで教室に入ると、一瞬で静まり返った後、教室内がざわざわと煩くなった。
まあ私のようなやつと鳶一さんのような完璧美少女が並んで歩いていたのだから当たり前のことかもしれない。
そんな騒ぎの中、ものともせずに自席で本を読み始めた鳶一さんは流石だと思う。
正直彼女のことは苦手だが……仲良くなれるのだろうか?
疑問である。
あと昼は夜刀神さんにきな粉パンを大量プレゼントした。喜んでくれたのは嬉しかったが、何か違うような気がする。まあいいか。
帰りのホームルームが終わった後に、鳶一さんと下校するために並んで歩いていたらまたざわざわとされた。
鳶一さんの家に着いたら、お茶をご馳走になった。
そしてお礼は何が良いかなどという話をして、特に思いつかなかった私は、鳶一さんの部屋がどんなものなのか興味があったため、見せてもらうことにしたら、よしのんを見つけた。まごうことなきよしのんである。
話を聞くと、道端で拾ったらしい。
そこでそのパペットをくれないか?代わりに似たようなものを作るからと言ったら、それがお礼でいいなら、と言われた。
つい嬉しくなって、口元が緩むのを感じながらお礼を告げた。パペットか……縫い物は得意な方だけど、パペットなんて作ったことないのにちゃんと作れるだろうか?
いや作るって言ったんだ。ちゃんと言葉には責任を持たないと。
とりあえず本読んで、何体か作ってから鳶一さんにあげるものを作ろう。
そんなことを思いながら、家に帰った。
荷物は家に置いておいて、忘れない内にパペットを見つけたことを五河君に報告しに五河家に向かい、呼び鈴を押すと、すぐに五河君が出てきた。
そして、私が上機嫌なことに気がついたのか、そのことを質問してきた五河君に対して、私はパペットを見せた。すると五河君はめっちゃ驚いて、嬉しそうに私の髪をわしゃわしゃとしてくれた。
パペットは五河君に渡した。
四糸乃ちゃんだって私に渡されるよりも、五河君に渡された方が嬉しいだろうしね。
そして私は五河君にお別れを言い、家に帰って、直ぐにネットで良さそうなパペットの作り方の本を買った。
布なんかは自分で見て買いたいので、明日の帰りに近くのお店で買おうと思う。とりあえず今日は勉強して寝る。そして明日から頑張る。
5月16日 晴れ
放課後になった後、私はとりあえず布と刺繍糸と綿を買いに行った。糸や布の色は自分の中で決めていたので問題ない。
そして家に帰って本が届くのを待ち、届いた後は早速作業に取り掛かった。
そして時間がすぎ、出来たのは熊のパペットである。……何か違うような気がしてもう一個作るとさっきのものに比べて、良い出来のものが作れた。
しかしこれはあくまで練習。
この熊のパペットは自分のものにして、鳶一さんに送るパペットを作る作業に取り掛かろうと……したが、気がついたらかなりの時間が経ってしまったようなので、続きの作業は明日やろうと思う。
5月17日 雨のち晴れ
今日も今日とてパペット作りだ。
しかし今日は、鳶一さんに贈るパペット作り。昨日以上に気を入れて作りたいと思う。
そして何個か作ったが、贈り物なんだからもっと丁寧に作らないとと思って、また作る。
そして暫くの時間が経った頃、空間震警報がなった。
けど、無視をしてしまった。ちょうど良い所だったから、キリが良い所まで行きたいと思っていると逃げるタイミングを逃してしまったのだ。これなら、下手に外に出るよりも家に籠もっていた方が安心だろうと思っていたのだが、何分か経った後に冷気を感じたから、狐の面を被り服を着替えて家を出ると、外は銀世界になっていた。
……今は5月だから、そんな馬鹿なことあるもんかなどと思いながらも、現実にはそんな馬鹿なことが起きてしまっている。
なんだろう?空間震ってこんな風に地面が氷漬けになったりすることを指すのだろうか、なんてことを考えながら歩き出すと、大きな物音が聞こえてきたので、その音が聞こえる方に走っていくと、大きなウサギのようなものに乗った四糸乃ちゃんと、鳶一さんや他の人たちがドンパチやっている光景を目にした。
……想像はしていたが、実際にみてみるとキツイものがある。
四糸乃ちゃんはとても辛そうな顔をして鳶一さんたちの攻撃から逃げまわっていた。その左手にはよしのんはいない。
あの後、五河君と会えなかったのか……いや、それは問題ではないか。
頭を振り、その考えを振り落とす。
それよりも問題なのは、どうやってこの状況から彼女を救い出すことが出来るかと言うことで──
そんなことを考えていたら、信じられない光景が目に入った。
五河君、五河君が四糸乃ちゃんに向かって走っていたのだ。
何故彼がそこにいたのだろう。彼は空間震の時はシェルターにいるはずで。
そこまで考えた後、この前どれだけ探しても五河君を見つけることが出来なかったことを思い出した。
もしかして、彼は空間震の度に外に出ているのか?
ありえない話ではないのかもしれない。
彼は四糸乃ちゃんにパペットを手渡そうとしていた。
しかし、その話を遮るかのように女の人の声がし、五河君に四糸乃ちゃんから離れるように伝えていた。
彼は四糸乃ちゃんのように理不尽な攻撃を受ける訳ではないらしい。
だったら何故、彼はこんなところにいるのか?
不思議でならなかったが、そうこうしている間にも四糸乃ちゃんは、氷の攻撃を繰り出した。
そして、その攻撃は五河君にも向けられていて、彼は立ちすくんで目を瞑っていた。
だから、私はあの時のように五河君を安全圏へ運ぼうとしたのだが、突如大きな玉座のようなものが五河君の前に守るように現れたことによって、それは中断された。
よく見てみると、少し遠くの所から夜刀神さんが五河君に向かって走って来ていた。
そして突然現れた玉座に驚いた四糸乃ちゃんが、何処かへ走って逃げて行ってしまった。
五河君には、夜刀神さんがついているから私がいなくても大丈夫だろう。
学校では感じなかったナニカが今の彼女にはあるから、多分大丈夫だ。実際大丈夫だった。
一部始終を見届けて、こうして日記を書いている私が言うのだから間違いない。
だから私は四糸乃ちゃんを追いかけた。
四糸乃ちゃんがいる場所には、氷のバリケードのようなものが出来ていた。
それでどうやってバリケードの中に入るか考えている時、鳶一さんがビルを浮かせて、そのバリケードのようなものの上に落としているのが目に入ったが、それはビルが真っ二つに割れただけという結果で終わった。
こんなヤバイ所の中に突っ込んでいったら、私の体は血まみれになること間違いなしだなんて考えていたら、五河君が大きな剣に乗ったまま、バリケードの前に突っ込もうとしていたので、私は焦ってつい彼の前に出て声を出してしまったが、叔父さんに貰った絆創膏型のボイスチェンジャーを喉に付けていたから大丈夫だった。
焦りながら何をしようとしていたのか聞いたら、案の定バリケードに突っ込むとしていたらしい。
そんなことしたら死ぬと私が言うと、俺は死なないから……と言われてしまった。
五河君が死なないなんてこと聞いたの初めてだ。いや私と彼は仲が良くもないのにそんな秘密を教えてもらえる訳がないか。
そんなことを思いながらも、彼に危険な真似をして欲しくないから何かすることがあるなら私が代わりにすると言ったら、俺にしか出来ないことなんだと言われてしまった。
それでも引き下がれない私は、怖くはあったが五河君を抱き締めて氷のバリケードの中を全速力で走り、四糸乃ちゃんのいる台風の目のような場所に彼を置き、そしてまた全速力で去っていた。
その間、私の身には弾丸のように飛び交っている氷が何十回、何百回と当たり、肉が抉られ、無事な所がないぐらいに、グロテスクで傷だらけになってしまったが、結局彼は大丈夫だったのだろうか?
ちょっと私は……意識が朦朧としかけていたが、何とか自分の家に戻って応急処置をした。
だけどそんなもので何とかなるものではないので、叔父さんに連絡を送った。そしてその後、私の意識は途切れた。
5月18日 晴れ
起きたら体から傷が1つも無くなっていた。
叔父さん来てくれたんだなんて思いながらリビングに行くと、机の上に『治療しておいたけど、体に不調があったら教えて』と書かれたプリントが置いてあった。
ちなみに明日も来るらしい。まあ、ありがたいから好意はちゃんと受け取っておこう。
あと今日は早めに学校に行って鳶一さんを待ったら、またいつものように早めに学校に来てくれたので、作ったパペットを渡した。
私のようなやつに作られたものなんて、彼女にとってはいい迷惑かなとは思ったけど、いつもの無表情であるというのにちょっと嬉しそうにしていた気がする。
……まあ気がするってだけなんだけども。
そうそう、夜刀神さんも五河君も、今日もちゃんと学校に来ていた。
昨日あんなことがあったのに、よく学校になんて来れるなーと思ったが、よく考えたら自分も同じようなものだった。
5月19日 晴れ
学校に行って、いつも通り五河君を取り合っている2人を見て、いつも通りに授業を受けた。
正直家に帰りたくないけど、そういう時に限って時間が進むのは速いんだよな……
そんなことを思いながら家の扉を開けると、叔父さんが急いで玄関へと来て、慌てながら私に事情を話すように言われた。
まあ少しならいいかなと思い、多少はぼかしながらではあるけど事情を説明したら、無理するなと言われた。
……五河君が無理しているのに無理しないなんて選択肢、私にも存在しませんがな。
そう思いながら善処はすると言ったら、叔父さんはため息をついて私に服のカタログを見せ、この中だったらどんな服が良いかと聞いてきた。
訳が分からないけど何となく気に入った服を指差すと、京乃はこういうのが好きなのかと真剣な表情で言われ、暫くしたらまた来ると言われた。
いったい何だったんだろう。よく分からない。
5月20日 晴れ
家の近くにマンションが建った。
それには驚くことはないのだけど、何で一日二日であんなにも大きな建物が建ったのだろう?
空震災で壊れた建物を直すのに、陸自の復興部隊を使ったかのような速さだ。
そんな力を使って只のマンションを建てる訳がないし……
うーん、謎だ。まあ何が一番の謎って言ったら五河君何だけどね。
いくら私が彼に怪我を負わせないようにしていたからとは言っても、四糸乃ちゃんが作った氷のバリケードのようなものを無傷で潜りぬけられるとは思えないというのに、彼は無傷で学校に登校してきた。
そこまで考えたあと、五河君が自分は死なないと言っていたことを思い出す。
信じてはいたけど、それではまるで……
いや、よそう。私が五河君の悪口を書くなんて駄目だ。
……だけど本当に彼は何者なのだろう。
今まで彼のことを理解していたつもりだったのに、また分からなくなってきた。
……まあ、五河君だったらそのうち教えてくれると信じて待っていよう。
無理だったら、別に教えてもらわなくても良いんだけどね。
気になるけど、無理強いなんてしたくないし。
日が完全に落ちて世界が闇に包まれる頃。
とあるビルの屋上に一人の少女が佇んでいた。
血のような赤と闇のような黒色のドレスと、ぞっとするほどに美しい容貌に思わず目を奪われてしまうが、最も特徴的なのは目だろう。
金色の目が時を刻んでいる所は人間ではありえない。
「五河士道さん、もうすぐ会えますわね。
これでわたくしの悲願もやっと……!」
そんな不思議な少女が恍惚とした表情を浮かべて士道の名前を呼んで楽しそうに嗤った後、闇に溶けるかのように姿を消した。
少女が立っていた所に残ったのは、ただの暗闇だけだった。
折紙に贈るパペット
碧眼の白猫のパペット。よしのんの眼帯は右目にしてあるが、鳶一さんに渡すパペットは逆の左目に眼帯がしてある。触り心地がいい。
よしのんに似せている(装飾とか)