元クラスメイトの川崎と再会した俺は彼女と連絡先を交換、その際にやたら強く睨まれた。
彼女は大学生として生活している傍らバーでバイトしているらしい。
高校の時のバイトが役に立っていることを喜ぶべきか、悲しむべきか。そこは当人の問題だから踏み込まない。
何が言いたいかというと。
元クラスメイトにバイト先へ飲みに来いといわれて、バーにきています。
バーは結構、レトロな雰囲気と見たことも聞いたことのない酒が置かれていて、常連も多いのだろう。
ところどころで寛いでいる客の姿がある。
気のせいか、見覚えのある人がいるような気がする…。
「何を飲む?」
カウンターでぼーっとしていると川崎が話しかけてきた。
以前見たスーツ?みたいな恰好でポニーテールにしている姿は様になっている。
これで、俺と同い年なんて嘘だろ?
「何見てんの?」
「いえ、何でもないっす」
「そう、所でアンタ…TPCのどこ勤務なの?」
うぉう、いきなり言われたよ。
「言わなくちゃダメ?」
「いえないような部署にいんの」
「そういうわけ、じゃないけれど」
「じゃ、教えてよ」
「…GUTSです」
「やっぱり」
あれ、ばれてた?
「アンタみたいな奴が普通にTPCの職員やっているとは思えないし」
これは褒められているのだろうか?
それとも、
「何を飲む?」
「おススメで」
「わかった」
そういうと川崎はカクテルを作り始める。
「あのさ…俺がGUTSだってことは、他の奴にはいわないでくれるか?」
「いいよ、アンタには恩があるから」
あっさりと応じてくれた。川崎さん。
うん、
「マジ、愛している」
ギロリと睨まれたので視線を逸らす。
丸いテーブルに座っている男と目が合う。
あれって。
「なぁ、川崎さん」
「なに?」
「あそこの人って」
「常連さんだね。いつもあそこにいることが多いし、このカウンターにいることもあったね。ミルクばかり飲んでいるけど」
「…へぇ」
こういう所にリーダーいるんだな。
驚いた。
そんなことを考えているとカクテルが置かれた。
ミルク色の御酒?
「ホームスィートホーム、うちのおすすめ、家に帰りづらい人の背中を後押しするためだって」
これは家に帰れってことですか?
いや、おススメっていっていたからか。
「アンタがどういう意図で秘密にしているのか知らないけれど、いつかは話す必要があると思うよ。世間は怪獣とかそういうのに結構、うるさくなってきているから」
そういって彼女はテレビを見る。
俺もつられてみると最近、話題になっている漂着した怪獣の話が出ていた。
少し前、怪獣の死体が海岸で発見された。
死体処理を行うだけの事だったが怪獣だ。何が起こるかわからないという事からGUTSに怪獣処理の依頼がくるだろうと話題になっている。
「こういう仕事もアンタがやるんでしょ」
「まぁ…多分」
「無理だけはしないでね。後、偶に、でいいから店に来て」
「……わ、わかった」
俺のPDIに連絡が入る。
呼び出しだ。
「ごちそうさん、代金、ここに置いていくわ」
「わかった」
川崎さんと別れて店を出る。
気のせいか、リーダーの姿もあったような…うん、見間違いにしておこう。
そうでないと、何か嫌な予感がするんだよなぁ。
作戦司令室では北川市に流れ着いた怪獣の死体について、話されているのだろう。
なのに。
「何で俺までここにいるんすか」
「隊長の命令だ。諦めろ」
「あかん、メットのエアカーテン突き抜けて腐臭が漂ってくるわぁ」
「そんなことより怪獣の細胞のサンプルだろ。急ぐぞ」
「…コイツ、鼻悪くなってんじゃねぇか」
「何かいったか?」
「耳はえぇみたいやな」
「「うん」」
二人は頷いていた。
何?男の友情かなにか?海老名さんが喜ぶよ。
流れ着いた怪獣。シーリザーの死体を調べる為、俺達は海岸に来ている。
かなりの腐臭に顔を顰めつつも俺達は怪獣へ近づいていく。
傍にはマスコミの姿がある。
ちらりとホリイ隊員がカメラを見ていた。幸いにもステルスヒッキーで姿を視られないようにしたけれど、どうだろう?
小町が見ていないことを願う。
怪獣の生命反応を調べる。
「生命反応、ないっすね」
「うわぁ、近くに来るとすっげぇ臭いや」
ホリイ隊員が顔を顰めた。
俺も顔を顰めたいが既に鼻栓をしているから問題ない。
それに気づいたホリイ隊員が近づいてくる。
「コイツゥ、それはずるいぞ!」
「あ、ちょっ、鼻、痛い!痛いってぇの」
無理やり鼻栓を引き取られた。
うげぇ、すげぇ臭いだ。
「はやめに撤去しないと住民から苦情くるんじゃないすか?」
「手遅れや。既に何人か倒れて病院へ担ぎこまれとる。ほれ」
ホリイ隊員の指した方を見るとマスコミで倒れた人間がいるのだろう。
去っていく救急車の姿があった。
参謀会議の話で怪獣を撤去することになった、本来なら精密な検査をするべきなのだが周辺住民からのクレームで行うことが決定したらしい。
怪獣でこれだけの騒動になるんだよな。
ホリイ隊員達が話をしている横で朽ちている怪獣の姿を見る。
怪獣。
今の人類にとって怪獣とは平和を脅かす存在。
GUTSが遭遇した怪獣の殆どが文明を壊そうとしている。
今の人類にとって怪獣は敵。
だから、この死体の怪獣も早く撤去してほしいのだろう。
設置されているテレビから怪獣についての議論がなされている。
映像を見るとGUTSに対しての批判も流れている。
TPCよりも前の地球防衛軍の方が良かったんじゃないかという話もある。
当事者じゃない人間は好き勝手なことを言う。
これはいつの時代も変わらない。
人はその時が来ない限りまともな思考をしない。常に外から立って物事を好き勝手に言う。
そして、やってきたらきたらで自分の環境を責めて、動かない。もしくは人へ罪を擦り付ける。
人というのは醜い。けれど、その中に本物があれば別だ。
「八幡」
考え事をしているとホリイ隊員に肩を小突かれる。
「これからウィング二号があの怪獣を撤去する。俺らは周辺の警戒や」
「了解です」
ホルダーのハイパーガンのカートリッジをチェックしておく。
死んでいるから大丈夫だろうという事で安心はできない。
相手は怪獣だ。これくらいの警戒をしてもおかしくはないだろう。
そんなことを考えるとウィング二号がやってくる。
どうやら武装を外して牽引ワイヤーと重機運搬用のアルチハンドを搭載しているようだ。
そういえば、アルチハンドのシミュレーションはレナ隊員しかやっていなかったんだっけ?
どうでもいいことを考えているとアルチハンドが怪獣を捉える。
ゆっくりとワイヤーが巻き付いて怪獣を持ち上げて。
あれ、何かようすがおかしいぞ。
ゾブリュゥゥ!
「うわっ!」
「うっぷ」
怪獣のはらわたが裂けてそこからどろどろした物が零れていく。
はっきりいって気持ち悪い。
ワイヤーから零れた怪獣は海岸へ落下する。
その衝撃はとてつもないものだ。
双眼鏡で様子を見ているリーダーも拳を叩く。
しかし、何故失敗したのか。
その理由を考える暇もなく事態は急変する。
死んでいた怪獣が起き上がったのだ。
「死んでいたんじゃないのか?」
「マジか…リーダー!」
「八幡、ホリイ、シンジョウ!避難だ!」
周辺を警務の隊員たちがやっているが距離が近い。
俺達は砂浜の地面を蹴りながら避難を呼びかける。
迂闊に攻撃をしてこちらに意識を向けたらマズかった。
二号は武装がないため引き返し、一号二機が怪獣と応戦を始める。
『どういうつもりだ?』
「アイツのつもりなんかわかるかい」
「どこへいくつもりだ?」
「この先…は液化天然ガスのタンク」
「シンジョウ、ダイゴ、フォーメーションアタックをかける、ワンワンツーだ。HEATをスタンバイ、怪獣の進路を変えろ」
『ダイゴ、了解』
『シンジョウ、了解』
「隊長の悪い予感が当たったか」
やはり隊長は予期していたか。
もう少し時間があればあの怪獣の事がわかったかもしれない。
『失敗です!ミサイルを飲み込みやがった』
「まぁいい、怪獣の進路を変えられた」
周辺の地図をみながらリーダーは作戦を考えていた。
「この近く、使われていない養殖場がありますね」
俺の言葉にリーダーは何か閃いたようだ。
「隊長、一号に高周波ジェネレーターを装備できますか?」
『博士に頼んでみる』
「それとアルミジャーマーの用意を」
『アルミのジャーマー?レーダーかく乱用の?了解!』
「高周波ジェネレーターで奴の体を溶かすんすか?」
「そうだ、そこをHEATで叩く」
『ヤズミです。怪獣の通過地点に高濃度の汚染が確認されました』
作戦は成功…しなかった。
あと少しという所で怪獣の体内に埋まっていたHEATが爆発を起こしたのだ。
さらに悪い知らせがヤズミからもたらされた。
怪獣の細胞は破壊しても復活するという。
あれだけ破壊してもすぐに復活するというのだ。
「まるでゾンビじゃねぇか」
「…奴を完全に消滅させるなら焼き払うしかないな」
「そうなると思います」
「ゾンビ怪獣やな」
「奴は生きているという定義が通用しません、はっきりいって……どうやって動いているのか全く分からない」
続く、リーダーの作戦、液化天然ガスのタンクを二号で奴へもっていき、タンクを爆発させて奴を消滅させる。
ヤズミの検証によって怪獣の細胞は液化天然ガスのタンクで消滅可能だとわかった。
問題は関係各所の交渉だった。
そこはサワイ総監に動いてもらった。
『八幡君』
「うっす」
サワイ総監の交渉を俺がすることになったことを除けば。
『話を聞く限り、成功する確率はかなり低い。他の作戦はないのかね』
「確かに、数字からみると成功率はかなり低いでしょう。ですが、自分から見るにそれを補えるくらいの技術が行う隊員達にはあります。他の作戦で成功するかどうかわからない以上、有効性が高いものをチョイスする必要があると思います」
『わかった、作戦を了承する』
少し戸惑ったが無事に交渉は終わった。
「ほんま、八幡様様やで、他の各所も」
「絶対に嫌です」
二号がけん引してタンクを怪獣の真上まで運んだ。
しかし、驚くことが俺達を待っていた。
怪獣の首が伸びた。
あろうことか二号の牽引ワイヤーに噛みついた。
これは流石の俺達も言葉を失った。え、怪獣ってどこまで規格外なの?
びっくり箱ならぬ、びっくり怪獣か!?
そんなことを思っているとウルトラマンティガがやってきた。
怪獣は液化天然ガスのタンクを取り込んだ。
怪獣と戦うティガは光線を放つ体勢になる。
「マズイ、シンジョウ、レナ、離れろ!消化弾の準備!」
ティガの光線が怪獣に炸裂。
巨大な爆発が起こった。
「腹にため込むからだ」
リーダーの言葉通り、怪獣に敗因があるとすればタンクを取り込んだことだろう。
任務が終わった俺は再び川崎さんのいるお店へやってきていた。
あのカクテルがおいしかったので他のも飲んでみたかっただけで、決して川崎さんのバイト服姿目当てというわけではない。
「またきたんだ」
「他のカクテルに興味が出てきて」
腰かけると川崎さんが一つの雑誌を俺の前に置く。
「大変だったみたいね」
「なになに?」
雑誌は怪獣災害について。
大方、GUTSを非難するものだと思っていたが違う。
『――怪獣との戦闘において、助かっていることは優れた戦略家を有するGUTSがいることである。一市民として心から感謝する次第である』
「へぇ、珍しいな」
最近はGUTS批判ばかりなのに、こんなことを書くなんて。しかもリーダー、とんでもないくらい褒められているよ。
「何を飲む?」
「川崎さんのおすすめで、前のと違う奴で」
「わかった」
少し微笑んだ?
川崎さんは背を向けた。
その顔はどんな表情なのか少し気になったがやめておこう。
俺は酒を飲みに来ているのだ。
「そういえば」
今日はリーダーの姿がないな。
きていないのか?
それとも見間違いだったのだろうか。
いちおう1クール、と闇へのレクイエムまでは掲載していく予定ですが、他の話はいくつかスキップする可能性があります。