「――もうすぐ、会える」
そんな声にダイゴは周りを見た。
結婚式場。
GUTSメンバー、TPCのサワイ総監をはじめとする関係者が席へ座り、祝ってくれている。
自分はタキシードを纏い、目の前には花嫁衣裳の姿をしたレナ。
神父の言葉で誓いのキスをしようとした時、声が聞こえた。
声にダイゴが周りを見る。
着席している人たち全員が同じ顔をしていた。
肩をくすぐる程度の長さまで伸ばした髪、目元から頬まで流れる白い化粧のようなもの、額には特別な装飾が施されたようなものをつけ、真っ黒なドレスは喪服をなぜか連想させる。
「ダイゴ?」
ダイゴはレナを見る。
周りを見るとその場にいたのはいつもの皆と変わらない。
先ほどのあれはまやかしだったのか?
疑問に持っていたダイゴが前を見る。
その時、教会の外。
深い森の中からこちらをみている者がいた。
女性の名前をダイゴは自然とつぶやいた。
「カミーラ」
直後、窓ガラスが割れる。
「っ!?」
額から汗を流しながらダイゴの意識は覚醒する。
「ダイゴ?」
「レナ……」
「どうしたの?」
「いや、なんでもないよ」
二人は外に出る。
TPCを、GUTSから離れた二人は世界中を旅していた。
もうまもなく結婚式があり、その前に旅行でもしようという二人の相談を受けていた比企谷八幡や仲間からの後押しも受けて世界中を見て回っている。
「日本に帰るの延期する?」
「ついでに結婚式も延期する?」
この場所が終われば、彼らは日本へ戻る。
日本に戻れば結婚式が行われる予定になっていた。
「レナぁ?」
「わー、きゃー!」
逃げ回るレナをダイゴが追いかける。
二人はひとしきり騒いだ後、朝日を見に行く。
「また朝がきたね」
「今日という未来、すべての命をはぐくむ光だ」
「ねぇ、ダイゴ、帰ったらお願いがあるんだ」
レナの言葉にダイゴは静かに頷いた。
ルルイエの遺跡。
そこで発見された三体の巨人像の周りにクレーンなどが設置されている。
様子を見ているサエキへイルマが詰めよっていた。
「サエキ隊長!私は聞いていません!石像を運び出すなんて」
「私は上からそう指示を受けている」
サエキはホルダーの通信機を取り出す。
「サエキだ。輸送船の到着はまだか?」
外にいるチームへ連絡を取ったのだろう。
しかし、激しいノイズ交じりで返事がない。
その間にイルマは爆薬の上に置かれている端末を手に取る。
「何をしている?」
サエキの言葉にイルマは振り返る。
彼女の手の中には爆薬を起動させる装置が握られていた。
「ここを爆破します」
「起爆装置を放せ、爆薬がすべて爆破したらここが吹き飛ぶぞ」
「石像は封印すべきです。手遅れになる前に!」
イルマの言葉に周囲にいた隊員達が武器を向ける。
銃口を向けた相手はイルマだった。
「それを渡せ、F計画はすでに動き出している。もう後戻りはできないのだ」
ゆっくりと近づいてサエキはイルマから起爆装置を奪い取る。
別の隊員がイルマからハイパーガンを取り上げた。
サエキはイルマを殴る。
殴られたイルマは爆薬の上に倒れながらも周りへ訴える。
「あなた達も、知っているはずよ!人がむやみにウルトラマンの力を手にしたらどうなるか」
イルマがいうのはかつて巨人を解析して自らがウルトラマンとなった男の話。
しかし、彼は失敗して、街を破壊する狂戦士となった。
「確かにマサキ・ケイゴは失敗した。だが、それは十分な準備ができていなかったからだ!」
イルマは目を見開く。
サエキの後ろに存在していた巨人。
ただの石像から彼らは色を取り戻していた。
一人は銀と紫。
もう一人は赤と黒銀。
最後の一人は銀と黄色のような姿をした巨人。
その事態に気付かないサエキは諭すようにイルマへ話を続けている。
「あなたもGUTSの隊長ならもっと信頼すべきですよ、TPCの科学力と人間の英知を」
「逃げて!」
イルマの悲鳴にようやく事態に気付いたサエキは振り返る。
自分たちを見下ろす巨人の姿に。
「そんな、バカな!?」
サエキは驚きを隠せない。
巨人が復活するには人が光にならないといけない。
だが、目の前の巨人達は人を必要とせず復活しているのだ。
まるで元から中に誰かがいたかのように。
三体のうち二体がクレーンを蹴散らして暴れまわる。
調査隊は悲鳴を上げながら逃げていく。
逃げ遅れた一人が巨人に踏みつぶされる。
巨人につかまった一人が遠くへ投げ飛ばされる。
人が苦しむさまをあざ笑うかのように巨人たちは歩き出す。
逃げ惑う人たちの中にイルマはいた。
その時、巨人の投げた遺跡の残骸が彼女の近くで落下する。
爆風と衝撃で彼女は大きく投げ飛ばされて地面に倒れ、意識を失う。
巨人たちは壁に穴をあける。
穴の開いた個所から異形の怪物たちが姿を見せた。
怪物たちは巨人の指示に従うように逃げ惑う調査隊たちを襲っていく。
銃で応戦しようとするも数に負けて彼らは食われてしまう。
逃げようとしていたサエキも食われた。
倒れていたイルマから光の粒子が現れる。
それは形となって銀髪の女性へ姿を変えた。
彼女は両手を広げる。
眩い光が外へ広がり、ルルイエの島を覆いつくす。
外へ飛び出した怪物たちは光の壁にぶつかり地面へ落ちる。
その姿を確認した女性はイルマの中へ戻っていく。
TPC極東本部、総監室。
そこで俺とムナカタリーダー、ヨシオカ長官、サワイ総監、ナハラ参謀の姿がそこにあった。
「イルマ隊長からの連絡が途絶えてすでに二日が過ぎている」
「探査衛星からのデータによると遺跡の中心が崩落、調査隊の生存は絶望的だと」
イルマ隊長が調査隊と共にルルイエの遺跡の調査に向かってすでに二日が過ぎている。
「本来なら……本来なら自分が行くはずの任務でした」
リーダーは険しい表情を浮かべていた。
おそらく、後悔しているんだろう。
隊長に行かせずに自分が行けばよかったと思っているに違いない。
「実は現在、TPC内に不穏な動きがある」
「不穏な動き?」
ヨシオカ長官が頷く。
「もしかして、隊長はF計画に何か裏があるとみて、調査隊についていったんすか?」
「そうだ」
サワイ総監は頷く。
「ダイゴとレナの結婚式が近いというのに」
ナハラ参謀の言葉に俺は悩んだ。
この事態を二人にどう伝えるべきなんだろう。
「自分は隊長が生きていると信じています」
リーダーは強い意志で告げる。
俺も隊長の安否を信じている。
しかし、事態はどうも嫌な方に向かっているような気がしてならなかった。
ダイブハンガーへ一機のTPC1が戻ってくる。
それにレナ隊員とダイゴ隊員が乗っていることを知っている俺はホリイ隊員、ヤズミ、シンジョウ隊員とゲートまで迎えに来ていた。
「ええな、あの二人に隊長のことをいうのはなしや」
「わかっていますよ。ヤズミ、気をつけろよ」
「わかっているって、ところで結衣ちゃん、連れてこなくてよかったの?」
「アイツには隊長の件は黙っている。話したらどこかでボロをだすかもしれないし」
「悪いけれど、結衣ちゃんはどこかでポカやらかすもんなぁ」
「ところで」
俺はみんなをみる。
「なんでアイツのこと、名前で呼んでいるんすか?」
「まぁまぁ」
ホリイ隊員が俺の肩をたたく。
「そない、独占欲強くせんでも、俺らは知っている」
「そうだ、八幡が結衣ちゃんを大好きってことはなぁ!」
「ちょっと、俺でからかわないでください」
「お!帰ってきたで!」
「全く変わってないな!」
「ダイゴさん!」
三人は手を振って二人を迎えに行った。
後で覚えておけよ!?
「ただいま」
「「帰りました」」
「うわっ、息ぴったり……」
「僕たちの入る余地、全く」
「「「なし」」」
「からかわないでくださいよ!」
「からかうよ、こいつらは」
「え!?」
「八幡君、ただいま~」
「おかえりなさい」
やってきたレナ隊員とダイゴ隊員へ俺は出迎える。
「リーダー」
「二人とも、元気だったか」
肩へ手を置くムナカタリーダー。
周りを見てレナ隊員が呟く。
「あれ、隊長は?」
「あー」
「隊長な、調査からすこーし、遅れているねん」
ポンと二人を安心させるようにリーダーは微笑む。
「安心しろ。お前たちの結婚式までには必ず戻る」
「そうだ、二人ともこれからどうするんですか?」
隊長の話題から遠ざけるために尋ねる。
「実は、レナの頼みで街へ行くんだ」
「街……そうだ、ヤズミ、お前、マユミさんとデートする予定があったな」
「え、あぁ!そうだ!僕達も後で合流していいですか?」
ヤズミの言葉に二人は頷く。
荷物を置きに行った二人をみて、俺とリーダー、シンジョウ隊員、ホリイ隊員のメンバーでルルイエへ向かう。
「まさか、戻ってきた二人へ嘘をつかなあかんなんてなぁ」
「別に嘘をついたわけじゃないだろ?」
「ん?」
「俺たちが隊長を連れ戻せばいいんだ」
「シンジョウ隊員の言うとおりっすね」
「お、八幡が前向きだな!」
「このメンバーで何年も共にしたら人も変わりますよ」
「……」
俺たちが話をしている中、リーダーは沈黙していた。
ウィング二号はルルイエへ到達する。
「あん!?リーダー、遺跡の中心部に、以前、ティガの地で観測されたアークと同じ反応があります」
「なんだと?」
「どういうことだよ!?まさか遺跡の下に巨人像があるとでもいうのか?」
「可能性はある……まさか、調査隊もそれを知っていて」
「リーダー、輸送船です」
ウィングから停泊している輸送船を見つける。
「着陸する」
「了解!」
ウィング二号にリーダーが残り、俺とホリイ隊員、シンジョウ隊員が輸送船を調べるために中へ入る。
ホリイ隊員と別れて俺とシンジョウ隊員で船内を調べる。
「八幡、何かを見つけたか?」
「駄目です。人の姿が全くない……うん?」
俺とシンジョウ隊員は調べていた。
室内には人がいた痕跡がまるで見つからない。
元から誰も存在していないかのような気分になった。
「どうした?」
「シンジョウ隊員、これ」
俺はシンジョウ隊員へ床のある部分を指す。
「これは……」
床にある赤い液体。
それは『SOS』と記されていた。
「どうやらとんでもない事態が起こっているみたいですね……ホリイ隊員と合流しましよう」
「あぁ、ホリイ、聞こえるか?」
ヘルメットに激しいノイズが走った。
「通信が繋がらねぇぞ」
「急ぎましょう、確か、動力室にホリイ隊員がいるはずです」
ホルダーからハイパーガンを抜いて俺達はホリイ隊員を探しに行く。
少し前。
「本当に嫌な場所だ」
「誰や!」
調査をしていたホリイ隊員の前にサエキ隊長が現れる。
「三千万年前から怨念が渦巻き続けている。今もその声を上げ続けている」
「何をいうてんねん!」
「貴方も仲間入りしませんか?私……ミタイニ!」
叫び声をあげたサエキが怪物へ姿を変える。
ハイパーガンを構えるも相手が速くホリイ隊員へ襲い掛かった。
鋭い嘴と格闘していたホリイ隊員だが音を立ててハイパーガンの先端がえぐり取られる。
「あぁ……わぁあああああ、くそぉおお!」
大きく離れた怪物が再びホリイ隊員へ襲い掛かろうとした時。
銃声と共に怪物が悲鳴を上げて崩れる。
振り返ったホリイがみたのはDUNKショットⅢを構えているシンジョウとハイパーガンを構えていた八幡だった。
「あ、シンジョウ……危機一髪や」
「ホリイ隊員、大丈夫すか?」
ホリイ隊員は壊れたハイパーガンを捨てて怪物の死骸をのぞき込む。
「こいつは……」
「ゾイガーと形は似ているけれど、小さいな」
『滅亡の闇が……』
怪物の腹部に人の顔が浮き上がる。
男の顔に見覚えがあった。
「サエキ隊長……」
調査隊のリーダーを務めているサエキの顔だ。
『蘇った』
言葉を伝えるとサエキの顔は消えていく。
「どういうことだよ」
「食ったんや……調査隊を」
「ここは危険です。外へでましよう」
八幡の言葉に二人は頷いて甲板へ向かう。
「シンジョウ!怪物がいっぱいや!!」
甲板へ出ると上空にはどこに隠れていたのか大量のゾイガーもどきが羽ばたいていた。
「伏せろぉ!」
数匹がこちらへ襲い掛かろうとしてくる。
咄嗟に階段をかけおりて陰に隠れた。
「なんやねん!こいつら!」
「まさか、隊長もこいつらに!?」
「アホ!そんなことあるかぁ!」
「確証はないんです。とにかく、離脱を」
『早くウィングへ戻れ』
ヘルメットの通信機にリーダーから連絡が入る。
ゾイガーもどきとぶつからないように操縦しながらウィング二号がこちらへやってくる。
『ひとまず撤退する』
「了解」
「了解です」
八幡たちはやってきたウィング二号へ戻る。