その世界は一日も経たずに滅び去った。
ギジェラによる花粉で誰もが夢の世界へ向かい、光の巨人はその星を後にした。
首都といえた場所は炎に包まれ、
綺麗といわれていた花は次々と燃え去り、
世界で一番高いといわれた建物は瞬く間に倒壊する。
空は滅びの使者が飛び交い、生を受けているものすべてを蹂躙していく。
中には抗おうとするものもいたが後からやってきた者の手によって滅ぼされた。
危機を察した者はその星を捨て去り新たな場所を求め、故郷を捨てる。
そうして、その星から文明というものが消え去った。
後からきた者は深い闇の中へ帰っていく。
いずれ、新たな命が生まれた時に滅ぼすために。
「っ!!」
額から汗を流してダイゴは体を起こす。
体の震えが止まらない。
夢の中だというのにまるですべてを体験してきたような気分だ。
青ざめた顔でダイゴは言葉を漏らす。
「滅びの……闇」
「ダイゴ?」
ダイゴへレナが声をかける。
しかし、ダイゴは何も答えない。
自分が漏らした言葉の意味を考えるように真剣な顔をしていた。
彼に自分の言葉が届かないことに気付く。
「どうして……私」
ダイゴが顔を上げると作戦司令室の机にコーヒーの入ったカップが二つ、置かれていた。
それは淹れたてなのか湯気がほくほくと出ている。
隊員は交代で深夜も警備任務に就いている。
睡眠をとっていた俺はダイゴ隊員からの緊急呼び出しを受けて作戦室へ足を踏み入れた。
「起こすような事態なんだろうな?」
寝起きで少し不機嫌なシンジョウ隊員が尋ねる。
ダイゴ隊員が正面スクリーンへ映像を出す。
それは海底調査船“りゅうぐう”が送ってきた映像だった。
海底調査班が海底で起こっていた異常隆起をみつけたことからのもの。
海の底を映している映像。
しかし、本来ならありえないものがそこにあった。
「これは……遺跡?」
「もしかして、超古代の都市か?」
前に出ようとしたホリイ隊員を突き飛ばすようにしてレナ隊員が画面を見た。
「映像だけで判断できないがこれは今の人類が作れるようなものじゃない」
「超古代の遺跡……」
「人間が作ったものじゃない」
「正確にはまだわかりませんが三千万年前に作られたものです」
「まるで地獄だわ」
そこにある遺跡を見たイルマ隊長が言葉を漏らす。
どこか不気味な雰囲気のある遺跡を表現するならまさに地獄だ。
「おい、なんだ!?」
映像が急に黒く染まったと思うと赤い不気味な二つの目が現れる。
ノイズが走って映像が消えた。
「太平洋海上から巨大な物体が出現……まずい、オーストラリアへ上陸します!」
「ウィング一号で先行します」
「一緒に行きます」
いの一番で飛び出したレナ隊員の後を追いかける。
彼女は様子がおかしい。
今はそれを追求すべきでないと思い、ストッパーとして俺はウィングの後部座席へ座る。
発進したウィング一号が捉えたのは巨大な翼をもつ鳥のような怪獣。
口から光弾を放ち、ビルを破壊していく。
オーストラリアの街をあらかた破壊した怪獣へウィングが追尾する。
レーザーで狙撃をする。
しかし、怪獣はとんでもない速度で逃げた。
今までの遭遇した怪獣の中でとてつもない速さの持ち主だ。
ウィング一号で追いつくこともできない。
『速さで勝とうと思うな。ダイゴ回り込め』
『了解』
ウィング一号で追いつけないことに俺は驚きながらリーダーの指示を待つ。
『行くぞ、レナ!』
前方と後方からウィング一号のレーザーが放たれる。
しかし、怪獣は上昇して躱す。
空中で互いのレーザーがぶつかり消滅する。
「うぉっ!?」
レナ隊員は機首を持ち上げるとものすごいスピードで上昇していく。
シートに体が打ち付けられる。
機内はアラートが鳴り響く。
『レナ!無理だ!』
「ちょ、れ、レナ隊員!」
俺の叫びもうるさいアラートに消されて届かない。
無理やりの上昇で体が悲鳴を上げる。
反転した怪獣がこちらに向かって光弾を撃つ。
視界が揺れる。
「うわっ!?」
慌てて回避するが後続のダイゴ機へ直撃してしまう。
「ダイゴ!ダイゴ大丈夫!?」
「に、肉眼で脱出を確認……」
それを最後に俺は意識を手放してしまう。
通路を歩いていたイルマは目の前を行く自分の姿を見て追いかける。
「待って!あなたは!!」
振り返った先にいたもう一人の自分ともいえるべき存在が言葉を告げる。
「ゾイガーが蘇ってしまった。地を焼き払う悪しき翼、大いなる闇がこの地を塗り込める使い」
「大いなる闇?」
イルマの疑問に答えず話は続く。
「恐怖、闇、破滅、悲しみ、そして、無がもたらす」
「それは遠い過去の話?それとも予言なの?地球星警備団団長、ユザレ」
指摘と共にもう一人というべきイルマが姿を変えて銀髪の女性、ユザレと姿を変える。
ユザレは表情を変えずに淡々と語る。
「私はプログラム、予言などできません」
「でも、貴方は、あなた達の種族と共に滅びたのよね?」
イルマの問いにユザレは答えず、その体は消滅する。
「滅びの闇が……蘇る?」
「このスノーホワイトはマキシマオーバードライブのユニットがかさんでいるから攻撃の武器が積めない。実戦向きじゃないんだ」
ヤオ・ナバン博士とレナの前には白銀色の塗装が施されているガッツウィングがある。
それはレナやシンジョウ達が宇宙で何度も実験を行ってきたマキシマオーバードライブ搭載のガッツウィングのカスタム機。“スノーホワイト”だった。
「それでもいいんです!もっと速く、もっと高く飛べるなら!出ないとあの怪獣にも勝てません」
あくまでマキシマオーバードライブの実験として設置された機体であり、今のウィングと異なり攻撃機能が少ない。
「……わかった、ただし、無理はしないでくれよな」
レナがヘルメットを手に通路を歩いているとダイゴが待っていた。
「レナ!」
振り返らないレナにダイゴが近づく。
「どうして、俺を避けるの?俺、なんかしたっけ?」
「アタシ……」
レナは何も言わずに去っていく。
「……八幡、君」
名前を呼ばれて振り返ると今にも泣きそうな顔をしているレナ隊員と遭遇した。
「……どうぞ」
俺はレナ隊員へマッカンを差し出す。
「ありがとう」
受け取ったレナ隊員はマッカンを飲んで顔をしかめた。
「あまーい」
「そりゃ、マッカンですから」
「本当に大好きなのね」
「はい、それはもう」
「……さっきはごめんね。八幡君のことを考えずに無茶なことしちゃって」
「別にいいですよ。気にしていませんから」
それよりも。
「ダイゴ隊員とぎくしゃくしているなら早めに仲直りとか、した方がいいですよ」
「キミがいうの?」
「被害をこうむったのでね。これだけはいえますよ」
俺の皮肉にレナ隊員は苦笑する。
「ごめんね、迷惑かけて」
「謝らないでください。あればっかりは……俺の問題なんですから」
いきなりの高度上昇で気絶するなど、リーダーからみれば「鍛え方が足りん!」といって地獄のメニューを与えられてしまうだろう。
「それよりも、あの怪獣、とんでもない速度でしたね。ウィング一号で追いつけないとなると、マキシマを搭載したあれを使うんですか?」
「八幡君、エスパーか何かなの?」
「そんなわけないでしょ、考えられる限りの知識を持ち出しただけですよ」
「……そう、だよね」
「あの速度で射撃に自信ありますか?」
「なんとかする」
「そうっすか」
「ねぇ、八幡君」
「はい?」
「八幡君は――」
「怪獣が現れたのはここが怪獣の巣のようなものだとあるからです」
作戦室のスクリーンには超古代の遺跡がみつかった海の映像が映されていた。
「あの怪獣に巣へ帰る本能があるのかわかりませんが、ここを詳しく調べるべきと思います」
「私もホリイ君の意見に賛成だな。あそこを調べれば超古代文明の滅びた理由について何かわかるかもしれない」
数こそ少ないが超古代文明は今の人類よりも高度な技術を用いていることがわかっている。
そんな文明が滅んだ仮説は今のところギジェラによる衰退というものしかない。
最も、それが本当にほろんだ理由なのかすらもはっきりしていないのだ。あそこへ赴けば何かわかるかもしれない。
それがサワイ総監の考えだ。
「ドルファーで行け、怪獣の一匹を倒すくらいの攻撃能力はある」
サワイ総監とヨシオカ長官の言葉でホリイとシンジョウの二人がドルファー202で目的の場所へ向かうこととなった。
ダイゴが室内で休んでいるとイルマ隊長から緊急連絡が届く。
レジストコード、ゾイガーが出現した。
迎撃のため、リーダー、レナ、ハチマンが出撃すると伝えられてダイゴも発進ゲートへ向かう。
スノーホワイトへ搭乗しているレナへヤオ博士が警告する。
「ハイパーニードルレーザーが撃てるのは五発まで。十分に注意するんだ」
「わかりました、スノーホワイト、発進します」
「ちょっと待って」
後ろのシートへダイゴが搭乗する。
「失礼しますと、レナは操縦に専念しろ。俺が撃つから」
「発進」
基地からスノーホワイトが出動する。
ゾイガーの進路を計算したヤズミの情報に従ってウィング二号がデキサスビームをスタンバイして待機していた。
「僕の計算通りでしたね」
「凄いな、褒めてやるよ」
「なんで八幡が褒めるのさ!?」
「しとめるぞ」
リーダーがデキサスビームを撃つもゾイガーは回避してしまう。
「くそっ」
二号がゾイガーを追跡するも追跡するだけがやっとだった。
「くそっ、速すぎて照準がロックできない」
「奴が街へ行かないように注意するだけだな」
マキシマオーバードライブを起動したスノーホワイトとゾイガーがぶつかる。
レーザーと光弾がぶつかって消滅する。
「上へ逃げるぞ!」
レナがスノーホワイトの機首を持ち上げる。
高度を上げるスノーホワイト。
このままいけば大気圏を突破しかねない。
しかし、このスノーホワイトは大気圏突破のための装備を用いていない。ヤオ博士が地上で使えるようにカスタマイズしたのだ。
「レナ!大気圏を出る装備はしていない筈だ!レナ!」
『レナ隊員!戻りなさい!』
通信機からもイルマ隊長の叫びが響く。
「もっと高く……」
しかし、レナは呟いたきり高度を下げない。
煮え切らない彼女の態度にダイゴは我慢できずに叫ぶ。
「なんなんだよ……何か言えよ!」
「どうして言わないの?」
「え?」
「どうして一人で抱え込んじゃうの!?どうして一人なのよ!?ウルトラマンはたった一人で地球を守り続けなきゃいけない義務でもあるわけ?ずっと一人で戦い続けるの?そんなの酷いって思わない?」
レナの叫びにダイゴは固まる。
彼女は知っている。
ダイゴがウルトラマンティガであることに。
そして、自分がその事実を隠して一人戦い続けることにずっと疑問を感じていたのだ。
「八幡君は――ウルトラマンティガの正体、気付いているよね?」
レナの問いに八幡は頷いた。
「どうして、なのかな?どうして一人で戦おうとするのかな?」
「わからないっすよ。どうしてって、その答えはきっとあの人しか知らない。もしかしたら言えない理由は相当、根深いのかもしれない」
「私たちは仲間なのに」
「……仲間だから、背負わせることに抵抗があるのかもしれません」
「そんなの」
「だから、待たずに踏み込めばいいっすよ」
「え?」
「ある子がいっていたんですよ。待つのは嫌だから自分から行くって……何も言わないなら自分から行けばいいです。そうすれば、何かわかるかもしれませんよ?」
「八幡君、自分のことじゃないととことん厳しいね」
「自分に甘く、他人に厳しいのが俺っすから」
「私だって、光になりたい」
それはレナの本心だった。
「義務とかじゃないよ。俺は人間だから、俺はやりたいことをやるだけだから」
ダイゴはどこまでいってもダイゴらしい言葉を返す。
その言葉を聞いてレナは泣きそうになる。
けれど、泣かない。
それは今のダイゴに失礼だから。
だから、彼女は言う。
「私、いま、後ろを見ない。だから、いいよ」
ダイゴはスパークレンスを取り出す。
「光になれるさ、レナだって」
まばゆい光と共にスノーホワイトを胸の中で抱えてウルトラマンティガは飛ぶ。
スノーホワイトから放たれたレーザーがゾイガーを貫く。
背中の羽がちぎれてゾイガーは地面へ落下した。
着地したティガはスノーホワイトを地面へ置く。
起き上がったゾイガーは光弾を撃つ。
ティガはスノーホワイトをかばい、背中で攻撃を受け止める。
ゾイガーは自らの手で背中の羽を引きちぎった。
ティガとゾイガーはモンゴルの大地で戦う。
空を素早く飛んでいたゾイガーは身軽さを生かした戦いでティガを追い詰めていく。
加えてパワーもあるらしく、両手でティガを締め上げる。
ティガのカラータイマーが点滅を始めるとき、赤のティガとなりゾイガーを圧倒する。
かかと落としを受けてひるんだゾイガー。
連続ラッシュを繰り出されてゾイガーは地面へ倒れる。
ゾイガーの放った光弾を受け止めてティガは投げ返す。
必殺のデラシウム光流を放つ。
ゾイガーは大爆発を起こす。
これですべてが終わったはずだった。
『早く戻って!日本にゾイガーが!』
「そんな、今、ティガが!!」
頭上を複数のゾイガーが飛ぶ姿を二人は見つける。
『ドルファーも応答ありません!』
『世界各地がゾイガーの襲撃を受けているの!』
ゆっくりと終わりが近づいていた。