俺と由比ヶ浜が恋人関係になった。
だからといって周りに焼餅を妬かせるほどいちゃいちゃしているわけじゃない。変化があったとすれば、アイツが俺のことを「ヒッキー」ではなく「ハッチー」といいだしたくらいだ。
お互いに仕事が忙しく休憩時間に会話をする程度のものだ。
「はい、ハッチー」
中には俺と由比ヶ浜が付き合っていることに嫉妬をしているのか「アツアツですね?」なんていう茶々をいれてくる連中がいるが、そんなことは全くない。
「これ、おいしいよ!」
仮にもボッチを何年も貫いてきた俺だ。GUTSへきてから、その力が薄れてきているような気はするが、仮にもボッチ。この程度のことで崩れるほどやわなものではない。
「あーん」
もぐもぐ、ボッチであることは何があろうと変わらないのだ。
そう、俺は。
「何を考えとるか知らんけど、ちゃんと食べや」
「あ、はい」
ホリイ隊員に促されて、俺は目の前のお好み焼きへ手を伸ばす。
今回、俺はホリイ隊員に連れられてお好み焼き屋へ来ていた。
ちなみに俺の前には由比ヶ浜がいて、ホリイ隊員の前にはエザキ・ミチルさんがいる。
エザキ・ミチルさん。
この人はかつてジュピター3号と呼ばれる宇宙船で宇宙へ飛び出し、謎の発光体と融合して怪獣となり帰ってきたエザキ博士の娘さん。
ある事件でホリイ隊員と恋仲になり今も交際を続けている。
ダブルデートということで何度かこんなことをしている。
「おばちゃん!豚玉一つ……どないした?」
向かい側にいるエザキさんの顔は不満そうだ。
彼女は大事な話をするためにお好み焼き屋ということで不満があるのだと由比ヶ浜が教えてくれた。
俺が口を出すわけにはいかない。
目の前にいる由比ヶ浜が頬を膨らませるから。誰だって、怒られることは避けたいだろう?
「たまのデートなのに、ロマンがないのよね」
「ロマンじゃ腹は膨れへん、ほら、食べ」
「ケチ、ムードが必要なのよ。大事な話をしたいのよ。そもそも久々の」
バチン、と音を立てて室内が暗くなる。
「なんや?」
「停電……ホリイ隊員、外を」
お好み焼き屋の外ではビルの電気が激しい点滅を繰り返している。
「なんや、いったい?」
その時、ホリイ隊員のPDIから連絡が入る。
懐から取り出した時、向かい側にいるエザキさんがPDIを奪い取り。
『あの!』
「この番号は現在使われておりません」
「アホ!?何すんねん」
奪われたPDIを取り戻してホリイ隊員が連絡をつなぐ。
『あのぉ、S1地区一帯で異常な放電現象を確認、リーダーたちがそちらへ向かっています』
ヤズミの言葉通り、少しの時間が過ぎてリーダーがデ・ラ・ムに乗ってやってくる。
「発電所の地下ケーブルの破損が原因と思われる。だが、作業員がそこで奇妙な生物を目撃している」
「わかりました、早速調査を」
「ちょっとちょっと、いいんですか?」
ダイゴ隊員がホリイ隊員を止める。
壁にもたれているエザキさんを気にかけているのだろう。
俺?
俺に関しては問題ない。はやめに由比ヶ浜へ声をかけておいたのだ。
今度、デートということで納得してもらっている。
なんだろう、仕事で疲れて、日常でも疲れるなんて社畜以上の疲労だ。
「すまん!大事な話はまた今度や」
「またぁ!?この前もそういって!!」
「ほんまにすまん!」
「由比ヶ浜、悪いけれど、エザキさんのこと」
「任せて、それよりハッチー、私も今度、お話があるから」
「あ、はい」
「サルが逃げ出したという報告は別に」
「あたりまえだよ。電気を食うサルがいてたまるか」
作戦室では作業員の人の言葉を参考にして作られたサルの似顔絵が表示されている。
「宇宙生物とかかなぁ?」
「わかんないすね。情報が少なすぎる」
「あの……一つ、気になることが」
突如、町中に巨大なサルが出現した。
発電施設を襲うサルを対処するために俺たちはガッツウィングEx-Jで現場へ急行する。
「本当に電気を食ってやがる」
「フォームチェンジ、攻撃を開始します」
目の前のサルはバチバチと電気を食っている。
分離してサルへ攻撃を開始する。
光線を受けたサルはいらだった様子でこちらを睨んでいた。
続けて攻撃を仕掛けるとサルは姿を消す。
『人間め、消えちまえ』
「……なんだ、この声?」
操縦席内に響いた声は底冷えのする、酷く怨念めいたものだった。
作戦室では宇宙開発局D機関のスタッフがきていた。
彼らは特殊機関の人間。
連中がやってきたのは先日、発電所を襲ったサルの怪物について。どうやらいろいろと情報を持っているらしく、今回、TPC、GUTSと共同で任務にあたるためにやってきていた。
もちろん、
「やっはろー、比企谷君」
「……どうも、雪ノ下さん」
久しぶりに俺の前に姿を見せた魔王、こと雪ノ下陽乃。
少し前にいろいろあったが相変わらず宇宙開発局にいるようだ。
俺と面識があるということからか、雪ノ下さんが気を許していることで安心しているのかスタッフはゆっくりと話し始める。
それは人間の業が招いた事態だった。
――ジニアスプロジェクト
アストロノーツの肉体を飛躍的に強靭にさせることを目的とする計画。
宇宙開発局は様々な角度からより宇宙開発を飛躍的に行うべく密かに計画を進めていた。
その実験にある細胞が使われていた。
細胞の名前はエボリュウ細胞。
投与された生き物の肉体は強靭になるがその分、電気エネルギーを必要とし短命になるという欠陥を持つ。
かつて起きた事件からエボリュウ細胞の使用は禁止、サンプルはすべて放棄されていた、ハズだった。
「あのサルは我々がエボリュウ細胞を与えて進化したと思われる実験体です。プログラム通りなら長くは生きられない」
「そのはずだったんだけどねぇ、どうも、おかしんだな。これが」
「突然変異は予測しえなかったのですか?」
イルマ隊長が尋ねる。
プログラムと違うということであのサルに何かが起きているのは間違いないだろう。
そうでなければ、エボリュウ細胞を用いているサルが長生きできるわけがない。
「奴に感情があるなどとバカげている」
しかし、宇宙開発局、いや、D機関の連中はなんといえばいいのか、頑固。自分の計算に間違いはないと言って否定している。
「きっと生きるために自己進化したんや」
「ありえないな、計算外の進化など」
肩をすくめた職員にホリイ隊員は立ち上がる。
その目には少しばかりの怒りがある。
「ええですか!お宅らの間違いは生命という未知の領域へ何も考えずに踏み込んだことや」
ホリイ隊員を隊長が止める。
「ホリイ隊員、あなたは宇宙開発局のD機関と協力してあの怪獣の対処を考えることを」
「たとえ、あの怪獣を倒しても人間が変わらないと同じような怪獣が現れます!」
「私たちの仕事はそんな人間を守ることよ……ハチマン隊員も同行して」
「うす」
「よろしくねぇ」
どこか他人事の雪ノ下さんは神経を逆なでするような態度で去っていく。
デ・ラ・ムで俺とホリイ隊員は宇宙開発局の資料施設へ向かう。
そこでエボリュウ細胞の情報を得るためだ。
デ・ラ・ムから降りるとエザキ・ミチルさんがいた。
どうやら彼女はここで働いているようだ。
「この前の埋め合わせをしにきてくれたんでしよう?」
「……悪いな、今日も、仕事や」
少し冷めた様子でホリイ隊員は行ってしまう。
驚いてエザキさんは立ち止まってしまった。
面倒だが、少しフォローしておくか。
「すいません、少しホリイさんは今、ちょっと落ち着かないようで」
「……どういうこと?」
「八幡!はよこい!」
「後でお話、いいですか」
「うん」
後で会話することを約束して俺はホリイ隊員の後を追う。
資料室でエボリュウ細胞についてのデータを引っ張り出す。
それにしてもかなりの数があるけれど、秘匿されていることもあるみたいだ。
あっちこっち真っ黒に塗りつぶされているところもある。
「公開できる資料はこれだけです」
「どうも……ぁ」
資料を持ってきた人を見て俺は驚きの声を漏らす。
俺に気付いてホリイ隊員も振り返る。
「少しやせたね」
そこにいたのはホリイ隊員の親友の一人、サヤカさん。
少し時間が流れて、
ホリイ隊員とサヤカさんはカフェテラスで話をしている。
「彼が、リョウスケが最後にすがったものの正体を私も知っておきたかったの」
「結局、わしら、知らんうちにあいつのことを追い詰めていたんやな、アホな話や」
サナダ・リョウスケ。
GUTSに入隊したホリイ隊員や周りのプレッシャーに追い詰められて自らを進化させるために、保管されていたエボリュウ細胞を取り込み、自ら怪獣となり、暴走。
最期は怪獣として倒された科学者。
理解者を求め、誰にも本当の意味で理解されていなかった人物。
「親友として失格よね……多分、女としても」
「サヤカ」
俺とエザキさんから少し離れたところにいたが、ホリイ隊員達の会話が聞こえてくる。
「私……バカだ」
「仕方ありませんよ。あの件は二人が出会う前の話です」
「だとしても、何も知らなかった」
「……全知の関係なんてありませんよ。誰かが何かを隠しているだろうし、すべてを知っているわけじゃない」
「じゃあ、亀裂が入ったとき、どうするの?」
「その時はぶつかるしかないんじゃないですか」
「ぶつかって、ダメだったら」
「そんなことを考える前に行動に起こすべき……だと思いますよ。俺もそんな経験ありましたし」
「キミも?」
「若かりし頃の話ですよ」
「私より少し下の癖に」
エザキさんは苦笑しながら俺を小突いてくる。
少し気分がよくなってくれたようで一安心だ。
必要な資料を集めて俺とホリイ隊員はダイブハンガーへ帰還した。
あの後、ホリイ隊員はエボリュウ細胞の資料を繰り返し吟味してあの怪獣、レジストコードメタモルガの対処法を模索している。
俺はマッカンを手にして由比ヶ浜と話をしていた。
「ハッチー、大丈夫?」
「え?」
「なんか、疲れた顔している」
「そうか?そんなつもりはなかったんだがな」
おそらく、エボリュウ細胞事件のことを思い出していたからだ。
あの事件は俺に少しばかり影響を残していた。
サナダ・リョウスケはどこか俺と似通ったところがあったのだろう。だから、
「ぎゅ~~~」
「え、おい!?」
悩んでいた俺の前に由比ヶ浜の顔があった。
や、柔らかい!?
「だ、大丈夫だよ」
慌てていると彼女は俺をやさしく抱きしめたままささやく。
「ハッチーには私が……ユッキーもいるから大丈夫!私たちの前では安心した顔をしてほしいな」
「……悪いな」
いつの間にか、こいつが俺にとってマッカンよりも癒しになっていたのかもしれない。
「な、何より彼女ですから」
「……ども」
作戦室では先日逃した怪獣の出現が報告されていた。
「エリア31に怪獣出現、北上に向けて進行中!」
「宇宙開発局、奴の狙いは高純度エネルギーか」
リーダーの予想通り怪獣は宇宙開発局に向かっていた。
俺たちが迎撃を試みるも怪獣は気にせず進軍する。
『センター到達まで、後二十分弱です!』
通信機越しにヤズミが情報を送ってくる。
こちらの攻撃をものとせずに進む姿は復讐のために進むのか、生きるためなのかわからない。
ついに怪獣がエネルギー施設へ到達する。
柱などを引きぬいてエネルギーを吸収し始めていく。
「もう奴自体が火薬と同じだ」
「くそっ!迂闊に攻撃できない!」
ホリイ隊員が怪獣の対策措置を持ってくる。
ウィング二号に乗っている俺達がおとりとなっている間に一号が液体窒素を撃ち込む。
着陸してハイパーガンの準備をする。
しかし、怪獣の体内のエネルギーがキャパシティーをオーバーし始めていた。
「爆発までどのくらいかかる!?」
『計算不能、すぐに退避を!』
「助けてください!施設にまだ取り残されている人が!」
「なんやと!?」
ホリイ隊員とダイゴ隊員が建物の中へ向かう。
その間にシンジョウ隊員が狙撃の準備。俺はその隣で補佐を。
通信回線でリーダーが指示を出す。
リーダーの傍にはレナ隊員がいる。
「リーダー!怪獣が!」
レナ隊員の叫びと共に氷漬けされていた怪獣が元に戻る。
「シンジョウ、今だ!」
「待っていました!」
リーダーの合図とともにシンジョウ隊員が狙撃する。
その直後、怪獣の前にウルトラマンティガが現れた。
ウルトラマンティガと怪獣がぶつかりあう。
ティガが光線を放つもメタモルガはそれすらエネルギーとして取り込み、狂暴化する。
狂暴化したメタモルガはティガを投げ飛ばす。
「奴にもう憎しみ以外の感情はない」
「ただ暴れる……破壊するだけの存在……それを生み出したのは」
俺達、人間だ。
ハイパーガンを構えようとするシンジョウ隊員を止める。
「今のアイツに力を与えるだけです」
「見ているだけしかできねぇってのかよ!」
悪態をついたシンジョウ隊員に俺は返す言葉がなかった。
その時、不思議なことが起こった。
メタモルガの動きが鈍ったのだ。
「怪獣の動きがおかしい……」
「やっと、促進剤の効果が?」
「違う……あれは」
あれは…サナダ・リョウスケだ。
ティガを踏みつぶそうとしていたところを何かに抑え込まれるようにしている何か。
紫のティガになるとメタモルガを抱えて空へ飛ぶ。
少しして空で大爆発が起こった。
人命救助へ向かったホリイ隊員を俺達は助けに向かった。
今回の騒動でD機関は解散。エボリュウ細胞は封印されることとなった。
「いやぁ、比企谷君ならやってくれると思ったよ」
「雪ノ下さん」
ホリイ隊員を待っている俺の前に雪ノ下さんが現れる。
「私は人間に対して希望も絶望もしてない」
「そうですか」
「今回の事件で人間はどんどん愚かになるのか、賢くなるのか、まぁ、どっちでもいいよ」
「悲しいですね」
「比企谷君は変わりましたね」
「俺は……」
雪ノ下さんとまっすぐに向き合う。
「俺は変わることを望みましたから」
「そっか、残念。でも、面白いものがみられそうだからいいや」
「雪ノ下さんは変わらないんですか?」
「どうだろうね?」
相変わらず本心を読ませずに彼女は去っていく。
数日後。
「おめでとう!」
ホリイ隊員とミチルさんは結婚することとなった。
俺たちは礼装で彼らを祝福した。
スーツや着物など、全員が心から二人を祝った。
ミチルさんが投げたプーケを全員が手を伸ばす。
ひらひらと舞うプーケをキャッチしたのはレナ隊員だった。
気のせいか、リーダーが悔しがっているように見えるんだけど。
「あーぁ、残念」
「お前も取りたかったのか?」
「うん!女の子にとって結婚って大事なイベントだもん!」
「そんなものか」
「……いつか、私も、ハッチーと」
ウルトラマングレートを見ていたらとても面白かった。
パワードも予約したので、はやくみたい。
何気にグレートよりもパワードの方をみたことがないのです。