「八幡君、大丈夫?」
「何がっすか?」
「いや、このところ、上の空が多いから」
「そうっすかね?」
「うん、あと」
横を歩いていたダイゴ隊員が手を振る。
「総監!」
「え、あ」
少し離れたところで歩いている総監と秘書たちの姿が見える。
こちらと目が合った総監に俺は頭を下げた。
あの人にはいつまでたっても頭が上がることはないだろう。
俺とダイゴ隊員が出会うきっかけとなり、TPCに入る事になった人だ。
別に恩を持たせるつもりとかそんなことはなかった。
しかし、どうして、
「あ、ごめんね」
「いえ、気にしないでください」
「話の続きだけど……あ、結衣ちゃん」
「ダイゴさん!どうも……あ、ヒッキー」
笑顔を浮かべる由比ヶ浜、それから俺を見て、頬を赤らめる。
つられて、俺も顔が熱くなった。目をそらすと問題になるから真っすぐに由比ヶ浜をみることになってしまう。
「あ、あの、私、仕事中だから、また、ね」
「おう」
「ダイゴさんも!」
「うん、結衣ちゃんも頑張ってね!」
手を振って離れていく由比ヶ浜に俺も小さく手を振る。
「そういえば、結衣ちゃんと会うとぎこちなくなるよね?」
「……そ、そんなことありませんよ、多分」
そう、あれは一時の迷いだったはずだ。
だが確実に。
そう、ありえないと自分が否定してきたことの筈だ。
もう間違えない筈なのに。
俺は。
一時間後、サワイ総監の乗るTPCⅠが消息不明になったことで俺とシンジョウ隊員、レナ隊員の二人はウィング二号で調査に出ていた。
「もうすぐTPCⅠの消えた海域だよ」
「あ?全く、行先も告げずにどこいっちまったのやら、連絡くらいちゃんとしておけっての」
「あの、シンジョウ隊員、その話」
『聞こえているわよ、シンジョウ隊員』
「……すいません」
ちらりとシンジョウ隊員がこっちをみる。
先に言えとその目が語っているが察してくれよと手を振る。
『八幡隊員、何か手がかりは見つかったかしら?』
「レーダー、その他の計器で調べていますがTPCⅠらしき反応も姿も見つかりません、ヤズミ、周辺に島とかあるか?」
『そのあたりだと、クリオモス諸島しかありません』
『クリオモス諸島?』
隊長が疑問の声を漏らす。
その島に何かあるのか?
『どうしました?』
疑問に思ったのだろうリーダーが訊ねる。
『地球平和連合が発足される直前の地球防衛軍の秘密施設があった島、そこで各国の首脳たちが会議を行ったとされる場所よ』
「そんなところがあったのか」
しかし、そんな重大な場所でTPCⅠが行方不明になるなんて少し気になる。
「ヤズミ、クリオモス諸島の」
「あぁ!?」
レナ隊員の悲鳴と共にウィングの中で警報が鳴りだす。
同時に機内が大きく揺れ始めた。
「な、なんすか!?」
「操縦桿がきかない……シンジョウ隊員!」
「くそっ!」
「力任せじゃダメ!」
「リヴァース!入れます!」
「お願い!」
レナ隊員の後ろのシートに座ってレバーを引く。
ウィングの底部からブースターが火を噴いた。しばらくして揺れが収まる。
「な、なんだったんすか?」
「オーロラ……入った途端、ウィングの制御が聴かなくなったの」
直後、衛星放送でサワイ総監がクリオモス諸島を首都とする新国家を作るという事を宣言した。
「しかし、どういうことだよ。総監があんなことするなんて」
「信じられないよ」
「……あの総監、本物なのか?」
小さく呟いた俺の言葉にレナ隊員が食いついた。
「偽物だと思うの?」
「何というか……あの人が心変わりしたとしてもここまで表沙汰にするとは思えないんですよ」
もし、サワイ総監が本気で世界征服をおこなうとするなら俺達GUTSが気付くことのない水面下で行う様な気がした。
勿論、あの人にそんな悪意はないだろう。
だからこそ、今回の騒動に違和感があった。
「俺達、いつまで待機するんだろうな」
「ヤズミ達が何かつかむまででしょうね」
「くそっ、見ているだけかよ」
「仕方ありませんよ、ライドメカで近づこうにもあのオーロラが邪魔、不用意なことをすれば地上から爆撃……こちらができることは籠城している相手を焦らすことくらいです」
尤も、それがどこまで続くのかはわからない。
クリオモス諸島が食生活などを維持できるシステムがある場合、長期にわたるにらみ合いが起こるだろう。
「何でもいいから、総監ではないという証拠を見つけてくれよ」
俺の頭を過るのは数年前。
まだ俺が総武高校の学生だった時、雪ノ下、由比ヶ浜、小町、葉山メンバー達といった山の中で起こった出来事。
――ミステリーサークル。
今でも鮮明に思い出せる。山の中にあったミステリーサークル。
それをTPCに通報して様子を見ていた時だ。
空から円盤がやってきた。
ある意味の未知との遭遇に誰もが戸惑う。
避難させるために小町や由比ヶ浜が乗っていた車に偉い人が乗った。その車が円盤の力で浮遊していく。
それを助けるために俺は。
『ウィング二号!ウィング二号』
「こちらウィング二号」
『隊長からの命令を伝えます。オーロラを突破せよ』
「え!?」
「成る程」
戸惑った声を漏らすレナ隊員と察したシンジョウ隊員。
俺は。
「了解、派手に暴れる」
『気を付けて』
通信を切って二人を見る。
「リーダー達が何かやらかすみたいだな」
「そのようです」
「え?」
「派手に暴れて注意をひけという事ですよ。レナ隊員」
「了解!」
「デキサスビーム!スタンバイ!」
「スタンバイオーケーです。いつでもどうぞ……覚悟できました」
「かなり揺れるよ」
「シーミラ、ワレッサー」
「アイアイサー」
シンジョウ隊員の真似をするように言った直後、デキサスビームが放たれて派手な揺れが俺達を襲う。
乗り物酔い……覚悟した方がいいかな?
そんなことを考えながらウィング二号はオーロラの中へ突入した。
演説をしていたサワイ総監が偽物だという事がわかりGUTSは出動する。
GUTSはTPCの決まりにより地球外生命体の侵略、怪獣の襲撃によってのみ武器の使用をと認められる。
故に今までGUTSは出動できなかった。
しかし、ヤズミによって演説しているサワイ総監の不自然な点を見つけたことでGUTS出動の許可が下りる。
アートデッセイ号に特殊潜水艦ドルファー202を搭載してクリオモス諸島の近海へ向かう。
ドルファー202の内部、イルマ隊長の指示を受けてダイゴが艦内へ入る。
「あのすいません、危険な任務ですけれど、協力を」
「船に乗るには無粋な格好だな」
ダイゴはぴたりと動きを止める。
イルマ隊長の話では海洋調査の隊員が同行するということになっていた。
しかし、これはどういうことだろうか?
目の前にいるのはTPC上層部のヨシオカだった。
「ヨシオカ長官!?なんで!?」
機材に頭をぶつけながらダイゴは尋ねる。
「俺は元々、船乗りだったのさ。こいつには俺の我儘が詰まっている。動かすなら俺が適任なのさ」
「は、はぁ」
緊張しながらダイゴは隣に座る。
「行くぞ、ダイゴ隊員、サワイを迎えに」
ヨシオカの言葉にダイゴは頷いた。
それから艦内は不気味なほどに静かだった。
ダイゴも相手が上官なので不用意な発言を控えている。
「まもなく、目的のポイントです」
「アイアイ、キャプテン」
「ちょっと、やめてくださいよ」
「ハハハッ」
豪快に笑うヨシオカをみてからダイゴは尋ねる。
「ヨシオカ長官、サワイ総監とは?」
「何十年もの付き合いさ」
「仲は?」
「悪いさ、アイツとは常にぶつかってきた」
「……へぇ」
ダイゴは頷く。
長い付き合いとわかった。
それからヨシオカに訊ねられてダイゴは話す。
自分がGUTSに入るきっかけとなった経緯を。
数年前。
それは山で見つかったミステリーサークル。
現れたUFOに拉致されようとしたサワイ総監と発見者である少女達を守る為に車を走らせた。
無事に彼らを助け出すことが出来た。
切欠はそれだった。
サワイ総監の口添えがあって、ダイゴはGUTSの養成施設に入ることとなったのだ。
「それからが大変でしたよ。レナやシンジョウ隊員みたいなエリートじゃなかったし」
「期待する方が愚かもんだ」
「僕は!」
「期待しなかったか?」
「……はい」
「本当に?絶対だと?少しもなかったと?」
「………………少し」
「ハハッ、正直だな」
笑いながらヨシオカは零す。
「だからこそ、キミと奴をGUTSへ入れたのだろうな」
「え?」
「俺はサワイがキミを気に入っているように、奴を気に入っている。比企谷八幡という男をな」
「八幡君を?」
「アイツは冷静に物事を見極める目を持っている。お前達GUTSがチームプレイや絆を重んじている中、それを頭に入れながら如何に物事を解決するか、どうすればいいかという最善の手を取る」
「……そうですね」
「だからこそ、奴は一人で行動すべきと判断すれば周りの気持ちを吹き飛ばして行動する。まるで神風特攻のように」
ヨシオカの言葉にダイゴは返せない。
確かにと納得する部分はあるのだ。
「注意しておいてやれ、アイツを止められるのはおそらくお前達GUTSや本当に理解している者のみだ」
頭に入れておきながらダイゴ達の乗るドルファー202は目的の場所へ到着する。
「派手な揺れが収まったと思えば、不気味な怪物が出ましたと」
ウィング二号はダイゴ隊員達がオーロラのシステムを破壊してくれたおかげでクリオモス諸島へ到着できた。
しかし、そんな俺達を待っていたのはウルトラマンティガと戦う不気味な飛行物体、生物兵器だ。
「攻撃します」
二号がデキサスビーム発射体勢に入る。
ティガも光線を放つ。
二つの攻撃がぶつかって爆発を起こす。
しばらくして煙の中から現れたのは例の生物兵器。
「マジか」
俺は操縦席の中で声を漏らす。
ぶよぶよした肉体を守るように特殊防壁が展開されていた。
再びデキサスビームを放つ。
しかし、光線は防壁に弾かれる。
「デキサスビームが通用しない!?」
「こちら二号、リーダー、聞こえますか?」
『ムナカタだ、状況は』
「クリオモス諸島へ突入後、生物兵器と戦闘開始、しかし、その防御力は凄まじくデキサスビームが通用しません」
『アートデッセイのデラック砲を使う。敵の詳細なデータを』
「了解」
「あ、空に逃げる!」
「大丈夫です、リーダーに、アートデッセイ号に場所を伝えています」
俺の言葉通り、宇宙に出ていたアートデッセイ号のデラック砲、ウルトラマンティガの光線を受けて生物兵器は空中で大爆発を起こした。
「八幡君、助かったよ」
「いえ、自分は何にもしてませんよ」
ウィング二号がクリオモス諸島に着陸すると待っていたようにサワイ総監がやってくる。
笑顔で俺に感謝の言葉を伝えるが、俺は何もしていない。
「いいや、キミも、彼らと同じように戦ってくれた」
そういってサワイ総監は俺の肩に手を置く。
「あの時と同じだ。キミは私や他の人を守る為に戦ってくれた。キミは“誰かの為”に戦える。心優しい人間だ」
「別に」
そっぽを向いているとニコニコしているサワイ総監の姿がある。
しばらくして、GUTSのメンバーがやってきて、俺は散々からかわれた。
やっぱり“この人”は苦手だ。
俺以上に人の本質を見抜けるこの人だけは苦手すぎる。
…………嫌いじゃないけれど。
とばしとばしにしているエピソード、最終回までいけたら書き足していこうかなぁ?