「21世紀初頭、人類は未曽有の危機に直面しています。空想の産物と言われていた怪獣、それと同等の力を持つ巨人の出現。平和に慣れ過ぎた人類の警鐘なのかもしれません。今回はGUTSを指揮する女性隊長、イルマ・メグミさんに参加していただきます」
女性司会者の傍でイルマ・メグミは笑みを浮かべる。
「GUTSはあの巨人をウルトラマンティガと呼んでいるようですが、人類の友なのでしょうか?それとも危険ないのでしょうか?」
「今、GUTSにおいても調査を続けています。ウルトラマンティガはどこから現れて、私達の味方なのか、詳しいことはいまもわかっていません、ですが、現場で何度もウルトラマンティガと関わった者の中には我々人類の味方であるという見解が出ています。私としても彼は私達を守ってくれている者だと思っています」
「隊長、カメラ映りごっつえぇな」
「……隊長にテレビ取材が来る方が凄いっすよ」
「そういや、八幡も取材の話きとったよなぁ?」
思い出したようにホリイ隊員が俺へ近づいてくる。
くそっ、GUTSじゃ、ステルス八幡になれない。
「違いますよ。隊長から取材の同行を頼まれたんです。断りましたけど」
「何で、断ったの?」
レナ隊員の質問に俺は詰まる。
GUTSにいることを俺は家族へ秘密にしていた。
もし、テレビ、しかも全国放送されている奴に俺が顔出ししているのがばれたら…。
小町から連絡来るのが目に見えている。
このことを知っているのに隊長は俺へ勧めてきた。
和解してほしいという気持ちが見えたがいつ死ぬかわからない職にいる以上、家族へ余計な心配はかけたくない。
「こんな腐った目した奴がテレビに出たら視聴者の気分悪くなるでしょ」
「そんなこと」
「ほら、ちょうど、あんなレポーター…みたい、に」
あれ、なんだ?
話をそらすために画面のレポーターを指した俺は目を丸くする。
先ほどまで綺麗に整っていた髪は静電気を受けたように逆立ち、目元は真っ黒に、体は宙に浮いていた。
「聖なる炎が穢れを焼き払うであろう。キリエル人に従うのだ。証をみせよ!」
電波ジャックか何か?
俺はヤズミの隣で機械の操作をする。
電波ジャックなら異常な電波反応があるはずなのだが…それらしき反応もない。
他に何か怪しい反応がないかという時、基地内でアラートが鳴り出す。
「付近のビルで爆発が発生しました」
ヤズミの言葉で俺達に緊張が走る。
――テロ。
「現場の調査をする必要がある。シンジョウ、ホリイはウィング一号で出動!八幡、隊長を迎えに行ってくれ」
「了解!」
「了解」
俺は一般車を使って隊長を迎えに行く。
「ありがとう」
「マスコミが来る前にダイブハンガーへ戻ります…あと、参謀会議を開くそうです」
「わかったわ」
しばらく無言が続く。
一般車はTPCのロゴが入っていないから目立つ心配がない。
最も中を視られたらGUTSだとばれるからどうしょうもないけれど。
「あのメッセージ貴方はどうみる?」
「……警告、ですかね」
「警告?何に対してかしら」
「それも気になりますけれど…じ、自分が気にしているのは、そのメッセージを誰に向けて送ったかですよ」
「誰に?」
「あんな公共の場で送るという事は全員なのかもしれない…でも、お、自分からすれば、あのメッセージ、誰に向けて送っている気がしてならないっす。根拠はないですけれど、あの爆発も」
もっと言えば、ダダをこねている子供みたいなイメージもあったけれど、これ以上は余計な憶測だ。まだ情報が不確定過ぎる。
車はシークレットハイウェイを通って基地へ戻った。
「ヤズミ、シンジョウ機からの報告きているか?」
「まだです。ホリイ隊員から途中経過がきていますが、火薬の反応なしということです」
火薬じゃない?
「ビル一つをまるまる倒壊させたのに火薬じゃないのか…周辺の被害から見て、横から爆発させたとも考えられない…くそっ、情報が足りなさすぎる」
俺とヤズミがうんうん、唸っているとイルマ隊長が戻ってきていた。
あの顔色からすると参謀会議で色々といわれたのかもしれない。
おそらくだが、参謀会議で議題にあがったのはキリエル人と“ウルトラマンティガ”だ。
超人的な力を持つウルトラマンティガを一部の参謀が地球防衛の障害になると考えてもおかしくない。
その中でイルマ隊長はティガを擁護している。
危険視している人からすれば目の上のタンコブだ。
加えて、キリエル人のテロ宣言。
問題は山盛りだ。
いやだ、八幡、社畜生活まっしぐらじゃないか。
「しばらく休まれたらどうですか?」
ムナカタリーダーがイルマ隊長へ声をかける。
「陸にしばらくあがれませんよ」
「…少し、部屋で休むわ」
隊長はそういうと司令室を後にする。
「イルマ隊長、疲れているみたいですね」
「仕方ないだろ?上から色々言われているんだ。加えて隊長だ。疲労は俺らの倍…いや、俺らよりかは下だろう」
「そこは上っていうべきでしょ?」
ヤズミの咎める視線をスルーする。
疲れていることをアピールして首に、ならないよなぁ。
「隊長から緊急連絡です」
ヤズミの言葉に全員が顔を上げる。
隊長は自室にいるはず…まさか。
「リーダー、隊長の部屋に行ってきます。ヤズミ、隊長の会話、PDIに送ってくれ」
「了解」
「僕も行きます!」
ダイゴ隊員と共に隊長の部屋へ向かう。
キリエル人のメッセージは隊長に向けられていたものだったのか?
基地内を走る俺の頭の中は別の事を考えていた。
耳にイヤホンをはめてPDIから流れてくる会話へ耳を澄ます。
『貴方がキリエル人?』
『いいえ、私はキリエル人ではありません…予言者です』
『キリエル人が私へ何の用かしら?』
『キリエル人へ敬意を表してください。まず、貴方が』
『どうして、私なの?』
少しでも時間を引き延ばして情報を得ようとしているようだ。
しかし、予言者と名乗る男は伝えることだけを伝えに来たようだ。
『時間はあまりないですよ?貴方がこの場で地球人類代表として敬意を示さないとK-1地区が…穢れを焼き払うことは誰にもできない…貴方も』
『やめなさい!』
多くの人が犠牲になると想像したのだろう。
隊長の声に緊張が走っている。
淡々と喋っている予言者はやりかねない。
俺はそう直感出来た。
『答えを…敬意を表しなさい……………』
隊長は沈黙する。
得体のしれない、いや、脅しをかけている相手へ敬意を示せなどできるわけがない。
こんなものは侵略と同じだ。
ハイパーガンを構えていると扉から出てきたのは隊長。
「……予言者は!?」
「ここからは誰も出てきていません」
「そんな!…K-1地区!」
顔を青くした隊長が走る。
場所は作戦室だろう。
「ダイゴ隊員、隊長の後を」
「わかった、八幡は?」
「自分は、中を調べてきます…爆弾とか置かれている危険がありますから」
基地のレーダーに引っかからなかった相手だ。
何かとんでもないものを残していないとも限らない。
一人、中へ入る。
女性の部屋に無断で侵入しているのだが非常時という事で許してほしい。ダメなら首にしてくれて構わない。退職金はしっかりもらっていくけれど。八幡、えげつなーい。
「…さっき、落としたのか?」
隊長の机から写真が落ちていた。
ガラス張りの写真の中には三歳くらいの男の子が映っている。
「……そうだ」
俺は写真を傍の機械でアクセスする。
アクセス先はメトロポリス警察データベース。
もし、俺の仮説が正しければ…。
「何をしているのかしら?」
ぎくぅ!
俺は慌てて振り返る。
開いた扉にもたれるようにして立っているのはイルマ隊長。
しまった、扉をあけっぱなしだった。
「あ、あの、よ、予言者とかいう奴が不審なものを置いていないかチェックしていました」
「そう…怪しいものはあった?」
「い、い、え、みつかりませんでした。失礼しまーす」
「待ちなさい」
外へ出ようとした俺はぴたりと止まる。
おそるおそる振り返るとイルマ隊長は小さな笑みを浮かべていた。
あ、結構、綺麗だ。
そんなことを思っていた俺に隊長はとんでもないことを伝える。
「これから行くところに付き合ってもらえるかしら?」
ヤバイ、デートの誘いがきたよ。
俺は二の句もなく頷いた。
私服に着替えた俺達はイルマ隊長の車でメトロポリスの市街地にきていた。
根拠のない情報のため、市民へ不安を与えることを阻止するという理由がある。
車を運転しているイルマ隊長へ俺は思っていたことを尋ねた。
「隊長」
「何かしら?」
「…今回の件、自分のせいで起こっているとか考えていませんよね」
「そうみえるかしら」
「残念、ながら」
車を運転している隊長と目を合わせずに俺は答える。
今回の事件、隊長は運が悪すぎた。
テレビ取材の現場でキリエル人の予言。
続いて、基地内、隊長の部屋へ予言者が訪れての二回目の予言。
これらの場にイルマ隊長がいたことで、自分が原因で今回の騒動が起こったのだろうかという考え。
「はっきりいって、それは己惚れに近いです。奴はたまたま近くにいた人間でGUTSがいたから接触してきただけです。隊長に落ち度があるとすればGUTSの隊長だったことを嘆けばいいんです」
「貴方が社畜として奮闘しているみたいに」
「……ま、まぁ」
「ふふ」
イルマ隊長は小さく笑う。
あ、エクボが見える。
「やはり、貴方をGUTSに選んだのは間違いじゃないわ」
「へ?」
「何でもないわ。そろそろつく」
「うっす」
俺達は車から降りる。
市街地にある普通のアパート。
入口はセキュリティが万全だが、そこはPDIでIDを明かすことで難なく入れた。
住民の名前はイタハシ・ミツオ。
会社員。どこにでもいる平凡な男。
それが隊長の前へ姿を見せたキリエルの予言者。
「何が、予言者よ」
イルマ隊長はイタハシを普通の男だとみているのだろう。
おそらくだけれど、怪しい。
セキュリティの高さにおいてTPC程、高難易度な場所は存在しない。その基地へ他のカメラに映ることなくイルマ隊長の部屋までこられるのだろうか?
懐にあるハイパーガンへ手を伸ばしながらそのことを考える。
「私が先行するわ。少ししたら続いて」
「了解です」
イルマ隊長は部屋の中に入る。
おそらく部屋のデータベースへアクセスするつもりなのだろう。
数分の間をおいて中へ入ろう。
その前に…。
「人を尾行するなんてよくないっすよ。ダイゴ隊員」
「……ばれ、てた?」
階段からひょっこりと姿を見せたのはダイゴ隊員だ。
「GUTSなら定時連絡しないと」
「隊長の命令っす。自分は悪くない」
「うわ、なんて隊員だ」
「…中へ入ります。来ますか?」
「勿論」
ダイゴ隊員と共にハイパーを取り出して中へ入る。
耳を澄ませていると隊長と予言者の会話が耳へ入った。
『自分が気を引く』とダイゴへ指示を出して中に入る。
「おや、お客様かな」
リビングへ入ると驚いた顔をしている予言者と壁におさえつけられているイルマ隊長の姿がある。
落ち着け、ここで感情のままに行動したら危ない。
「予言者のアンタ、人間じゃないんだな」
「その通り、私はキリエル人に選ばれた。キミ達もキリエル人に忠誠の証を立てるんだ。そうすれば救われる」
「逆らう奴は地下から噴き出す焔みたいな奴で街をボーンか?」
「……キミは優秀なようだね。見た目はともかく。キミのような人間をキリエルは歓迎するよ」
見た目、俺の目のことをいっているんだろうな。
軽くディスっておいて歓迎するかふざけているなぁ。
「悪いが、俺は無宗教だ。本日も、これからもどこかに入教する予定はねぇよ」
「愚かな。キリエルの救いを拒むというのか?」
「拒むも何も、俺はそんなものがなくても生きているという事さ。とにかく、隊長を離せよ」
懐からハイパーガンを取り出す。
射撃訓練はしている。この距離なら外すことはない。
「撃てるのかな?手が震えているよ」
流されるな。
こいつは人間じゃない。
直接、手を下していなくても多くの人を傷つけている。
野放しにできない。
「八幡!」
ドアが開いてハイパーガンを構えたダイゴ隊員が催涙ガスを放つ。
ガスを浴びた予言者は床へ倒れ…消えた!?
目の前で予言者は消える。
壁に抑えつけられていた隊長も床へ崩れ落ちた。
俺は隊長の下へ駆け寄る。
『最後の予言を語ろう』
消えた予言者の声がこだまする。
「最後…だと?」
『貴方達が生きている間に聞くこととなる最後の予言、ということだ。次に聖なる炎がなく場所は………ここだ』
「くそっ」
「敵対する奴は容赦なく削除かよ…」
悪態をつきながらPDIでリーダーたちへ連絡を取る。
そして、住民の避難をスピーカーで行う。
「ダイゴ隊員、俺が隊長を連れていきます。町の人の避難を」
「でも…」
「頼む!」
「急いで!」
イルマ隊長の鶴の一声でダイゴ隊員が部屋を出る。
「さ、隊長、俺達も」
「ごめんなさい」
「気にしないで下さい。俺がもっと早く…」
予言者を撃っていたら。
その先の言葉を飲み込む。
ダメだな。人を撃つ覚悟もないのに。こんな職業にいるなんて。
「予言者、イタハシ・ミツオは三年も前に死んでいたわ」
「死んで…じゃあ、アイツは?」
「正体はわからない。少なくとも人間じゃない」
「くそっ」
躊躇わずに撃っていたら。
「その気持ちを忘れないで」
俺の顔を見て隊長は呟く。
ダイゴ隊員が手早く避難を促してくれていたおかげで街の人達は安全なところまで逃げている。
「くそっ、この近くなのか」
空を見るとガッツウィング一号が両翼を閉じて浮遊している。
よくみると下部に電磁波を放つ、マイクロウェーブ砲が現れていた。
このままだと危ない。
俺は焦るように距離を取ろうとする。
しかし、間に合わない。
どれだけ走ろうにもダメだ。
高周波に巻き込まれる!!
俺が隊長だけでも守ろうとした時、巨大な手が俺達を包み込む。
人のような温もり。
太陽の中にいるような温かさだ。
やがて、浮遊感はなくなり、俺と隊長は地面へおろされる。
「ウルトラマン…」
「ティガ」
顔を上げると俺達を助けてくれたウルトラマンティガが見下ろしている。
「キミを待っていたのだよ!」
その声の方を俺は見る。
ティガを見上げている男、それは予言者だ。
「ウルトラマンティガ、キミは地球の守護神になるつもりかね?烏滸がましいと思わないかい?君が姿を見せるずっと前から、この星の愚かな人類は長い年月、キリエル人の導きを待っていたのだよ」
予言者の足元に亀裂が入り、赤い光が噴き出す。
「見せてやろう、キリエル人の力を!キリエル人の怒りの姿を」
叫びと共に噴き出した炎は形を作り、やがておぞましい異形へ姿を変えた。
「あれが、キリエル人の正体?」
「おそらく、違う」
隊長の困惑の声に俺は否定する。
「ヤズミ、サーチしてくれ」
PDIでヤズミに衛星で調べるように言う。
『八幡隊員のいう通り、奴は身長、体重、体格、全てをウルトラマンティガに合わせていると思われます』
「挑戦するために…」
「そうすることでキリエル人の力を誇示する…自分らに従うことが正しいと思わせるためだ」
くだらない。
どこまでも自分達が正しいのだと疑わない、自己満足のような連中。
そんな奴に。
「負けるな」
ウルトラマンティガが勝つことを願う。
「隊長!」
ウィングから降りたシンジョウ隊員達がやってくる。
「八幡!無事かいな?」
「俺はなんとか…それよりも隊長を」
地面へ座り込んでいる隊長をシンジョウ隊員達に手助けしてもらう。
その間に事態は動いていた。
キリエル人の炎がティガへ炸裂。
ティガの胸の水晶が赤に点滅を始めていた。
不気味な笑いと共にキリエル人の猛攻が迫る。
「私は信じているわ!貴方が守り導いてくれるって!」
「負けるな…」
イルマ隊長の言葉がティガに届いたのかはわからない。
紫のティガはキリエル人を凍らせると通常のスタイルへ戻り、両手をL字に構えて光線を放つ。
その光線を受けたキリエル人は大爆発を起こす。
「よし!」
不覚にも俺はガッツポーズをとる。
キリエル人に勝利したのがウルトラマンティガであることに喜んだのだ。
ティガはこちらをみると空へ去っていく。
「……あれ、ダイゴは?」
ホリイ隊員の言葉に周りを視ようとするとこちらへやってくるダイゴ隊員の姿が。
「そういや、八幡、無断で基地抜け出したやろ」
「いえいえ、隊長の命令で」
「あら、私は命令なんてしていないわよ。お願いしただけ」
「なっ!?」
「あーあ、いけないんだぁ」
「そ、そんな」
「冗談はほどほどにして帰りましょう」
「はい!」
「え、冗談だったの?」
八幡、肝を冷やしちゃったよ。
そんなことを思いながらガッツウィングで俺達は基地へ戻る。
戻る最中、ふと、俺はあることを考えていた。
キリエル人の挑戦は失敗に終わった。
しかし、奴が完全に消滅したかといわれると怪しい。
そもそも、奴らの正体はなんなのか?
実体のない精神体、それとも地球外生命体?
情報が足りないからこれ以上は考えようがない。
だが、あれほどまでの執念の奴らだ。
もしかしたらまた現れるかもしれない。
「(その時は…戦うさ。なにがあろうと)」
なにより、俺達、人類には味方がいる。
ウルトラマンティガ、
今も完全に信じていいのかわからない。
けれど、イルマ隊長と一緒に助けられた時、暖かいものを感じた。
猜疑や虚偽といったものなどない。守りたいという温かい気持ち。
まさに本物の感情。
ティガに全てまかせっきりにするつもりはないけれど、彼となら共に戦えるかもしれない。
そんなことを考えながら俺の意識は沈んでいく。
徹夜続きで此処のところ、ねていなかったなぁ。
あぁ、これだから社畜生活は嫌なんだ。
そんなことを思いながら俺の意識は闇に沈んだ。
気づいたシンジョウ隊員に殴られて再び目を覚ますのはウィングが基地に着いた時だった。
ひとまず、ここで止めます。
結構、感想で面白いと言ってもらっていますので前向きに検討していきます。