今回のもかなり悩み、こんな結末になっておりますが楽しんでください。
川崎沙希にとってクルス・マヤとの関係は親しい友人だと思っている。
彼女と知り合ったのはバイトの帰り道。
路上でライブしていた彼女の曲を気に入り、毎日のように通い続けていたらいつの間にか親しくなっていた。
そして、彼女が歌手としてデビューすると聴いた時は自分の事のように喜んだこともある。
デビューしてから途轍もない人気を持っている彼女からライブの招待チケットをもらう。
少しだけなら話せるから来てほしい、そういわれて川崎沙希は行くことにした。
それにしても、
「(なんで複数人用のチケット渡すかなぁ?)」
ひらひらと手の中で揺れるチケットを眺めながら川崎沙希は小さな息を吐いた。
シンジョウ隊員の乗っている試験機がコンピューターの指示通りの軌道へ到達したとレナ隊員がいる。
今日は第三回目のニューマキシマオーバードライブのテスト。
シンジョウ隊員は一日を潰して宇宙で実験を行う。
前に俺も実験をしたんだがその時の記憶が酷くあいまいなものだ。
寝ていたわけじゃないし。
そんな疑問を抱いているとダイゴ隊員がシンジョウ隊員に頼まれてライブの代打を引き受けていた。
「……ライブねぇ?」
そういえば、俺も川崎さんにライブへ誘われていたな。
この前の“お礼”といわれたら無理に断ることもできない。
加えて小町と大志がいくのなら監視の為に目を光らせる必要がある。
気のせいかあの二人、距離が縮まっている気がするのだ。
『お兄ちゃん、小町は大志君と結婚することになりました』
『これからよろしくお願いします!お義兄さん!』
「いやだぁあああああああああああああああああああああああああああああ!」
考えた瞬間、街中で俺は叫んだ。
すいませんでした。
待ち合わせ時間に遅刻することなく俺は到着する。
安心だったのは小町が川崎さんと大志の二人でやってきたことだ。
「お兄ちゃん、久しぶりだね!元気にしているかな?小町はとっても心配です。あ、小町的にポイント高い!」
「最後のがなければ問題ねぇのに…」
「お兄さん!久しぶりです。先日はありがとうございました!ほら、姉ちゃんも!」
「あ、あぁ……この前はあ、ありがとうな。比企谷」
「いや、気にするなって」
微妙な空気が漂う。
しばらくして小町が行こう!ということで俺達は場所を変える。
「クルス・マヤ?」
「そ、アタシの親友だ」
少しはにかんだ表情で川崎は言う。
なんというかかわいらしい顔だな。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん?」
「ん?」
「声に出ている」
「なぬ!?」
慌てて川崎を見る。
トマトかと錯覚するほどの真っ赤なものだ。
殴られることを覚悟するべきかもしれない。
しかし、待っていたのは俺の手を握るという異常事態。あれですか?原形をとどめないくらい握りつぶそうというつもりですか!?
「しばらく、こうしているから」
「あ、はい」
抵抗すれば命はない。
そう考えながら俺達はクルス・マヤのライブへ来ていた。
ライブにきたけれど、ここまで白熱するものだとは知らなかった。
小町、大志、川崎は我を忘れたように白熱している。
俺は辛うじて理性を保った。
もし、失ったらこいつらみたいにバカ騒ぎをしていただろう。
それくらい白熱させる何かをクルス・マヤという歌手は持っていた。
八幡たちを残して川崎沙希は待合室へ向かう。
本来ならスタッフに止められるところなのだが親友のクルス・マヤ本人が迎えに来てくれたことでそれは避けられた。
「久しぶりだね」
「そうね……三カ月くらい?」
「電話を除いて直接だとそれぐらいだね」
スタッフとしては見知らぬ人間と彼女を関わらせることはマスコミに要らぬ情報を与える危険があるから避けたいというところがあるのだろう。
唯一、合間を縫って電話をかけることしかできなかった。
「久しぶりにサキと話せて嬉しいよ」
「私、も」
「そういえば、壇上からみえたけれど、弟君以外にかわいい子とカッコイイ男の子がいたけれど?サキの彼氏?」
「ち、違う!」
顔を真っ赤にして川崎は否定する。
「彼氏とか、そういうのじゃない……恩人、だよ」
「恩人?」
「そ、アイツがいてくれなかったらきっと私は間違った道を進んでいた。もしかしたらアンタとも知り合う機会はなかったんじゃないから」
「大事な、人なんだ?」
「そうだよ。マヤは?」
「いる、と思う」
「思う?」
「サキ、もし、だよ?」
告げられた言葉を川崎沙希はこの先忘れることがないだろう。
「私が宇宙人っていったら信じる?」
「「ふわぁぁ~~」」
俺が欠伸をすると隣で同じようにダイゴ隊員も欠伸した。
「なぁにぃ?二人して」
「いえ、俺は家族づきあいで」
「マユミちゃんとデートして疲れた」
「え?」
「マユミさんとデートしたんですか!?」
ダイゴ隊員の言葉でヤズミが立ち上がる。
そういえば、由比ヶ浜から聞いたが、この前のやり取りから話をするようになったらしいな。
「代理だよ。シンジョウ隊員の……ライブいって、疲れた」
「え?」
ライブ。
それを聴いて頭に浮かんだのは川崎や小町と行ったクルス・マヤのライブだ。
まさか、ダイゴ隊員とマユミさんも?
「クルス・マヤって、ライブ……みんな、知らないでしょ?」
「なんやて……なんで俺も呼ばへんねん?」
づかづかとダイゴ隊員へホリイ隊員が向かう。
気のせいだと思いたいが持っていたボードの裏にクルス・マヤの写真と「マヤ命!」と書かれていたような気がする。
「見損なったわぁ、ダイゴ!なぁ、八幡」
「あ、はぁ」
俺もライブ行ったと知ったらこの人、暴れるんじゃないだろうか?
「ダイゴ知らないのね。ホリイ隊員は熱狂的なクルスチャンなのよ」
「クルスチャン?」
「え、クリスチャン?」
「アホ、クルスチャン!」
「クルス・マヤは今や若者たちの間で熱狂的なのよ?まさに信者が沢山いるようなもの」
「だから、クルスチャンですか……最後は十字架に磔なんてことにならないといいですけれど」
「ありえへん、そんなことなったら俺らは全力でなんとかするわ」
ホリイ隊員は自信満々に言い放つ。
和気あいあいとした空気だったがこの一時間後。
シンジョウ隊員の乗る試験機が実験コースを大きく外れていくことで緊張した空気が漂い始めていく。
無事にといえば少し語弊があるがシンジョウ隊員は保護された。
今はメディカルセンターのベッドで死んだように眠っている。
マユミさんの話によれば目立った外傷はないという。
「一体、何があったんすかね?」
「試験機にこんなものが録音されていた」
シンジョウ隊員を見守るようにしているマユミさん、ダイゴ隊員、リーダーと俺。
リーダーが録音機を起動させる。
機械から流れてくるのは奇妙な音。
「歌?」
「何か、悲しそうな……」
悲しそうな音だった。
俺達が音を聞いていた時、ぱちりとシンジョウ隊員の目が開いた。
「八幡隊員……」
「目を覚ましたようですね」
部屋へ入るとシンジョウ隊員が振り返る。
クルス・マヤの曲が鳴り響いていた。
「この星は良い所だ」
「アンタは、宇宙人っすね?」
「……どうして、そう思う」
「さっきのダイゴ隊員の会話を聞いてそう感じました……といったら信じますか?」
「……それだけではないようだ」
シンジョウ隊員は俺の中にある何かを見るようにして頷く。
「キミは私を敵とみるか?」
「正直、なんともいえない……でも、アンタは何か目的があってシンジョウ隊員の体に、いや、地球にやってきたんだろ?」
「妹を見つけた」
シンジョウ隊員はちらりとクルス・マヤをみる。
「妹?」
「僕は妹に会うためにこの星へやってきた」
「敵対する意思はないって?」
「そうだ」
「一応、信じます。ただ、宇宙から帰ってきたばかりなんだ。少しの間は安静にしてください。アンタの体じゃないんだから」
「わかって、いるさ」
シンジョウ隊員(仮)の言葉が耳に残りながら俺は部屋を出る。
少しして、川崎から話があると連絡が来た。
「こんなことさ、アンタに相談するのもどうかと、思うんだけど……少し前にクルス・マヤのライブに行ったでしょ?」
「そうだな」
置かれているコーヒーに角砂糖を放り込む。
「あの子が変なこと、いったんだ」
「歌手なんだから変なこと言う位あるんじゃないの?……俺の偏見だけど」
歌作るのに想像力豊かになるべきじゃ?
川崎は鋭い目でこちらをみる。
「アンタの偏見はともかく、あの子があんなことをいうわけないんだ……自分が」
――宇宙人なんて。
その言葉に俺は絶句する。
自らを宇宙人と言い出す。
加えてクルス・マヤは女性。
パズルが勝手に組み込まれていく。
そして、ある解答ができあがる。
「……なぁ、川崎」
「なによ?」
「実は」
話をしようとした時、PDIに連絡が入る。
相手はダイゴ隊員。
話の内容はシンジョウ隊員が部屋から抜け出したという事だった。
「あぁ、くそっ」
あの宇宙人め!
俺は悪態をつきながら川崎に謝罪して外へ出る。
置いてある単車に乗り込もうとすると後ろからドシンと小さな音が。
「なにしてんの!?」
「いいからさっさと行く!話はまだ終わってないんだ」
「終わってないけれど、いったん、仕切り直しとか」
「何か」
川崎が真っすぐに俺を見る。
「私に隠しているでしょ?」
その言葉に俺はわかる程、動揺してしまった。
「話をちゃんと聞きたいから、そのいなくなった隊員さん、探しに行くよ」
「…………はい」
クルス・マヤに会うべく俺はきていた。
GUTSの身分証明を使うとあっさりと彼女と面会がかなう。
「腐ったような目……貴方がサキの話していた恩人かしら?」
「さぁな」
腐った目で納得されるって色々と問題があるような気がするがここで騒ぐことはやめておこう。主に俺の心労のため。
「話って何?」
「キミのお兄さんの事……正確に言えば、宇宙からやってきたお兄さんの事だ」
「流石、GUTSだね。どこでわかったの?」
「話を聞いても?」
「いいよ」
クルス・マヤは語る。
十五年前に彼女は事故にあい、命を落とした。しかし、宇宙からやってきた別種族によって彼女は生き延び、今まで生きてきたという。
そんな彼女の前に兄と名乗る宇宙人が現れた。
彼は自分を連れて宇宙へ向かうという。
「アンタはそれでいいのか?」
「何が?一人にならずに済むのなら当然でしょ」
「今までの物をすべて捨てる、か」
「いけないこと?」
「いいや、逃げることは時に必要だ。そこは肯定するさ」
「何が認められないの?」
「……すべてを捨てて、本当に後悔しないのかどうか、さ」
「もう一人ぼっちでいられないのなら……私は」
「俺は今回、部外者だからとやかくいえない……でも、彼女はアンタにいいたいことがあるみたいだ」
俺の後ろから姿を見せたのは川崎沙希。
話を聞いて、少し怒ったような顔をしている。
「私は悲しむよ。マヤ」
「サキ……」
「アンタが宇宙へ行くっていうのを心から望んでいるなら応援する。でも、何かからにげるっていうんなら、反対だ。苦しんでいる友達を見捨てて逃げるなんてことは絶対にできない」
「でも、私にとって一人の家族なんだ……」
「本当に宇宙へ行くことが正しいの?そこを考えるべきだ」
「私……」
結果論を伝えるならクルス・マヤは人間として生きていく。
彼女を迎えに来ていた兄は追跡者としてやってきたナターン星人に殺害されてしまう。
エイリアンの兄に化けたシンジョウ隊員の言葉で彼女は地球で生きている。
「また、大ヒットか」
クルス・マヤの新曲「青い夜の記憶」は今も絶大的な人気を誇っている。
教科書などに彼女の名前はそのうち刻まれるかもしれない。
まぁ、俺としては平穏が一番だ。
彼女が有名になろうと関係はない。
「八幡、これはどういうことや!?なんでお前宛にクルス・マヤのサインがきているんや!?」
「知りませんよ。俺は接点なんて」
「嘘つけぇ!比企谷八幡様へ!ありがとうって書かれとんで!?」
平穏が一番なのだ。
こんな騒ぎの要因など不要。
そう、絶対に。