奴らは諦めていなかった。
一度、敗れたからと言って見捨てる、いや、手放すつもりなどなかった。
方法を変えて、彼らは別の手段を用いることを決めた。
奴を悪として自分達を神として崇めさせるために。
このところ、メトロポリスでは天使の目撃が増えていた。
天使、
街中で広まる天使について様々な話が飛び交っている。
いわく、天使は全てを救う。
いわく、天使は死者を蘇らせる。
いわく、天使は運命の人を見つけ出してくれる。
いわく、天使は――。
まるで天使は全てが可能だというかのような物言いだ。
俺は天使にあったことがない。
しかし、ある奴が天使を目撃したから相談に乗ってほしいといわれて、ここへきていた。
「……それで、天使を、みたって?」
昼間、俺は休暇中だったことから小町と一緒に川崎…さんのところへきていた。
コクン、と元気がなさそうに川崎さんは答える。
「バイトの帰り道、誰も通らない道を歩いている時、目の前で何かが光ったと思ったら……」
「天使がいたと」
「それからだよ。何か、変な気持ちになるんだ。天使を見たい……天使の為に何かしたい、それに抗おうとしたらずっと、頭痛がして……」
「お兄さん!姉ちゃんは、姉ちゃんはどうなって」
「落ち着け大志、あとお兄さんいうな」
「そうだよ。私のお兄ちゃんはGUTSなんだから今頃、ナイスはアイディアがでて」
小町ちゃん、嬉しいけれど。プレッシャーでかいからやめてね。
「今、GUTSも天使について調べている」
任務から外れているがGUTSも話題になっている天使について調べていた。
今の所、わかっていることは少ない。
一つ、天使の話はメトロポリス周辺で広まっているという事。
天使の形は見た人間によって異なっている。可愛いというものから凛々しいというものまで様々な物。
続いて、天使の性別は定まっていない。男から女……はたまた、おかまみたいなものまで存在しているらしい。
今回のケースははじめてだが、なるほどと俺は理解してしまう。
周りの人間から天使信仰者になった奴は性格が変わったという話がある。その原因が今の川崎に起こっているんだ。
「川崎、天使を見た時、他に何か見たか?」
「他?…………ごめん、覚えていない」
「お兄さん、姉ちゃんは」
「今は何とも言えない……これ以上、酷くなるならTPCの医療施設で検査を受けてみることを勧める」
「そこまで、酷いんですか!?」
「お兄ちゃん」
不安そうに小町が俺の服の裾を引っ張る。
「あくまでこれは提案だ。意識を失う位になるならさすがに緊急措置をとらないといけなくなるが……ま、そこは置いておいて、川崎、まだ頭痛はするのか?」
「今は大分、楽になっている」
「よし、気分がてらに街を歩こう……小町、俺とデートしてくれ」
「ごみぃちゃん、そこは大志君のお姉ちゃんを誘う所だよ!?」
小町からの冷めた目、隣で大志も呆れている。
そして。
「アンタ、こんな時まで……ま、いいよ。いこっか」
苦笑しながら川崎さんは頷く。
にこりと俺と小町は微笑む。
作戦成功だ。
どうしてこうなった!?
俺と川崎さんの二人は街中を歩いていた。
もう一度言おう、二人っきりだ。
小町と大志は途中で姿を消した。
どこいった?まさか二人っきりでデートしているんじゃないだろうな!?
「まさか、アンタがきてくれるなんて、思わなかったよ」
「へ?」
「GUTSはいつも忙しいって聞いているから……今日も」
「まぁ、妹から頼まれた以上、来るに決まっているだろ?」
「シスコン」
「ブラコンとシスコンの二つを兼ね備えている人にいわれたくねぇよ」
「そりゃ、そうだ」
川崎が小さく笑う。
そんな俺達の頭上をガッツウィングが通過していく。
「アンタも、あれに乗っているんだよね?」
「まぁな」
「怖くないの?」
「そりゃ、怖いさ……でも」
「でも?」
「恥ずかしいからあんまりいいたくない」
「いいじゃん、途中までいったんだから、最後まで」
川崎の体が震えだす。
「おい?どうし」
彼女が見ている方向を見て俺は固まる。
上空に“何か”が集まり始めていた。
「何か……が、入って」
「川崎!?体調が悪いのか?救急車を」
「その必要はないよ」
川崎の口が開く、しかし、紡がれた声は彼女の物ではない。
気づいた時、途轍もない衝撃が俺を襲う。
メトロポリスの街中の様子が作戦室のスクリーンに映されている。
そこでは天使到来を今か今かと待っている人たちがいる。中には天使の人形を抱きかかえている者の姿もあった。
突如、映像が途中で消える。
「なんや?アンテナ折れたんとちゃうか?」
「くそっ……また、頭痛がしてきた」
パトロールで天使がいるエリアを巡回していたシンジョウは頭を押さえる。
あのエリアを回っていた時、急に頭痛が襲い掛かってきたのだ。
「電波ジャックです!」
「発信地をトレース!」
乱れていた映像が回復する。
「質量は計測できませんが強大な磁場が感知できました」
「どういうことだ?」
「何かがいるってことです!」
「おい!」
シンジョウの言葉に彼らはスクリーンを見る。
現れた天使の映像、その前に現れた男。
その男を彼らは知っていた。
『最後の審判の時が来ます。本当の悪魔を倒さなければ、人類は滅びてしまうだろう』
「……予言者か」
『門を開けるのです。そして、天使の審判を受け入れるのです』
「キリエル人か……」
『悪魔の名はティガ!』
「休暇中の八幡を呼び寄せろ!」
「はい」
衝撃と共に崩れ落ちた俺の前へ川崎が近づいてくる。
違う、川崎の姿をしているがアイツは予言者だ。
「一度、負けたら諦めろよ」
「最後の審判が近づいてきている。天使を迎え入れるのです」
「その途端、多くのキリエルがやってくるんだろ?お断りだね」
衝撃波が俺に襲い来る。
「貴方も受け入れるのだ。そうすれば救われる」
「飼い殺しはお断りだ」
ハイパーガンを取り出す。
「川崎から離れろ、さもなければ」
「撃つかね?撃てるのかな?この子はキミの友達だろう?撃てば私は出ていくだろう……しかし、この子の命はない」
衝撃がやってくる。
俺の手からハイパーガンが零れた。
「本当の悪魔が裁かれる。我々を受け入れる時がやってくる」
「黙れよ!」
肩を踏みつけてくる予言者の足を掴みながら俺は顔を上げる。
「てめぇらの気に入らない相手を潰すために周りを利用するような最低な奴に従うわけがないだろ……ウルトラマンは悪魔じゃねぇよ。本当の悪魔は」
予言者は小さく笑うとそのまま離れていく。
「くそっ、おい、川崎を……」
「この少女は選ばれた二人の目の巫女となるだろう」
「ふざけ……」
衝撃波によって吹っ飛んだ俺は流れていた川の中に落ちた。
予言者の言葉に従って街の人たちが天使へ祈りを捧げる。
「ウルトラマンは悪魔!」
「悪魔!」
「悪魔!」
呪詛のようにウルトラマンティガを否定して天使を信じる。
その感情エネルギーが空中へ集まっていき、不気味な門を形成していく。
「地獄の門」
「隊長……」
「ガッツの力でもかなわない、ウルトラマンだって」
「弱気になったら負けです。ウルトラマンだって人間がその力を信じなきゃ、光となって戦うことはできない」
ダイゴの言葉にイルマは小さく呟き、シャーロックの通信機を使う。
「リーダー、門を開いてはダメ、あれが開いたらキリエルの大軍が攻めてくるわ」
『復帰を、お待ちしておりました』
ムナカタは返事をしてから指示を出す。
「ガッツはこれよりキリエルの襲来を防ぐ。門を開かせるな!」
「了解」
『了解!団体さんを来させて堪るかよ』
川から這い出た俺は川崎を探す。
小町と大志からPDIに連絡が来ており、二人には避難を指示した。
「お兄ちゃん……」
「俺は大丈夫だ。大志」
「は、はい」
「お前の姉ちゃんは必ず連れ戻すから、それまで俺の妹を絶対に守れ、何かあったら地獄だろうと宇宙の果てだろうと追いかけるからな」
「は、はいっす!」
「小町、大志と一緒に安全なところへ行け、それと天使の団体には関わるな。もし、困ったことがGUTSの車かTPCの施設へ行け」
「わ、わかった」
「い、いきます!姉ちゃんのこと、頼みます!」
「……おう」
川崎は天使の団体を遠くから見ていた。
少し離れた所ではウルトラマンティガと前よりもおぞましい姿になったキリエロイドがいる。
ティガがタイプチェンジをすれば、奴も同じように形を変えていく。
「自身を誇示したいってか?」
「もう、まもなく、門が開く」
川崎の中にいる予言者が微笑む。
「悪いが、俺も……俺の仲間も最後まで足掻くし、諦めない」
「ウルトラマンティガですら勝てないというのに?」
ティガはキリエロイドの攻撃を受けて大地に倒れている。
キリエロイドは倒れたティガを無視して門をこじ開けようとしていた。
「ティガだけが戦っているわけじゃねぇ、GUTSがいる」
「キミ達だけで勝てるわけがない……大人しく、我々の救いを受け入れよ」
「あんまり、俺がこういうことを言うキャラじゃないって自覚しているんだけどさ。お前、人間の事舐めすぎてんじゃね?」
「……なんだと?」
怪訝な表情を浮かべる予言者。
周囲に設置されている液晶テレビから、いたるところから音声が流れていく。
『地球平和連合、GUTS隊長のイルマ・メグミです。みなさん、目を覚ましてください。ウルトラマンティガは私達を何度も守ってきました。あの天使こそが世界を滅ぼす悪魔なのです。今度は私達が力を与える番です。ティガに光を与えてください』
怪訝な表情を浮かべている予言者。
普段の俺ならこんなことはいわない。
人間はいつか堕落する。
聖女も、英雄もいつか堕落する。
生きている限り綺麗なものは穢れていく。
その中で強い輝きを持つ者がどれだけいるかわからない。
けれど、ウルトラマンティガと、GUTSと出会って、俺は少しだけ昔の自分が持たなかったものを手にした気がする。
「人間はお前らに頼る必要なんてない。自分で何が正しいのか選べる。そういう奴らだ」
直後、大勢の人たちがティガへ光を与えていく。
意識を失っていたティガがゆっくりと体を起こしていった。
「馬鹿な!」
動揺している予言者へ隙をついて近づく。
「返せよ。川崎の体を!」
叫びと共にハイパーガンから大量の煙が放たれる。
川崎の意識がなくなった途端、アイツの体からモヤモヤした何かが飛び出す。
倒れた彼女を抱きかかえる。
ゆっくりと地面へ下す。
モヤモヤは悔しそうに揺らめいてからキリエロイドへ向かっていく。
ティガは先ほどの苦戦と打って変わって、キリエロイドを圧倒する。
その姿は人の歓声を受けて強くなるヒーローを連想させていた。
倒れたキリエロイドを門へ投げ飛ばす。
開きかけていた門はキリエロイドが激突したことで閉じる。
ウルトラマンティガが光線を放った。
門と共にキリエロイドは大爆発を起こした。
「……あれ?」
爆風が宙に広がっていく。
薄暗い闇から明るい光が一時的に包まれていった。
意識を失っていた川崎が目を覚ます。
「比企谷?」
「お、おう」
「何で……」
「とりあえず、無事でなによりだ」
「は、え?う、うん」
戸惑いながら頷く川崎さんは少し可愛かった。
「可愛い……」
「なっ!?」
「あ」
ヤベッと思った時には拳が俺へ炸裂する。
キリエル人と戦ってダメージを負っていた俺の意識は闇の中へ消えた。
天使の事件から数日後。
「あ、比企谷君。待っていたよぉ~」
都内にある高級ホテル、夜景がみえる場所であの人は待っていた。
雪ノ下陽乃。
「どうも、雪ノ下さん」
「そんな他人行儀しなくていいよ。普通に陽乃さんとか……お前とかでもいいよ」
「何ですかそれは、誰かわからなくなっていますよ」
「あ、本当だー」
ニコニコと笑みを張り付けたまま話す陽乃さんだが、目は一切笑っていない。まるで何かを待っているような気がする。
「とりあえず、座りなよ」
「失礼します」
白いテーブルの前へ座るといきなり距離を詰めてくる。
「大変だったみたいだね、GUTSも」
「まぁ、いつものことですよ」
「そっかー、比企谷君も成長したね」
「そうっすかね?いろいろありますから……俺からすれば陽乃さんが宇宙開発局にいることが信じられませんけれど」
「まぁーねー」
ニコニコと笑みを浮かべているとグラスが運ばれてくる。
光を受けて反射しているグラスに赤いワインが注がれていく。
「まずは乾杯っと」
「はい」
「比企谷君はお酒を飲めるんだよね?」
「一応、二十歳っすから」
「はやいねぇ、私が社会人になるのも当然だ」
「……あの」
「そうそう、この前、比企谷君、怪物と戦ったんでしょ?由比ヶ浜ちゃんから聞いたけれど、かなり傷だらけだったそうじゃない」
「えぇ、ちょっと無茶をしまして」
「それほどまでに人が大切なんだね」
「……まぁ、そんな、ところです」
否定する気になれない。
前なら一人でも生きていける。小町以外は必要ないと固い決意を持っていた。
しかし、GUTSの人たちと出会って。
彼らの強さをみて、
ウルトラマンティガが現れて。
人間の為に、怪獣と戦っている彼と共にいて。
俺は“人間”という存在のプラスの面を信じてみたいと思うようになっていた。
これが成長するということだろうか?
「そっかぁ、比企谷君も大人になるんだねぇ」
「いきなり、何ですか?」
「唐突だけど」
笑みを引っ込めて陽乃さんはポケットから黒い小さな箱を取り出す。
箱を見ているとゆっくりと中身を空けていく。
「比企谷八幡くん」
つい、名前を呼ばれて顔を上げる。
見たことのない笑みを浮かべる彼女の姿があった。
「私と結婚してください」
ちなみにですが、雪ノ下姉との話についてはEXにて、話が進みます。
ティガ本編で割り込ませることは不可能なので……。
次回はオビコです。
軽い予告ですが、オビコも色々と織り交ぜておりますので、楽しみにしていてください。
あと、気にされている方がいたら念のため、更新速度について、
今、ティガをみたり、色々しながら書いていますが、どうしても速度に限界があり、毎日投稿することは不可能なので、ストックが二話分くらい出来上がり次第、一話を投稿していきます。
いい加減、ダイゴ隊員のカッコイイところをだしていきたいです。
それでは。