その日、由比ヶ浜結衣、一色いろは、レナ、マユミの四人は海洋科学研究所へ向かっていた。
本来ならマユミと結衣の二人はメディカルセンターで仕事が山積みなのだが、運よく、休憩体制へ入ったことで時間があり、一色いろははたまたまTPCにいる由比ヶ浜に会いに来ていた。
偶々が重なり、レナが海洋科学研究所へいくことがわかると三人はついてきていた。
「三人とも感謝してよねぇ。任務のついで、だけど、許可とったんだからぁ」
「はいはい、レナさんには感謝しています」
「御魚さんが一杯なんだろうね」
「将来の勉強させてもらいまーす」
「それにしても、レナさん?このケースの中にあるのって、そんなに重要なんですかぁ?」
一色は後ろに置かれているケースを見て訊ねる。
「えぇ、未知の生物なら、大発見になるし…汚染された深海生物なら調査しないといけないからね」
数日ほど前、海で今まで確認されたことがない生物が見つかった。
詳しい調査を行うため、生物を海洋科学研究所へ輸送する必要が出てきた。
本来なら、比企谷八幡が行うはずだったのだが。
「リーダーの命令で飛行訓練行くことになったから私が代打なのよね」
「へぇ~」
「え、先輩って飛行機操縦できるんですか!?」
「GUTSのメンバーで、戦闘も参加するから一応、持っているわ…誰かのサポートが多いけれど」
「へぇ~」
「今度、比企谷君に乗せてもらったら?」
からかう様なマユミの言葉にそれぞれが反応する。
「え、ひ、ひ、ヒッキーに!?え、で、でもぉ」
「いいですねぇ、先輩が操縦する飛行機で街を一望…自慢できそうですけれど、相手が先輩ですから…胸の内にとどめておきましょう」
「……私、地雷、踏んだかも」
「踏み抜いたんじゃない?」
苦笑いを浮かべているマユミへレナはニコニコという。
後ろの席の二人はしばらく夢の中へ旅立っていった。
海洋科学研究所。
そこは海の生物や海流、海に関する様々なことを研究する施設である。
近年、問題となっている汚染物質による環境破壊、汚染された生物の調査などに重点が置かれていることから今回の生物の調査を引き受けてもらう事となった次第である。
生物の調査を依頼して、数時間も経たずに調査報告がレナに伝えられた。
「調査したところ、やはり地下核実験の影響を受けていますね」
海洋科学研究所の所長の言葉にレナは目を丸くする。
「でも、実験は十年も前に禁止されているはずです」
「核実験、放射能というのは厄介なものでしてね。プルトニウムが地球上から消え去るのに三百年以上はかかるんです」
「人類がなくなっても核は残るんだ」
「怖いですね」
「ほぇ」
「じゃあ、あの生き物は核の影響で?」
「そうですね。厄介な問題ですよ。海底核実験、これにより生き物だけでなく海流にまで影響を及ぼしています。ここ最近も、このあたりで海底地震が起こっています」
「流れまで!?」
驚く由比ヶ浜。
核の影響は底知れないと彼女達は知った。
そして、核の影響で狂い始めている海流の流れや生き物たちの保護を兼ねた目的で海洋研究所は極超音波魚誘導発信システムというものを開発している。
特殊な電波を流すことによって魚たちを危険な場所から避難させることを目的としており、開発を進めているという。
話を聞いていたレナだったが、由比ヶ浜、一色、マユミの姿がない事に気付いた。
「あれ?」
首を傾げながら三人を探しているとイルカと戯れていた。
「もう!勝手に動き回っちゃダメでしょう!」
「ごめんなさーい」
「でも、レナさんみてみて!可愛いですよ~」
「暖かい~」
レナは苦笑する。
三人は係りの人から餌を受け取りイルカに与える。
ふと、マユミはあることを思い出す。
「そういえば、レナさんの彼氏!ここで働いているんですよね?」
「え、レナさん彼氏がいるんですかぁ!?」
「え、初耳です!」
恋話に食いつく女性陣。
そして、レナが紹介したのは。
「ミュー、どうしたの?元気ないね~」
イルカのミュー、
それがレナの彼氏だった。
「まさか、レナさんの彼氏がイルカだったとは」
「変かな?」
「「「変じゃなーい」」」
三人からみればイルカの彼氏というのはアリだったようだ。
ふと、レナが二人を見て訊ねる。
「私はそうだけど、結衣ちゃんといろはちゃんは?」
「私はまぁだ、というか、狙っている人はいますけれど、まぁ、頑張っているところですねぇ」
はぐらかすいろはに対して由比ヶ浜結衣という少女は驚くくらいに真っ赤となっていた。
「え、あ、いや、あ、その、えっと、あ、あたしは」
「あれぇ、由比ヶ浜先輩、どうしたんですか?顔真っ赤ですよぉ?」
「う、い、いろはちゃんの意地悪ぅ」
コイバナで燃え上がるのは女子として当たり前なのである。
「そういえば、八幡君、最近、元気ないですよね?」
「「どういうことですか!?」」
マユミがふと漏らした言葉に一色と由比ヶ浜が顔を上げる。
ぐぃっと二人が近づいたことにマユミは驚く。
「えっと、少し前から、なーんか、元気ないようにみえたんですけれど、何かあったんですか?」
メディカルセンターで人を診ているマユミだからこそ、最近、比企谷八幡の様子が少しおかしいことに気付けた。
レナも心当たりはある。
「多分、少し前のエボリュウの事件だと思う」
エボリュウ細胞の事は極秘事項に関わることだから話すことはできない。
どれだけ親しくても踏み込んではいけない部分になる。
少しの間、ホリイ隊員は親友を失ったショックでふさぎ込んでいたがすぐに元気を取り戻した。
ならば、比企谷八幡はどうなのだろうか?
レナはわからない。
彼は他人へ弱さをみせようとしない。
いや、見せ方がわからないのだろうか?
そもそも、彼は人と深く触れ合うことを良しとしない。
GUTSにいる以上、他の隊員とフォーメーションを組むことはある。けれど、彼は最低限でとどめている。
パイロットの直感的部分でレナはそう感じていた。
「ヒッキー…」
「全く、あの先輩は、すこーし、お話が」
「…そうだ!この先においしいケーキ屋さんがあるんですよね!?」
二人から黒い瘴気らしきものがみえたような気がして、マユミは話題を変える。
苦笑していたレナは視線を外す。
彼女が見るのは恋人のミューがいる海。
「(ミューと話が出来たら…何に怯えているのかわかるのに、難しいなぁ)」
傍から見れば彼氏のことを思い黄昏ている少女の姿。
その事を後で三人からからかわれることになるなど、夢に思わないレナだった。
最近、GUTSは怪獣撃退チームという印象を持たれがちだが本来の活動は災害救助と怪事件の調査である。
どうして、こんなことをいいだしたのか、それは今回のアラートが原因だ。
「R海域で救難信号、石油コンビナートからです」
「ダイゴとシンジョウはウィング一号、ホリイ、レナ、八幡は俺と二号だ」
「GUTS出動!」
『了解!』
某テレビ番組であるようなインターナショナルレスキューというわけではないけれど、救難信号、助けがあればそこへ向かう。
TPCの理念にもあるように人助けも俺達の仕事なのだ。最近、怪獣の撃退ばかりですっかり忘れていたけれど。
救難の内容はわかっていないらしい。
ただ、怪獣というワードがあったことから、コンビナートを怪獣が襲撃した可能性が強かった。
先行するウィング一号からの連絡でコンビナートを襲撃したのは怪獣だった。
『生存者の救助を優先して』
「了解、ウィング一号は怪獣をコンビナートから引き離せ、その間に俺達は救助だ」
「了解」
「了解です」
ウィング二号は半壊しているコンビナートへ向かう。
幸いにも死者はゼロだった。
重傷者は多かったが無事に救助は終わった。
心残りなのは怪獣を逃がしたという事。大勢の命が助かったのだからと思うかもしれないが、他の所で事件を起こされていたらマズイ。
作戦室へ戻れば今後について話されるだろう。
通路を歩いていると前にいるレナ隊員とダイゴ隊員が話し合っている。
「聴いたよ、レナの彼氏」
「え?」
「水泳選手並みの速度で泳ぐんだって、凄いじゃないか」
「こんな調子じゃ人間とイルカが理解するなんて遠い話だよね」
「へ?」
レナ隊員の言葉にダイゴ隊員が困惑した様子を見せる。
エスカレーターから降りたダイゴ隊員が立ち止まる。そこ、邪魔ですよ。
俺は横を通り過ぎる。
「え、イルカ?」
「行くか」
ブルッ!?
急に寒気がしたぞ。
俺は周りを見る。
リーダーが後ろから通り過ぎていった。
いや、まさかなぁ?
「あの怪獣は海底核実験によって突然変異を起こしたと判断されたわ」
隊長の言葉に俺達は静かにうなずく。
「今後、あの怪獣のコードネームはレイロンス」
「…レイロンスかぁ」
「あれだけの巨体だ。放置するわけにはいかねぇよな」
「実際、石油コンビナートを襲っています、今後も狙う可能性があります」
「レイロンスによる被害を防ぐため、周辺の海域を重点的に行います」
「あの怪獣に有効な策ですが……まだ、見つかっていません」
「なんやねん」
「仕方ないですよ。あの短時間で有効な対策がみつかっていたらヤズミなんて現場で大活躍しています」
「せやなぁ、ヤズミやし」
「ちょっと!それはどういう意味ですか!?てか、八幡!」
ヤズミがむっとした顔でこちらをみてくるがスルーだ。
文句を言いたければ、現場に出ろ。
「俺なんか出たくないのに何度も出撃しているんだぞ?」
「八幡君、八幡君」
「はい?」
「心の声は口に出さない方がいいよ?」
ダイゴ隊員の言葉で少し考える。
もしかして、口に出てた?
俺はそこでつい、隣を見る。
そこには素晴らしい笑顔を浮かべているリーダーがいた。
「どうやら、まだ飛行訓練が足りないようだな」
「おぉう」
「口は禍の門だね」
ヤズミがニコニコと笑みを浮かべていた。
リーダーの顔からして訓練は確定だ。
八幡、ついてない。
交互に海域の調査を行い、レイロンスの行方を捜していた。
しばらくして、日本列島の近くでレイロンスが見つかる。
「マジかよ」
俺は二号のシートで声を漏らす。
こんなことをいうのはおかしいが石油コンビナートはいくつか周囲に存在していた。
だというのにレイロンスは日本列島へまっすぐに向かっている。
どういうことだ?
攻撃開始している中で俺はヤズミへ連絡を取る。
「ヤズミ、レイロンスのこれからの進路をシミュレートしてくれないか」
『了解』
通信回線を開いておく。
『これ、何かに導かれるように進んでいるな』
「本当か?」
『このままいくと』
『海洋科学研究所にぶつかります』
何でそこに行く?
疑問が浮かぶ。
待てよ。
確か、レイロンスは海の生物。
海の生き物に関係して何かあそこで実験していたような?
『レナ隊員、海洋科学研究所にある極超音波魚誘導発信システムは稼働しているのよね?』
「は、はい!」
『レイロンスはその電波で誘導されている可能性が高いわ』
そうか!
奴も元は海の生き物。
海洋科学研究所の電波にひっかかってもおかしくはないということか。
隊長は至急、海洋科学研究所へ連絡。
俺達は避難誘導を行うため、レイロンスの戦闘から離脱。
戦闘は一号に任せていく。
極超音波魚誘導発信システムはレナ隊員に任せて俺達は避難誘導を行う。
しばらくして、レナ隊員から発信システムを解除したという報告が来る。
これで、レイロンス上陸は防げた…と思った筈だった。
揺れと共にレイロンスが地上へ姿を見せる。
嘘だろ!?
間に合わなかったのか!
その時、レイロンスの前にウルトラマンティガが現れる。
ティガ…。
ふと、俺はあることを考えた。
ウルトラマンティガは人類のために戦ってくれている。
しかし、レイロンスはもとをただせば人類の被害者だ。
そんな怪獣をウルトラマンティガに任せていいのか?
俺は自然とホルダーからハイパーガンを取り出す。
ハイパーガンの銃口をレイロンスへ向けて撃つ。
レイロンスにとっては蚊が刺した程度なのかもしれない。
しかし、俺にできうる限りの攻撃だった。
ふと、レイロンスが俺を捉える。
レイロンスは唸りをあげて迫ってくる。
そんなレイロンスをウルトラマンティガが受け止めた。
ティガに頼ってばっかりだ!
怪獣を海へ返すティガの姿を視て、そんなことを思うばかりだった。
もっと、力が欲しい。
そんな思いが俺の中で渦巻いた。
やがて、大きな事件へ繋がるかもしれないという事を知らずに。
「俺にシリアスって、無縁なのかもしれない」
目の前でイルカと戯れるレナ隊員の姿。
それをGUTSメンバー全員で見ている。
いや、リーダーだけ目をそらしているな。
俺はというと、うん、海を見ながらマッカン飲めているから最高だ。
「八幡」
「…はい」
「何を悩んでいるのか知らんが、一人で抱え込むな」
みんながレナ隊員を見ている中でリーダーが唐突に話を切り出した。
「普段のお前は冷静で、自らを律している。故に頼りにしがちだ。しかし、お前も色々と考えて、一人で行動しようとする。前のマキーナの時もそうだ」
リーダーは俺をまっすぐにみる。
「お前は一人で解決しようとする強い男だ。しかし、時には誰かを頼れ」
「……」
「俺が言いたいのは、お前は一人ではないという事だ」
「うす」
一人じゃないか。
俺は空を見る。
今も、これからも一人で、と思っていた。
しかし、ティガと出会って、GUTSのみんなと触れ合って…何かが変わったような、気がする。
「ほら、八幡!こっちこいよ!」
「え、ちょっ」
「遠慮すんなって!ほら!」
「ほーら、こっちだよ」
「ちょ、三人とも、お、押さないで、ってぅぉ!?」
ガタンとバランスを崩した途端、俺は海面に真っ逆さまへ落ちた。
とっても冷たかった、です。はい。