異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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姉弟が吸血鬼に反撃するとこうなる

 

 ラウラたちを襲撃していたのは、随分グロテスクで奇抜な得物を手にした血まみれの青年だった。身に着けている豪華なスーツから、彼が貴族や裕福な資本家の息子かもしれないという事は予想できるが、本来ならば備わっている筈の上品さは血とその得物のせいで台無しになっている。

 

 貴族の美女とダンスを楽しんでいそうな青年ではなく、今の彼は狂戦士(バーサーカー)と言うべきだろうか。

 

 右手に持っている剣の刀身は、まるで鮮血を凍らせたかのように紅い。中心にはまるで芯のように白い何かが埋め込まれているが、それは剣の強度を向上させるための芯ではなく、何かの骨だろう。

 

 刀身が最も禍々しいと思いきや、柄の後端には最も異質で気味の悪いものがぶら下っていた。

 

 ――――――真っ白になった、人間の手である。指の配置からおそらく左手だろう。

 

 悪趣味な装飾かと思ったが、骨の芯はその手の中から伸びている。まるで人間の腕を斬りおとし、肉を取り払ってから鮮血を刀身の形状に凍結させ、中心に人間の腕の骨を埋め込んだかのような気色悪い剣であった。

 

 な、なんだあれ!? キモい得物だなぁ………。

 

 ドワーフやハイエルフの職人が作った武器や、魔物の素材を使って製造された武器は何度も見た事があるが、あの武器は何だ? 人間を素材に使ったのか!?

 

「タクヤっ!」

 

「ラウラ、そいつは!?」

 

「気を付けて! こいつ、吸血鬼だよ!」

 

「きゅ、吸血鬼!?」

 

 こいつ、人間じゃなかったのか!?

 

 禍々しい武器と襲撃者の正体に驚愕しつつ、あの森の中で遭遇したフランシスカの事を思い出す。

 

 かつて親父が母さんを連れて逃げていた時に、ジョシュアという男が送り込んだ追手だった彼女は、最早ハーフエルフではなく、弱点で攻撃しない限り死ぬことのない吸血鬼と化していた。母さんの加勢のおかげで辛うじて撃破する事ができたけど、怨念と呪詛を糧としていたとはいえ、キメラ並みの身体能力の高さに手を焼いたのだ。

 

 その怪物と、この青年は同族だと………!?

 

 後衛だけで持ちこたえた仲間たちを労いたいところだったが、それはこの遺跡を脱出してからにしよう。

 

 面倒だな。もし相手が魔物なら、スタングレネードやスモークグレネードで足止めして逃げていたんだが、吸血鬼ならばそうやって逃げるわけにはいかないだろう。ラウラたちは俺とナタリアと合流するためにここで時間を稼ぎつつ待っていたから逃げなかったのかもしれないが、もし仮に彼女たちが吸血鬼から逃げようとしても、逃げることは出来なかっただろう。

 

 まだ戦ったわけではないが、おそらくこの吸血鬼はあのフランシスカよりも遥かに上手だ。狂っているようだが、威圧感と殺気は彼女を超えている。

 

 見せびらかすような威圧感ではない。触れた者を巻き込み、磨り潰してしまう破砕機のように荒々しく、狂気じみた威圧感。闘技場で戦ったエリックたちとは違う。

 

 ならば、ダメージを与えて再生している隙にトラップを仕掛けつつ逃げるのがベストだろう。いくら再生能力を持つ吸血鬼でも、手足を一気に吹き飛ばされるような傷を負えば再生に時間がかかる筈だ。その隙にこの広間を出てトラップを仕掛け、追撃を遅延させつつ逃げ切るしかない。

 

 血で作ったような剣の刀身を舐め回しながらこっちを見てくる吸血鬼にどん引きしつつ、63式自動歩槍の銃口を向けつつラウラの隣へと向かう。ナタリアは挟撃するぞと目配せし、不意打ちの準備をさせておく。

 

「ラウラ、さっき天秤の情報を入手した」

 

「え?」

 

 小声でラウラに報告しつつ、後ろにある通路をちらりと見る。それだけでラウラは、俺がこいつを倒そうとしているのではく逃げ切ろうとしているという事を理解したらしく、同じようにちらりと通路を見てから頷いた。

 

「逃げ切るぞ。狙う場所は分かってるな?」

 

「うんっ」

 

 いくら身体能力が高い吸血鬼でも、足を切断されたり吹き飛ばされればすぐに追撃することは出来ない筈だ。仮に這ってきたとしても、そのスピードはたかが知れている。

 

 侮るのは厳禁だが、更にトラップで追撃を遅延させられる見込みもあるのだから問題はないだろう。

 

 計画を立てつつ、あの吸血鬼と戦っていた仲間たちの様子を確認する。ラウラはよく見るとトマホークを2本とも持っていない。石畳の上に散らばっている黒い残骸を見た俺は、戦闘中に破壊されてしまったのだという事をすぐに理解した。

 

 ドワーフの鍛冶職人が作る武器はかなり頑丈だといわれているんだが、それがへし折られるという事は、あの剣の切れ味と剣戟の威力が尋常ではないということだろう。キメラの外殻でも、受け止めるのはリスクが高いかもしれない。

 

 ラウラは近距離用の武器を失っただけだ。カノンは頬に掠り傷があり、身に着けているドレスのような私服が血で汚れているだけである。おそらくあの血は自分の血ではなく、吸血鬼の血だろう。致命傷は負っていないようだ。

 

 最も最後尾で援護を続けていたステラは無傷である。彼女の援護は強力だが、魔力はあとどれくらい残っているのだろうか。戦闘中に魔力を使い果たさないように気を付けてもらいたいものだ。

 

 俺とナタリアは無傷だが、俺は壁を登る際に魔力を2割くらい消費している。戦闘に支障はないが、自分で魔力を生成できるとはいえ無駄遣いは好ましくない。

 

「おー。獲物が増えたッ! いいね、これで切り刻める!! ヒヒヒヒィィィィィィィィィィッ!」

 

 やかましい敵だな………。

 

「ラウラ、行くぞ」

 

「うんっ!」

 

「カノンとステラは援護を頼む!」

 

「了解ですわ!」

 

了解です(ダー)

 

 そして、俺とラウラが突撃して敵にダメージを与える。ナタリアはその隙に回り込み、不意打ちするという作戦だ。もし失敗したら、ナタリアと挟撃する予定になっている。

 

「ハッハッハッハッハァッ!! 獲物が増えたッ! 血も増えたッ!! 素晴らしいッ!! ヒヒヒヒィィィィィィィィィィッ!!」

 

 吸血鬼の青年は狂喜すると、舐め回していた得物を地面に突き立て、そのまま切っ先で石畳を切断しつつ突進してくる。普通の剣ならばとっくに折れているだろうが、やはりあの剣の切れ味と強度は尋常ではないらしい。

 

 あれで斬られるわけにはいかない!

 

「くたばれぇッ!!」

 

 普通の銃弾ではくたばらないだろうと、自分の雄叫びと真逆の事を考えながら、小手調べと言わんばかりにトリガーを引く。中国製のこの63式自動歩槍は大口径の7.62mm弾を使用するため、破壊力とストッピングパワーは優秀である。普通の人間がこのフルオート射撃を喰らえば、瞬く間に木端微塵にされてしまう事だろう。

 

 しかし銃という武器である以上、あまりにも獰猛すぎる破壊力には極めて大きな反動という対価がある。案の定、この63式自動歩槍の反動も5.56mm弾や6.8mm弾を使用するアサルトライフルよりも遥かに大きく、俺は必死にハンドガードを鷲掴みにしたまま射撃を続けた。

 

 再生能力を持たない敵ならば、回避するか得物で弾く筈だ。しかし、再生能力を持つ吸血鬼は銃弾を避けない。63式自動歩槍が生み出した7.62mm弾の乱流の中へと飛び込み、被弾しながら突っ込んで来る!

 

 肩に風穴が開き、頬に喰らい付いた弾丸が肉を抉って血まみれになった歯を露出させる。より禍々しい笑顔になった吸血鬼は、被弾した場所から血肉を噴き上げながら剣を振り上げた。

 

 しかし、親父や母さんの剣戟に比べると大振りだ。空になったマガジンを取り外し、投げつけて牽制しつつラウラと共に横へとジャンプする。

 

 めき、と石畳が絶叫した。まるで叩き割られた氷のように破片をまき散らして砕け散る石畳の床。不可視の爆風が生じるほどの一撃を振り下ろした吸血鬼の肉体は、この時点でボロボロになっていた。

 

「ステラッ!」

 

「はい」

 

 最後尾でグレネードランチャー付きのRPK-12を構えていたステラの小さな手が、銃身の下に取り付けられている砲身へと伸びた。LMG(ライトマシンガン)の銃身の下にぶら下がっているのは、砲身と固定用の金具を組み合わせたようなシンプルな形状の、ポーランド製グレネードランチャーのwz.1974パラドである。

 

 あいつは剣を振り下ろした直後だから回避できないだろう。剣を手放してすぐに飛び退ったとしても、爆風で傷を負う筈だ。

 

「発射(アゴーニ)」

 

 感情豊かになりつつあるステラだが、戦闘中の声には全く感情はこもらない。敵に情けをかけるつもりはないだけなのか、それとも戦闘中はそちらの方がやり易いからなのだろうか。

 

 冷淡で無表情な声と裏腹に、その声の直後に放たれた一撃はあまりにも熱く、荒々しい爆風を吸血鬼へと叩き付けた。装甲車の装甲を抉るほどの威力を持つグレネード弾でも、弱点を使わない限り吸血鬼を殺すことは出来ないが、人間と防御力が変わらない吸血鬼を飲み込んだグレネード弾の爆風は、その烈火の中で吸血鬼の青年を嬲り殺しにした。

 

 荒れ狂う破片の群れが肉体を貫き、炎が彼を焼き尽くす。貫かれる激痛と、焼かれる激痛。2つの激痛が吸血鬼の肉体と精神を押し潰す。

 

 仕留められないだろうと理解していたが、やはりあの吸血鬼はまだ死んでいない。木端微塵になった手足が紫色の光を発しながら消滅していき、辛うじて消し飛ばなかった胴体から千切れ飛んだ手足が生えていく。

 

 伸びていく筋肉繊維の束を見下ろして顔をしかめながら、俺は63式自動歩槍を背中に背負った。銃弾よりも、肉体を抉ったり斬りおとす事が出来る得物の方が再生に時間をかけさせる事が出来る。爆発物で攻撃するのはステラとカノンに任せ、俺は得意な接近戦を仕掛けさせてもらうとしよう。

 

 大型ワスプナイフと大型ソードブレイカーを鞘から引き抜き、フィンガーガードのついたグリップを握る。漆黒の刀身と木製のグリップを持つ2本の大型ナイフはまるで古めかしい拳銃を思わせるが、こいつが放つのは弾丸ではなく、剣戟と高圧ガスだ。

 

 あらゆるナイフの中で最も獰猛な殺傷力を持つ得物を引き抜き、ソードブレイカーの方を逆手持ちにする。俺の親父は我流の剣術で二刀流を得意としていたが、親父も左手の得物は逆手持ちにしていた。俺の戦い方は、おそらく親父に似ているのだろう。

 

「行くぜ、ラウラ!」

 

「了解っ!」

 

 手にしていたキャリコM950をホルスターに戻したラウラが、にやりと笑いながら頷いた。

 

 彼女が最も得意とするのは遠距離からの狙撃であり、幼少期からラウラは剣術を苦手としていた。だが、彼女が苦手としていた剣術はラトーニウス式のような剣術であり、変則的な戦い方ができるのならば、彼女は接近戦でも凄まじい戦闘力を発揮する。

 

 変則的で自由な戦いで、ラウラは更に獰猛になる。彼女の持つ獰猛さは、親父から遺伝したに違いない。甘えてくるところはエリスさんから遺伝したんだろうな。

 

 爆風の残滓の中から吸血鬼が立ち上がる。奴は地面に刺さっている自分の剣を引き抜こうとするけど、俺と同時に駆け出したラウラが右足のサバイバルナイフを展開しつつ蹴り上げ、得物に伸ばしていた吸血鬼の右腕を斬りおとす!

 

「ガァ!? ギャッハッハッハッハッ!!」

 

「私たちの絆は、とっても固いんだよ!」

 

「小さい頃からずっと一緒だからな! 滅茶苦茶固いぜッ!」

 

 ラウラに右腕を斬りおとされ、よろけながら後ろに下がる吸血鬼を俺が追撃する。思い切り身体を右側に倒し、下から右手のナイフを振り上げる。石畳と擦れて火花を散らしたナイフの刀身が急上昇し、そのまま青年の脇腹に喰らい付いた。

 

「朝起きた時のタクヤの○○○みたいに固いんだからねっ!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 戦闘中に何言ってんのッ!?

 

「ら、ラウラぁ!?」

 

 絶叫しながらナイフを突き刺し、グリップにあるガスを噴出するためのスイッチを押す。ついでに左手のソードブレイカーと尻尾も突き刺し、まだ右腕を再生している最中の青年の体内に、同時に魔力と高圧ガスを流し込んだ。

 

 3本のワスプナイフで串刺しにされているようなものだ。青年の身体が少しだけ膨張したかと思うと、高圧ガスと魔力を注入された上半身が一瞬だけ更に膨れ上がり、血肉を噴き上げながら弾け飛ぶ。

 

「戦闘中に何言ってんだよ!? 恥ずかしいだろうがぁッ!?」

 

「ふにゃあぁっ!? ご、ごめんなさいっ!」

 

 キメラの外殻で例えてくれよ。俺の息子は関係ないだろうが………。

 

 返り血を浴びたまま咎めた俺がかなり怖かったのか、涙目になりながらぶるぶると震え始めるラウラ。ここから脱出したら、ちゃんとラウラを慰めてあげよう。

 

「おい、フード野郎ッ!」

 

「あ?」

 

 フード野郎? フードをかぶっているのは俺だけだから、俺の事か。

 

 もう上半身の再生を終えたのかと吸血鬼の再生能力に驚愕しながら、俺は青年を睨みつけた。まだ完全に再生は終わっていないらしく、頬や額の一部の皮膚は裂けたままだったが、もう身体の輪郭は人の形状に戻っているようだった。

 

「てめえ、男だったのかよ!?」

 

「男だよ! ちゃんと息子搭載してんだぞ、クソ野郎がッ!!」

 

 こいつも俺を女だと思ってたのか!

 

 顔つきのせいなのか、髪を切ってもボーイッシュな女子と間違われるからなぁ………。訓練のおかげで筋肉はついたはずなのに、服を着ると細身になったように見えてしまうし。もしかしたら俺は男らしくなる事が出来ないんじゃないだろうか。

 

 また女に間違えられた憤りと不安を感じながら、俺はナイフのグリップの中から空になったガスのカートリッジを排出した。短いチューブのようなカートリッジが排出され、石畳の上に落下する。

 

 新しいカートリッジを装着しようとしたが、吸血鬼の青年は俺が女じゃなかったことに激怒したのか、「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」と絶叫しながら突っ込んでくる。

 

 しかし――――――禍々しい剣を手にしていた右手の手首にいきなり風穴が開いたせいで、その剣を振り下ろすことは出来なくなった。

 

 俺たちよりもやや後ろに立っていた、カノンの正確な射撃である。

 

「美少女同士も悪くありませんが………お姉様には、お兄様が一番似合いますわ」

 

「こ、このガキ―――――――」

 

 風穴を開けられ、剣を一時的に振るえなくなった吸血鬼。早くも傷を再生させ始めるが、そこで吸血鬼の背後に回り込んでいたナタリアが奇襲を仕掛ける。

 

「!」

 

「――――――遅いわよ」

 

 フィオナちゃんに作ってもらった猛毒のカートリッジ付きのククリナイフを構えながら突進し、彼女の奇襲を防ごうと振り向きかけていた青年の脇腹にククリナイフを突き刺す。既に刀身にいくつも開けられた小さな穴から溢れた猛毒が刀身を覆っていたため、あのナイフが敵に傷をつけるだけで、その猛毒は敵の体内へと入り込む。

 

 その一撃が命中すれば標的は弱っていくのだが――――――ナタリアは容赦せずに、素早くククリナイフをしまってからサイガ12を取り出すと、彼女を殴りつけるために振り払われた青年の裏拳をひらりと躱してから、至近距離で脇腹に散弾を叩き込んだ。

 

 肋骨もろとも内臓を抉る12ゲージの散弾。続けざまに2発放ち、吸血鬼の脇腹に大穴を開けてから飛び退る。

 

「早く決めなさい、この変態ッ!」

 

「おうッ! ――――――ラウラ!」

 

「行くよ、タクヤ!」

 

 現時点の装備では、どんなに攻撃してもこいつを殺すことは出来ない。

 

 だからこの連携で、ズタズタにしてやる!

 

「ガキ共がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

 吸血鬼はプライドが高い種族だといわれている。だから俺たちに何度も攻撃され、再生する羽目になったこいつは怒り狂っているんだろう。

 

 先ほどまでは恐ろしいと思っていたが―――――――ブチギレすると、全く恐ろしくない。

 

 振り下ろしてきた鮮血の剣に向かって、大型ソードブレイカーを振り上げる。俺の得物は相手の得物よりもかなり短いナイフに過ぎない。だが、この大型ソードブレイカーは元々攻撃するために要した得物ではなく、防御用に用意した得物である。

 

 ガギン、と禍々しい刀身と激突するソードブレイカー。深いセレーションのついた刀身を押し上げて、吸血鬼の剣戟を受け止める。

 

「防御ありがと!」

 

「攻撃は頼むぜ!」

 

 相手の得物は剣のみ。それ以外の得物は所持していないから、俺の得物を押し返すために力んでいる今はがら空きなのだ。

 

 俺の持っている得物はソードブレイカーとナイフの2本。そして傍らには、両足にサバイバルナイフを装備している心強いお姉ちゃんもいる!

 

 左足の脹脛に装着しているカバーの中からナイフの刀身を展開したラウラが、まるで蹴りを放つように左足を振り上げ、展開している漆黒のナイフで吸血鬼の脇腹を斬りつけた。更に足を引き戻しつつ峰の部分のセレーションで傷口を抉りつつ、蹴り飛ばす。

 

「グアァッ!? ――――――畜生ッ!!」

 

 傷口を塞ぎつつ、今度は剣を薙ぎ払う吸血鬼。俺は防御を終えたばかりだから、今すぐこの攻撃を受け止めるのは不可能だろう。

 

 でも、幼少期から常に一緒にいるおかげで、片割れが何を考えているのか理解できるようになったパートナーも一緒にいるのである。

 

 鮮血の剣戟が、俺の首を横から切断するよりも前に漆黒の刀身に激突する。その刀身は俺のナイフの刀身ではなく――――――ラウラが右足に装備した、サバイバルナイフの刀身であった。

 

「今度はお姉ちゃんが守るね!」

 

「助かったぜ!」

 

 彼女が剣戟を防いでくれたおかげで、俺は両手の得物で吸血鬼を攻撃できるようになった。変則的な得物である両足のナイフで防御してくれたお姉ちゃんにお礼を言った俺は、右手のナイフを突き出して青年の胸元に突き立て、一旦ナイフから手を離しつつ反時計回りに回転して、左手のソードブレイカーで胸元を右から左に抉りつつ突き刺していた得物を引き抜いた。

 

 瞬く間に胸元がズタズタになる吸血鬼。しかし、やはり傷口は再生能力によって塞がってしまう。

 

 だが、こいつを倒す必要はない。追撃を遅延させ、逃げ切ればいいのだ。

 

「ラウラ!」

 

「うん!」

 

 幼少期の訓練や、冒険者になる前の実戦は常にラウラと一緒に乗り越えてきた。

 

 だからこの冒険も、ラウラや仲間たちと一緒に乗り越えて見せる!

 

 必ず、天秤を手に入れる!

 

 先ほどナタリアに攻撃された際にククリナイフに塗られていた猛毒が効き始めたのか、吸血鬼がナイフで刺された箇所を抑えながら苦しみ始めた。毒は吸血鬼の弱点ではないが、どうやら吸血鬼も人間たちと同じく痛覚を持っているらしい。

 

 物理的な激痛ではなく、毒が生み出す変則的な激痛。青年が苦しんでいる間に、俺とラウラはもうナイフで彼を八つ裂きにする準備を終えていた。

 

「!」

 

「「УРааааааааа(ウラァァァァァァァァァ)!!」」

 

 大慌てで鮮血の剣の柄を握るが――――――もう防げるわけがないだろう。猛毒の激痛のせいで動きにくくなっている上に、俺たちはもうナイフを振り下ろしていたのだから。

 

 吸血鬼の青年に、俺のナイフとラウラのナイフが同時に叩き込まれた。

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 リキヤさんが嘆くとこうなる

 

リキヤ(この第二部って、前作の頃より下ネタ増えたよなぁ………)

 

 完

 


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