異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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タクヤが家族で買い物に行くとこうなる 後編

 

 薄暗い部屋の中が、フルオート射撃の猛烈なマズルフラッシュで蹂躙された。ラウラを痛めつけていた大男の唸り声も銃声で蹂躙され、更にその大男自体も、俺が構えたMP40のフルオート射撃で蹂躙される。

 

 2秒程度のフルオート射撃だったが、その間に放たれた9mm弾の群れは振り向きかけていた男の足を撃ち抜くと、脹脛を食い破られて転倒する大男の太腿にも襲いかかった。いきなり見たこともない兵器に攻撃された男は目を見開きながら俺の顔を見上げていたが、すぐに自分の両足をむしばんでいる激痛に気付いた大男は、みっともなく喚き始める羽目になった。

 

「ギャアアアアアアッ! あ、足が……ッ! な、なんだこのガキ!? そんな武器、どこから出しやがったぁッ!?」

 

 男の罵声を無視しながら、俺は銃口を他の男たちへと向けながら、痛めつけられてボロボロになっているラウラをそっと椅子ごと大男の近くから引き離した。泣き虫な奴だから、今の銃声で大泣きするかと思っていたんだが、ラウラはちなみれになった痛々しい顔で安心したように俺の顔を見つめている。

 

 きっと俺も、前世でクソ親父に虐待された後はこんな顔で母さんを見ていたんだろう。やっと暴力は終わったんだと安心して、自分の味方を見つめていたに違いない。

 

「た、タクヤっ……! こ、こわいよ………!」

 

「大丈夫だよ。僕が何とかする」

 

 ラウラを大男の近くから引き離した俺は、彼女の縄を解くのを後回しにし、血まみれになっている彼女をそっと抱き締めた。いつもは石鹸と鼻のような甘い匂いの混じった良い匂いがするんだが、今の彼女の匂いは血の臭いで台無しになっている。それに綺麗な赤毛も滅茶苦茶だ。

 

 よくも俺のお姉ちゃんを……!

 

「き、気を付けろ! こいつ、見たこともない武器を持ってるぜ!?」

 

「どこに隠し持ってやがった・・・・・・!? 何だよ、あのデカい音のする武器は!?」

 

「………」

 

 こいつらには容赦はしない。全員ぶち殺してやる。

 

 だが、胴体にフルオート射撃を叩き込んだらすぐ死んでしまうからなぁ……。ラウラを痛めつけて楽しんでいた野郎共だから、こっちも痛めつけて楽しませてもらうとしよう。

 

 理不尽に虐げてくるのならば、こっちも理不尽に蹂躙するだけだ。

 

 SMG(サブマシンガン)を知らない男たちが、腰の鞘からナイフを引き抜く。形状はサバイバルナイフのようなナイフではなく、騎士団が採用しているバスタードソードやロングソードをそのままナイフのようなサイズにしたような感じの得物だ。モリガン・カンパニー製の武器を採用するようになった騎士団は冒険者や傭兵ギルドに従来の武器を格安で売り払ったという話を親父がしていたのを聞いたことがあるが、あのナイフもその武器の中の1つなんだろうか?

 

 だが、そんなナイフでSMG(サブマシンガン)に勝てるものか。そっちが無様な雄叫びを上げて俺を斬りつける前に、ボロボロの肉片にするのは容易いんだ。

 

 マガジンの中に残っている弾丸はおそらく23発から25発。予備のマガジンはちゃんと用意されるようだが、腰に下げてある予備のマガジンは3つのみ。俺の能力の中にあったスキルの生産で増やせないだろうか?

 

 でも、こいつらを痛めつけるには問題ない。

 

 銃口を男たちに向けていると、俺が男たちに怯えていると勘違いしたのか、痩せ細った1人の男がにやりと笑い、ナイフを構えて足を前に踏み出した。

 

 ビビってたわけじゃねえんだよ、馬鹿が。考え事をしていただけだ。

 

 俺は表情を全く変えずに、その男へと銃口を向けてトリガーを引いた。またしても轟音が部屋の中で暴れ回り、放たれた9mm弾の群れが男の細い足を食い破る。脹脛に2発も弾丸を撃ち込まれた男は先ほどの大男と同じように床に崩れ落ちると、ナイフを手から離して必死に足を抑え、呻き声を上げ始める。

 

 やかましい声だ。

 

 先ほどまでニヤニヤしながらラウラが痛めつけられるのを見ていた男の顔を思い出した俺は、あの大男がラウラを黙らせるために彼女を蹴り上げたように、俺もこの男を黙らせるためにもう1発だけ9mm弾をお見舞いした。9mm弾が着弾したのは男の肘の辺りだった。

 

 肘を撃ち抜かれ、弾丸を骨に捻じ込まれた男は、今度は足の風穴から手を離して肘を抑え始める。

 

「な、なんてガキだ……」

 

 2人の男の絶叫が銃声の残響と共に響き渡る部屋の中で、リーダー格の男が呟く。その男はもう1人の男の目をちらりと見ると、頷いてから部屋の右側へとゆっくり移動し始めた。もう1人の男は逆へと回り込み始める。2人で回り込んで俺を仕留めるつもりらしい。

 

 でも、馬鹿じゃねえの? こっちは連射が出来る飛び道具を持ってるんだぜ?

 

 剣を持ってるんだったら有効な手段だけど、相手がSMG(サブマシンガン)を持ってるんだったら各個撃破されるだけだろうが。

 

 俺はまず、窓の方へと回り込もうとしていた男に向かってトリガーを引いた。いきなり銃口を向けられた男が怯えたが、容赦はしない。そのままトリガーを引いて両足に9mm弾の集中砲火をお見舞いしてから、素早くリーダー格の男へと銃口を向ける。

 

「ま、待て! やめてく―――――」

 

「やかましいッ!」

 

 絶対に容赦はしない。

 

 ラウラを痛めつけられたことに対する怒りで、俺はもう躊躇う事ができなくなっていた。その怒りは俺が前世から持っていたあのクソ親父に対する怒りや憎悪に溶け込むと、凄まじい速さで燃え広がり始め、躊躇いを焼き尽くしてしまったんだ。

 

 リーダー格の男の命乞いを無視し、俺はトリガーを引く。マズルフラッシュがランタンの光を一瞬だけ飲み込み、その光の中でリーダー格の男の身体に2つの風穴が開く。太腿と肩の2ヵ所だ。

 

 男は絶叫しながら後ろに倒れ込むと、ボロボロになっていたドアを突き破り、そのまま部屋の外にある廊下へと飛び出していった。俺たちをさらった男たちのリーダーは必死に命乞いをするが、許すつもりはない。そろそろ止めを刺してしまおう。

 

 空になったマガジンを取り外し、腰に下げてある細長いマガジンを銃身の下に装着。銃身の脇にあるコッキングレバーを引いて再装填(リロード)を終えた俺は、左手でマガジンを掴みながらゆっくりと怯える男に近付いていく。

 

「よくもラウラを……!!」

 

「ま、待ってくれっ! お、俺が悪かった……頼む、もうやめてくれよぉっ!!」

 

 殺してやる……。

 

 リーダー格の男に止めを刺そうとしたその時だった。いきなり俺の右側から成人男性の足が振り上げられたかと思うと、その足が俺のMP40の細い銃身を蹴り上げられたんだ。

 

 俺の両手からSMG(サブマシンガン)が、くるくると回転しながら天井へと向かって舞い上がっていく。

 

 しまった……! まだこいつらの仲間が外にいたのか!

 

 俺は大慌てでMP40を蹴り上げた男の顔を見上げ、すぐに攻撃できるように尻尾の先端部を男へと向けたが、その男の服装は俺たちをさらった男たちとは全然違った。

 

 俺たちをさらった男たちは薄汚れた服を着ていたんだが、俺のSMG(サブマシンガン)を蹴り上げた男は、立派なスーツに身を包み、シルクハットをかぶった赤毛の紳士だったんだ。しかも腰には、スタームルガー・スーパーブラックホークがホルスターに収まった状態で下げられている。

 

 その紳士は俺よりも先に落下してきたMP40をキャッチすると、まるでハンドガンを構えるかのように片手でSMG(サブマシンガン)の銃口をリーダー格の男の下半身へと向ける。

 

「――――まだ、手にかけるな」

 

「あ……お、お父さ――――――」

 

 MP40を蹴り上げた紳士の正体は、俺の親父の速河力也(リキヤ・ハヤカワ)だった。どうやら俺が道にばら撒いてきたリボルバーの薬莢を辿ってここまで辿り着いてくれたらしい。

 

 ラウラを痛めつけられたことに対する怒りで、すっかりその事を忘れていた。

 

 親父はあの鋭い目でリーダー格の男を見下ろすと、男の下半身に向けていたMP40のトリガーを引いた。

 

「ギャッ……アァァァァァァァァァッ!!」

 

 怯えながら親父の顔を見上げていたリーダー格の男が、銃声が響き渡ると同時に自分の息子を両手で押さえながら絶叫を始めた。どうやら親父に息子を9mm弾で撃ち抜かれてしまったらしい。

 

 容赦ねえな、親父……。

 

「……ラウラは?」

 

「部屋の中に………」

 

 どうやら親父だけではなく、エリスさんとガルちゃんも駆けつけてくれたらしい。はっとして部屋の中へと入って行った親父の後ろからやってきたエリスさんは、涙目になりながら構えていた銃を下ろすと、銃をホルスターに戻してから俺を抱き締めてくれた。

 

 ラウラと同じ匂いがする。石鹸と花の匂いが混じった甘い匂い。この匂いを嗅ぐと安心する……。

 

 俺もエリスさんの背中に小さな手を回すと、心配させてしまったもう1人の母親を抱き締める。

 

「怖かったでしょ……?」

 

「う、うん………」

 

「ごめんなさい、私のせいで………」

 

 彼女に抱き締められながら、俺も部屋の中へともう一度足を踏み入れた。部屋の中ではラウラを縛っていた縄をボウイナイフで切断した親父が、泣き始めるラウラの頭を優しく撫でながら俺の顔を見下ろしていた。

 

 やがてラウラが泣き止み始める。親父はラウラの頭から手を離すと、ラウラをエリスさんに任せることにしたらしく、エリスさんの顔を見て頷いてから部屋の中で倒れている男たちを睨みつける。やはり、父親として子供たちをさらった男たちが許せないのだろう。この男たちは、俺たちの親父にさらに恐ろしい仕返しをされるに違いない。

 

「ママぁっ!!」

 

「ラウラ……よかった……!」

 

 泣き止んだというのに、再び泣き出しながらエリスさんに抱き付くラウラ。エリスさんから手を離して母親に抱き付く姉を見守っていると、親父は床に転がっている大男へと近付いて行った。

 

「エリス、ガルちゃん。子供たちを連れて外で待っていてくれ」

 

「む? 何をするつもりじゃ?」

 

「……ちょっとこいつらに仕返しをね。外に出たら、子供たちには耳を塞ぐように言っておけよ」

 

 あ、パパの仕返しが始まる。

 

 にっこりと笑いながらそう言った親父に向かって、ガルちゃんは苦笑いしながら頷くと、俺とラウラを連れて部屋の外へと連れ出した。

 

 ひとまず、これで俺とラウラは助かったな。あの男たちも親父が始末しちまうだろうし。

 

 だが……親父に、銃を持っているところを見られちまった。

 

 今まで俺は普通の子供のふりをして生活してきたんだが、よりにもよって転生者である親父に、SMG(サブマシンガン)を持っているところを見られちまったんだ。俺が今まで訓練で使った事があるのはリボルバーとハンドガンとボルトアクション式のライフルのみ。親父は俺にSMG(サブマシンガン)を貸してくれたことはまだない。誤魔化すことは出来ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちが誘拐されたその日の夜、俺は親父に地下室に来るように言われていた。おそらく俺がSMG(サブマシンガン)を手にしていた事について、問い詰めるつもりなんだろう。

 

 誤魔化せるか? 銃は親父の弟で、親父と同じく転生者である信也叔父さんから借りたって言えば大丈夫かな? 撃ち方はガルちゃんや母さんたちに教わったって言えば誤魔化せるかもしれない。

 

 ドキドキしながら木製のドアを開け、地下の射撃訓練場へと足を踏み入れる。まだ親父は来ていないらしく、照明用の大きめのランタンが天井から部屋の中を橙色に照らし出しているだけだった。

 

 その明かりを見つめながら突っ立っていると、木製のドアがもう一度ゆっくりと開いた。いつものように銃のトレーニングが目的で来ているわけではないため、銃声の聞こえない静かな部屋の中に、ドアの軋む音が響き渡っていく。

 

 まるで獣の唸り声のようだ。そう思いながらドアの方を振り返ると、腰に巨大なリボルバーを下げた親父が、まるで臨戦態勢に入った獣のような威圧感を放ちながら、冷たい目つきで俺を見つめていた。

 

「あ、お父さん」

 

 あの腰に下げている銃は、俺がいつか作ろうとしているプファイファー・ツェリスカだ。普通のリボルバーよりも明らかに巨大なシリンダーと太い銃身を持つシングルアクション式のリボルバーで、弾薬は普通のマグナム弾ではなく、ライフル用に開発された.600ニトロエクスプレス弾という大口径の弾丸をぶっ放す事ができる最強のリボルバーだ。

 

 その最強のリボルバーを腰のホルスターに吊るした親父は、ポケットの中から端末を取り出すと、画面を何度かタッチしてからアサルトライフルを装備し、それを俺に手渡してきた。

 

 親父が俺に手渡してきたアサルトライフルは、自衛隊で使用されている日本製アサルトライフルの89式自動小銃だった。M16やM4と同じく5.56mm弾を使用するアサルトライフルで、他のアサルトライフルと比べると非常に銃身が短く軽量なのが特徴だ。反動は極めて小さく、命中精度も非常に高い。

 

 89式自動小銃を親父から受け取った俺は、なぜこの銃を渡されたのか理解できず、黙って親父の顔を見上げていた。

 

「そいつを構えて、セレクターレバーをセミオート射撃からフルオート射撃に切り替えてみろ」

 

「う、うん」

 

 セレクターレバーというのは、|単発(セミオート射撃)や連射(フルオート射撃)を切り替えるためのレバーの事だ。基本的にライフル本体の左側に装備されていて、射撃を切り替える際はそのレバーを操作する。

 

 アサルトライフルだけでなく、SMG(サブマシンガン)やPDW(パーソナル・ディフェンス・ウェポン)などにも装備されている。

 

 もちろんこの89式自動小銃にもセレクターレバーは装備されているんだが、89式自動小銃のセレクターレバーは他国のアサルトライフルとは異なり、ライフル本体の右側に装着されているんだ。

 

 親父はきっと、自分が教えた覚えのない武器を使いこなしていた息子の正体を探るために、セレクターレバーを切り替えた時の反応を見るつもりなんだろう。ここでいきなり右側を見れば89式自動小銃のセレクターレバーの位置を知っていたということで怪しまれる。左側にあると思い込んでいたふりをしておこう。

 

 そう思いながら左側をちらりと見たんだが、どうやら親父は一枚上手だったようだ。

 

「―――――あれ?」

 

 なんと、セレクターレバーが左側に移動されていたんだ!

 

 あの端末もおそらく俺の能力と同じように武器のカスタマイズが出来るんだろう。そのカスタマイズでセレクターレバーの位置を左側に移動させた89式自動小銃を用意し、俺にセレクターレバーを切り替えさせようとしたんだ。

 

 左側にあるとは思わなかった俺は、思わず声を上げてしまう。はっとして親父の顔を見上げるが、親父は唇を噛み締めながら目を細めると、首を横に振りながら言った。

 

「――――タクヤ、正直に言え」

 

「え………?」

 

 俺の顔を睨みつけながらプファイファー・ツェリスカを引き抜いた親父は、俺の頭にその巨大なリボルバーの銃口を向ける。

 

「――――――お前、本当に俺たちの子供か?」

 

 拙い……。

 

 親父に、正体がバレたかもしれない。

 

 

 


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