異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
「さすが傭兵さんの息子ね。まさか精霊を倒しちゃうなんて!」
「いや、あの使い手が三流だっただけさ」
試合を終えて闘技場の控室へと戻った俺たちは、スタッフが用意してくれた水を飲んで水分補給をしながら、先ほどの試合のちょっとした反省会と次の試合の準備を進めていた。
エリックたちとの試合は3勝2敗ということになったが、その2敗はわざと敗北したため、実質的には5つの戦いは全て圧勝という事になっている。
この闘技場の試合はトーナメント戦ではなくリーグ戦だ。だから他の出場しているチームとも戦う事になるだろう。一番最初に戦ったから、他のチームは俺たちの持つ銃を目にし、破壊力に驚愕しながら対策を立てているに違いない。
対策を立てたところで殆どの試合で相手を瞬殺していたから、全て手の内を見せたわけではないから彼らの対策は役に立たないとは思うんだが、こちらも同じ手を使わずに武器を変えたりして対応した方が良いだろう。
慢心すれば敗北するという実例は、先ほど目にしたばかりなのだから。
「次はどうする? 武器を変えたい人とかいるか?」
「私はこのままで」
「私も」
「ステラも問題ありません」
「わたくしもこのままでよろしいですわ」
みんな武器は変えないようだ。俺も武器を変えるつもりはないが、次の試合は銃を使わず、ナイフを主に使って相手の裏をかいてみようと思う。
ひひひっ。正々堂々とは戦わないからな。
「えへへっ、さすが私の弟だね。精霊をやっつけちゃうなんて」
「訓練のおかげさ」
「えへへっ!」
「ん?」
水の入ったコップをテーブルの上に置き、フードの上から俺の頭を撫で回し始めるラウラ。試合中の冷たい表情ではなく、今の彼女は甘えん坊のお姉ちゃんである。
「ご褒美だよっ♪」
「………あ、ありがと」
いつも俺がラウラの頭を撫でてるんだが、たまにはお姉ちゃんになでなでしてもらうのも悪くないな………。唇を噛み締めながら顔を赤くしていると、向かいに座るナタリアがため息をつきながら肩をすくめ、苦笑いしていた。
ナタリア、俺は元々シスコンじゃなかったんだからな。
「うふふっ。お姉様ったら」
「仲良しな姉弟です」
「えへへっ。大人になったら、タクヤのお嫁さんになるんだもんっ♪」
「お、おい………」
ラウラ、あまりそれは言わないでくれ。ステラとカノンは問題ないかもしれないけど、この中で唯一まともなナタリアにどん引きされる……。
そういえば、このパーティーの中でまともなのってナタリアだけだな。俺は卑怯者でシスコンだし、ラウラはブラコンでヤンデレのお姉ちゃんだ。カノンは変態のお嬢様で、ステラは男でも女でもキスをして魔力を奪っていくからな………。まあ、ステラは仕方がないよ。そういう体質の種族なんだから。
モリガンのメンバーの中でも、まともだったのはカレンさんだけだったらしい。母さんはまともだったらしいんだけど、段々と親父と2人っきりの時は甘えるようになったらしいし、エリスさんはモリガンの中でトップクラスの変態だったという。
か、カノンとエリスさんは遭遇させちゃダメだな………。この2人を会せるわけにはいかない。非常に危険である。
姉に頭を撫でられながらそんなことを考えていると、控室のドアがノックされた。コンコン、と静かなノックである。
「どうぞ」
「失礼します。タクヤ選手、次の試合ですが――――――」
え? もう次の試合が始まるの? まだ控室に戻って来てから15分くらいしか経っていないんだけど、団体戦ってそんなに早く終わるのか? 俺たちみたいに全部の試合で相手を瞬殺しないとそんな短時間じゃ終わらないぞ?
俺たち以外にも相手のチームを瞬殺できるチームがいるって事か。前回の優勝チームが予想以上に弱かったから少し慢心していたのかもしれない。そんな相手がいるならば、油断するわけにはいかないな。
よし、全力で叩き潰す! УРаааа!
ウォーミングアップは必要ない。今すぐ試合が始まっても問題はないぞ。
「それで、相手のチームは?」
「そ、それが………………」
控室を訪れたスタッフが、目を泳がせながら告げた。
「――――――――他のチームが、全て棄権してしまったんです」
「えっ?」
き、棄権? 他のチームが全部棄権したって事か?
つまり、対戦相手がいなくなったという事だよな………?
「その、先ほどの試合を見た他のチームの皆様が………『勝てるわけがない』って戦意を失ってしまったようでして………」
俺たちがやり過ぎたせいじゃねえかッ!!
実質的にエリックのパーティーを半殺しにするための戦いとなったあの試合を目にした他のチームが、全員ビビって棄権してしまったというのである。俺たちはもう既に次の試合の準備をしていたので、スタッフから対戦相手が全員棄権したと聞いた瞬間、俺は呆然としながら頭を抱えた。
確かに、いきなり最初の試合から口調が粗暴になったお嬢様にボコボコにされるのを見せられたんだからなぁ………。しかもその後はナタリアが相手を瞬殺しているし、中堅では幼女が魔術師の魔術を暴発させて無傷で勝利している。最も凄まじかったのは俺とラウラの戦いだろうな。ラウラは氷の粒子を使って透明になり、相手をひたすら狙撃してボコボコにした上に氷漬けにしてしまったのだから。
そして大将戦では、使い手が三流だったとはいえ圧倒的な力を持つ筈の精霊が俺に倒されている。前回の優勝チームに圧勝してしまうチームと戦えば、自分たちもエリックたちの二の舞になると思って棄権してしまったのだろう。
「え、ええと、対戦相手がいないという事ですよね………?」
「は、はい。ですので、その………優勝は、あなた方となります」
もう試合が終わっちまった………。優勝して賞金を手に入れる事が出来たというのに、呆気なさ過ぎるこの出来事のせいなのか、パーティーの仲間たちは誰も歓声を上げることなく、呆然としたまま気まずそうに話すスタッフを見つめていた。
ダンジョンから戻ってきた冒険者たちや、仕事を終えた騎士団の団員たちが料理を注文し、酒の入ったでっかいコップを持ちながら仕事の話やダンジョンでの自慢話を続けている。貴族たちが訪れるレストランのような優雅な雰囲気は全くない荒々しい場所だったが、それが冒険者たちにとって落ち着く場所でもある。
男たちの大声や笑い声が響き渡る小さなレストランの中で、注文した料理を凝視しながら押し黙っている俺たちは、他の冒険者たちから見ればおかしなパーティーに見られてしまう事だろう。
テーブルの上で香ばしい香りを放つローストビーフを凝視し、これが祝勝会なんだろうかと思いながら咳払いする。
相手が全員棄権するという呆気ない結果になってしまったが、賞金は手に入れる事ができたのだ。俺たちが手に入れた賞金の額は金貨2枚。3枚あればローンなしで一般的な家を建てる事ができるほどの金額になるから、かなり大きな収入になった。
最初は半分を使って祝勝会を開く事にしていたんだが、誰も話をしない状況ではレストランを貸し切りにして豪遊できるわけないよな………。
「と、とりあえず、優勝できて良かったじゃないか。なあっ?」
「そ、そうね………」
「ふにゅ………」
「そうですわね………」
「美味しそうなお肉です………」
も、盛り上げようと思ったんだが、全く盛り上がらんだとッ………!?
何ということだ。何とかして盛り上げたいんだが、準備をしていたというのに相手を瞬殺した最初の試合だけで優勝が決まってしまったという脱力感のせいで、ローストビーフを目にしてよだれを垂らし始めているステラ以外は盛り上がる気配がない。
盛り上げるのって、こんなに辛いのか………? 修学旅行とか文化祭で盛り上げてる奴らって大変なんだな………。
前世の学校の事を思い出しながら苦笑しつつ、俺は何かみんなを盛り上げられるような話題が見つかるまでメニュー画面を開き、生産可能な武器や能力を見て現実逃避する事にする。
そういえば、確か闘技場で精霊を倒した時にレベルが上がっていたような気がする。
メニュー画面を開き、現在のレベルとステータスを確認しておく。今のレベルは48から49に上がり、ステータスも上がっている。まず攻撃力が1500になり、防御力は1498になった。一番低かったはずのスピードは、なんと一気に一番高い攻撃力のステータスを追い越して1550になっている。
敵と戦った時の戦い方がステータスの上昇に影響しているのか?
とりあえず、一番低かったステータスが一気に一番高くなったのは喜ばしい事だ。接近戦ではナイフを多用するから、スピードが高い方がありがたいし。
続けて、生産可能な武器や能力などを確認する。能力は何もアンロックされていなかった筈だが、武器と服装では新しいものがアンロックされていた筈だ。
武器の生産をタッチし、画面を進めていく。確かあれがアサルトライフルだったうような気がする。
「お」
レベルが上がったおかげで生産できるようになったのは、珍しいアサルトライフルだった。
アンロックされたそのアサルトライフルは、ポーランド製アサルトライフルのwz.1988タンタルであった。wz.1988タンタルはポーランドがAK-74をベースにして改良したアサルトライフルで、弾薬は同じく5.45mm弾を使用する。外見はAK-74と瓜二つだが、wz.1988タンタルは銃床が折り畳むことが可能な非常に細いものに変更されており、そのせいなのかAK-74よりも小柄に見える。
ポーランド製のアサルトライフルか………。生産できるポイントも比較的安いし、後で作ってみよう。5.45mm弾を使うから反動も少なそうだし。
あとは服装も新しいのが追加されてたな。また女装用の服装じゃないだろうなと思いながら服装のメニューをタッチし、同じく画面を進めていく。
「お、これか」
アンロックされていたのは、『ポーランドのレジスタンス』という名称の服装だった。見た目は普通の私服と同じに見えるんだが、何かスキルが装備してあるらしい。
服装の中には転生者ハンターのコートのように、特別なスキルがついているものもあるらしい。ちなみにこのコートについているスキルは『転生者ハンター』という名称のスキルで、転生者に対しての攻撃力が2倍になるというスキルのようだ。
では、このレジスタンスの服装にはどんなスキルがあるのだろうか。
《スキル『レジスタンスの反撃』》
どんなスキルだ? やはり特別なスキルなのかもしれない。画面をタッチして説明文を表示させる。
《敵の数が自分のパーティーよりも多ければ多いほど、この服装のメンバーのステータスが強化される》
ず、随分と強力だな………。つまり、敵の数が多ければこの服装のメンバーのステータスが高くなっていくというわけか。数で負けている時に真価を発揮する服装というわけだな。
どっちもポーランドの装備か………。これも後で作っておこう。スキルは優秀だし、それに四六時中この転生者ハンターのコートを着ているのも目立ってしまう。
「――――よし、そろそろ食べようぜ。試合がすぐ終わってがっかりしてるのは分かるが、たった1回の試合だけで大金が手に入ったんだ。いいじゃないか」
「ふにゅ………それもそうだね」
「うん、確かにね」
「はい、お兄様」
「タクヤ、早くお肉が食べたいです」
ステラは食いしん坊だなぁ………。
早くもフォークとナイフを手にし、テーブルの上の巨大なローストビーフを凝視してよだれを垂らすステラ。早く食べさせてあげた方が良さそうだ。
テーブルの上に置いてあるジュースの入ったコップを持ち上げ、椅子から立ち上がる。メンバーはステラを除いて全員未成年なので酒は飲めない。親父たちは17歳の頃には関係なく飲んでいたらしいが、俺たちは旅の途中だからな。酔っぱらうわけにはいかない。
「―――――――乾杯っ!」
馬鹿野郎もぶちのめしたし、賞金も手に入れる事ができた。がっかりしている場合じゃない。
仲間たちとコップを当て合った俺は、コップを傾け、中に入っていたオレンジジュースを飲み干しながらそう思った。
レストランで何時間も食事をしていたせいで、祝勝会を終えて外に出た頃にはもう真夜中になっていた。巨大な闘技場のあるドナーバレグは、いつもならばこの時間帯も試合で盛り上がっているらしいが、今週の試合は早く終わり過ぎてしまったため歓声は全く聞こえない。
静かになってしまったのは、俺たちのせいだというわけだ。
もう暗くなってしまったし、アイテムの補充もまだ済んでいないので、今夜も宿泊施設に一泊してから遺跡に向かって出発することにした俺たちは、施設の部屋に戻ってくつろいでいた。
施設が用意してくれたパジャマを身に着け、濡れた長くて蒼い髪を自分の炎をドライヤーのようにして少しずつ乾かしていく。いつもポニーテールにしているせいで、こうやって髪を下ろしている自分の姿を見ることは少ないのだが、やはり髪が長い上に顔つきが母さんに似ているせいで女にしか見えない。そういえば、エリックの奴は俺が男だと気付いていたんだろうか。口調は男の口調だったけど、声は高いらしいから粗暴な口調の女にしか見えなかったかもしれない。
ため息をつきながら炎を消し、乾いたばかりの髪に触れてからベッドの上に横になる。傍らでは先ほど髪を乾かし終えたばかりのラウラがベッドの上に座り、ぼんやりとしていた。
こうやって横になっていればすかさず抱き付いて来て甘え始める筈なのに、今日は大人しいな。このまま甘えて来なかったら、俺が逆に甘えてみようかな?
恥ずかしがる姉を想像してニヤニヤしていると、いきなりラウラが俺に背を向けたままパジャマの正面に手を伸ばし始めた。何をするつもりなのかと思いながら見守っていた俺は、ラウラが始めたことを見て絶句してしまう。
なんと、自分のパジャマのボタンを突然外し始めたのだ。
「お、おい、ラウラッ!? 何やってんだ!?」
「うぅ………」
彼女を呼んでも、ラウラはボタンを外すのを止めない。ゆっくりと俺の方を振り向きながらついにパジャマのボタンを全て外し、赤くなった顔で大慌てする俺を見つめている。
大きな胸と縞々模様の下着を見てしまい、顔を真っ赤にしながら角を伸ばしてしまった俺は、何とか彼女に再びボタンを締めさせようと手を伸ばすが――――――ラウラの身体がいつもよりも熱いことに気付き、はっとした。
何だこれは………? 体温がいつもよりも高いぞ………?
「タクヤぁ………」
「ど、どうしたの?」
「さっきから熱くて………ボタンを外しても、全然涼しくないの………。たすけて、タクヤぁ………熱いよぉ………」
試しに彼女の頬に触れてみる。ラウラの柔らかい頬は、確かにいつもよりも熱い。いくらサラマンダーのキメラとはいえ、体内に氷属性の魔力が大量にあるせいなのか体温が低めのラウラにしては、明らかに高すぎる。
風邪でもひいたのかと思った俺は、クガルプール要塞付近の森で母さんから渡された薬の事を思い出し、ぎょっとしてしまった。
まさか、これは発情期の衝動じゃないよな………?
冷や汗を拭って深呼吸しながら、ラウラの様子を確認する。呼吸はいつもよりも荒いし、体温も高い。風邪をひいているだけなのかもしれないが、一応あの薬を飲んでおいた方が良いかもしれない。
もし発情期の衝動が来ているなら、人間の精神力でその衝動を抑えるのは不可能らしい。だから衝動が来たら、確実に襲われてしまう。
コートのポケットに入っていた小さな試験管のような容器を引っ張り出し、蓋を外してから錠剤を1つ口の中へと放り込む。呑み込んでから容器をポケットに戻して振り向こうとしたその時、左手の手首に柔らかくて熱い何かが絡み付いたような気がした。
それを確認するよりも先にいきなり後ろへと引っ張られ、ベッドの上に再び横になる羽目になった。左手を持ち上げて手首を確認してみると、外殻ではなく真っ赤な鱗に覆われた柔らかい尻尾が、いつも俺に抱き付いてくるラウラのように手首に絡み付いている。
「タクヤ………」
「ら、ラウラ………?」
ベッドの上に横になっている俺にのしかかってくるラウラ。甘えてくる時はこのまま頬ずりするか、俺の匂いを嗅ぎ始めるんだが、今のラウラは何もせずに顔を俺の首筋に押し付けているだけだった。
息を呑んでから彼女を抱き締めようと腕を伸ばした瞬間、首筋に顔を押し付けていた彼女が顔を上げ、俺が抱き締めるよりも早く唇を押し付けてきた。いつもキスをしている時のように舌を絡ませ合い、離してから彼女を抱き締める。
「ね、ねえ、タクヤ」
「ん? どうしたの?」
「あのね………こうすれば、治りそうなの………」
やっぱり、ハヤカワ家の男は女に襲われやすい体質なのか………。
俺は元々はハヤカワ家の男ではないんだが、この世界にあの親父の息子として転生しているから、その変な体質まで遺伝しちまったのかもしれない。
いつの間にかラウラに縄で両手と両足をベッドに縛り付けられていることに気付いた俺は、息を荒くしながら再びのしかかってくるラウラを見つめながら微笑んだ。
人間の精神力で耐えられないのならば、仕方がない。衝動はドラゴン並みなのだから。
「―――――おいで、
それに、俺はラウラの事が好きだ。
だから――――――彼女を受け入れることにした。
おまけ
若き日のエミリアさん
騎士1「おーい、ポーカーで勝負しようぜ!」
騎士2「いいね。金も賭ける?」
騎士1「せっかくだから賭けようぜ」
ビーグリー「面白そうだな! 俺もやるぜ!」
騎士2「いいぜ! イカサマすんなよ!?」
騎士1「ギャハハハハハハハハハッ!!」
エミリア「うるさいぞ貴様らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
騎士1「たんたるっ!?」
騎士2「べりるっ!?」
ビーグリー「ぱらどっ!?」
エミリア「もう消灯時間だろうが、馬鹿者ッ!! 早く寝ろッ!!」
騎士1(い、今のドロップキックか………?)
騎士2(ゴーレムのパンチだろ………)
ビーグリー(こ、後頭部が………)
完
※タンタルはポーランドのアサルトライフルです。
※べリルはポーランドのアサルトライフルです。
※パラドはポーランドのグレネードランチャーです。