異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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大将の戦い

 

 氷漬けにされたゴードンが運び出されるのを見つめながら、エリックは戦慄していた。

 

 見たことのない武器を持っているが、防具も身に着けていなかったから、あのパーティーはてっきりモリガンの傭兵たちの真似をしているだけなのかと思い込んでいたのである。

 

 メンバーの1人でも騎士団の一個大隊並みの戦闘力を持つと言われるほどの傭兵たちに憧れる冒険者や傭兵は多い。彼らの真似をして防具を装着せず、クロスボウや弓矢だけを装備して戦果をあげるギルドも存在しているが、モリガンの傭兵たちが戦果をあげる事が出来たのはクロスボウなどよりも遥かに性能の高い銃を持っていた事と、1人1人が常人を遥かに超えた技術や能力を持っていたためである。だから彼らの真似をしたところで敵に接近された場合のリスクを大きくしているだけに過ぎない。

 

 だから、彼らの真似をする者たちは軽蔑される傾向にあるのだ。

 

 戦う事になったあのパーティーも、そのようなパーティーの1つだと思っていた。それにメンバーたちは自分と同い年くらいだったし、おそらくそのような装備にしたのは防具を購入するための資金が無かっただけだと思っていたのだ。

 

 しかし――――――あのパーティーが持っている武器は、まさしくモリガンのメンバーが愛用した得物であったのである。

 

 弓矢よりも遠距離から敵を撃ち抜く上に弾速は非常に速いため、回避するのはかなり難しい。それ故に敵に接近される前に戦いは終わってしまうから、身を守るための防具も必要ないのだ。

 

 それに、接近できたとしてもエリックの仲間を返り討ちにしてしまうほどの身体能力と剣術を身に着けているのである。どの距離で戦っても勝ち目がないのは火を見るよりも明らかであった。

 

(な、なんてことだ………!)

 

 頭を抱えながら、エリックは歯を噛み締める。

 

 今のところ2勝2敗ということで、次の大将戦で勝敗が決することになっている。だが、エリックのチームが手にした2回の勝利は相手が意図的に降伏して勝利を譲ったようなものだから、実質的にはここまで惨敗が続いているようなものである。

 

 歯を噛み締めながら相手のチームの座席を見てみると、先ほどゴードンを半殺しにした上に氷漬けにして送り返してきた赤毛の美少女が、大将の席に座るフードをかぶった蒼い髪の美少女と抱き合っているところであった。戦いの最中のように冷たい顔ではなく、幸せそうな笑顔を浮かべている。もしあのような挑発をしてここで戦う羽目にならなかったならば、声をかけて食事にも誘っている事だろう。大人びた姿なのに幼い性格というのもなかなか可愛らしい。

 

 だが、これからエリックは相手の大将と戦わなければならないのだ。基本的にこのような団体戦では、パーティーのリーダーが大将を務める場合が多い。

 

 つまり、エリックの仲間たちをことごとく圧倒してきたメンバーたちの中で最も強い奴と、これから戦わなければならないのである。

 

(く、くそ………! 僕にはボルトスネークの槍があるけど、あいつの得物は………)

 

 エリックは貴族出身であるため、冒険者として登録したばかりでもすぐに高級な装備を買いそろえる事が出来た。防具も華奢だが魔術などの防御力が高いハイエルフの職人が作り上げたものを選んだし、武器は強力な魔物であるボルトスネークの牙を使った槍を購入した。金貨を10枚も払った装備なのだが、あの得物で遠距離から攻撃されればこの高級な装備が全て無用の長物になりかねない。

 

『続きまして、大将の戦いです! では、両チームの大将は準備をお願いします!』

 

「くっ………」

 

 実質的に4回も惨敗しているとはいえ、ここで勝利する事が出来ればエリックたちは彼らとの試合に勝つ事が出来るのである。この戦いで勝利し、わざと敗北して大将戦を始めさせたことを後悔させてやればいいではないか。

 

 それに、エリックにはこの槍以外にも切り札があるのだ。彼らのように惨敗する確率は低いだろう。

 

「え、エリック……気を付けろ。あいつら、変わった飛び道具を………」

 

「ああ、任せろよ」

 

 あの切り札ならば、飛び道具で攻撃されても関係ない。

 

 切り札の存在を思い出して恐怖をかき消したエリックは、胸を張りながら槍を手にすると、まだ氷漬けにされたゴードンの冷気が残る広場へと向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

「次はタクヤだね」

 

「おう」

 

 次は大将戦だ。仲間たちを挑発してきたあの馬鹿を半殺しにするチャンスがやってきたのである。

 

 AK-12の点検を終えていた俺は、スパイク型銃剣を展開した状態で肩に担ぐと、左腕にしがみついているラウラの頭を撫でながら微笑んだ。相変わらず彼女の髪はふわふわしていて甘い香りがする。

 

 抱き締めようかと思ったんだけど、もう試合が始まる。可愛いお姉ちゃんとイチャイチャするのは、試合が終わってからにしよう。

 

「えへへっ。タクヤ、頑張ってね!」

 

「任せろって」

 

「お兄様、賞金を手に入れたら祝勝会ですわよ!」

 

「おう!」

 

 賞金はいくらもらえるんだろうか。もし手に入れる事が出来たら、さすがに全額使って祝勝会をやるのではなく、半分くらいは貯金しておきたいものである。熟練の冒険者ならば資金には困らないだろうが、俺たちはあくまで新人の冒険者なのだから。

 

 広場に向かって歩き出した俺の腕から、ラウラがそっと手を離した。柔らかくて少しだけ冷たい感触が腕から離れていき、甘い香りが薄れていく。

 

 ラウラの香りが薄れる度に、俺の目が鋭くなっていくような感じがした。

 

「………やあ、エリック。2勝おめでとう」

 

 ボルトスネークの槍を手にしながら歩いてきたエリックを睨みつけながら、俺は彼にそう言った。あいつのチームは中堅と副将の戦いで勝利を収めたことになっているが、実質的にあれは敗北していたようなものだ。惨敗を続けているチームのリーダーは左手を握りしめながら俺を睨みつけると、槍の先端部を俺へと向けてくる。

 

「調子に乗るなよ、新人が」

 

 やはり、無名のチームの新人たちに立て続けに惨敗し、かなりプライドに亀裂が入っているらしい。やはり貴族出身だったからなのだろうか、プライドを踏みにじられながら挑発された事にかなり腹を立てているようだ。

 

 AK-12を向けたいところだが、もう既にこの貴族出身の少年を更に馬鹿にする準備は出来ている。アサルトライフルを肩に担いだまま左手をコートのポケットに突っ込んだ俺は、プライドを踏みにじられて激昂しかけているエリックを嘲笑いながらポケットの中のある物を握りしめる。

 

 審判が試合を始めさせれば、すぐにこの嘲笑が大爆笑に変貌する事だろう。

 

『では―――――――試合、始めッ!』

 

「叩きのめしてやるッ!」

 

 アナウンスが響き渡る中、エリックは俺が銃を持っているにもかかわらず正面から突っ込んできた。今までの試合で散々チームメイトが打ちのめされているのを目にしただろうにと思ったんだが、エリックの突っ込んで来る速度は思っていたよりも素早く、俺は少しだけぎょっとしてしまう。

 

 両手で槍を握り、綺麗な金髪を電撃のように揺らめかせながら突っ込んで来るエリック。まるで稲妻のような素早い突撃だが―――――――母さんの剣戟や親父の突進の速度と比べると、お粗末すぎる突撃である。

 

 親父たちと模擬戦を繰り返していなかったら、もっと驚いていたかもしれない。俺たちの両親が強過ぎて、俺たちがその猛者たちとの戦いに慣れてしまっていただけだ。

 

 だから――――――すぐに嘲笑しながら後へとジャンプし、予定通りにポケットの中に仕込んでいたスイッチを押した。

 

 その直後、闘技場に響く歓声を押し潰すかのように、大きな音が響き渡った。一瞬だけ歓声をかき消すほどの音の中でエリックの右手が震え、薄い白煙に包まれ始める。

 

 今しがた響き渡った音の発生源は、エリックの右手だったのだ。

 

「グッ!? ………な、何だ………? 右手が………!?」

 

「なんだ、まだ気付いてなかったのか」

 

 出来るだけ気付かれないように調整したから、エリックのように慢心しているような輩では気付く事もないだろう。

 

 ボルトスネークの槍を地面に落とし、右手を抑えながら呻き声を上げるエリックの右手は、試合の前に俺と握手した箇所と全く同じ個所が少しだけ焦げていた。

 

 実は、試合する前にエリックと握手した際、気付かれないようにかなり小型化したC4爆弾を右手に貼り付けておいたのだ。小石よりも小型化したから殺傷力は片手を吹き飛ばす事が出来ないほど急激に落ちているが、利き手を使用不能にする程度の威力は持っているようだな。

 

 少しだけ焦げたせいで黒ずんだ手を抑えていたエリックは、やっとその傷のついた場所が俺と握手をした場所と同じであることに気付いたらしい。激痛を感じながらも激昂して睨みつけてきたエリックを嘲笑いながら、俺は彼に超小型C4爆弾の起爆スイッチを見せつける。

 

「お、お前ぇ………ッ! あ、握手した時か! あの時………何か仕込みやがった……なぁ………ッ!?」

 

「いやいや、自信たっぷりなエリックさんと戦う事になったら勝ち目がなさそうだったんで、ちょっと仕掛けさせてもらいましたよ。あははははっ」

 

 相手を殺さなければ、どんな手を使っても問題ないというルールだからな。だから、殺さない程度に殺傷力を落とした爆弾を使って利き手を潰してもお咎めなしというわけだ。

 

 久しぶりにいたずらを成功させた時のような快感を感じたよ。冷静な奴なら利き手の違和感に気付く筈なんだが、こいつは俺たちを格下だと思って慢心していたから気付けなかったらしい。

 

 ざまあみろ。

 

「ひ、卑怯者ッ!」

 

 卑怯者? これは闘技場のルールでも問題ない行為だぞ? 殺さなければお咎めなしなのだから。

 

 ポケットの中のスイッチから手を離し、アサルトライフルを手にしたまましゃがみ込んだ俺は、嘲笑しながら馬鹿にするかのようにエリックの顔を覗き込む。冷や汗で濡れ、苦痛と激昂が混じり合ったエリックの顔は貴族の少年のように華奢そうな顔つきではなく、散々蔑まれて相手を憎悪する奴隷のようであった。

 

 でも、まだプライドは壊れていない。敵がまだ生きているなら止めを刺さなければ。

 

 だから、こいつのプライドにも止めを刺す。

 

「いやいや、俺は新人だからさ。エリックさんと正面から戦っても負けちゃいそうだからさ。―――――――だから、正々堂々と戦うわけないじゃん」

 

「だ、黙れぇッ!」

 

「おっと」

 

 左手でボルトスネークの槍を掴み、片手で振り回してくるエリック。だが、片手で振り回しているだけだから攻撃の速度は遅く、お粗末な攻撃が続くだけである。

 

 容易く躱しつつ右足の脛の部分だけを硬化。振り払われてきた槍の柄を蹴り飛ばし、今度こそ槍をエリックの手から奪い取る。

 

「あっ………!」

 

 高級なボルトスネークの素材を使用した槍は回転しながら飛んでいくと、素材にされた雷を操る蛇の牙をレンガ造りの壁にめり込ませ、何度か長い柄を上下させてからぴたりと止まった。

 

 さて、これでエリックのお馬鹿さんは槍を失った。魔物から内臓を取り出すためのメスやナイフは持っているようだけど、あくまで一番使い慣れていた得物はあの槍だったのだろう。

 

 使い慣れていない得物を、利き手を潰された状態で振るわなければならないというわけだ。

 

「チェックメイトだ、エリック」

 

「ち、チェックメイトぉ……? くっくっくっくっ………勝負はもう終わったと思ってるのか? 間抜けな奴めぇ………」

 

「なに?」

 

 まだ何か切り札があるのか?

 

 目を細めながら銃口をエリックへと向けようとした瞬間、超小型C4爆弾で負傷した右手を抑えていたエリックが、いきなり左手を素早く伸ばして腰にある雌のホルダーへと伸ばし、そこに収まっていたメスを放り投げてきた。

 

 いつもの戦闘ならば問題ないんだが、ここは観客が何人もいる闘技場だ。キメラの硬化は使うわけにはいかない。

 

 アサルトライフルを向けながらも身体を左右に逸らし、エリックが投擲してきたメスを回避する。ナイフではなくメスを携帯する冒険者が多いのは、魔物の素材の中でも高値で売りさばく事が出来る内臓を傷を付けずに取り出すためだ。だから冒険者は医者というわけではないのだが、メスを携帯する場合が多い。

 

 しかもそのメスは、投げナイフの代わりに投擲する武器にもなる。

 

 容易くメスを躱した俺は、左手を伸ばしてハンドガードの下部を握り、銃口をエリックへと向けてトリガーを引いた。元々許すつもりはなかったが、利き手を潰された上に愛用の得物まで失ってしまえば戦意を台無しにできると思っていた。しかし、こいつはまだ切り札を持っている。だから牽制のために今メスを放り投げてきたのだろう。

 

 油断はしない。まだ戦うというのならば、切り札を出される前に半殺しにするだけだ!

 

 ゴム弾とはいえ、弾丸のサイズは一般的なアサルトライフルに用いられる5.56mm弾よりも大きな7.62mm弾。アサルトライフルよりも大口径のバトルライフルや、中距離狙撃用のマークスマンライフルに用いられる大口径のゴム弾を立て続けに叩き込めば、切り札を使うことなくこいつを半殺しにできるだろう。

 

 トリガーを引き、初弾がマズルフラッシュの中から飛び出していったのを目の当たりにして安心した直後、俺は目を見開く羽目になった。

 

 今しがた飛んでいった7.62mmゴム弾が、突然目の前に現れた灰色の壁のようなものに遮られ、まるで戦車の装甲に跳ね返されるかのような音を立てて弾かれてしまったのである。

 

「なに………?」

 

 射撃を続行しつつ、後ろへとジャンプする。

 

 何度もゴム弾を放ち、目の前に出現した壁には全く効果が無いと判明するまでトリガーを引き続けていた俺は、空になったマガジンを取り外しながらその灰色の防壁を見上げた。

 

 その防壁は、王都やナギアラントを取り囲んでいた防壁のように無骨な防壁ではなかった。表面は不規則に隆起しており、中にはまるでレイピアのように鋭く突き出ている部位もある。それを何枚もつなぎ合わせたかのような奇妙な防壁が覆っているのは――――――――頭のすぐ後ろから巨大な翼を生やした大蛇だった。

 

 頭部から伸びる巨大な2つの翼は、鳥の翼というよりはドラゴンの翼を思わせる形状をしていた。とてもこの巨体があの翼で飛び上がれるとは思えないが、ドラゴンの外殻に酷似した外殻で全身を覆われているせいなのか、もしかしたら飛行することも出来るのではないかと思ってしまう。

 

 全長は20m以上だろう。大蛇のような姿をしているが、普通の蛇ならば表面は外殻に覆われていないし、あのように頭から翼が生えているわけがない。

 

 頭も同じく外殻で覆われており、尖った外殻がまるで頭髪のように見えてしまう。その頭髪にも見える外殻が生えた頭はドラゴンに近かったが、微かに口から見える巨大な2本の牙と長い舌は巨大な大蛇を彷彿とさせる。

 

 まるでドラゴンから前足と後ろ脚を取り除き、蛇のように伸ばしたような姿の怪物である。その怪物が、黄金の瞳で俺を睨みつけていたのだ。

 

「こ、これは………ッ!?」

 

 魔物かと思ったが、魔力の反応が違う。

 

 体内に魔力を持つこの世界の人間として生まれ変わったから。魔力の反応も感知できるようになった。だがこの反応は今まで感知したことのない魔力である。

 

 魔力の反応を例えるならば水だろう。一般的な魔物は薄汚れた水のような反応なんだが、この目の前の怪物は全く違う。恐ろしい姿をしていながら、その反応はまるで湧き水のように全く汚れていないのである。

 

 つまりこいつは魔物ではない。

 

「ハハハハハハハハハッ! だから言っただろ!? これが僕の切り札だ!」

 

「くそったれ………!」

 

 珍しい技術を持ってたんだな。

 

 エリックの野郎は――――――――精霊を召喚しやがったんだ。

 

 


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