異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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先鋒の戦い

 

 小さい頃に親父たちと一緒に王都の闘技場で試合を観戦したことがある。オルトバルカ王国の闘技場では人間同士の試合の他に、人間と魔物の試合も行う事があるのだが、貴族たちや裕福な者たちが娯楽として見物しに来る王都と比べると、ラトーニウスの闘技場の観客席に座る観客たちは庶民や労働者が中心のようで、貴族は少数だ。

 

 まだ試合が始まったわけではないというのに闘技場の中では歓声が暴れ回り、激流のように天井の大きな穴から天空へと突き出されている。

 

 初めて闘技場を見に行った時の事を思い出しながら、俺たちは控室へと向かっていた。あの時は観客席で試合を見ていたが、今度は俺たちが試合に出場するのだ。戦うための力は生まれつき持っていたし、その力は親父たちとの訓練で研磨されている。

 

 防具も身に付けず、コートやドレスのような私服姿で場内に入って来た俺たちを、他の冒険者たちは嘲笑しながら見てきた。最近は昔のように全身に防具を身に着ける者は変わり者呼ばわりされ、騎士団などでもそういったタイプの防具は廃れ始めている。今では肩や腕の一部に金属製の防具を付けるのが主流になっているのだが、俺たちはその防具すら身に着けていない。傍から見れば、防具を購入する資金もない初心者だと思われることだろう。

 

 しかも、背負っている武器はこの異世界に存在する事のない武器だ。他の冒険者たちがじろじろと見てくる理由は防具を身に着けていない事と、銃を背負っているからなのだろう。

 

 受付の男性に教えてもらった控室へと向かって長い廊下を進んでいると、見覚えのある金髪の少年が仲間たちと話をしているのが見えた。背中にはやはりボルトスネークの牙を使って作られたと思われる槍を背負い、全く汚れていない銀色の防具を身に着けている。

 

 彼の姿を目にしただけで、ラウラは早くも腰に下げているトマホークへと手を近づけた。あいつが俺を馬鹿にしたことをまだ許していないようだが、彼女の手がトマホークの柄を掴むよりも先に首を横に振った俺は、ため息をついてから再び廊下を進み始めた。

 

 あいつは気に入らないが、ここで怒りを貯めておけば試合でボコボコにした時に爽快な気分を味わう事が出来るだろう。ストレスは溜まるが、怒りを温め直すのも悪くない。

 

「あれ? 君たちも出場することにしたんだね」

 

「………」

 

「あははっ、賞金が欲しいんでしょ? まあ、防具を買う資金もないみたいだし、そこの銀髪の子が食べ過ぎちゃったせいでお金が無くなっちゃったんでしょ? だから僕が払うって言ったのに………」

 

 再びトマホークに手を近づけるラウラ。試合前にこいつを八つ裂きにさせるわけにはいかないので、左手を伸ばして彼女の手を掴んで止めておく。

 

 ラウラ、落ち着け。

 

「お金がないから闘技場の賞金に賭けたか………。言っておくけど、そんな装備じゃ勝てないよ。変わった武器を持ってるみたいだけど、せめてドラゴンの素材を使った武器は用意するべきだね」

 

「………そうだな。だけど、その武器を使いこなせる実力がないと意味がないよな」

 

「なに………?」

 

 こいつは、自分の武器を見せびらかしているだけだ。持っている武器は凶悪な魔物の素材を使った代物のようだが、そういった武器を使いこなすにはその武器を使って戦った経験が必要不可欠となる。

 

 当然ながら武器の間合いは全く違うし、中には癖があるものもある。それを熟知したうえで振るう一撃は、何も知らずに振るう一撃よりも遥かに鋭く、強烈な剣戟となる。

 

 母さんが剣術の訓練の時にいつもこう言っていた。だから剣術の訓練の時は自分で得物を磨き、素振りを欠かすなと言われていたのだ。

 

 エリックの槍は立派だが、まだ実戦で何度も使った事はないのか傷のようなものはないし、砥いだ痕も見当たらない。その程度の経験で使いこなせるわけがないだろうが。

 

「おいおい。防具を買う金を持ってない初心者が先輩を馬鹿にするんじゃねえよ、お嬢ちゃん」

 

 俺に反論されて唇を噛み締めるエリックの隣に立っていた大男が、腕を組んで俺を睨みつけながらそう言ってきた。身に着けている防具も大きめで、腰に下げている剣もでかい。

 

「どうせモリガンの連中の真似でもしてるんだろ? やめとけって。お前らじゃあいつらみたいに強くなれねえだろうし、あの傭兵共も奇妙な飛び道具に頼りっきりの臆病者なんだからよ」

 

「お前――――――」

 

「落ち着け、ラウラ」

 

「ははっ、尊敬してた傭兵たちが馬鹿にされて怒ってるのかぁ?」

 

「やめなよ、ゴードン。初心者の夢を馬鹿にしちゃ可哀そうでしょ?」

 

「とりあえず、頑張ろうね」

 

 肩をすくめながら右手を伸ばしてくるエリック。握手を無視しようかと思ったが、俺は奴の手を握ることにした。

 

 ぎゅっと手を握り、ニヤニヤ笑うエリックを睨みつけながら手を離す。

 

「じゃあね」

 

 エリックは嘲笑しながらそう言うと、仲間を連れて廊下の奥へと歩いて行った。奴らの控室は向こうなのか。

 

 仲間と話を続けるあいつを見てにやりと笑った俺は、仲間たちに「行こうぜ」と言ってから再び控室を探し始めた。

 

「ねえ、なんで握手しちゃったのよ? 無視すればいいのに」

 

「おいおいナタリア。俺の戦い方を知ってるだろ?」

 

 腹の立つ奴と握手をしたことが気に食わなかったのか、エリックたちが控室に戻ってから不機嫌そうに言うナタリア。だが、俺は全く不機嫌ではない。むしろ調子に乗るエリックを見ていると笑い出しそうになる気分だ。

 

 ナタリアはやはり気付いていなかったらしく、「は?」と言いながら首を傾げる。昔からずっと一緒にいるお姉ちゃんなら気付いているよなと思いながら隣にいるラウラを見てみると、先ほどまで不機嫌そうだったラウラは親父にいたずらした時のようにずっとニヤニヤ笑っているようだった。

 

 相手を殺さなければどんな手を使ってもいいというルールならば、問題はない筈だ。

 

「――――――俺が正々堂々と戦うわけないじゃん」

 

「えっ?」

 

「あ、控室はここかな?」

 

 ラウラが見つけた木製のドアには、俺たちの名前が書かれた張り紙が貼られていた。さすがにラトーニウスで『ハヤカワ』や『ドルレアン』と名乗るわけにはいかないため、俺とラウラとカノンはファミリーネームまで申込用紙には書いていない。フルネームで書いてあるのは、ナタリアとステラだけである。

 

 ドアの向こうに会ったのは食博施設よりも狭い部屋で、中には木製のテーブルと椅子が人数分置かれている。テーブルの上には水の入った容器が用意されていて、その傍らには試合の順番が書かれた紙が置かれていた。

 

「ふむ………タクヤ」

 

「ん?」

 

 椅子に腰を下ろしてメニュー画面を開き始めた俺を、その紙を拾い上げたステラが呼んだ。ステラは初めて俺から魔力を吸収した際に言語などの情報も一緒に吸収しているため、現代の文字の読み書きはお手の物である。魔力にはそういった情報も含まれているらしい。

 

 俺たちの試合がいつなのか分かったんだろう。「いつだ?」と問いかけると、いつも無表情のステラは珍しくにやりと笑い、紙を隣にいたナタリアに渡しながら言った。

 

「―――――――幸先が良いですよ。1回戦目からあのお馬鹿さんたちと対戦です」

 

 

 

 

 

 

 

 試合開始の時刻が近づいてきて、闘技場のスタッフが呼びに来てからは笑いが止まらなくなりつつあった。微かに聞こえてくる歓声と審判のアナウンスを聞きながら廊下を歩き、試合会場へと向かう。

 

 足音と銃が揺れる音を聞く度、ニヤニヤと笑ってしまう。あんなに調子に乗っていたバカが、完膚なきまでにボコボコにされるのだから。

 

 俺は大将だから戦うのは一番最後だが、せめて早く先鋒の試合でも観戦しながら大笑いしたいものだ。まるで楽しみにしている大イベントの前日のようにウキウキしながらスタッフの後ろを歩いていると、廊下の奥にある巨大な扉の前まで俺たちを案内したスタッフが、「健闘を祈る」と言ってから遠ざかっていった。

 

 この向こうが試合会場なのだろう。

 

「さて――――――ボコボコにしにいくか」

 

「えへへっ、楽しみだなぁ」

 

 カノンが先鋒で、ナタリアが次鋒を務める。中堅はステラで、副将はラウラが立候補してくれた。

 

 あ、もしカノンとナタリアが先に買ってしまったら俺たちの出番がないな。エリックの仲間が完敗するのを見るのも面白そうだが、やっぱり馬鹿は直接ぶちのめさなければ。

 

「もし先に2回勝っちまったら、悪いがあと2回はわざと負けてくれるか? 俺もあの馬鹿をぶちのめしたい」

 

「ステラは構いません」

 

「ふにゅ………すっきりしないけど、タクヤのためだもん」

 

 申し訳ないな………。

 

 俺は2人の頭に手を伸ばすと、撫でながらにやりと笑った。

 

「申し訳ない。――――――でも、いきなり降伏する必要はないからな。審判が止めない程度に思い切りボコボコにしてから降伏しなさい」

 

「それはいいですね」

 

「うん、そうするっ!」

 

 圧倒していた奴が相手を散々ボコボコにしてからわざと降伏すれば、あの馬鹿も腹を立てるに違いない。しかも碌な防具を持っていない初心者だと決めつけていた奴らにそんな事をされれば、あいつのプライドは木端微塵になるだろう。

 

 面白い戦いになりそうだなぁ………。ひひひっ、楽しみだぜ。

 

『観客の皆さん、お待たせしました! ついに本日の第一試合が開始されます! では、選手に入場して頂きましょう!』

 

 音響魔術を使ったアナウンスが聞こえてきたかと思うと、目の前に鎮座していた巨大な扉がゆっくりと左右に開き始めた。

 

 このアナウンスに使われているのは、エルフが編み出し、数年前までは廃れていた音響魔術だ。音波を魔力によって操る事が出来るこの特殊な魔術を使いこなす人材はごく少数なのだが、ミラさんがモリガンの一員として活躍し、その一員がこの音響魔術で戦果をあげたことで、各国で音響魔術の見直しが始まりつつある。

 

 扉の向こうに広がっているのは、円形のアリーナのように巨大な広場だった。ドーム状の広場の天井には穴が開いていて、そこから観客たちの歓声を天空へと打ち上げ続けている。広間の周囲に用意されている客席は庶民や労働者が埋め尽くしており、飲み物や軽食を販売員から購入しながら、これから始まる試合を待ち続けていた。

 

 客層は違うが、この熱気はあの時と変わらない。かつて王都の試合を見に行った時、俺たちもあの客席に座って冒険者や騎士たちの試合を見物していたのだ。

 

『なんと、今回は初心者のチームも出場しております! 黒いコートの美少女が率いるこのチームはまだ無名ですが、防具を身に着けずに奇妙な武器を持つモリガンを彷彿とさせるチームであります! 今回の試合を勝ち抜くことは出来るのでしょうかッ!?』

 

 あれ? 申込用紙にはちゃんと性別を書いておいた筈なんだが、さっきあのアナウンスの人は俺の事を美少女って言わなかったか? 間違えたのかな?

 

 仲間たちの中で、俺以外に黒いコートを着ているメンバーはいないし、黒いコートの美少女というのは俺の事に違いない。

 

「美少女だって、タクヤ」

 

「ふにゅっ。タクヤは男の子なのに」

 

 くすくすと笑い始める2人に向かって肩をすくめ、広場へと入場する。扉を通過した瞬間に歓声が更に膨れ上がり、天井に空いている円形の穴から入り込む日光が俺たちを照らし出した。

 

 雨が降った時はあの穴をどうするんだろうかと思っていると、またアナウンスが聞こえてきた。反対側にある扉がゆっくりと開き、その向こうから金髪の少年に率いられた5人のパーティーが、客席に手を振りながら入場してくる。

 

『おっと、第一試合はいきなりエリックのチームが登場です! 前回の大会で優勝したチームと初心者たちの試合です! あの少女たちは大丈夫なのでしょうか!?』

 

「あら、前回の優勝者でしたのね」

 

「優勝者ってあの程度なのですか?」

 

「この闘技場のレベルが低いだけなんじゃないの?」

 

 なるほどね。前回の試合で優勝している奴なら、まだ無名のチームに完敗したらプライドを木端微塵にされるだろうな。普通の奴ならば前回の優勝者という肩書には恐怖を感じるだろうが、俺たちの場合はむしろ戦意が上がっている。ボコボコにして、プライドを粉砕してやるのだ。

 

『では、さっそく先鋒の試合を開始しましょう! 他の選手の皆様は、座席までお下がりください!』

 

 座席が用意してあるのか。では、そこからカノンの試合を観戦するとしよう。

 

「頑張れよ、カノン」

 

「ええ。ボコボコにしてきますわ」

 

「おう」

 

 SVK-12を背中に背負いながら広場の中央に残るカノン。俺たちは楽しそうににこにこ笑う彼女を更に励ますと、後ろの方に用意してある座席へと向かい、腰を下ろした。

 

 俺たちの座席と客席が近いせいなのか、頭上から観客たちの声が良く聞こえる。

 

「おいおい、あんな可愛らしいお嬢様が戦えるのかよ?」

 

「部屋の中で大人しく舞踏会の練習でもしてた方が良かったんじゃねえか?」

 

 カノンは確かにお嬢様だが、幼少期から戦いからを学んでいる猛者でもあるんだよ。他のお嬢様よりも遥かに強いぜ。

 

 エリックのチームの先鋒は、痩せ細った男性だった。黒いシャツに黒いバンダナを身に着け、モリガン・カンパニー製の短剣を持っている。まるで盗賊のような恰好の男だ。

 

 では、相手を半殺しにしてやれ、カノン。

 

 

 

 

 

 

 睨みつけてくる相手の選手の威圧感は、全くカノンには通用していなかった。幼少の頃から両親に戦い方を教えられ、モリガンの傭兵である2人の威圧感を感じながら模擬戦を続けているのである。

 

 だから、その程度の敵が放つ威圧感で怖いと感じる感覚は、彼女が成長するとともに置き去りにされているのだ。

 

 カノンが持つSVK-12に装填されているのは、7.62mmのゴム弾。相手を殺さないようにタクヤが用意した代物だが、元々大口径の弾丸をゴム弾へと変更したものであるため、被弾すれば骨折する可能性もあるだろう。

 

 中距離用のマークスマンライフルを使うには少々近いが、カノンはあまり気にしない。14歳の少女にしては大人びているカノンは、いつものようにスコープを覗き込み、かつて傭兵として戦っていた母親と同じように相手を睨みつけた。

 

「アベル、殺すなよ! お嬢様だからな!」

 

「分かってるって!」

 

『では――――――試合、始めッ!』

 

 音響魔術で増幅された審判の声が、観客たちの歓声にのしかかるかのように闘技場へと響き渡る。

 

 もう試合は始まり、自分は得物を相手へと向けているというのに、カノンの対戦相手となったアベルは得物である短剣を手にしたままニヤニヤと笑った。

 

 相手が14歳の少女で、まだ冒険者の資格を取得できない冒険者見習いだから侮っているのだろう。しかも、貴族の少女は基本的に戦い方を本格的には教わらず、勉強やマナーばかり重視される傾向にある。カノンが身に着けている私服が他の仲間よりも豪華だったから貴族だと判断したのだろう。

 

「お嬢ちゃん、降伏した方が良いぜ? 可愛らしい服が汚れるぞ?」

 

「あらあら、お優しい紳士ですわね」

 

 もう試合が始まっていて、相手に得物を向けられているというのに喋り始めるとは。カノンの事を侮り過ぎである。

 

 呆れながら照準を下へとずらしたカノンは、ため息をつくと同時にトリガーを引いた。

 

「俺でよければ、闘技場の外までエスコートしてやっても―――――――ウギャッ!?」

 

 下衆な紳士へと、淑女が7.62mmのゴム弾をお見舞いしたのである。

 

 中距離用のマークスマンライフルから放たれたゴム弾は、調子に乗っているアベルの右足の太腿を直撃した。きっとこの男は、カノンが持つマークスマンライフルが超高速で弾丸を射出する飛び道具ではなく、クロスボウやボウガンのようなものだと思い込んでいたのだろう。飛び道具というのは正解だが、残念ながらSVK-12の弾丸の弾速はボウガンなどの弾速を遥かに凌駕する。

 

 相手を完全に侮っている状態で、至近距離から放たれたゴム弾を回避できるわけがない。カノンを小馬鹿にしている最中に一撃をお見舞いされるという醜態を観客たちに晒す羽目になったアベルは、今しがた被弾した右足を片手で押さえながら呻き声を上げ、混乱しながらカノンを睨みつけた。

 

「申し訳ありませんが、エスコートはいりませんわ。お1人で出て行きなさいな」

 

「て、てめえ………ッ!」

 

 続けてもう1発ゴム弾をお見舞いしてやろうかと思ったが、アベルは今の一撃を喰らって距離を詰めてくることだろう。開始早々に被弾した右足の激痛がどれだけ彼の動きを阻害してくれるかは分からないが、十中八九距離を詰めてくるに違いない。

 

 こんな馬鹿でも、前回の試合の優勝者の1人なのだ。弾速の速い飛び道具を相手に、遮蔽物のない場所で詠唱が必要な魔術で応戦しようとする馬鹿ではあるまい。

 

 だから距離を詰めてくるだろうと判断したカノンは、他の仲間たちのように銃剣を装備していないSVK-12を早くも背中に背負った。再び出番が来るとすれば、相手が距離を離した瞬間だろう。もっとこのライフルの試し撃ちをしたいところだが、試しに使ってみたい得物はもう1つある。

 

 14歳の少女に蔑まれ、一撃を喰らって醜態を晒す羽目になったアベルが激怒しながら再び立ち上がる。

 

(いい気味ですわ。――――――さて)

 

 カノンは腰へと手を伸ばし、腰に下げていた鞘の中から1本の直刀を引き抜いた。大きなバスケットヒルトがついているその直刀は、刀身を見なければブロードソードと誤認されてしまう事だろう。だが、鞘の中に納まっているのは両刃の刀身ではなく、日本刀を思わせる真っ直ぐな刀身だ。

 

 両手で持てるように柄は長くなっており、漆黒の刀身には古代文字が刻まれている。

 

 地下墓地での戦いで、ドルレアン家の忠臣であったウィルヘルムの亡霊からドロップした逸品である。 今までの戦いでは距離を詰める前に戦いが終わっていたため一度も試し斬りは出来なかったが、1対1の戦いで、相手がこれから距離を詰めてくるというのならば、これの試し斬りを兼ねて迎撃しない手はないだろう。

 

(久しぶりに、暴れるのも悪くないかもしれませんわね)

 

 ストレスを発散するために、接近戦をするのも悪くない。

 

 幼少期から勉強やマナーを母から学び、戦い方を両親から教わっていたカノンが経験した遊ぶ時間は、一般的な貴族の子供たちと比べると少ないだろう。普通の貴族の少女ならばマナーや勉強を重視されるため、魔術や剣術を教わるのは珍しいのだが、カノンはその珍しい戦い方を教わった上に銃の扱い方の訓練も受けたため、なかなか遊ぶ事が出来なかったのである。

 

 母親の事は尊敬しているが、全く反感を持っていないわけではない。それを発散する事が出来るのが読書と―――――――近距離戦なのだ。

 

「このガキ、俺の足を――――――」

 

「うるせえんだよ、雑魚が」

 

「えっ?」

 

 今しがた自分の足に一撃をお見舞いしたのは、14歳のお嬢様の筈だ。なのに言い返してきたその少女の声は先ほどよりも粗暴で、声のトーンも低くなっている。思わずこの少女ではなく、彼女の仲間が代わりに話しているのではないかと思ってしまったアベルだが、目の前で口を動かしているのは確かにカノンである。

 

 漆黒の直刀を肩に担ぎ、不機嫌そうな表情でアベルを睨みつけるカノン。いつも丁寧な口調の彼女の粗暴な態度を目の当たりにして度肝を抜かれたのはアベルだけでなく、座席でその様子を舞見持っていたタクヤたちも同じく度肝を抜かれ、目を丸くしていた。

 

「あたしを舐めてるからそうなるんだよ。てめえが悪いんだろうが。何キレてんだ、馬鹿が」

 

「ちょ、ちょっと待て………君、貴族だよね?」

 

「ああ、貴族だよ。何だぁ? 貴族のお嬢様は常に丁寧な口調で話さなきゃダメなのか? あぁ!? ふざけんな、クソ野郎がッ!!」

 

「ひぃッ!?」

 

 直刀を振り上げ、切っ先をアベルへと向けるカノン。当然ながら今の彼女は、いつもよりも荒々しかった。

 

 

 

 

 おまけ

 

 モリガンの皆さんが闘技場の戦いを見るとこうなる パート1

 

カノン『貴族のお嬢様は常に丁寧な口調で話さなきゃダメなのか? あぁ!? ふざけんな、クソ野郎がッ!!』

 

カレン「………」

 

ギュンター「………」

 

エリス「あらあら、カノンちゃんったら元気いっぱいね」

 

シンヤ(反抗期か………)

 

 完

 

 


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