異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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クガルプール要塞を越えようとするとこうなる

 

「どうするの? 勝手に入国する?」

 

「うーん………」

 

 ナタリアに問い掛けられた俺は、腕を組みながら要塞の防壁の上に並ぶ騎士たちの隊列を見つめた。

 

 オルトバルカ王国とラトーニウス王国の関係は悪化している。以前は強大な隣国の機嫌を損ねないようにラトーニウス側が息を潜めているだけだったが、モリガンに煮え湯を飲まされた上に母さんとエリスさんを連れ出され、騎士団の戦力は大幅に落ちた。しかも、戦力の再編を行っている間に隣国で産業革命が起こり、戦力だけでなく国力にまで大きな差を付けられたラトーニウスは、ひとまずこの借りを返す機会を先延ばしにし、息を潜めつつ国力の増強を続けていたのである。

 

 そして、オルトバルカ王国に一矢報いる事が出来るほどに成長した時点で―――――強気になり始めた。

 

 オルトバルカ出身の旅人は入国を拒否されたり、門前払いされる事も少なくないという。冒険者が入国を拒否されたという話は聞いたことがないんだが、旅人や商人が門前払いされているという事は、冒険者も入国を拒否される可能性があるという事である。

 

 やはり、普通に入国してみた方が良いかもしれない。もし門前払いされたのならば、勝手に入国するだけだ。

 

 ラトーニウス国内にも冒険者管理局の施設はあるし、そこでは出身国で差別されることはないと聞く。危険地帯の中にある安全地帯というわけだな。

 

 それに、俺たちはなんとしてもこの国に入国し、メウンサルバ遺跡を目指さなければならない。そこにメサイアの天秤の資料があったというのならば、他のヒントもあるかもしれない。おそらく遺跡に刻まれている文字は殆ど解読の難しい古代文字だろうが、俺たちの仲間にはその古代文字が母語となっているステラがいる。彼女ならば容易く解読してくれるに違いない。

 

「よし、二段構えだ。普通に入国できなければ、俺の思いついた作戦と装備を使って勝手に入国する。まず要塞の騎士と話をしてみようぜ」

 

「うむ、そっちの方が安全じゃのう」

 

 勝手に入国すれば、そのままラトーニウス騎士団を敵に回す事になるからな。魔術の分野ではオルトバルカ王国の後塵を拝する事になっているが、その分騎士たちの訓練は剣術などを重視しているため、近距離での戦いではラトーニウス騎士団の方が有利と言われている。母さんもここで剣術を学び、モリガンのメンバーとなった後もあらゆる戦場でその剣術を発揮して転生者を圧倒していたという。

 

 つまり、ラトーニウス王国の騎士団には弱体化した母さんが何人もいるというわけだ。騎士団時代の母さんは優秀な騎士だったらしく、今では容易く撃破できる魔物相手に苦戦していた当時では常に最前線で戦い、魔物の撃破数は駐屯地の同期たちの中でも抜きん出ていたという。エリスさんのように当時のラトーニウス王国の切り札として温存されていたわけではないとはいえ、母さんも精鋭部隊に引き抜かれていてもおかしくない実力者だったようだ。

 

 いくら銃で接近される前に射殺できても、接近戦が得意な騎士が人海戦術で攻撃を仕掛けてきたら接近されてしまうだろう。殲滅できないことはないと思うが、出来るならば敵には回したくないな。

 

 ちなみに、母さんは何度か実戦で分隊を指揮したこともあるという。剣術だけでなく、当時の分隊を指揮した経験を今でも会社で生かしているというわけだ。

 

「それじゃ、一旦武器を装備から解除するぜ」

 

 そう言いながらメニュー画面を開き、大型の派手な武器は全て装備から解除していく。俺が背中に背負っていたアンチマテリアルライフルがいきなり消失し、ラウラが背負っていたヘカートⅡもまだ一度も発砲していないというのに装備から解除される。

 

 冒険者は武器を持っているのが当たり前だが、さすがに銃を持ってたら怪しまれるからな。この世界で銃を使って活躍しているのは、モリガンの関係者くらいのものなのだから。

 

「あっ、ステラのガトリング砲が………」

 

 気に入っていたのか、いつも背負っていた巨大なガトリング砲を装備から強制的に外され、ステラが珍しく不安そうに背中へと手を伸ばす。必死に小さな両手をぱたぱたと振っても、もうガトリング砲は消失しているため、彼女の手はお気に入りのガトリング砲ではなく自分の後ろ髪を掠めるだけである。

 

 武器を解除されたことに気付いたらしく、基本的に無表情のステラが横から俺を睨みつけてきた。可愛らしいサキュバスに睨みつけられてもあまり恐ろしくはないんだが、いつも表情を変えない彼女が段々と感情豊かになりつつあることに驚いた俺は、呆然としながら彼女の顔を見下ろし、「ごめん、あそこ越えるまで我慢してくれ」と頭を下げながら言った。

 

 ステラは大型の武器を好んでいるようだが、狭い部屋の中でも戦えるように小型の武器も持つべきだと思う。今のところ、彼女が持っている取り回しの良い武器といえばMP443くらいだろう。

 

「タクヤ」

 

「ど、どうした?」

 

「ステラからガトリング砲を取り上げたお仕置きです。………今度はいっぱい魔力を吸うので、覚悟してください」

 

「えぇ!?」

 

 マジかよ。いつもみたいに吸われるだけで身体が動かなくなってしまうっていうのに………。

 

 ちなみに、魔力を吸われ過ぎた場合は死亡する事もあるので、手加減して欲しいです。お願いですステラさん。

 

 すると、頬を膨らませていたステラが小さな手を伸ばして俺の左手を握りはじめた。先ほどの口調は怒っているようだったけど、俺の手を握っている彼女はまるで親と一緒に出掛ける小さな子供のように幸せそうだ。

 

「ふにゅ!? す、ステラちゃん、ずるいよ! 私も手を繋ぐっ!」

 

「はぁっ!? ちょっと、ラウラ!」

 

 入国を拒否されませんようにと祈りながら要塞に向かっているというのに、ステラとラウラは全く心配していないらしい。

 

「落ち着けって! もう要塞につくから――――――」

 

「やだやだ! お姉ちゃんも手を繋がないとダメなのっ!!」

 

 小さい時と同じ駄々のこね方である。17歳になっても、駄々のこね方は全く変わっていない。

 

 駄々をこねられても拒否すると機嫌を悪くしてしまう事があるから、これ以上拒否するのはやめておこう。最後通告みたいなものだな。

 

「やれやれ、父親と同じで両手に花じゃのう」

 

「う………」

 

「えへへっ!」

 

 片方はヤンデレなんだけどね。

 

 姉に頬ずりされながら歩き続け、クガルプール要塞の門の近くまで向かう。防壁の上では警備していた騎士たちが俺たちを見下ろし、隣の騎士と話をしているようだ。

 

 どうせまた女だと勘違いされるんだろうなぁ………。しかも、ステラとラウラと手を繋いでいるせいで気まずいし。

 

 騎士たちに見られているというのにお構いなしに甘えてくる2人に呆れていると、巨大な鋼鉄の門の前にハルバードを構えて立っていた騎士が、銀色のハルバードの先端部を俺たちへと向けて睨みつけてきた。

 

「貴様ら、このクガルプール要塞に何の用だ?」

 

 さすが実戦を経験しているラトーニウスの騎士だ。目つきが鋭い。もし俺やラウラが幼少の頃から訓練を受けていなかったら、この威圧感でビビっていた事だろう。

 

 だが、何度も親父たちの威圧感を向けられながら模擬戦を繰り返してきた俺たちにとってはどこ吹く風としか言いようがない。前世だったらビビっていただろうが、無駄な威嚇である。

 

 挑発しないように気を付けながら、俺は抱き付いている2人から手を離した。ポケットの中から冒険者のバッジを取り出し、その騎士に見せながら言う。

 

「オルトバルカから来た冒険者のパーティーです。ここを通して欲しいのですが」

 

「オルトバルカ人だと? ふん、世間知らずのガキどもめ。我が国とそちらの関係が悪化しているのを知らんのか?」

 

「知っています。ですが、こちらの国に用事があるのです。通してください」

 

 やはり、ダメか。

 

 モリガンによって煮え湯を飲まされたこの国の憎悪は、予想以上に大きかったようである。

 

 親父め。やり過ぎだぜ。ネイリンゲンに侵攻してきた時は正当防衛だったかもしれないけど、親父のせいで通してもらえなくなったじゃねえか。

 

 やはり、こっそり入国するか?

 

 早くも拒否されそうになる中、俺は仲間たちの顔をちらりと見た。黙って騎士の話を聞いていたナタリアも彼らの憎悪の強さを感じ取ったらしく、入国を諦めたかのように肩をすくめている。

 

「お母様の許可証は?」

 

「あれは領内じゃないと意味ないだろ」

 

 結局カレンさんの許可証は使わなかったな………。ここで見せても、オルトバルカのドルレアン領だけで有効な許可証だから意味がないし、彼らを挑発することになるかもしれない。

 

「帰れ。奴隷制度を撤廃しようとしているいかれた奴らの話なんて聞きたくないぜ」

 

「………!」

 

 親父やカレンさんの事じゃないか。

 

 腰の大型ワスプナイフを引き抜き、高圧ガスでこの馬鹿の頭を消し飛ばしてやろうかと思ったが、ここでブチギレしたら騎士団を敵に回す事になる。そうすれば天秤の手がかりが遠退くだけだ。

 

 罵倒されても耐えよう。

 

 唇を噛み締めながら手をナイフから遠ざけていると、今度はそいつの隣にいた騎士も話し始める。

 

「考えられないよな。奴隷制度を撤廃したら、あんな汚らしい奴隷共と一緒に暮らす羽目になるんだろ? 家畜と一緒に飯を食うのは嫌だぜ?」

 

「まったくだ。なんでそんなことを思いつくんだろうな?」

 

「確か、ドルレアンとかいう貴族が提唱してるんだよな? 可哀想に。どうせ薄汚いハーフエルフに脅されてるんだろう。もしくは賄賂でも受け取ったのか?」

 

「提唱者も薄汚ねえな! ぎゃはははははははっ!!」

 

 ふざけんな………!

 

 カレンさんはそんな人じゃない。あの人は………差別が存在しない世界を作るために、必死に頑張り続けているだけだ! 傭兵として世界中で戦い、奴隷が虐げられる惨状を目にしているから努力を続けているのに、カレンさんが賄賂を受け取るわけがないだろう!?

 

 今度こそナイフを引き抜きそうになったが、歯を食いしばって何とか耐える。

 

 歯がゆいな………。くそったれ、こうなったらいっそ騎士団を敵に回すか? そうすればこいつらを切り刻めるが、騎士団を敵に回してしまう上に天秤のヒントが遠ざかってしまう………。

 

 耐えるしかないのかよ………!

 

「………!」

 

 隣でトマホークを引き抜きそうになっていたラウラも、同じように耐えることにしたらしい。性格は幼くても、ここで武器を引き抜いて八つ裂きになればラトーニウスでの冒険が台無しになると理解しているんだろう。

 

 だが、一番耐えるのが難しいのはカノンだろう。目の前で、自分の母親の悪口を言われたのだから。

 

 ひやひやしながら彼女の方を見てみると、カノンは歯を食いしばって耐えようと足掻きながら、徐々に右手を腰の軍刀へと近付けていた。あれは地下墓地のウィルヘルムからドロップした、ウィルヘルムの直刀だ。

 

 落ち着け。それでこんな下衆を斬るんじゃない。

 

 俺は「落ち着け、カノン」と言って彼女の手を掴むと、首を横に振りながら彼女を落ち着かせた。

 

 やっぱり、こっそり入国するべきだったな………。最初から勝手に入国する事を選んでいれば、カノンは目の前で母親を馬鹿にされる苦痛を感じなくて済んだかもしれないのに。

 

 俺のせいだ。

 

 まだカレンさんを馬鹿にし続けている目の前の騎士を睨みつけ、歯を食いしばってから踵を返そうとしたその時だった。

 

 まるで巨大な金属の塊を地面に擦り付けたかのような重々しい音が騎士たちの背後で膨れ上がり、耳障りだった2人の言葉を飲み込んだのである。

 

 その音を発しているのは、2人の背後に鎮座している筈の巨大な鋼鉄の門だった。表面に細かいリベットがいくつも打ち込まれた無骨な門が、轟音と錆のような臭いを草原にばら撒きながら、ゆっくりと防壁の中へと吸い込まれているのである。

 

 そして、防壁の中へと消えていった門の向こう側から、ラトーニウス騎士団の制服に身を包んだ3人の男たちが歩いてきた。左右に立つ2人は防具も身に着けているけど、真ん中に立つ30代後半くらいの男性は防具を一切身に付けず、紺色の制服の上にまるで昔の軍人のような黄金の派手な肩章を付けている。この要塞の指揮官だろうか。

 

 口元に髭を生やした指揮官と思われる男性は、俺たちをちらりと見て目を細めると、先ほどまで耳障りな罵声を繰り返していた部下を一瞥した。

 

「――――――何事かね?」

 

「びっ、ビーグリー指令ッ!」

 

「実は、この少女たちがここを通して欲しいと……!」

 

「通してやればいいではないか」

 

「し、しかしっ! こいつらは傲慢なオルトバルカ人であります! 我が国の情報を手に入れに来たスパイでは―――――――」

 

 すると、クガルプール要塞の司令官はため息をついた。呆れただけなのかもしれないが、そのため息は呆れただけではなく、枷のようなものを外す合図のようにも思えた。

 

 指揮官と一兵卒の放つ威圧感は違う。指揮官や司令官の威圧感もすさまじいが、最前線で敵を殺すのは一兵卒なのだ。だから一兵卒の方が純粋で、威圧感も恐ろしくなる。

 

 この司令官が放ち始めた威圧感は、司令官の威厳も感じたが、まるで最前線で戦う騎士が放つ純粋な威圧感のようだった。この人は一兵卒から司令官まで出世してきた人物なんだろうか。最前線での殺し合いを経験しなければ、こんな威圧感は出せない筈である。

 

「馬鹿者が。スパイならもっと目立たない変装をするだろう?」

 

「し、しかし、この黒いコートは―――――――」

 

「冒険者ならこのような格好は当たり前だ、間抜け。スパイなら騎士団の制服を用意して紛れ込んだり、一般市民に変装するだろうが」

 

「も、申し訳ありませんッ!!」

 

 俺たちを罵倒していた騎士を叱責し、威圧感を放つのを止めてから俺たちの方を見つめた司令官は、「すまなかったね、君たち」と言いながら頭を下げた。

 

 今しがたこの人が放っていた威圧感は、なんだか親父に似ていたような気がする。顔つきは親父と全然違うし、第一俺たちの親父は王都にいるからラトーニウス騎士団の拠点にいるのはありえないんだが、何故か威圧感が似ているだけでこの人は親父なのではないかと思ってしまう。

 

「私はアレクサンドル・ビーグリー大佐。このクガルプール要塞の指揮官だ」

 

「え、えっと、タクヤ・ハヤカワです。こちらこそ、関係が悪化しているのに無理なお願いをして―――――――」

 

「ん? ハヤカワ?」

 

 しまった。

 

 オルトバルカ出身で、ハヤカワというファミリーネームを持つという事は、ほぼ確実にモリガンの傭兵の関係者という事になる。そしてそのファミリーネームは、ラトーニウス王国の憎悪を叩き付けるべき男の血族である証だ。

 

 せっかくこの司令官が助けてくれたっていうのに。やっぱり敵に回すしかないのかよ………!

 

 自分を責めながらナイフを引き抜く準備をしていると――――――ビーグリー大佐が、いきなりフードをかぶっている俺の顔を覗き込んだ。

 

「!?」

 

「………ふふっ、そうか。ペンドルトンの子供か」

 

「え?」

 

 ペンドルトンって………確か、母さんとエリスさんの旧姓だ。2人はラトーニウス国内にあるペンドルトン家出身の貴族だったんだが、ラトーニウス王国が21年前にオルトバルカに侵攻しようとした際の黒幕が自分たちの父親だったと知ると、片足を失ったばかりの親父と共に実家を襲撃し、自分たちの父親に引導を渡している。

 

 だからもう、この姓は名乗る筈がない。両親の昔の話でしか聞いたことのない聞き慣れないファミリーネームに困惑していると、ビーグリー大佐はにやりと笑いながら腕を組んだ。

 

「そうか………。あの時、ナバウレアから連れ去られたペンドルトンも子供を作ったか………」

 

「えっと………母さんの知り合いですか?」

 

「ああ、エミリア・ペンドルトンだろう? 彼女は私の同期でな。よく剣術の模擬戦でボコボコにされていたものだよ。ハッハッハッハッハッ」

 

 ど、同期だとッ!?

 

 しかも若き日のお母さんにボコボコにされていた!? まさか、昔の恨みを俺に叩き付けるわけじゃないだろうな!? 

 

 笑い終わったらいきなり剣を引き抜いてくるのではないかと思ったが、ビーグリー大佐はただ思い出話をしていただけらしい。笑うのを止めた指揮官は微笑むと、俺の顔を見て頷きながら「やはり、母親にそっくりだな。瓜二つだ」と言った。

 

 こんなところに、母さんの同期がいるとは思わなかったよ………。

 

「ついてきなさい。入国のための手続きをしよう」

 

「い、いいんですか!?」

 

「ああ。同期のよしみというやつだよ」

 

 良かった………。これで何事もなく入国できるぞ。

 

「危なかったわよ、馬鹿」

 

「す、すまん。俺のせいだ」

 

 抗議してきたナタリアに謝ってから、俺たちは要塞の中へと歩いていくビーグリー大佐の後について行った。

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 エリスとラウラの駄々のこね方

 

リキヤ「おい、エリス。頼むから離れてくれ………」

 

エリス「えぇ!? やだやだ! 今日はダーリンにずっと甘えてるのっ!」

 

タクヤ「ラウラ、少し離れてくれるか? 頼むよ」

 

ラウラ「えぇ!? やだやだ! お姉ちゃんから離れたらダメなのっ!」

 

エミリア(甘えん坊なのは姉さんの遺伝子が原因か………)

 

 完

 

 


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