異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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ガルゴニスとの再会

 

「久しぶりじゃのう、タクヤ!」

 

「おう、ガルちゃん」

 

 やはり、ネイリンゲンの入口の近くに建っていた小さな人影の正体は、小さい頃まで一緒に家で生活していた家族の1人だった。まるでラウラを幼くしたような姿をしていて、彼女の妹にも見えてしまうが、俺やラウラと血がつながっているわけではない。

 

 彼女の名はガルゴニス。モリガンのメンバーの1人であり、かつて親父たちと戦って圧倒したという伝説の最古の竜でもある。親父たちとの戦いで敗北し、長年蓄積していた体内の魔力の大半を失ってからは、親父から魔力を分けてもらって幼女の姿をしているが、彼女の本当の種族は人間やキメラではなく『エンシェントドラゴン』と呼ばれるドラゴンなのだ。

 

 ガルゴニスはこの異世界で最も先に生まれたエンシェントドラゴンとされており、あらゆるドラゴンを凌駕する力を持つと言われている。人間にドラゴンたちが利用されていることを嫌ったガルゴニスは大昔に同胞を率いて人間に戦争を挑んだことがあるらしいが、当時の勇者の活躍によって撃退され、フランセン共和国の火山地帯に封印されていたという。

 

 親父から魔力を分けてもらったおかげなのか、顔つきは若干親父に似ている。見た目はラウラにそっくりな幼女だが、基本的にエンシェントドラゴンには性別はないため、ガルちゃんの性別は男でも女でもない。どうして幼女の姿になったのかは、本人もわからないらしい。

 

 ちなみにエンシェントドラゴンには寿命が無い。他のドラゴンや人間のように、老衰で死ぬことはないのだ。だから繁殖する必要はないし、性別も必要ない。強大な力を持ちながら永遠に生きる伝説の存在なのである。

 

 赤黒い杖を手にしながらやって来た彼女は、武器をホルスターに戻したばかりの俺の顔を見上げて嬉しそうに笑った。彼女にとって俺とラウラは弟妹か子供たちのようなものなんだろう。

 

 彼女と出会うのは何年ぶりだろうか。親父が仕事に行っている間に何度か家に戻ってきたことがあるらしいが、再会したのは久しぶりだ。彼女と最後に出会った時の事を思い出そうとしていると、ラウラとガルちゃんが握手をしているのを見守っていたナタリアが後ろから声をかけてきた。

 

「知り合い?」

 

「ああ。彼女は――――――」

 

 本当のことを言った方が良いよな。あの伝説のガルゴニスが俺たちの家族の一員で、今はあんな幼女の姿をしているという事を話せばナタリアたちは驚愕するだろう。

 

「――――――実は、この子はあの伝説のガルゴニスなんだ」

 

「えっ?」

 

 俺とラウラの妹だと思っていたのか、ナタリアは予想外の事を言われて目を丸くした。もう一度ガルちゃんを見下ろしてから、再び俺の顔を見て「冗談よね?」と聞いてくるナタリア。やはり、俺の言った事を冗談だと思っているらしい。

 

「本当だぞ。親父が仲間にしたんだ」

 

「だ、だって、ガルゴニスって………あの最古の竜でしょ? なんで幼女の姿をしているの?」

 

 親父はその伝説のエンシェントドラゴンを倒して、仲間にしたんだよ。

 

 カノンは既にガルちゃんの正体を知っているから、ナタリアのように驚くことなく「お久しぶりですわ、ガルちゃん」と挨拶している。その隣ではステラが、俺とナタリアの会話を聞いて同じように目を丸くしていた。

 

「タクヤ、この子は本当にガルゴニスなのですか?」

 

「ああ。親父たちとの戦いで魔力を失っちゃったから、今は幼女の姿だけどな」

 

「む? タクヤよ、その小娘たちもお主の仲間か?」

 

「おう」

 

 カノンに頭を撫で回されていたガルちゃんは、頭に着けている黒いヘッドドレスを片手で直しながら2人をまじまじと見つめた。ガルちゃんは俺とラウラが生まれた時からずっと幼い姿のままで、8歳くらいの少女にしか見えない。だからメンバーの中で一番大人びているナタリアと比べるとさらに幼く見えるし、ステラと比べても幼く見えてしまう。

 

「は、初めまして…………なっ、ナタリア・ブラスベルグですっ」

 

「うむ、よろしくのう。それと敬語は使わなくてもよいぞ」

 

「は、はい」

 

「………ところで、そっちの幼女は変わった魔力じゃのう。―――――――お主、もしかしてサキュバスかのう?」

 

 魔力で見破ったか。さすが最古のエンシェントドラゴンだ。サキュバスは自分の体内で魔力を生成する能力を持たないから、体内にある魔力は他者の魔力ばかりでバラバラだという。俺では全く感じ取れないんだが、どうやらガルちゃんは見破る事が出来たらしい。

 

 ステラは頷くと、表情を変えることなくぺこりと頭を下げた。

 

「初めまして。ステラ・クセルクセスです」

 

「サキュバスの生き残りか………。よく生き残れたのう。ナギアラントに立て籠もったサキュバスは全滅したとファフニールの奴が言っておったが………」

 

 まじまじとステラを見つめながら呟くガルちゃん。やはり彼女もサキュバスは絶滅してしまったと思っていたんだろう。寿命が存在しないから殺されない限り死なないエンシェントドラゴンの彼女がそう思っていたという事は、ステラ以外の生き残りは存在しないという事なんだろう。

 

 もしかしたら、ステラ以外にも魔女狩りから逃れたサキュバスが世界のどこかにいるかもしれないと思っていたんだが、本当にステラがサキュバスの最後の生き残りらしい。

 

「ママが封印して隠してくれたので………ステラは生き延びました」

 

「ふむ、母のおかげか………。ならば、絶対に生き延びるのじゃぞ。そしてサキュバスを再興するのじゃ」

 

「はい。必ず再興します」

 

「うむ、そうするのじゃ。………ところで、タクヤ」

 

「ん?」

 

 ステラに向かって頷いていたガルちゃんが、いきなり俺の方を振り向いた。何か用件でもあるんだろうかと思いながら彼女を見下ろしていると、ガルちゃんはまるで親父にいたずらしていた頃の俺たちのようににやりと笑い、俺の耳元に顔を近づけてきた。

 

 何の話をするつもりなんだろうか。背の低い彼女に耳を貸すために、俺は一旦しゃがみ込む。

 

「―――――お前の仲間は少女ばかりじゃのう。ハーレムでも作るつもりか?」

 

「できれば、作りたいです」

 

 お姉ちゃんがヤンデレだから、ハーレムを作るのは難しいと思ってたんだけどね。

 

 苦笑いしながらガルちゃんの肩を軽く叩いていると、いきなり俺の隣から冷気にも似た冷たい威圧感を感じた。北風かと思ったが、周囲の草原の草は全く揺れていない。風が吹いたわけではないのだ。

 

 この威圧感を感じているのは俺だけらしい。しかも、この威圧感は幼少の頃から何度も感じた事がある。初めて感じたのは――――――公園に遊びに行って、同い年の女の子に抱き付かれた時だったような気がする。嬉しかったんだけど、その喜びを叩き潰すかのようにこの威圧感が俺を包み込んだんだ。

 

 その威圧感の発生源を察した俺は、冷や汗を流しながらゆっくりと左隣を振り向く。

 

 そこで俺を虚ろな目つきでじっと見つめていたのは―――――――やっぱり、お姉ちゃんだった。

 

「ひぃっ!?」

 

「ら、ラウラッ!?」

 

「へえ…………タクヤって、ハーレムが作りたかったんだぁ…………」

 

 ガルちゃんがビビるほどの威圧感を放ち、虚ろな目つきで俺を見つめながら、そっと左手をトマホークの柄へと近付けていくラウラ。

 

 拙い。このままでは、お姉ちゃんに殺されてしまう………。

 

「お姉ちゃんじゃダメなの? お姉ちゃんじゃ足りなかった? ねえ、タクヤ。教えてよ。――――――――ねえ、お姉ちゃんじゃダメ?」

 

「い、いや………」

 

 後ずさりしながら、仲間の方をちらりと見てみる。だが、ナタリアは苦笑いしながら俺を見ているし、相変わらずステラも無表情で俺たちを見ている。カノンは両手を頬に当てて「やっぱり、ヤンデレのお姉様は素晴らしいですわ………!」と言いながらうっとりしている。

 

 誰も助け舟は出してくれないようだ。このままでは俺は天秤を手に入れる前に、姉のトマホークでぶち殺されてしまうに違いない。

 

 だが、どうすればいいんだ? どうやってラウラを落ち着かせればいい?

 

 大慌てで色々と方法を探し始めたが、対策を考えるための時間はあまりにも短すぎた。効果がなさそうな案をいくつか思いついた時には、ラウラはもう既にトマホークをホルダーから引き抜いていたのである。

 

「お、落ち着くのじゃ。とりあえず、もう暗くなっておるから野宿の準備をしよう。さもないと魔物に喰われてしまうぞ!」

 

「はーい………」

 

 た、助かったよガルちゃん………。

 

 唇を尖らせながらトマホークをホルダーに戻すラウラ。何とか殺されずに済んだが、きっと後でいつも以上に甘えてくることだろう。

 

 ちらちらと俺を見てくるラウラの目つきがいつもの目つきに戻ったことに気付いた俺は、安心してからガルちゃんを見下ろした。

 

「………すまぬ、墓穴を掘ってしまった」

 

「いや、助かったよ。ありがとう」

 

 ガルちゃんに礼を言ってから、俺も野宿の準備をすることにした。

 

 左手の手の平に蒼い炎を出現させ、その明かりをランタン代わりにして薄暗い草原を照らし出してみる。ネイリンゲンの周囲は草原に囲まれているから、遠くに見える森に行かない限り遮蔽物はない。こんなところで野宿をしようとすれば夜行性の魔物に取り囲まれ、全滅してしまう事だろう。

 

 少し離れたところに俺たちが住んでいた森がある。あそこに移動して野宿しようかと思ったんだが、魔物が寄り付かないから安全だと言われていたネイリンゲンがダンジョンと化しているのならば、あの森も安全だという保障はない。

 

 やはり、不気味だがネイリンゲンの廃墟を隠れ家代わりにするのがベストかもしれない。怪奇現象が起きる不気味なダンジョンで、冒険者たちは夜間にここを訪れる事を嫌うらしいが、逆に言えば少なくとも寝ている間に他の冒険者の襲撃を受けることはないということだ。

 

 正気の沙汰とは思えないかもしれないが、どうやら今夜はあの街の廃墟を使わせてもらうしかないらしい。

 

 街の方を見つめて肩をすくめた俺は仲間たちを見て頷くと、かつて俺たちの故郷だった街へと向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて転生者たちによる攻撃によって廃墟と化したネイリンゲンは、やはり14年前と比べると変わり果てていた。多くの露店が並んでいた筈の大通りの石畳は抉れ、左右に並ぶ建物は原形を留めていない。

 

 1つ残らず倒壊したか半壊していて、産業革命が起こる以前の伝統的な建築様式の建物が、まるで死体のように佇んでいるだけだ。

 

 吹いてくる冷たい風が廃墟の中を駆け抜け、まるで呪詛のような禍々しい音を奏でて立ち去っていく。夕日はもう沈んでしまっているため、光源は俺が左手から出している蒼い炎のみだ。

 

 ここに魔物が住み着き、ダンジョンと化したおかげでラトーニウス王国は迂闊にオルトバルカ王国に攻め込む事が出来ない。だが、逆に言えば俺たちも迂闊に南方のラトーニウス王国には向かえないという事だ。ここはもう魔物の街で、命を落とした人々の魂が彷徨い続けているのだから。

 

 ここにやって来たのはダンジョンの調査ではなく、一泊する場所を見つけるためだ。もっと早く到着するか、朝方に到着していたらあわよくば調査してレポートでも書こうと思ったんだが、危険な魔物が徘徊する真っ暗なダンジョンの中を、怪奇現象に怯えながら調査する気にはなれない。

 

 転生者たちの襲撃の後、親父たちはここで亡くなった人々の遺体を回収し、エイナ・ドルレアンの墓地に埋葬したという。その中には親父たちと仲の良かった人々が何人も混じっていて、埋葬する時は涙が止まらなかったらしい。

 

 レ・マット・リボルバーを右手に持ち、左手の炎に注入する魔力を調節しながら周囲を照らし出す。ライトでもつけようかと思ったんだが、迂闊に魔物を照らし出したら気付かれてしまうだろう。そのまま戦闘になったら面倒なことになるので、光源はこの炎に頼る事にしている。

 

 すると、崩れ落ちた靴屋の看板の隣に白い何かが佇んでいるのが見えた。ぎょっとしながらリボルバーを向け、照準を合わせるが、そこに佇んでいたのは迷彩服を身に着けた白骨死体だけで、幽霊は見当たらない。

 

 きっとこの白骨死体は、この街を襲撃した転生者の死体なんだろう。街の住民の遺体は埋葬したらしいが、転生者の死体はそのまま埋葬せずに放置していたという。

 

「ふにゃっ!? び、びっくりした………」

 

 そう言いながら俺に抱き付いてくるラウラ。機嫌はもうよくなったらしいが、早くも俺に甘え始めている。警戒しながら進んでいるのによく甘えられるものだと思いながら近くにいるステラを見てみると、ステラはどうして見つめられたのか理解できなかったらしく、俺の目を見ながら無表情で首を傾げた。

 

 彼女は理解できない事があると、首を傾げる癖があるらしい。

 

「ところで、タクヤ」

 

「ん?」

 

 ステラが片手でお腹を押さえながら、もう片方の手で口元のよだれを拭い去る。

 

「ステラはお腹が空きました」

 

「悪い、もう少し待っててくれ。寝れそうな場所を探すからさ」

 

 さすがにここで魔力を吸われるのは拙い。動けなくなったところを魔物に襲撃されたら洒落にならないからな。

 

 リボルバーをホルスターに戻して彼女の頭を撫でながらそう言うと、隣で俺に抱き付いていたラウラが頬を膨らませながら、ミニスカートの中から伸ばした尻尾で俺の後頭部を突き始めた。

 

 ステラだけ頭を撫でられて羨ましかったんだろうか。

 

 彼女の頭から手を離し、今度はラウラの頭を撫で回す。するとラウラは気持ち良さそうに「ふにゅー………」と言いながら、尻尾で俺の頭を撫で始めた。

 

「ふむ………やはり、あそこが一番かのう」

 

 崩れ落ち、中に入れそうにない廃墟を見つめながら呟くガルちゃん。この大通りの跡地の左右に連なる廃墟は全て崩れ落ちていて、中に入ったとしても倒壊しそうな建物ばかりである。下手をしたら、寝ている間に倒壊に巻き込まれて生き埋めになってしまうかもしれない。

 

 屋根のない廃墟で眠れば、魔物にも発見されてしまうだろう。理想的なのは屋根が残っていて、可能な限り原形を留めている建物だが、14年前の攻撃はかなり激しかったらしく、そんな理想的な廃墟はなかなか見つからない。

 

 妥協しようかと思ったんだが、ガルちゃんは良い場所を知っているようだ。

 

「あそこ?」

 

「うむ」

 

 にやりと笑ったガルちゃんは、街の外れの方を指差す。

 

 真っ暗になったせいであまり見えなかったが、よく見ると街の外れにある草原の中にも1軒だけ大きな廃墟が佇んでいるようだった。暗闇の中に鎮座し、月明かりに照らし出されているその屋敷は、左側が半壊してしまっているが、何とか中に入る事が出来そうだ。

 

「あら? あの屋敷は…………」

 

 月明かりに照らされる屋敷を目にして呟くカノン。あの屋敷に見覚えがあるのだろうかと思ったが、俺もすぐにその屋敷が何の屋敷なのか理解した。

 

 かつて、ネイリンゲンで結成された最強の傭兵ギルドが拠点として使っていた古い屋敷。ガルちゃんにとっては実家のような物だろう。

 

 その屋敷は―――――――かつてモリガンが拠点に使っていた屋敷なのだから。

 

 

 


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