異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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証拠

 

「また会いましたね、先生」

 

 宿屋の食堂を後にしたラノベの作者を見つめてそう言いながら、彼を殺そうとしていた男の喉元にスペツナズ・ナイフを突きつける。暴れようとしていた男の首に、とん、と切っ先を当てて”すぐ頸動脈を抉れる”とアピールすると、逃げようとしていた男は抵抗しなくなった。

 

 俺とラウラは幼少の頃からあらゆる戦い方を両親から教えられた。

 

 傭兵は依頼の内容によってさまざまな戦い方をしなければならない。例えば標的を尾行して情報を入手する依頼もあるし、要人の暗殺というとんでもない仕事もある。もちろん敵と真っ向から戦う仕事もあるが、敵に見つからない戦い方をしなければならないことも多いのである。

 

 だからこそモリガンの傭兵たちの戦い方は、多彩だった。

 

 そして俺たちはその傭兵だった両親から、あらゆる戦い方を教わったのである。もちろんこうやって尾行したり、その尾行している人物を消そうとしている奴らを逆に葬るための技術も教わっている。

 

 本職は狙撃手のつもりなのだが、ナイフの使い方も結構得意だ。騎士団出身の母さんには「剣を使った方がいい」と言われたんだが、剣は銃を使う際に邪魔になるし、ナイフよりも重い。複数の銃器を持ち歩く際にはほぼ確実に足枷になるので、場合によっては隠し持てるナイフの方が俺は気に入っている。

 

 残念そうにしていた母さんの事を思い出していると、一緒に作者を殺そうとしていた男の片割れを始末したステラが、その死体を路地の方へと引きずっていった。周囲に人がいないとはいえ、さすがに死体を放置しておくのは拙い。静かに敵を始末したのならば、その死体はきっちりと処分する必要がある。

 

 路地の方から、板が軋むような音が聞こえてきた。どうやらステラは路地裏に置いてあった木箱か樽に死体を隠すつもりなんだろう。血は出ていなかったから、少なくとも血の臭いで住民に見つかることは無い筈だ。さすがに腐臭には気付くかもしれないが。

 

「ここは拙い」

 

 出来るなら尋問は誰もいないところでやりたい。出来るならば部屋の中で、尋問する相手を椅子に縛り付けられるような場所が望ましいのだが、さすがに男にナイフを突きつけながら移動して、周囲の建物の中から空き家を探すわけにはいかない。

 

 男にナイフを突き付けたまま、今しがたステラが首の骨を折った死体を運んで行った路地裏へと強引に男を連れて行く。昼間に吹き荒れる熱風や、日が沈んでから駆け抜けていく冷たい風たちによって舞い上がった灰色の砂のせいで、路地裏の両脇に屹立する石で造られた伝統的な建物の壁は薄汚れていた。

 

 路地裏に置かれているのは壊れかけの木箱と、砂まみれになった3つの樽くらいだ。その中のどれかにさっきの死体が入っているんだろうなと思いつつ、押さえつけていた男から左手を一瞬だけ離す。もちろんこいつを逃がしてやるために放してやったわけじゃないんだが、こいつはチャンスだと思ったらしく、すかさず姿勢を低くして走り去ろうとする。

 

 けれどもそうしようとしているのは読めていたし、走り去るよりも予想通りの行動をしてくれた相手を捕まえる方が早いのは火を見るよりも明らかだった。案の定、逃げようとしていた男はあっさりと華奢な腕に再びうなじを鷲掴みにされ、その薄汚れた壁に叩きつけられる羽目になる。

 

「ぐっ―――――――」

 

「逃げんなっつーの」

 

 元の持ち方に戻したスペツナズ・ナイフを喉元に突き付けながら、男に向かって冷たい声で言った。

 

 また逃げようとすれば今度殺す、という最後通告だということを理解したらしく、男は歯を食いしばりながら俺を睨みつけてくる。

 

「お、お前ら…………た、たっ、ただの………冒険者じゃないな…………?」

 

 いきなり背後から現れてナイフを突き付けられた挙句、”相方”は幼女に首の骨を折られて死亡しているのだ。俺とステラがただの冒険者でないということはすぐに理解できると思うが、俺たちの正体がクソ野郎の討伐を行う転生者ハンターだということは理解できないだろう。

 

 ヒントすら与えていないのだから。

 

 というか、与えても意味はない。

 

「―――――――お前、なぜあの少年を狙った? あの食堂から後をつけていたようだが」

 

 少しばかり手に力を入れてナイフの刀身を押し付けると、切っ先が微かに首の皮膚へとめり込んだ。ぷつっ、と小さな音が聞こえ、何の前触れもなくナイフの刃に抵抗していた皮膚の感覚が消え去る。

 

 首の皮膚に小さな穴が開き、皮膚に付着している脂汗を鮮血が洗い流していった。

 

 ナイフを突き付けて問い詰めながら、俺はもう一度だけちらりと路地の入口に隠れながらこっちを覗き込んでいる気の弱そうな少年を見る。あいつは転生者だけど、特に悪さをしているわけではないらしい。とはいっても真面目に働いているように見えた転生者がナタリアを殺そうとした前例があるので、まだこの作者も信用していないんだが、少なくともあの時にぶち殺した転生者とは違ってまともなのではないだろうか。

 

 尾行した時に見ていたが、ナイフの持ち方が素人だった。それに足が震えていたから、殺し合いを経験したことが全くないということは簡単に見抜くことができた。こっちの世界では殺し合いは日常茶飯事とはいっても過言ではないが、日本ではあまり考えられない事である。

 

 平和な環境での生活に慣れているからこそ、こっちの世界で過ごしている時の仕草で見抜けるのだ。

 

 つまり、あの作者がこの男たちに憎まれるようなことをした可能性は低い。

 

「だ、誰が答えるか…………」

 

「ああ、そう」

 

 答えてくれなかった男に冷淡な返事をぶちかましてから―――――――ブーツの踵の部分に搭載されているナイフの刀身を展開し、それで男の右足を思い切り踏みつけた。

 

 骨に穴が開く感触を感じた直後、まるでハンマーで地面に打ち込まれた杭のように、ナイフが地面に刺さる感触がした。それと同時に男も目を見開いて絶叫しようとしたけれど、こんなところで絶叫されては困るので、開かれたばかりの口を強引に閉じさせることにした。

 

 まるでアッパーカットをぶちかますかのように振り上げられた手のひらに下顎を持ち上げられたせいで、何の前触れもなく歯と唇に出口を塞がれた絶叫が男の口の中に封じ込められる。

 

「絶叫しなくていいから、質問に答えろ。さもないと切り刻んでハンバーグの材料にするぞ」

 

 男の足からナイフを引き抜きつつ、今度は反対側の足にブーツに装備されているナイフを突き付けながら脅す。情報を吐いたらすぐに消す予定だったんだけど、この男は情報を教えるつもりはないらしく、喋らずにこっちを睨みつけてくる。

 

 多分、そう簡単には吐かないだろうな。

 

 こいつらもあのラノベの作者を尾行していたわけなんだが、素人の尾行ではなかった。適切な距離を保ちつつ目立たないように細心の注意を払う、プロの尾行である。

 

 しかも足を切りつけられた程度では情報を吐かない。

 

 彼らの尾行のやり方と口の堅さで、すぐに仮説が組み上がる。

 

 ―――――――こいつらは、傭兵か暗殺者だ。

 

 傭兵ギルドが引き受ける仕事にもよるが、傭兵のうちの大半は汚れ仕事を経験する。とは言っても依頼を引き受ける傭兵だってやりたくない仕事を断る権利はあるので、そういう汚れ仕事を嫌う奴は汚れ仕事を経験することはないだろう。

 

 傭兵は非常に口が堅いため、そう簡単にクライアントの情報や自分たちの引き受けた依頼の情報を話すことはない。クライアントに雇われた傭兵たちは巨額の報酬を手に入れるために戦うのだ。クライアントの情報を敵に放すということは、金を用意してくれているクライアントを裏切ることを意味する。

 

 なので汚れ仕事をしている最中に敵に捕らえられて拷問を受けても、大半の傭兵は情報を吐かないので、拷問を担当することになる奴はあの手この手で痛めつけ、情報を吐かせなければならなくなってしまう。

 

 中にはそういう仕事の前に、自決用の毒薬を準備しておくギルドもあるという。さすがにモリガンはメンバーを切り捨てるような真似はしなかったらしいが。

 

 もしかしたらこいつも毒薬を持ってるんじゃないかと思ってぞっとしたが、左手で口は押えてあるし、ちょっとでも動いたら即座にハンバーグの食材にする準備はできている。毒を飲むのは不可能だろう。

 

「ステラ、こいつのボディチェックを」

 

「了解(ダー)」

 

 路地の向こうを見つめて警戒していたステラは返事をすると、俺に押さえつけられている男の服にあるポケットの中へと容赦なく手を突っ込んだ。もしかしたら暗殺用の武器を持っているかもしれないし、所属しているギルドのヒントになる物を持っている可能性もある。

 

 できれば後者の方がいいな、と思いつつ、ステラがボディチェックを終えるまで男を拘束し続ける。もし何も入っていなかったらこの場で拷問を始めなければならなくなってしまうんだが、幸運なことに路地裏でそんなことを始める必要はなさそうだ。

 

 ポケットの中を漁っていたステラが、何かを見つけてくれたのだ。

 

「タクヤ」

 

「どうした?」

 

「バッジを見つけました」

 

 そう言いながら、ポケットの中から引き抜いた手を開いてバッジを見せてくれるステラ。真っ白な小さい手の上に乗っていたのは、冒険者に交付される銀色のバッジよりも一回り大きな灰色のバッジだった。よく見ると表面には頭にナイフを突き立てられた髑髏のエンブレムが描かれており、そのバッジがギルドの団員に交付されるバッジであることが分かる。

 

 基本的に、ギルドの団員にそのようなバッジを支給する義務はないので、ギルドによってはバッジを支給しないギルドもある。けれども持っていれば冒険者のバッジのように身分証明書の代わりにもなるのだ。

 

「―――――――お前、”アサシンズ”のメンバーか」

 

「ッ!」

 

 ナイフを突き立てられた髑髏のエンブレムは、有名な傭兵ギルドのエンブレムである。

 

 汚れ仕事を専門的に引き受けるギルドで、団員たちは入団した後に徹底的に暗殺や隠密行動の訓練を受けさせられるという。”先進国で暗殺された要人の3割はこのギルドに消された”と言われており、モリガンほど有名なギルドではないものの、非常に危険なギルドということになっている。

 

 団員の人数や拠点の位置は一切公開していないため、本当は存在しないんじゃないかという説もあるのだ。

 

 それにしても、あのラノベの作者は何でこんな連中に狙われたんだろうか。貴族や議員が政敵を消すために、労働者の年収に匹敵する報酬を支払って雇うような暗殺者共だぞ………?

 

「吐け。なぜあいつを狙う?」

 

 吐いてくれるとは思っていなかったが、もう一度問いかけてみる。けれども男はやっぱり答えるつもりはないらしく、足にナイフを突き立てられた激痛と、足から鮮血が溢れ出す感触を感じながら俺を見下ろしている。

 

 もう一度ナイフを突き立てて問い詰めようと思ったが、多分この男はここで切り刻んだとしても吐かないだろう。タンプル搭まで連行してシュタージに拷問させれば吐くかもしれないが、わざわざタンプル搭まで連れて行く余裕はない。

 

 これ以上問い詰めても無駄だということを察した俺は、溜息をついた。

 

「分かったよ」

 

 仮に吐いたとしても、最終的な結果は同じだっただろうと思うけど。

 

 呆れながら右手のスペツナズ・ナイフを素早く逆手持ちにし―――――――アサシンズのメンバーの男から左手を離すと同時に、力を抜いた右手を左へと思い切り薙ぎ払う。

 

 ナイフの刀身が皮膚にめり込む瞬間に力を込めると、ぷつっ、と皮膚が切れる小さな音が聞こえた。薙ぎ払った右腕が終着点に到着する頃には、延長されたナイフの刀身は微かに赤く染まっており、そのナイフで斬られる羽目になった男の首には、真っ赤な紋章にも似た血の模様が浮かび上がっていた。

 

「カッ―――――――」

 

「―――――――お休み」

 

 喉を切り裂かれた男が、両手で喉を押さえたまま崩れ落ちていく。思い切り両手で押さえつけても無駄だというのに、彼は自分の両手を鮮血で真っ赤に染めながら、少しでも出血を止めようと足掻き続けた。

 

 けれども切り裂かれた傷口から鮮血たちはお構いなしに隙間から飛び出して、灰色の砂の中へと染み込んでいく。俺もステラみたいに首の骨を折って殺せば血の臭いはしなかったな、と後悔しながら、足掻きながら死んでいく哀れな男を見下ろし続ける。

 

 男の身体が動かなくなったことを確認し、死体を引きずって樽の中へと放り込む。

 

 剣だったら、こんな繊細な殺し方はできないだろう。

 

 だから俺はナイフがお気に入りなんだ。ちゃんと急所を終われば、標的を呆気なく殺せるから。

 

 少しでも血の臭いを消すために、樽の中に一緒に足元にたっぷりと居座る砂を入れておく。これから油で揚げる鶏肉に小麦粉をぶちまけるように。

 

 樽の蓋を閉じてから踵を返し、路地の出口へと向かう。多分あの男を殺していたのはラノベの作者に見られてただろうな、と思いながら彼の方を見ると、原稿の入った鞄を抱えていた転生者の少年はぶるぶると震えながら俺とステラを見つめていた。

 

「こ、こっ、殺した………のか………?」

 

「ああ」

 

 殺す必要はないとでも言いたいのか?

 

 怯えている少年を見つめながら、俺は溜息をつく。

 

 確かに、前世の世界の日本は平和だった。他の人と殺し合いをすることは殆どなかったのだから。

 

 けれどもこの世界では、残念なことに殺し合いは日常茶飯事なのだ。先住民たちを蹂躙する騎士たちがいるし、旅人たちを殺して金品を奪う盗賊共もいる。この異世界にはこれでもかというほど犠牲者たちの死体が転がり、その死体を見下ろしながらクソ野郎共が私腹を肥やしているのである。

 

 その”日常茶飯事”を拒絶したくなる気持ちは分かる。

 

 でも、それを受け入れなければ殺される羽目になるのだ。

 

「こ、殺さなくてもよかっただろっ!?」

 

「叫ぶな。住民に目撃されたら困る」

 

 冷たい声でそう警告したが、転生者の少年はまだ咎めるつもりらしい。

 

「なっ、何で躊躇いなく殺せるんだよ…………こっ、こ、この殺人鬼っ!!」

 

「―――――――黙れよ、日本人(ヤポンスキー)」

 

 善良な転生者の欠点は、この異世界の常識を全く受け入れられない事だ。

 

 俺は前世の世界ではあのクソ親父を何度も殺そうと思っていた。あの世界に殺人罪が無かったら、きっと母さんが他界した時点で無残に殺していた事だろう。

 

 前世の世界でそんなことを考えながら育ったせいなのか、この世界では前世の世界の日本とは違って殺し合いが日常茶飯事となっていても、俺はすぐに受け入れる事ができた。だからもう躊躇せずにナイフで首を切り裂くことができるし、眉間を7.62mm弾で抉ることもできる。

 

 多分、前世の時点でこの世界に”適応”できるようになっていたのだろう。

 

 仕方のない事だと思いつつ彼を睨みつけると、転生者の少年はびくりとしながら唇を噛み締めた。

 

「あいつらを説得すれば殺さずに済んだと思うか? 言っておくが、ここはもう平和な世界じゃない。早いうちに平和ボケを止めないと死ぬぞ」

 

「で、でも…………!」

 

「タクヤ、他にも奴らの仲間がいる可能性が」

 

 黙ってろと言わんばかりに報告するステラ。他にもアサシンズのメンバーが潜んでいる可能性はそれほど高くはないと思うが、いつまでも”殺人現場”でおしゃべりをしているわけにはいかないだろう。

 

 それにアサシンズの本隊もいずれは察知する筈だ。弱そうな少年を消すために派遣したメンバーが、死体になったことに。

 

「移動しよう。…………安心しろよ、先生。あんたは俺たちが守ってやる。殺人鬼だがな」

 

 そう言いながらニヤリと笑うと、転生者の少年は顔をしかめた。けれどもここで俺たちから離れればまたこいつらに狙われることになるのは想像に難くない。暗殺者に狙われるよりも殺人鬼と行動を共にした方が生存率は高くなると判断した彼は、歩き始めた俺の後についてきた。

 

 今のうちに武器を装備しておいた方が良さそうだ。

 

 メニュー画面を開き、ステラにテンプル騎士団仕様のビラール・ペロサM1915と予備のマガジンを渡す。俺もグレネードランチャー付きのAK-15を装備して予備のマガジンを腰のポーチへとぶち込み、安全装置(セーフティ)がかかっているかどうかを確認する。

 

「き、君も転生者…………!?」

 

「後で話すよ」

 

 やっぱり驚くか。異世界にAK-15(カラシニコフ)は存在しないからな。

 

 テンプル騎士団の”身内”には正体を明かしているけれど、外部の人間に「俺は転生者だ」って言ったら、本国にいる母さんやエリスさんにも知られてしまうかもしれない。母親たちを混乱させないためにも外部の人間には正体を明かさない方が良さそうだ。

 

 背後から奇襲されても対応できるように、ビラール・ペロサM1915を抱えながら少年の後ろを歩くステラ。石で造られた建物の陰に敵がいないか警戒しながら、俺は後ろにいる少年に問いかける。

 

「あいつらに狙われた心当たりは?」

 

「な、ないよ。俺は小説の描写の参考にするために写真を撮りながら旅行してただけだ」

 

「…………写真?」

 

 ちょっと待て。写真を撮っていただと?

 

 頷いてから、カバンの中からカメラを取り出す少年。傍から見ると少し厚い木製の板にレンズを取り付けたような形状のモリガン・カンパニー製のカメラを取り出した彼は、それで撮影した白黒の写真もカバンから取り出し、俺に見せてくれた。

 

 この世界ではカメラは発明されているけれど、まだ写真は白黒なのである。なのでテンプル騎士団の兵士たちが銃を持ったままカメラで写真を撮ると、ロシア製の最新型のアサルトライフルを手にした兵士たちが、まるで第二次世界大戦の真っ只中に撮影されたかのような雰囲気の写真に写る事になるのだ。

 

 作者が撮影していたのは、大半は街や砂漠の風景ばかりだった。中にはラクダに乗った先住民の写真もあるし、旅行の最中にお世話になったのか、カルガニスタンに住む部族の1人と思われるダークエルフの男性と仲良くしている写真もある。

 

 もしかして、彼はアサシンズにとって都合の悪い何かを撮影してしまったから狙われていたのではないだろうか。

 

 そう思いながら写真を見ていたが―――――――多分、この仮説は当たっていると思う。

 

「なるほど、分かった」

 

「え?」

 

「これを見ろ。右下にいる男だ」

 

 そう言いながら俺が指差したのは、カルガニスタンの街の中で撮影したと思われる一枚の白黒写真だった。カルガニスタンの独立後に撮影された写真らしく、街の中にフランセンの騎士たちが駐留している気配はない。

 

 大通りを歩く住民たち。こういう風景も描写しようと思って撮影したのだろうか。

 

 けれどもその右下に―――――――暗殺者共に狙われる原因が居座っていた。

 

 黒いコートに身を包んだ人間と思われる男性が、私服姿の男性に白い粉が入ったガラス製の容器を手渡しているのである。おそらく黒いコートを身に纏っている男性はアサシンズのメンバーだろう。その容器を受け取っているのは、彼らの取引相手だろうか。

 

「これ何…………?」

 

「多分麻薬だな」

 

「ま、麻薬!?」

 

「ああ。いくら汚れ仕事を専門的に引き受けてるギルドでも麻薬はアウトだ。明るみに出た時点で、管理局からギルドの解体命令が出されるだろうな。もちろんメンバーは全員拘束される」

 

 なるほどな。アサシンズが麻薬の取引をしているところを撮影してしまったから、口封じのためにこいつを消そうとしていたってことか。

 

 何度も標的を暗殺した熟練の暗殺者なら、シャッターを切るも聞き取っているだろう。だから写真を撮られたことに気付いたに違いない。

 

 やれやれ、麻薬カルテルの次は暗殺者共か…………。

 

 

 

 

 

 


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