異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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テンプル騎士団の課題

 

 自分の蒼い髪を乾かしてから、イリナの綺麗な桜色の髪も乾かす。

 

 この世界ではまだドライヤーが発明されていないので、髪を乾かす際はタオルでしっかりと拭くか、魔力の出力に注意しつつ手のひらから熱風を出し、それをドライヤー代わりにして髪を乾かすしかない。

 

 そのうちモリガン・カンパニーが発明するだろうな、と思いつつ魔力の放出を止め、洗面所に置いてあるリボンを拾い上げてからベッドへと向かう。さすがに眠る時まで髪をポニーテールにして眠るわけじゃないんだけど、俺にとってこのリボンはラウラから貰った大切なお守りなのだ。

 

 ベッドの近くにあるテーブルにそのリボンを置き、ベッドの上に横になる。普段ならもうラウラが抱き着いてきている筈なんだけど、どうやら彼女は編成されたばかりの突撃歩兵の部隊と魔物の掃討に向かったらしく、まだ掃討作戦から戻ってきていない。

 

 昔までは一緒に眠るのが当たり前だったからなのか、お姉ちゃんがいないせいで少し不安になってしまう。

 

 明日は会議もあるので、早めに起きた方が良さそうだ。部屋に置いてある時計をちらりと見てからそう考え、眠る前に明日の会議の議題を思い出しておく。

 

 明日の会議の議題の中で重要なのは、オルトバルカから商人たちが派遣してくれる輸送船を守るために艦隊を派遣するという議題と、国境を警備するために展開させる国境警備隊の規模についてだ。

 

 フランセン共和国との一件で、”元総督”の実施した規制によって商人との取引ができなくなったテンプル騎士団は、代わりにオルトバルカ王国の商人たちと取引をすることになった。現在では規制どころか元総督が存在しないので、以前に取引をしていた商人たちとも再契約して取引をしているけれど、テンプル騎士団では毎日奴隷たちを市民として受け入れているため、このままでは取引している物資や食料が全員に行き渡らなくなってしまうという問題もあった。

 

 そこで要塞や前哨基地を増設し、そこに居住区を作って兵士の家族たちを移住させつつ、契約する承認を増やして物資や食料を確保することになったのである。コストが高くなってしまうかもしれないけれど、テンプル騎士団では兵士たちに冒険者の資格の取得を義務付けており、魔物の掃討の必要がない場合はダンジョンの調査を命じ、報酬の2割から3割を組織の運営費として提出してもらっているので、それほど大きな影響はない。

 

 カルガニスタンで取引する商人は今まで通りに地上部隊を派遣して護衛すればいいが、オルトバルカ王国の商人と取引するには、彼らが航行してくるルートの魔物を相当し、航路を確保しておく必要がある。主な敵は海の中に生息するリヴァイアサンなどの魔物になるだろうが、場合によっては周辺の海賊たちも相手にすることになるだろう。これでもかというほど対潜装備を搭載したネウストラシムイ級や新型フリゲートのアドミラル・グリゴロヴィチ級だけでなく、潜水艦も派遣する必要がありそうだ。

 

 中には『ジャック・ド・モレー級戦艦を旗艦とした打撃艦隊を編成し、航路の確保に投入するべき』という意見もあるんだが、さすがに海賊船や魔物を叩き潰すために虎の子のジャック・ド・モレー級戦艦を投入する必要はないだろう。

 

 第一、あの戦艦は強力な主砲と対艦ミサイルを搭載した強力な艦だが、対潜装備を全くと言っていいほど搭載していないので、海中の魔物や潜水艦に反撃する手段が全くないのである。沿岸にある敵の要塞の砲撃や敵艦隊との艦隊戦が本職なのだから、戦艦を出す必要はないだろう。

 

 でも、いくら切り札と言っても強力な5隻の戦艦を”ホテル”にするわけにはいかない。戦うために生み出された艦なのだから、あのテンプル騎士団の団長たちの名を冠した戦艦たちには最前線で戦ってもらいたい。

 

 別の拠点に派遣し、そこを母港として活動させたいんだが、現時点でテンプル騎士団が使用できる軍港はこのタンプル搭と倭国支部の2ヵ所のみだ。オルトバルカが保有する港を使うこともできるかもしれないが、この世界の戦艦は全長50m程度の小さな艦ばかりだ。当たり前のように全長200mを超える戦艦や巡洋艦ばかり保有しているのだから、そんなに小さな港ではこっちの艦を停泊させることはできないだろう。

 

 しばらくは倭国支部に艦隊を派遣し、倭国支部艦隊の補助をさせるべきだろうか。

 

 議題について考えていたけれど、俺が頭の中で考えた案が仮にベストだったとしても、これは明日の会議で他の円卓の騎士たちと議論して承認されなきゃ意味がないのだから、そこまで考える必要はなさそうだな。そろそろ寝るか。

 

 そう思いながら瞼を閉じようとしたその時、数分前にシャワールームの中で猛威を振るった柔らかいイリナの胸が、右肩に襲い掛かった。

 

「ん? い、イリナ?」

 

「どうしたの?」

 

「棺桶で寝るんじゃないの?」

 

 反射的に左手を頭の上に伸ばしつつ、頭に生えている角が伸びているのを確認しながら問いかける。本当にこのキメラの角は不便だ。冷静になっているふりをしていたとしても勝手に伸びるのだから、相手に俺が狼狽しているのがバレてしまう。

 

 普段ならイリナはベッドの隣にある棺桶の中で眠るんだが、今日は棺桶ではなくベッドで眠るらしい。確かに今夜はラウラは多分帰ってこないし、ここは地下だから窓から朝日が入ってくる恐れもない。日光が苦手な吸血鬼たちにとっては最高の場所だろう。

 

 とはいっても、イリナの場合は日光を浴びても体調が悪くなる程度で済むんだけどね。吸血鬼の耐性にも個人差があるらしく、耐性の低い吸血鬼は日光を浴びただけで発火したり、消滅してしまうという。

 

 棺桶の中ではなくベッドの上に横になった彼女は、少しだけ顔を赤くしながら俺の顔を見上げると、肩に胸を当ててくる。しかも彼女が身に纏っている水色のパジャマのボタンはいくつか外れていて、大きめの胸を包むブラジャーがあらわになってます。

 

「えへへっ、今日はこっちで寝るっ♪ いいよね?」

 

「い、いいけど…………」

 

 ラウラが帰ってくるのは明日の朝になるだろうし、問題はないだろう。

 

 許可を出すと、イリナは嬉しそうに微笑みながら肩に頬ずりをして、人間よりも鋭い吸血鬼の犬歯で甘噛みを始めた。

 

 本当ならイリナは夜に活動するんだけど、明日の会議に出席するために睡眠時間を調整するため、昼間にではなく夜に眠るつもりらしい。

 

 いつも血を吸う際に突き立てられる犬歯が肌に押し付けられる感覚を感じながら、左手を伸ばして俺もイリナの頭を撫で始める。

 

 イリナはこうやって何度も誘惑してくるんだけど、今のところはラウラやカノンのように襲ってきたことは一度もない。押し倒せということなんだろうか?

 

 でも吸血鬼の女性はこうやって相手を誘惑して楽しむことがあるという話を聞いたことがある。もしイリナもそうやって誘惑して楽しんでいるだけだったのなら、最悪の場合は嫌われてしまうかもしれない。

 

 というわけで、今回も我慢しようと思う。

 

 我慢しつつイリナの頭を撫で続けているうちに、イリナの誘惑がエスカレートしていく。今度は胸を肩に当てつつ首筋に甘噛みを始めたかと思うと、人間よりもちょっとだけ長い吸血鬼の舌で、首筋を舐め回し始めたのである。

 

 ぎょっとしながら彼女を見ているうちに、イリナは俺の右隣で誘惑するのを止めた。もう飽きたのだろうかと思いながら見守っていると、なんと彼女は俺の身体の上にのしかかったまま、パジャマのボタンを全部外しやがった。

 

 す、すらりとしたお腹が見えてますよ、イリナさん…………。

 

 うっとりしながら自分の指を咥え、こっちを見下ろしてくるイリナ。さっきのように甘噛みせずに見下ろしてくる彼女を見上げながら、息を呑んで我慢を続ける。

 

 すると、彼女は静かに顔を近づけてから言った。

 

「ねえ、今日も我慢するつもり?」

 

「え?」

 

 押し倒せということなんでしょうか?

 

「僕はもうタクヤの恋人なんだから…………襲ってもいいんだよ………?」

 

 枕元に置いてある小さめのランタンが、俺の上にのしかかっている吸血鬼の美少女の顔を照らす。

 

 どうやら彼女も誘惑しながらあんなことを言うのは恥ずかしかったらしく、顔がさっきよりも赤くなっていた。

 

「…………いいの?」

 

「い、いいよ? 僕はタクヤに抱いて欲しいから」

 

「女を押し倒した経験はないんだけど…………大丈夫かな?」

 

「ぼ、僕も押し倒された経験はないよ。…………えへへっ、どっちも未経験なんだね」

 

 ゆっくりと起き上がると、上にのしかかっていたイリナはそのまま後ろへと倒れ、ベッドの上に横になった。

 

「…………ウラルには言うなよ?」

 

「言わないよ。兄さんに邪魔されたくないもん」

 

 そう言いながら両手を伸ばし、肩を掴んでそっと俺を引き寄せるイリナ。微笑みながら頷いた彼女の唇をそっと奪い、そのまま2人で舌を絡み合わせる。

 

 はっきり言うと、かなり緊張している。

 

 今まではラウラやカノンに襲われて搾り取られることが多かったから、今回のように彼女を抱いた経験は殆どない。ナタリアを抱いた時はこんな感じだったけれど。

 

 でも、どうすればいいんだろうか。いつも搾り取られていたせいでどうすればいいのか分からない。

 

 イリナを抱きしめてキスをしつつ、こんな記憶が役に立つのだろうかと思いながら、前世でちょっとだけプレイしたエロゲの内容を思い出す。

 

 舌を離してから彼女を見つめつつ頷くと、イリナは微笑んだ。

 

 俺はもう一度息を呑んでから、イリナを抱くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――団長、大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫…………」

 

 テンプル騎士団の議員である円卓の騎士の1人が、心配そうにこちらを見ながら尋ねてくる。俺はそう答えながら深呼吸してテーブルの上のティーカップに手を伸ばし、中に入っているアイスティーを飲み干すと、深呼吸してから円形のテーブルのど真ん中に浮かんでいる立体映像を見つめた。

 

 お父さんから遺伝した変な体質のせいで、昨日の夜も大変なことになりました。

 

 ハヤカワ家の男には、”女に襲われやすい”というとんでもない体質がある。親父が前世の世界からこの世界に持ってきちゃったとんでもない体質を、俺は受け継いでしまったのである。

 

 そのせいで毎晩当たり前のようにラウラに搾り取られるし、カノンにも襲われている。けれども昨日はイリナと2人っきりだったから大丈夫だろうなと思ったんだけど―――――――あのバカ親父から遺伝したこの体質は、強敵でした。

 

 イリナにも搾り取られちゃったんですよ。

 

 ベッドで3回くらい搾り取られた後、またイリナとシャワーを浴びてから今度こそ寝ることにしたんだけど、シャワールームでもイリナに襲われた。そしてシャワーを浴び終えてベッドに戻った後もひたすら襲われる羽目になったのである。

 

 多分、イリナは一晩中俺の上に乗っていたのではないだろうか。イリナと一緒にラウラとカノンが襲ってきたらとんでもないことになるのは火を見るよりも明らかである。

 

 しかもママから貰った妊娠を抑制する薬を飲ませてくれませんでした。彼女は妊娠するつもりなのでしょうか。

 

 溜息をついてからちらりと会議に出席しているイリナの方を見ると、彼女は微笑みながらこっちにウインクしてくれた。

 

 今夜も襲うつもりじゃないよな?

 

 空になったティーカップに、メイド服に身を包んだエルフの女性の団員がアイスティーを注いでくれる。彼女に礼を言ってからティーカップを口へと運ぶと、そのエルフの団員はぺこりと頭を下げてから元の場所へと戻っていった。

 

 彼女たちにメイド服を着せた原因は、ケーターの話ではクランとカノンらしい。何をやってるんだろうか。

 

 目の前に置いてある資料を見ているうちに、黒い制服に身を包んだナタリアが立体映像を投影している装置を操作する。海面を再現していた蒼い光たちが霧散したかと思うと、今度は空中に小さな世界地図を生み出した。

 

「現時点で、我がテンプル騎士団が保有する軍港はたったの2ヵ所となっています。我々の海軍が保有する艦はこの世界の艦よりもはるかに巨大であるため、一般的な軍港を借りることはできません。海軍が活動する範囲を広げるためには、他にも我々の軍港を用意する必要があります。―――――――商人たちの輸送船を守るためにも、軍港の準備は必要かと」

 

 ちらりとこっちを見ながら説明するナタリア。彼女を見つめながら頷き、目の前にある資料を見下ろす。

 

 そう、テンプル騎士団が保有している軍港は、現時点ではたったの2ヵ所だけなのだ。今のところはウィルバー海峡や倭国周辺の海域だけで活動しているので問題はないんだけど、これからは遠方の海域に艦隊を派遣しなければならなくなるだろう。

 

 そのためには、艦隊を立ち寄らせて補給を受けさせるための拠点が必要になる。

 

 人員を派遣して軍港を作るのならば数週間で済むのだが、拠点を作るにはまず領土を確保しなければならない。もしまた勝手に他国の領土の中に拠点を作ってしまったら、前回の元総督との一件のように列強国と激突する羽目になってしまう。

 

 幸いカルガニスタンの先住民たちとは、『先住民たちを脅かす敵を全力で排除する代わりに、カルガニスタンの土地を自由に使わせてもらう』という契約をしている。なのでカルガニスタン領内に拠点を作るなら勝手に作ることはできるんだが、他の国の領内に勝手に作るわけにはいかない。

 

 拠点を作るにはその国の政府や議会と交渉して承認されなければならないのだが、テンプル騎士団のように規模の大きな”ギルド”が世界規模で活動するのは、李風さんが率いる殲虎公司(ジェンフーコンスー)以外では前例がないので、承認される可能性は低いだろう。

 

 すると、円卓の騎士の1人であるハーフエルフの男性が手を上げた。

 

「どうぞ、同志」

 

「あの…………”アナリア大陸”はどうでしょう?」

 

「アナリア大陸?」

 

 そのハーフエルフの男性は席から立ち上がってナタリアの近くへと行くと、装置を操作して世界地図をどんどんズームさせていく。

 

 あの男性は兵士ではなく市民だな。身に纏っているのは制服ではなくスーツだ。

 

 やがて立体映像がぴたりと止まり、巨大な大陸を形成する。

 

「奴隷だった頃、商人たちが話をしていたのを聞いたんです。”アナリア大陸はまだ未開拓の大陸で、先住民がたっぷりいるから、そいつらを捕まえれば奴隷として売れる”って」

 

 アナリア大陸か。位置は前世の世界で言うとアメリカだな。

 

 確かにアナリア大陸にはまだ列強国の騎士団は派遣されていない。あそこに住んでいるのは先住民たちだけだろう。事前に部隊を派遣して先住民の族長たちと交渉して土地を使わせてもらう事ができれば、大国の侵略から彼らを守ることはできるだろうし、貴重な軍港も確保できる筈だ。

 

「…………悪くない案だ」

 

「そうね。国ではなく先住民たちだったら交渉し易い筈だし、こっちには彼らと同じ種族の団員もいるわ。彼らに交渉をお願いすれば、先住民たちも土地を使わせてくれる筈よ」

 

「では、早速派遣する部隊を決めておきましょう」

 

「ああ、頼む。それと先住民の言語を喋れる団員も選抜しておいてくれ。いなかったら俺が彼らの言語を勉強して交渉する」

 

「嘘でしょ!?」

 

 いや、言語の勉強は得意なんだよ。さすがに古代語の難易度は高いけど。

 

 驚愕するナタリアを見て笑いながら、俺はティーカップを口へと運んだ。

 

 上手くいけば―――――――”テンプル騎士団アナリア支部”も設立できそうだ。

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 ウラルに大ダメージ!

 

ウラル「よし、今夜の訓練はこれまでだ」

 

タクヤ『ウラルには言うなよ?』

 

イリナ『言わないよ。兄さんに邪魔されたくないもん』

 

ウラル「うぐぅっ!?」

 

スペツナズ一同「隊長!?」

 

 完

 

 

 

 

 

 


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