異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
最近、僕は危機感を感じている。
タクヤとデートしてから彼に告白して、僕も彼の彼女になることができた。今はタクヤたちには悪いかもしれないけど、自分の棺桶を彼の部屋に持ち込んで、タクヤたちの部屋で生活している。僕は吸血鬼だから基本的に行動するのは夜になってしまうけれど、目を覚ましたばかりの時や任務を終えて帰ってきた時はタクヤたちと会う事ができるし、彼らが眠ってしまった後は寝顔を見る事ができる。
好きな人と一緒に生活できるのだから、幸せだと思う。
けれども――――――彼に告白して恋人になってから、全く距離は変わっていない。
基本的に眠る時間帯や行動する時間帯が全く違うから、彼と一緒にいる事ができる時間が少なくなってしまうんだ。
「はぁ…………」
ラウラやカノンちゃんは、もうタクヤに抱いてもらってるみたい。僕も血を吸う時にタクヤを誘惑してみたことはあるんだけど、拒絶されるのが怖いから襲ったことはないんだよね…………。
恋人になることはできたんだけど、このままだと彼に置いて行かれるかもしれない。だから何とかしてタクヤとの距離を詰めないと。
でも、どうすればいいんだろう…………。
デートに行くべきなのかな?
それとも、いっそのこと襲っちゃうべきなのかな?
僕はそう考えながらAK-12/76のマガジンを交換し、コッキングレバーを引いた。搭載されているホロサイトとブースターを覗き込み、進撃してくるゴーレムの胸板へと照準を合わせる。
このAK-12/76はセミオートマチック方式のショットガンなんだけど、僕の要望で、発射する弾薬は散弾ではなく”フラグ12”という炸裂弾に変更してもらっている。グレネードランチャーよりも威力や殺傷力は低いけれど、こっちのほうが弾数が多い上に連射できるから、僕はこの銃とフラグ12を愛用していた。
ちなみに、銃身の下にはちゃんとグレネードランチャーも搭載してあるし、接近戦になった場合のために、銃身の右上には折り畳み式のスパイク型銃剣も装着している。
タクヤと距離を詰める方法を考えながら溜息をつき――――――僕はそのフラグ12の群れを、容赦なくゴーレムの胸板に叩き込んだ。着弾する度に胸板を覆っている外殻が弾け飛び、岩にも似た外殻の破片や血飛沫が荒れ狂う。胸板を抉られたゴーレムが呻き声をあげながら崩れ落ちていき、灰色の砂埃を舞い上げた。
ゴーレムが崩れ落ちたのを確認した分隊長が、首に下げていたホイッスルを吹いて部下たちに突撃を命じる。すると、塹壕の中で突撃命令を待っていた兵士たちが一斉に塹壕の外に躍り出て、テンプル騎士団で正式採用されたばかりのKS-23を抱え、残った魔物の群れへと全力疾走を始めた。
今しがた塹壕から敵へと突撃していったのは、テンプル騎士団の”突撃歩兵”たちだ。
全ての部隊の兵士たちの中から、足が速くてスタミナが多い兵士たちを選抜して編成された新しい部隊なんだって。あの春季攻勢(カイザーシュラハト)でブラドたちが採用した”シントーセンジュツ”っていう戦術を実行するための部隊みたい。
敵の防衛線を迅速に突破して後方の司令部を壊滅させるために、彼らの武装は他の兵士と比べると軽装だった。もっと武器を持たせた方がいいんじゃないかな、と心配しているうちにその突撃歩兵たちは魔物の群れに肉薄したかと思うと、強烈な23×75mmR弾でゴブリンの胴体を強引に食い破って群れを突破し、後方にいる魔物の群れのリーダーを銃剣で串刺しにしたり、散弾で粉砕していく。
群れのリーダーたちを仕留めたことを確認した突撃歩兵たちは、魔物の群れに包囲される前に離脱すると、腰のホルスターに収まっていた拳銃で赤い信号弾を天空へと放ち、後方にいる味方へと合図を送った。
群れのリーダーたちを失って混乱している魔物の群れが、他の歩兵たちの餌食になるのは時間の問題だね。
AK-15を構えて塹壕の外へと飛び出し、魔物の群れへと突撃していく兵士たちを双眼鏡で見守りながら、僕はもう一度溜息をついた。
どうすればいいのかな…………。
このままじゃ、タクヤに置き去りにされちゃうかもしれない。
「どうしよう…………」
「ふにゅ? どうしたの?」
「あ、ラウラ」
戦場で悩んでいると、後ろから大きなアンチマテリアルライフルを肩に担いだラウラがやってきた。
彼女に相談した方がいいのかもしれない。ラウラは小さい頃からタクヤとずっと一緒にいるから、彼女ならタクヤと距離を詰める方法を知ってるかも。
双眼鏡で味方の様子を確認しながら、僕は隣にやってきたラウラに尋ねることにした。
「ちょっと悩んでるの」
「悩み?」
「うん…………タクヤの彼女になれたのは嬉しいんだけど、それから全然距離が縮まってないような気がして…………。僕、このままじゃ置いて行かれるんじゃないかな…………」
「なるほど…………」
本当に不安だよ…………。
双眼鏡の向こうでは、AK-15を装備した兵士たちがセレクターレバーをフルオートに切り替えて、魔物たちを薙ぎ払っているところだった。負傷者は出ていないようだし、当然だけど戦死者も出ていない。彼らの周囲に転がっているのはゴブリンの死体ばかりだ。
僕たちが加勢する必要はなさそうだね。
ラウラも僕の隣で味方の様子を確認する。もう既に魔物の群れは壊滅状態になっていて、中にはセミオート射撃でまだ生きているゴブリンに止めを刺している兵士たちもいる。
僕は双眼鏡を使って確認してるけど、ラウラはキメラの中でも視力が発達しているらしいから、双眼鏡が無くても遠くにいる敵を見る事ができるみたい。しかも自由にズームする事ができるんだって。
「イリナちゃん」
「ん?」
双眼鏡から目を離してもう一回溜息をつこうかなと思ったけれど、それよりも先にラウラに名前を呼ばれた。
「―――――――タンプル搭に戻ったら、いい作戦を教えてあげる」
「いい作戦?」
「うんっ♪」
首を縦に振りながら微笑むラウラ。彼女の考えた作戦はどういう作戦なんだろうか。
そう思いながら、僕は魔物の掃討を終えた歩兵たちを双眼鏡で確認してから、ホルスターの中に入っているワルサー・カンプピストルを天空へと向け、装填されていた信号弾を放った。
青空へと向けられているのは、タンプル搭のシンボルでもある巨大な7門の要塞砲たち。超弩級戦艦の主砲に匹敵する6門の36cm要塞砲が中央の巨大な砲身を囲んでおり、6門の要塞砲の中心には、複数の薬室を持つ巨大な砲身が屹立している。
ここはタンプル搭と呼ばれているけれど、”塔”は1つもない。この要塞砲の群れが塔に見えるため、団員たちにそう呼ばれているだけだ。
中心に鎮座するのは、テンプル騎士団の決戦兵器である”タンプル砲”。組織の名を冠した”超巨大多薬室型ガンランチャー”であり、戦艦大和の主砲どころかドイツが開発したドーラすら凌駕する200cm砲である。合計で33基の薬室を搭載されており、砲弾を発射する際にそれを起爆させて砲弾を一気に押し出すことによって、要塞砲どころか戦艦の主砲を遥かに凌駕する圧倒的な射程距離と破壊力を誇る。
しかも砲弾だけでなく、
大気圏を離脱したミサイルは慣性を利用して宇宙空間を飛行し、観測用のポッドを搭載した偵察機からの観測データを受信しつつ軌道を修正。そのまま大気圏へと突入し、攻撃目標を破壊する仕組みになっている。
宇宙空間では慣性を使って飛行するので、実質的にはミサイルの射程距離は無制限ということになる。なので、偵察機さえ派遣できればどんな目標でもミサイルで破壊する事ができるのだ。
今のところは搭載するつもりはないが、これで核弾頭を発射したらかなりの脅威になるだろう。
とはいえ、はっきり言うとこの要塞砲は”大問題の塊”と言っても過言ではない。
200cm砲に33基も薬室を搭載しているので、発射した際に砲口から飛び出す爆炎はちょっとしたキノコ雲と化すし、衝撃波は戦車やヘリを容易く粉砕するほどの破壊力がある。そのため、兵器や人員を保護するために格納庫や居住区などの設備は分厚い隔壁に保護された地下に作らなければならなくなってしまった。飛行場まで地下に作られているので、着陸する際の難易度は非常に高くなってしまっており、別の拠点への異動を希望するパイロットも多いという。
巨大な砲弾を撃ち上げるために砲身の長さは210mに達しており、周囲が岩山に囲まれているにもかかわらず目立ってしまう。しかもその砲身を支えるために無数の太いワイヤーと5つの武骨な支柱を用意しなければならないのである。当然ながら旋回する速度は鈍重としか言いようがないため、これで敵を迎撃するのはほぼ不可能だ。
しかも、砲身の外に32基もの薬室があるため―――――――もしここにミサイルが1発でも命中すれば、タンプル搭は一瞬で火の海と化すだろう。200cm砲の砲弾と、5発の砲弾を撃ち上げる事ができるほどの量の炸薬が薬室の中にぎっしりと詰まっているのだから。
その巨大な砲身の近くを、漆黒のヘリが横切っていく。
テイルローターの周囲は非常にすらりとしており、後端部にプロペラが搭載されているのが見える。胴体もすらりとしているというのにキャノピーが膨らんでいるせいなのか、まるでオタマジャクシにメインローターとスタブウイングを搭載したような形状のヘリだ。
タンプル砲の砲身の近くを通過していったのは、『AH-56シャイアン』と呼ばれるアメリカ製の試作型ヘリである。
ベトナム戦争の真っ只中に開発された初期の攻撃ヘリの1つだ。残念ながらアメリカ軍で正式採用されることはなかったけれど、ヘリの中では非常に速度が速いという特徴がある。
吸血鬼たちの春季攻勢の際に、ブレスト要塞へと増援を送るのが遅れてしまったせいで要塞の陥落を許してしまった。もし速度の速い兵器を派遣して敵部隊を攻撃して足止めしていれば、増援を派遣するまで時間を稼ぐ事ができた筈だ。
そこでテンプル騎士団では、そのAH-56シャイアンを正式採用することになった。
前哨基地などに配備し、別の拠点が敵の襲撃を受けた際に出撃させて迅速に迎撃し、味方の増援部隊が到着するまで敵の地上部隊を足止めさせるのである。そうすれば増援部隊が到着するまでの時間を稼ぐ事ができるし、敵がヘリの攻撃で撃滅できる規模ならばそのまま殲滅させる事ができる。
テンプル騎士団の防衛ラインが、より強固になるのだ。
とはいえこいつはベトナム戦争の際に開発された兵器であるため、現代の兵器から見れば旧式だ。採用する前に仲間たちとどのような近代化改修をするべきか議論した方が良さそうだな。
テストのためにテンプル搭上空を何度か旋回し、飛び去っていく3機のAH-56たち。彼らを見送ってから俺は踵を返し、自室へと向かうことにした。
エレベーターに乗り込み、ボタンを押して下へと降りていく。やがてエレベーターがぴたりと止まり、居住区へと到着したことを告げるチャイムが響き渡る。
鉄格子にも似た扉が開き、パイプから蒸気にも似た魔力の残滓が噴き出す。エレベーターから降りた俺は、ケーブルや太い配管が剥き出しになっているタンプル搭の通路の中を進んでいった。
春季攻勢が終わってから、テンプル騎士団はかなり大きな組織になった。救出した奴隷たちは可能な限り故郷へと送り届けるようにしているものの、もう既に故郷が壊滅していくあてのない奴隷たちはタンプル搭の市民として受け入れており、しっかりと人権を与えて働いてもらっている。兵士たちはその保護した奴隷たちの中から志願した者で構成されているのだが、奴隷たちを保護する度に志願兵の数は増えている。
組織が大きくなるのは喜ばしい事だが、それほど奴隷の人数が多いということを意味しているのだ。
組織の規模が大きくなるにつれて、新しい兵士たちも産声をあげつつある。大量に手榴弾を携行した『強襲擲弾兵』の部隊も編成されたし、浸透戦術を敢行するための突撃歩兵たちも編成された。どちらもすでに戦果をあげている状態らしい。
そのうち、火炎放射器で建物の中の敵を掃討する『掃討焼却兵(そうとうしょうきゃくへい)』、マスタードガスなどの毒ガスで敵の魔物や敵兵を駆逐する『駆逐毒ガス兵』、これでもかというほど対戦車兵器を携行した『対戦車撃滅兵(たいせんしゃげきめつへい)』の部隊も編成する予定である。兵士たちの選抜はもう既に済んでいるので、来週からは訓練が始まるだろう。
ショットガンを肩に担いだ突撃歩兵に敬礼を返しながら通路を進み、俺は自室のドアを開けた。
てっきりラウラがドアを開けると同時に飛びついてくるんじゃないかと思って警戒してたんだけど、部屋の中にラウラはいなかった。多分イリナはベッドの隣にある棺桶の中でまだ眠ってることだろう。
寝顔でも見て見ようかなと思ったけれど、爆睡しているのを邪魔するのはよくないと思うので、そのまま寝かせてあげよう。
とりあえず、シャワーでも浴びるか。
上着を壁にかけてから着替えを用意し、洗面所へと向かう。大浴場で温泉に入ってくるという手もあるんだが、あの大浴場は午後4時から午後8時くらいまで結構混むのだ。最悪の場合は4時に入りに行ったのに、大浴場に入る事ができるのは6時になることもある。
なので大人しく自室のシャワーで我慢しよう。
お姉ちゃんから貰ったリボンを解いて服を脱ぎ、腰にタオルを巻いてからシャワールームへと足を踏み入れる。
産業革命の恩恵で、今では庶民の一般的な家庭にもシャワーは普及している。けれども産業革命以前は貴族の屋敷にしか用意されていなかったため、庶民や農民たちは川や井戸から水を汲み上げてそれを浴び、身体を洗っていたという。冬はその水を温めてお湯にして浴びてたらしいんだけど、薪に余裕がない貧しい家では冬でも冷水を浴びて身体を洗っていたようだ。
タンプル搭の部屋にはちゃんとシャワールームもあるし、シャワールームの中には2人くらいなら入れそうな小さい浴槽もある。
ちなみに、ラウラと一緒に入るとたまに浴槽の中で襲われることもある。先週にこの浴槽の中で搾り取られたせいでまた身体を洗い直す羽目になったことを思い出しながら、シャワーでまずお湯を浴び、母さんから遺伝した蒼い髪を濡らす。
シャンプーへと手を伸ばしたその時、シャワールームの扉が開く音が聞こえてきた。
ラウラだろうか?
「やっほー♪」
「ん? イリナ?」
シャンプーのせいで匂いが分からなかった…………。
シャンプーで髪を洗う前に一旦タオルで髪を拭き、くるりと後ろを振り返る。どうやら彼女も俺と一緒にお風呂に入るつもりらしく、身体にバスタオルを巻いていた。
「ふふふっ、僕が身体洗ってあげるよ♪」
「お、おう」
そう言いながら小さなタオルを濡らし、ボディソープへと手を伸ばすイリナ。けれども彼女は俺がこれから髪を洗うところだったことに気付いたらしく、一旦そのタオルから手を離し、代わりにシャンプーへと手を伸ばす。
ニコニコと笑いながら、彼女はそのまま俺の髪を洗い始めた。
けれども、密着して胸を当てているのはわざとだと思います。
さり気なくちょっと前に移動して猛威を振るうイリナのおっぱいから逃げようとするんだけど、すぐにイリナは距離を詰めてくる。というか、さっきよりもしっかりと胸を当ててくる。
無駄だな、と思った俺は、大人しくイリナに髪を洗ってもらうしかなかった。
「タクヤの髪って綺麗だよね」
「そうか?」
「うん。ところで、この蒼い髪ってお母さんの遺伝なの?」
「ああ」
「なんだか羨ましいなぁ…………どうすればこんなに髪が綺麗になるんだろう?」
「イリナの髪も綺麗だと思うぞ、俺は」
そういうと、俺の髪を洗ってくれていたイリナの指がぴたりと止まった。
「…………えっ、そ、そっ、そう?」
「ん? ああ、綺麗だよ。桜みたいで」
多分、イリナは顔を赤くしてると思う。照れてる彼女を愛でたいところだけど、残念ながら目を開けたらシャンプーが俺の眼球に突撃してくるので目を開ける事ができません。
ちくしょう、照れてるイリナの顔が見たい!
「えへへへっ…………♪」
嬉しそうに笑いながら、シャワーで髪についている泡を洗い落としてくれるイリナ。彼女の照れてる顔を見ることはできなかったけれど、彼女に喜んでもらうことはできたらしい。
でも照れてるイリナの顔が見たかったなぁ…………。
そう思いながらタオルへと手を伸ばし、俺は顔を拭くのだった。