異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
『こちらアルファ1、救出目標を確保』
「了解ですわ。…………アルファ1、救助部隊の到着まであと40分ですわね」
『あらら、救出が早過ぎたか』
タクヤの冗談を聞きながら、カノンはスコープを覗き込んで拠点の敷地内を確認しつつ微笑んだ。地下室へと突入するまでは無防備な警備兵をナイフで静かに消しつつ進んでいたため、敵に襲撃を察知されることはなかったものの、先ほどの強行突入は流石に騒ぎ過ぎたらしく、中距離用のマークスマンライフルに装着したスコープのレティクルの向こうでは、タクヤのぶっ放したショットガンの銃声を聞いた警備兵たちがマチェットを手にしたまま建物の中から飛び出して、慌てふためいているのが見える。
最早静かに奴隷たちを救出して退避させるのが不可能なのは、火を見るよりも明らかであった。
呼吸を整えつつ一旦スコープから目を離し、他の仲間たちの位置を確認するカノン。これから先は麻薬カルテルの連中と真っ向から戦うことを想定しつつ、別の位置で狙撃の準備をしている仲間たちに合図を送る。
実際に最前線で活動することになるスペツナズの隊員はたった8人だけである。そのうちの2名は狙撃手となっており、一般的なスナイパーライフルの射手と、防御力の高い標的に対処するために対物ライフルを装備した射手の2名で構成されている。
建物へと突入したのは5名の兵士たち。残りの2名はその建物の窓で外の様子を警戒しており、目標を救出して地下室から戻ってきた仲間たちに外の状況を伝え、脱出する仲間たちの支援をすることになっている。
(敵の人数は60人前後…………ちょっと数が多いですわね)
建物から飛び出して慌てふためいているカルテルの警備兵たちをいつでも撃てるように準備しつつ、カノンは唇を噛み締める。彼女がスコープを覗き込んだまま伏せている狙撃ポイントから敷地内までの距離は、およそ500m。モリガンの傭兵たちの中で選抜射手(マークスマン)を担当した母(カレン)から受けた訓練で行った距離よりも若干短い距離であるため、スコープの向こうにいる敵兵を瞬時に始末するのはお手の物である。
獲物を瞬時に始末し過ぎて、ボレイチームの狙撃手たちに経験を積ませる事ができなくなってしまうのではないか、と思いつつ、カノンはスコープを覗き込んだまま待機する。
ヘリの到着まであと40分。その前に敵部隊に見つからないように奴隷たちを敷地の外まで脱出させるよりも、地下で一時的に奴隷たちを保護しつつ地上にいる敵を殲滅し、救助のヘリを待った方が安全なのは火を見るよりも明らかである。
『アルファ1よりアクーラ1-1へ』
『どうぞ』
『救出目標を保護したが、敵に気付かれたかもしれない。これより殲滅戦に移行する』
『奴隷たちはどうする?』
『ボレイ5、ボレイ6の2名に地下室を警備させつつ、他のメンバーで襲撃を敢行する』
『了解した。―――――――アクーラ1-1よりアルファ2へ』
「こちらアルファ2」
予想通りの作戦だと思いつつ、カノンは無線機から聞こえてきたウラルの声に返事をする。
『隠密行動は終わりだ。そろそろクソ野郎共の掃除を始めようか』
「了解ですわ」
スコープを覗き込んだままニヤリと笑い、慌てて兵舎と思われる建物から飛び出してくる警備兵たちに指示を出している中年の男性へと照準を合わせ続ける。隠密行動が終わっていつも通りの戦闘が始まるのはとっくに予想していたため、カノンはもう既に戦闘の準備を完全に終えていた。
彼女の持つSVK-12は、テンプル騎士団で正式採用されている7.62mm弾を使用するマークスマンライフルである。本来は一般的な銃床とピストルグリップを併せ持つAK-12に似たマークスマンライフルであったが、彼女の要望によってタクヤがサムホールストックに改造しているため、AK-12というよりは、前任のライフルであったドラグノフに近い形状をしている。
「―――――――ボレイ4、ボレイ8、やりますわよ」
『了解(ダー)』
『準備はできています、同志カノン』
2人の狙撃手に指示を出してから―――――――カノンは、マークスマンライフルのトリガーを引いた。
1発の7.62mmが、サプレッサーの取り付けられた銃口から躍り出る。アサルトライフルに使用される小口径の弾薬と比べると圧倒的なストッピングパワーを誇る7.62mm弾は、拠点の周囲を覆っている霧に風穴を穿ちながら飛翔すると、マチェットを振りかざしながら部下たちに指示を出していたカルテルの指揮官の後頭部を叩き割った。
皮膚を容易く貫いた弾丸が、頭蓋骨と脳味噌を木っ端微塵にし、脳味噌の肉片と肉がこびりついた頭蓋骨の破片たちを引き連れながら、眉間にもう1つの風穴を開けて飛び出していく。
がくん、と指揮官の頭が揺れ、肉片と鮮血が彼の目の前を移動していた若い男性に降りかかる。その男性が目を見開きながら悲鳴を上げた頃には、SV-98を装備したボレイ4の放った.338ラプア・マグナム弾が、その男性の眉間を食い破っていた。
ボレイ4がボルトハンドルを引いているうちに、カノンはすぐに次の標的に狙いを定める。ボルトアクション式のライフルは優秀な命中精度を誇るため、スナイパーライフルにうってつけのライフルと言えるが、1発発射する度にボルトハンドルを引かなければならなくなっていまうため、立て続けに連射できるセミオートマチック式のライフルと比べると、連射速度は遅くなってしまう。
連射速度の速さを生かし、次の標的を撃ち抜くカノン。彼女の正確な狙撃の餌食になったのは、見張り台の上に備え付けられた大型のバリスタの発射準備をしようとしていた男性だった。とっくに各国の騎士団から退役した、ただ単に巨大な矢―――――――矢というよりは巨大な槍である―――――――を発射する旧式の兵器であり、着弾した矢は炸裂せずにそのまま地面や標的を串刺しにするだけである。それゆえに命中しなければ全く脅威ではないのだが、乱戦の真っ只中に放たれれば回避するのは難しくなる。
タクヤたちが突入している間に、敵の位置や人数を観察しつつ、もし今から狙撃が始まるのであれば度の標的から仕留めるべきかと、カノンは既に排除する順番を決めていたのだ。
面倒な麻薬カルテルとはいえ、錬度は騎士団には及ばない。何度も実戦を経験している騎士団の騎士たちならば戦闘中に指揮官が戦死したとしても、すぐに副官が指揮を引き継いで行動を続けることができるだろう。
だが、戦闘に慣れていない麻薬カルテルが指揮官を失えば、迅速に指揮を引き継ぐことはできなくなる。
案の定、レティクルの向こうでは戦死した指揮官を見下ろしながら、数名の警備兵たちが狼狽しているところだった。挙句の果てには逃げるべきだと言った仲間を「臆病者め」と罵り、襲撃を受けている最中であるにもかかわらず、戦場のど真ん中で口論を始めている。
その愚かな3人を容赦なく撃ち抜いたカノンは、呆れながら次の標的へとレティクルを合わせた。
地下室でサプレッサー付きの武器を使えば気付かれることはなかっただろうか、と後悔しつつ、チューブマガジンの中に散弾が装填されていることを確認する。
奴隷たちを早く救出し過ぎてしまったらしく、彼女たちを救出するために派遣されたヘリがフランセンの国境を越えてここへとやってくるのは40分後だという。その間に奴隷たちをこのカルテルの拠点の敷地の外へと脱出させるよりも、一時的にあの地下室の中で保護しつつ、外にいるクソ野郎共を殲滅した方が安全だろう。
というわけで、地下室を2名の隊員に警備させ、残った5人で敵兵たちを撃滅することになった。
仲間たちはもう既にAN-94からサプレッサーを外している。強行突入した際の音で敵に気付かれてしまったのだから、もうサプレッサーで銃声を誤魔化しながら隠密行動を続ける意味はない。素早く敵部隊を殲滅し、ヘリが着陸する場所を確保しなければならないのだから。
もう既に外にいる狙撃手たちは攻撃を始めているらしく、窓の向こうには大口径の弾丸で頭を叩き割られた敵兵の死体や、それよりもさらに大口径の対物(アンチマテリアルライフル)―――――――ボレイチームでは14.5mm弾を使用するように改造されたOSV-96が採用されている―――――――が放った弾丸に食い千切られた上半身が、湿った大地の上に転がって泥まみれになっているのが見える。
ああいう光景はヴリシアの時に何度も目にした。
溶けた雪のせいで泥まみれになった塹壕の中に転がる死体や肉片。着弾した砲弾がぶちまけた血の混じった泥を浴びながら進軍したクリスマス。
唇を噛み締めながらフォアエンドを握り締め、仲間たちに合図を送る。
準備を終えた仲間たちが頷いてくれたのを確認してから―――――――俺はドアを蹴破った。
「
べちゃ、と湿った地面に叩きつけられた木製のドアを踏みつけ、その向こうでこちらを振り向きながらぎょっとしている男の顔面に、手始めに散弾をぶち込む。荒れ狂う散弾の群れを顔面にプレゼントされた男は、運動エネルギーを纏いながら飛来した散弾の群れに頬や眼球を抉り取られ、猛烈な血と肉の臭いをばら撒きながら後ろへと吹っ飛ぶと、湿った建物の壁を脳味噌の肉片と鮮血で、深紅とピンクの2色に彩ってから崩れ落ちる。
フォアエンドを引き、次の標的を狙う。
姿勢を低くしたまま前進し、今の銃声で気付いた敵兵へと肉薄。マチェットが振り下ろされる前にトリガーを引き、少しばかり太っていた警備兵の腹を散弾でズタズタにする。
凄まじい破壊力だな、ショットガンは。
散弾で食い破られた敵兵の死体を一瞥しつつ、フォアエンドを引く。排出された空の薬莢が煙を纏いながら排出され、湿った大地へと落下していった。
返り血を浴びながら前進し、敵兵の首筋にスパイク型の銃剣を突き立てながら、ちらりと仲間たちを一瞥する。俺は1人で突っ込み、散弾と銃剣で敵兵の群れを早くも蹂躙しているが、ボレイチームの兵士たちは訓練通りにしっかりと遮蔽物の陰に隠れてコンパウンドボウの矢から身を守りつつ、AN-94に搭載された2点バースト射撃で敵兵を正確に仕留めている。
「グレネード!」
「了解、頼む!」
ボリスがAN-94の銃身の下に搭載されていたグレネード弾を放ち、まとめて数名の敵兵を吹っ飛ばす。バラバラになった肉片や手足が立て続けに泥だらけの地面に落下し、血の臭いを周囲にばら撒き始めた。
逃げようとする敵兵の背中に2点バースト射撃で2つの風穴をプレゼントし、マチェットを振り上げて突っ込んでくる敵兵を2点バースト射撃の連続射撃で薙ぎ払うボレイチームの兵士たち。
アサルトライフルはフルオート射撃をすることもできるけれど、装着されているマガジンの中に入る弾薬の数はたったの30発。銃の種類によっては更に弾数が少ない銃もある。なので、フルオート射撃でこれでもかというほど弾丸をぶちまけるのは、弾薬の連なるベルトを装備している機関銃の仕事なのだ。
ボレイチームがちゃんと連携を取りつつ敵兵を血祭りに上げていることを確認して安心した俺は、今しがたスパイク型銃剣を突き刺していた敵兵の喉を12ゲージの散弾で抉り取り、銃剣を引き抜いた勢いを利用してくるりと回転。そのまま銃床で殴りつけて喉を抉られた敵兵を後ろへと突き飛ばし、フォアエンドを引きつつ先へと進む。
残った散弾をスラムファイアで一気にぶちまけ、チューブマガジンの中に散弾を装填。突っ走りながら近くの木箱の陰に隠れた直後、その木箱の向こうから俺を攻撃するために突っ込んできた敵兵のこめかみに、やけにでっかい風穴が開いた。
AK-47やAK-15の弾薬として使用されている、大口径の7.62mm弾である。
場合によってはスペツナズでも使用されることのある弾丸だが、魔物との戦闘よりも対人戦を考慮するスペツナズでは、基本的に口径が小さくて扱いやすい5.45mm弾のほうが望ましいと言われている。だからその一撃を放って俺を掩護してくれた選抜射手(マークスマン)の正体を一瞬で察した俺は、後で彼女にご褒美をあげようと思いつつ、にやりと笑ってから木箱の陰から躍り出た。
ズドン、と大口径の14.5mm弾が飛来し、逃げようとしていた兵士の肉体を貫通する。まだ強烈な運動エネルギーを維持していた弾丸は、装甲よりもはるかに柔らかい人間の肉と骨をあっさりと食い破ると、その向こうにいたカルテルの兵士の胸板を抉ってしまう。
OSV-96も、テンプル騎士団で正式採用されているアンチマテリアルライフルである。さすがにボルトアクション式のアンチマテリアルライフルと比べると命中精度はそれほど高くはないが、セミオートマチック式であるため、大口径の弾丸を立て続けにぶち込めるという利点がある。
更に攻撃力を上げるため、”テンプル騎士団仕様”のOSV-96は14.5mm弾が発射できるように改造されているのだ。
ちなみにボレイチームでそのテンプル騎士団仕様のOSV-96を装備しているのは、”ボレイ8”というコールサインを与えられている『アラン・シェンドルフ』だ。スペツナズの兵士はあらゆる部隊から選抜された兵士で構成されているんだが、アランはラウラの教え子でもある狙撃手部隊から選抜されてきた狙撃手であり、テンプル騎士団に入団する前はラトーニウス王国の奴隷部隊で後方からの狙撃を担当していた熟練のスナイパーなのである。
多分、ボレイチームの中では一番実戦を経験している回数が多いのではないだろうか。
木箱の陰から飛び出し、敵に肉薄してからショットガンをぶちかます。散弾で抉られた敵兵の死体を蹴飛ばし、後続の敵兵に激突させて体勢を崩してから、チューブマガジンの中の散弾をスラムファイアでまたしても全部ぶっ放す。
テンプル騎士団ではもう既にサイガ12KやAK-12/76を採用しているが、ポンプアクション式のショットガンも悪くないかもしれない。例のショットガンをアンロックしたら兵士たちに支給してみよう。
あと何人殺せばアンロックされるのだろうか、と考えながら近くの家の中へと飛び込み、ホルダーの中の散弾を次々にチューブマガジンへと装填していく。再装填(リロード)が終わったのを確認してから、俺は再びその家を飛び出し、必死に応戦している敵兵へと姿勢を低くしながら肉薄していくのだった。
《”KS-23”がアンロックされました》
逃げようとしていた最後の1人を射殺した直後に、目の前にそんなメッセージが表示された。やっとアンロックする事ができた、と思いながら先ほどまで火を噴いていたイサカM37を肩に担ぎつつ、左手で画面をタッチしていく。
俺はこの『KS-23』が欲しかったのだ。
KS-23は、ソ連で開発された大口径のポンプアクション式ショットガンである。一見するとイサカM37を更にがっちりさせたような形状をしており、強力な散弾を放つ銃身もさらに太くなっているのが分かる。
現代のショットガンは12ゲージの散弾を使う代物が一般的だが―――――――このKS-23は、なんと23mm弾を使用する対空機関砲の砲身をショットガンの銃身に利用しているため、12ゲージの散弾よりも更に口径の大きな”23×75mmR弾”と呼ばれるでっかい弾丸を使用する事ができるのである。
航空機を容易く撃墜できるほどの口径の銃身を使っているのだから、それから放たれる散弾が圧倒的な火力を誇るのは想像に難くない。
アンロックされたばかりのショットガンを早速生産しつつ、ちらりと村長が使っていたと思われる建物の方を見つめる。地下室を警備していた2名の隊員が奴隷たちを地上へと誘導し始めたらしく、俺が蹴り破ったドアの向こうからは、ぞろぞろと奴隷にされた女性たちが外へと出ているところだった。
救助部隊が到着するまであと20分もある。奴隷の救出どころか、殲滅も早く終わらせ過ぎたらしい。
『アルファ1、敷地内に麻薬を保管してる倉庫もある筈だ』
「よし、処分しよう」
生産したばかりのKS-23を手に持った俺は、近くに転がっている泥まみれの死体を見下ろして顔をしかめてから、麻薬が保管されている倉庫を探し始めるのだった。