異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
ハヤカワ家の男性は、どういうわけか”女性に襲われやすい”という変な体質らしい。この変な体質をこの異世界に持ち込んで、その体質になるような遺伝子を無理矢理俺に継承させたのは、今では魔王と呼ばれている
前世の世界にいた頃から親父もその体質を受け継いでしまったらしい。そして異世界へと転生し、エミリア・ハヤカワとエリス・ハヤカワとの間に生まれた俺たちにもその遺伝子を受け継がせやがったというわけだ。こんな遺伝子を受け継ぐ羽目になったせいで、俺も親父と同じく頻繁に彼女たちに襲われている。
フライパンの上で真っ白になった目玉焼きを皿の上に乗せ、塩と胡椒で味をつけてから焼いたデッドアンタレスの肉を目玉焼きの隣に乗せる。デッドアンタレスは砂漠に生息する魔物なので、雪国であるオルトバルカではあまり食べる機会はなかったけれど、カルガニスタンは砂漠なので市場に行けば冒険者が討伐したデッドアンタレスの肉がよく売られているのを目にする。一見するとでっかいエビに見えるけれど、こいつは危険なサソリの肉なのだ。
2つの皿にトーストを2枚ずつ乗せ、キッチンからテーブルの上へと運ぶ。サラダも用意した方がよかったかなと思ったけれど、前に野菜炒めを作った時に大半の野菜を使ってしまったから、冷蔵庫の中には生き残りのピーマンしか残っていないだろう。
ベッドの中でまだ寝息を立てている少女は、ピーマンが嫌いなのだ。朝っぱらから嫌いな野菜を目にしたら不機嫌になってしまうに違いない。カレンさんだったら強引に食わせそうだけど。
ナタリア特製の甘いジャムの入った瓶とオルトバルカ王国から輸入したマーマイトの入った瓶をテーブルの上に置いてから、まだ眠っている少女を起こすことにした俺は、エプロンを取ってキッチンの壁にかけてから、いつもはラウラと一緒に眠っているベッドへと向かう。
いつもなら赤毛の美少女が毛布の中で寝息を立てているんだけど、彼女は
あの中で寝息を立てているのは、別の少女だ。
数秒ほど彼女の可愛らしい寝顔を見下ろしてから、容赦なく彼女の身体を揺する。
「カノン、起きろ」
「にゃあ…………うぅ、ねむいの…………」
「たっぷり寝ただろ。ほら、飯だぞ」
「んっ…………おにいちゃん…………………?」
俺とラウラの妹分であるカノンは、幼少の頃から領主になるための教育を受けてきた。勉強や母親の思想だけでなく、貴族としてのマナーや戦い方を両親から教わっていたせいなのか、最初から中身が17歳の男子高校生だった俺を除けば、大人びていく速度が一番早かったのはカノンだった。
けれども目を覚ましたばかりの彼女は、時折昔の可愛らしい口調に戻ることがある。
瞼を擦りながら昔の口調に戻っているカノンの頭を撫でていると、彼女はつい昔の口調で喋ってしまったことに気付いたらしく、顔を赤くしながら俺から目を逸らす。
「お、お兄様っ、おはようございますっ」
「おう、おはよう。…………あ、シャワー空いてるから浴びてきてもいいぞ? 俺は浴びたから」
「そ、そうですわね…………」
そう言ってから背伸びをし、ベッドを後にするカノン。部屋の隅に置いてある自分の着替えを手に取り、部屋に用意してあるシャワールームへと向かう。
シャンプーを済ませれば消えてしまうな、と思いながら、シャワールームへと歩いていくカノンの頭の上で揺れている彼女の寝癖を見つめていた俺は、彼女がシャワーを済ませて戻ってくるまでメニュー画面を開いて武器や兵器をチェックしておくことにする。
第二世代型の転生者は端末を持っていないため、武器を装備する際に使用する端末を紛失したり、敵に強奪される恐れがない。なので安全性では第二世代型の方が高いんだけど、第二世代型転生者が生産できる武器の中には条件を満たさなければ生産できないものもあるため、こっちの方が面倒なのだ。
第一世代型の転生者はただ単にレベルを上げて手に入れたポイントを支払えばどの武器でも自由に生産できるんだけど、第二世代型が生産できる武器の中にはアンロックしてからポイントを支払わなければならないものも含まれているので、ちょっとばかり面倒なのである。
自由に生産できるようになればいいのにな、と思いつつ、メニューの中からショットガンの項目を選んでタッチ。ずらりと表示された無数のショットガンたちの中からポンプアクション式のショットガンを探し始める。
ロシア製のポンプアクション式ショットガンを生産したいんだけど、それを生産するためにはあと20人も敵兵をポンプアクション式のショットガンでぶっ殺さなければならない。
ちなみに、今のところテンプル騎士団が採用しているショットガンはサイガ12KやAK-12/76の2種類である。この条件を満たして生産すれば3種類のショットガンを運用することになるというわけだ。ポンプアクション式なのでセミオートマチック式に比べると連射力が劣るけれど、使用する弾薬が12ゲージの散弾よりも強力な代物なので、こいつが採用されれば接近戦で猛威を振るうに違いない。
他の兵士たちと弾薬を分け合うのが難しくなるという欠点はあるが。
というわけで、こいつを生産する条件を満たすためにポンプアクション式のショットガンを生産しておくことにする。
俺が選んだのは―――――――アメリカで産声を上げた『イサカM37』と呼ばれるポンプアクション式のショットガンである。
少しばかり旧式のショットガンではあるものの、旧式とは思えないほど信頼性が高い上に軽いのが特徴だ。すらりとした形状のショットガンで、これを装備したアメリカ兵たちがベトナム戦争などで猛威を振るったという。
サイガ12KやAK-12/76のようにマガジンを交換する方式ではなく、まるでもう1つの銃身のように本来の銃身の下にぶら下げられている”チューブマガジン”の中に散弾を装填する方式となっている。
早速カスタマイズするか。まだポイントには余裕もあるし。
まず銃身を切り詰めておく。チューブマガジンは4発入りのままにして、銃床もそのままにする。銃床の両サイドに散弾を収めておくためのホルダーを装着し、銃口の下にも銃剣を装着できるようにしておこう。銃身を切り詰めたことで射程距離が短くなってしまったから必然的に接近戦をすることになるし、相性はいい筈だ。
ちなみにこのイサカM37は、トリガーを引きっ放しにしたままフォアエンドを動かすことによって、強烈な散弾を高速連射することができる『スラムファイア』を敵にぶちかますことが可能だ。中にはこのスラムファイアがオミットされたモデルもあるらしいけれど、この能力で生産できるのはスラムファイアが可能なモデルらしい。
もしできなかったらカスタマイズで追加する予定だったんだけど、ポイントを使わずに済んだよ。
実際に装備してみようと思っていたんだけど、それよりも先にシャワールームのドアが開いて、シャワーを終えたカノンが湿った髪をタオルで武器ながらリビングへとやってきた。
「よし、ご飯食べるか」
「ええ」
メニュー画面を閉じ、椅子に腰を下ろす。カノンの近くにジャムの入った瓶を寄せてからマーマイトの瓶を拾い上げ、近くに置いてあったスプーンで自分の分のトーストにマーマイトを塗り始める。
普通の転生者と違って、ほぼ完全にこの異世界の人間として生まれ変わってしまったからなのか、どうやら味覚まで変わってしまったらしい。ジャムとかバターを塗ったトーストも好きなんだけど、今はマーマイトを塗ったトーストが一番好きなんだよね。
「マーマイト塗る?」
「い、いえ、わたしくは苦手ですの…………」
「好き嫌い多いなぁ」
「お兄様は好き嫌いはありませんの?」
「何でも食えるよ」
サバイバルの訓練をやってた頃はカエルとかムカデを生で食うのが当たり前だったからね。さすがに食事中にこんなことを言ったら彼女の食欲をぶち壊すことになるので、これは言わないでおこう。
マーマイトを塗ったトーストを齧りつつ、アイスティーの入ったティーカップに手を伸ばす。カノンがさっきまで塗っていたジャムが入っている瓶を拝借し、スプーンでジャムを中へと放り込んでからティーカップを口へと運ぶ。
甘くなったアイスティーを飲み込んでから、俺は溜息をついた。
き、昨日の夜はアハトアハトをぶっ放しまくった…………。
カノンはラウラのように俺を拘束して襲うことはないだろうと思って高を括ってたんだけど、こいつは対魔物用の麻酔薬を使って俺を眠らせてから襲ってきやがったのである。普通の睡眠薬ではキメラに効果がないと思ったから、より強力な麻酔薬を用意したのだろうか。
ちなみに今回は後半から俺も春季攻勢を始めた。呼吸を整えている最中に押し倒されてびっくりしていたカノンの顔を思い出した俺は、反射的に頭に生えている角へと手を伸ばし、角が勝手に伸びていることを確認してからカノンから目を逸らす。
襲われることが多いけれど、襲うのも悪くないかもしれない。今度は先にラウラを押し倒してみようか。
でもいきなり眠らされて襲われたので、もちろんママから貰った妊娠を抑制する便利な薬は飲んでおりません。下手したらカノンがラウラよりも先に妊娠する可能性があります。
カノンをとっくに抱いていることがバレたら、九分九厘ギュンターさんに殺されるな。下手したらモリガンの傭兵の中で唯一まともなカレンさんも参戦するかもしれない。
というか、モリガンの傭兵もまともな人が少ないよな。若き日のカレンさんはナタリアのような存在だったのだろうか。
フォークをデッドアンタレスの肉に突き刺して口へと運ぼうとしたその時、部屋のドアがノックされる音が聞こえてきた。ちらりとカノンの方を見てからデッドアンタレスの肉を口へと放り込み、エビのような味の肉を噛み砕きながらドアの方へと向かう。
「はいはーい」
イリナが帰ってきたのかなと思いながらドアを開けたけれど、この部屋を訪れたのは吸血鬼の美少女ではなく、その美少女の兄貴だった。
「団長、仕事を頼みたいんだが」
「仕事? いいけど」
普通だったら組織のリーダーは最前線に行くことはない筈なんだけど、俺や親父は積極的に最前線で戦うことを心掛けている。一般的な軍隊で例えるならば将校がライフルを持って歩兵と一緒に戦っているようなものだろう。
絶対にありえないかもしれないけれど、最前線に行くことによって戦っている兵士たちが経験する状況を理解できるし、彼らのためにどういう指揮を執ればいいのかがすぐに分かる。それに積極的に前線に出れば兵士たちの士気も上がるだろう。
実際に敵と戦った経験のない将校と、最前線で戦果をあげて昇格した将校ならば、俺は後者の方についていきたいと思うからな。他の兵士たちも同じ筈だ。
というわけで、こういう仕事は積極的に引き受けよう。
「実はな、以前にフランセンの議員と取引をしていた麻薬カルテルの1つをぶっ潰すことになったんだが、その作戦に”ボレイチーム”を投入しようと思うんだ」
「ボレイチームを?」
今のスペツナズには、『アクーラチーム』、『ボレイチーム』、『シエラチーム』の3つのチームがある。
アクーラチームは春季攻勢よりも前に結成されたチームで、隊員たちの中には吸血鬼の兵士も含まれている。しかもベテランの兵士が最も多いチームであり、すでに転生者を何人も討伐している精鋭部隊である。
ボレイチームとシエラチームはスペツナズの増強のために新設したチームで、どちらも各部隊から選抜されてきた兵士で構成されている。シエラチームはまだ訓練中であるため実戦には出せないけれど、ボレイチームは何度か転生者の暗殺に成功しているという。
とはいえ、はっきり言うと不安だ。
テンプル騎士団の兵士の質は、二大勢力と比べると低いと言わざるを得ない。以前にボレイチームの突入訓練に攻撃目標の役で参加したんだが、室内にいる目標に突入を察知されていた挙句、突入した直後に隊員が全員返り討ちに遭ってしまっているのである。
転生者の暗殺に成功しているとはいえ、彼らを麻薬カルテルの討伐に投入して大丈夫なのだろうか。
「大丈夫かよ?」
「彼らにも経験を積ませなければな。それに麻薬カルテルの拠点も確認しているし、いざとなったら空軍に空爆も要請できる」
「…………で、俺は新米たちの面倒を見るってことか」
「そういうことだ。…………ブリーフィングは17時から会議室で行う。遅れんなよ、同志」
「はいはい」
まあ、対人戦なら例のショットガンをアンロックするための条件を満たすこともできるし、参加した方がいいだろう。それに未熟な兵士たちをしっかりとサポートしてあげなければ。
俺は団長なのだから。
「攻撃目標は、フランセン領北東部の『ガルコロフ州』を拠点にしているカルテルだ」
そう言いながらウラルが装置に魔力を流し込み、円卓の上に浮遊している立体映像を変形させていく。蒼い光で構成されていた森がズームされているように見えるけれど、正確には不要な部分の光が移動し、必要な部分を拡大させているだけらしい。
これも産業革命によって生み出されたフィオナ機関を応用しているのだ。
「結成されたのは今から17年前。様々な麻薬を販売しているクソ野郎共だ。シュタージが奴らの構成員を尋問した結果、奴らの本拠地はガルコロフ州北東部にある廃村にあることが分かった」
シュタージのエージェントの中には、相手を拷問する訓練を受けた者も多い。しかもエリクサーやヒールを使えば相手の傷口を瞬時に塞げるため、手足を切り刻んだりしなければ好きなだけ痛めつけてもいいのだ。
拘束された哀れなクソ野郎は肉屋の中で吊るされている肉の塊のように鎖で天井に吊るされたまま、情報を吐くまで部屋が血の海と化すような極めて凄惨な拷問を受けるのである。その拷問をモリガン・カンパニーの社員に公開した結果、今では同じ方法がモリガン・カンパニーでも採用されているらしい。
その拷問を受けた可哀そうな奴がどうなったのか気になったけれど、麻薬を販売するようなクソ野郎なのだからとっくに”処分”したに違いない。モザイクが必要になるほど残酷な殺し方をしたのは想像に難くない。
「村の周囲は森で囲まれている。敵に警戒されるのを防ぐため、敵の拠点の上空までヘリで近付くことはできない。徒歩で森の中へと潜入してもらう必要がある」
「トラップがある可能性は?」
今しがた質問したのは、ボレイチームを率いるハーフエルフのフランク大尉だ。元々は陸軍の歩兵部隊に所属していたらしいが、選抜されてスペツナズへとやってきたという。
「警戒心の強い連中だ。何かしらのトラップが仕掛けられている可能性はある」
そうだろうな。多分対人用のトラバサミが用意してあるだろう。
ラウラの手足を奪ったメイドを苦しめた時の事を思い出しながら、トラップが仕掛けられていそうな地点の予測を始める。この世界には火薬が存在しないため、地雷どころか爆弾すら発明されていないんだが、地雷の代わりにトラバサミがトラップとして設置されていることが多い。実際にテンプル騎士団でも、前哨基地の周囲には対魔物用の大型のトラバサミをいくつか設置している。
「この本拠地を潰せば、麻薬カルテルは壊滅するだろう。もう既に他の拠点や麻薬の輸送ルートは判明しているため、本拠地を潰した後に撃滅する予定だ。同志諸君には、大物を仕留めてもらう。―――――――相手はクソ野郎だ。生け捕りにはせずに皆殺しにしろ。情報はもう全て手に入れている」
情報があるのであれば、クソ野郎を生かしておく必要はないな。皆殺しにしても問題はないだろう。
ちらりと参加するメンバーを見渡してから、もう一度立体映像を見つめる。
テンプル騎士団のスペツナズには、合計で230人の兵士たちが所属している。けれどもその中で実際に最前線で戦うことになるのは、1つのチームにつき8人だけだ。それ以外のメンバーはその8人をサポートすることになっている。
8人のうちの2人は狙撃手で、片方が一般的なスナイパーライフルを装備し、もう片方は通常のスナイパーライフルでは対処できないような標的を始末するために、大口径の対物(アンチマテリアル)ライフルを装備する。それ以外の6名はアサルトライフルやPDWなどを装備し、潜入や標的の暗殺などを行うのだ。
ボレイチームの錬度はまだ低いが、転生者の討伐に成功しているということは、訓練で俺に返り討ちに遭ってからは成長しているということなのだろう。
もう一度参加する兵士たちの顔を見渡してから、俺は目の前のティーカップを拾い上げるのだった。