異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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砲弾と降伏勧告

 

 テンプル騎士団領へと総攻撃を仕掛けたフランセン騎士団たちは、壊滅状態に陥っていた。

 

 春季攻勢を退け、再編成と軍拡の最中であったとはいえ、成長しつつあるテンプル騎士団の兵士たちが扱う現代兵器の性能と、自分たちの戦力差を見抜くことができていなかったのである。

 

 更に、本国に無断でテンプル騎士団領へと攻め込んだことも仇となっていた。

 

 もし仮に本国の説得に成功しテンプル騎士団へと宣戦布告をしていたのであれば、多大な損害を出す結果になっただろうが、防衛戦を突破する事ができる確率は少しばかり上がっていた事だろう。しかし本国に居座る議員たちの説得が不可能と判断した総督が独断で戦闘を開始したことにより、カルガニスタンに派遣されていたフランセン騎士団の部隊は、テンプル騎士団の目の前にいるにもかかわらず本国から支援してもらうこともできなくなってしまったのだ。

 

 無断で”独立国”に攻撃を始めた部隊を支援すれば、本国も他国から非難されることになるからである。最悪の場合はオルトバルカ王国に貿易を拒否された挙句、国内のモリガン・カンパニー支社も全て撤退してしまうということになるだろう。

 

 各国の騎士団の武装の大半を製造しているモリガン・カンパニーが撤退するだけで、その国の軍事力が極めて大きな影響を受けてしまうほど、あの企業の影響力は強大なのである。

 

 しかし、この戦いは日付が変わる前に集結する事だろう。

 

 虎の子のアドミラル・クズネツォフ級3隻と新型フリゲートたちで構成されたテンプル騎士団機動艦隊が、フランセン側の主力艦隊を蹂躙している隙に、”この戦争を終わらせる”という任務を受けたテンプル騎士団の”主力艦隊”が、タンプル搭の軍港を後にしていたのである。

 

 次々に沈んでいくフランセン艦隊を眺めながら、巨大な戦艦や巡洋艦たちの艦列が通過していく。艦列を構成している艦たちの甲板の上には現代ではミサイルに取って代わられてしまった巨大な主砲が鎮座しており、その艦たちがまだ船体のステルス性をあまり考慮していなかった時代に生み出された産物だということを告げている。

 

 艦隊の先頭を進むのは、”第二次転生者戦争”と呼ばれたヴリシアの戦いにも参戦し、春季攻勢では吸血鬼たちの艦隊の猛攻を退けた戦艦『ジャック・ド・モレー』。この異世界に存在する戦艦の中では最強と言っても過言ではない、テンプル騎士団の力の象徴である。

 

 春季攻勢で大きなダメージを受けたジャック・ド・モレーは、春季攻勢の直後から改修を受けていた。

 

 火力を増強するために、主砲を3連装40cm砲から”4連装40cm砲”に換装していたのである。砲塔から巨大な砲身が4本も伸びた異形の砲塔を前部甲板に2基、後部甲板に1基搭載しており、改修前よりも主砲の火力が大幅に強化されている。

 

 砲塔の強化に伴って船体の幅もやや大きくなっており、装甲もより分厚くなっていた。その代わりに速度が少しばかり低下してしまっている。

 

 圧倒的な火力を誇るジャック・ド・モレーの後に続くのは―――――――ほぼ同じ外見の、4隻の”同型艦()”たちだった。

 

 春季攻勢で吸血鬼たちの艦隊と交戦した際に、ジャック・ド・モレーは敵艦からの対艦ミサイルや砲弾に何発も被弾した挙句、最大出力ではなかったとはいえ、戦艦『ソビエツカヤ・ベロルーシヤ』を一撃で轟沈させたレールガンに直撃したにもかかわらず、辛うじて沈没することはなかった。しかも艦首を抉られた上に右舷に傾斜し、10ノット以下の速度でしか航行できなくなるほどのダメージを受けたというのに、母港に戻るまで自力で航行していたという。

 

 そこでテンプル騎士団は、海軍の戦力を大幅に強化するため、この圧倒的な攻撃力と防御力を兼ね備えた超弩級戦艦の同型艦を生産して運用することにしたのである。

 

 ジャック・ド・モレーの後ろに続くのは、二番艦『ユーグ・ド・パイヤン』、三番艦『ロベール・ド・クラオン』、四番艦『エヴェラール・デ・バレス』、五番艦『ベルナール・ド・トレムレ』の4隻だった。テンプル騎士団では、この超弩級戦艦たちは”ジャック・ド・モレー級戦艦”と呼ばれている。

 

 各艦隊の旗艦として配備される予定の戦艦であるため、今回のように全ての同型艦が並んで航行することはないだろう。

 

 外見はほぼ同じであるため見分けることは難しいが、一番艦『ジャック・ド・モレー』はテンプル騎士団艦隊”総旗艦”となるため、指揮能力の強化のために艦橋がやや大型化している。

 

 合計で5隻のジャック・ド・モレー級戦艦たちの隣を並走するのは、春季攻勢にも参加した4隻のソビエツキー・ソユーズ級戦艦。レールガンで轟沈したソビエツカヤ・ベロルーシヤはタクヤの手によって”再生産”されており、同型艦たちと共に航行している。

 

 そしてその強力な9隻の戦艦たちを駆逐艦たちと共に護衛するのは、3連装30cm砲を3基も搭載した、『スターリングラード級』と呼ばれる巨大な”重巡洋艦”であった。

 

 スターリングラード級はソ連が建造した重巡洋艦であり、戦艦に匹敵する火力と圧倒的な速度を誇る強力な艦である。もし仮に第二次世界大戦に参加する事ができていたのならば大きな戦果をあげていた艦かもしれないが、残念なことにこのスターリングラード級が産声を上げたのは第二次世界大戦が終了してからであり、しかもミサイルが発達を始めた時代であったため、最終的に一度も実戦を経験していない。

 

 テンプル騎士団が運用するスターリングラード級の数は合計で8隻。こちらも全ての同型艦を一緒に運用するのではなく、各艦隊に配備する予定になっているため、このように同型艦(姉妹)たちで一緒に航行することはなくなってしまうだろう。

 

 すでに近代化改修が施されており、艦橋や煙突の両脇には対艦ミサイルを搭載したキャニスターがずらりと並んでいる。機銃などの装備は全て撤去されている代わりに、対空ミサイルやコールチクなどが搭載されているため、接近してくるミサイルや敵の戦闘機を迎撃する事が可能になっている。

 

 要するに、ジャック・ド・モレー級戦艦やソビエツキー・ソユーズ級戦艦をそのまま小さくしたような巡洋艦である。

 

 ソヴレメンヌイ級やウダロイ級たちに護衛されたその主力艦隊の攻撃目標は、フランセン艦隊を出撃させた彼らの軍港である。その軍港にフランセンの総督府やカルガニスタンに駐留する部隊を指揮する司令部も存在するため、そこに砲弾をこれでもかというほど叩き込めば、フランセン騎士団は戦闘を続けることが不可能になってしまうのだ。

 

 艦砲射撃の後に海兵隊を上陸させるため、艦隊の後方には3隻のミストラル級強襲揚陸艦も航行している。

 

 テンプル騎士団領へと攻め込んできた敵を砕く最後の鉄槌が、ついに解き放たれようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「攻撃目標を確認」

 

「湾内には補給中の駆逐艦を確認。数は3隻」

 

 テンプル騎士団艦隊総旗艦となった戦艦ジャック・ド・モレーのCICで、モニターに映し出される映像とレーダーの反応を見つめていたブルシーロフ中将は、モニターに表示されている軍港の中の3隻の哀れな駆逐艦たちを見つめながらティーカップを口へと運んだ。あの軍港を壊滅させる以上、停泊中の駆逐艦たちも攻撃目標に含まれる。魚雷艇なのではないかと思ってしまうほど小柄な駆逐艦が戦艦の主砲を喰らえば、木っ端微塵になるのは火を見るよりも明らかだ。

 

 しかもこちらは、40cm砲を搭載した超弩級戦艦が9隻もいる。戦艦ではないものの、戦艦クラスの火力を誇るスターリングラード級も含めれば、合計で17隻である。

 

「提督、降伏勧告を出すべきでは?」

 

 ティーカップを置いたブルシーロフ中将にそう言ったのは、昇格して中将となった彼の代わりにジャック・ド・モレーの新しい艦長となった、『セルゲイ・ヴィンスキー』大佐である。

 

「同志艦長、つい先ほど敵は”団長代理(同志クラン)”からの降伏勧告を拒否している。今すぐに降伏勧告を出しても効果は薄いだろう」

 

「…………では、潰してからですな」

 

「そういうことだ」

 

「はっ。…………全艦、砲撃用意。目標、10時方向の敵沿岸砲台群。チェック・メイトはその後だ」

 

「はっ! 全艦、砲撃用意! 目標、10時方向の敵沿岸砲台群!」

 

 沿岸砲台とはいえ、旧式の装甲艦から取り外した12cmスチーム・カノン砲を取り外して並べただけである。射程距離は戦艦の主砲と比べ物にならないほど短い上に、威力や貫通力もかなり低い。このまま湾内に強引に突入して蹂躙しても全く問題ないのだが、射程距離外から蹂躙した方が力の差を見せつけられるだろうと判断したヴィンスキー艦長は、湾外からの砲撃で敵を叩き潰すことを選んだ。

 

 敵の沿岸砲台群は装甲に守られているわけではないため、榴弾でそのまま砲撃しても無力化するのは難しくないだろう。

 

「警報鳴らせ!」

 

「甲板上の乗組員は直ちに艦内に退避せよ! 繰り返す、甲板上の乗組員は直ちに艦内に退避せよ!」

 

「榴弾装填完了!」

 

 甲板から艦内へと乗組員たちが退避してから、甲板の上に鎮座する4連装砲がゆっくりと旋回を始めた。ジャック・ド・モレーの主砲だけでなく、後方を航行する他の同型艦たちやスターリングラード級たちも一斉に砲塔を旋回させ、沿岸砲台群へと照準を合わせる。

 

 あの沿岸砲台群を壊滅させれば、海兵隊も無事に上陸する事ができるだろう。湾内にはまだ補給中の駆逐艦が鎮座しているが、中には出撃を諦めて乗組員たちが退避を始めている艦もいる。もし仮に補給を中断して出撃してきたとしても、搭載しているのは小口径のスチーム・カノン砲やスチーム・ガトリング程度である。

 

 この砲撃で沿岸砲台群を壊滅させた後に再び降伏勧告を行い、それを拒否した場合はテンプル騎士団海兵隊が上陸して、総督府と司令部を占拠することになっていた。

 

 広大なCICの中にある座席に座っていた乗組員の1人が、「同志、砲撃準備完了です」と告げる。その報告を聞いて首を縦に振ったブルシーロフ提督はちらりとヴィンスキー艦長の顔を見てからティーカップを拾い上げた。

 

「―――――――全艦、撃ち方始め」

 

「撃ちー方ー始め!」

 

 ヴィンスキー艦長の命令を乗組員が復唱した直後、先ほど乗組員たちを艦内に退避させた際に鳴り響いた警報とは音の違う警報が響き渡る。

 

 静かに消えようとしていたその警報の残響を蹂躙したのは―――――――全ての戦艦と巡洋艦の主砲が発した、荒々しい轟音であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「迎撃準備! 急げ!」

 

「砲弾装填!」

 

 大慌てでスチーム・カノン砲の砲口から高圧の蒸気と魔力が充填された徹甲弾を装填しながら、湾外にずらりと並んでいる敵の大艦隊を見つめる。すでに攻撃準備が整っているのか、砲塔は全てこちらへと向けられており、警報らしき音の残響がうっすらと聞こえてくる。

 

 テンプル騎士団が派遣した戦艦は、明らかにオルトバルカのクイーン・シャルロット級よりも巨大だった。何度か彼らの保有する艦が軍港の近くを通過したのを見たことがあるが、俺はその時に見た大型艦をテンプル騎士団の”戦艦”だと思っていた。

 

 しかし―――――――多分その艦は、テンプル騎士団の”駆逐艦”でしかなかったのだろう。

 

 それよりも巨大な超大型の戦艦と、巡洋艦がこちらに砲塔を向けているのだから。

 

 装填した徹甲弾であの巨大な戦艦の装甲を貫通できるのだろうか。というか、このスチーム・カノン砲は敵戦艦まで届くのだろうか。

 

 敵艦の砲塔からは、よく見ると4本も砲身が伸びているのが分かる。各国の新型の戦艦が採用している主砲ですら連装砲であり、大半の装甲艦や巡洋艦は単装砲を搭載しているというのに、テンプル騎士団艦隊の誇る戦艦たちは当たり前のように3連装砲や4連装砲を搭載しているのだ。

 

 しかも、明らかにこっちの沿岸砲台よりも大口径である。

 

 反撃するよりも逃げた方がいいのではないだろうか。

 

「大尉、ダメです! 敵艦は射程距離外です!」

 

「なんだと!?」

 

 このスチーム・カノンは、湾外の敵にも攻撃できるほどの射程距離がある。けれども敵艦隊はその射程外からこっちを砲撃しようとしているのである。

 

 もし艦隊が湾内に残っていてくれたのならば、すぐに出撃して迎撃してくれただろうか。そう思ったけれど、敵艦は当たり前のように3連装砲や4連装砲を搭載している大型艦ばかりだ。それに対し、こっちは連装砲を搭載した50m程度の戦艦や、それよりも小型の装甲艦ばかりである。

 

 多分、勝負にならないだろうな。

 

 副官と指揮官が話をしている間に、敵戦艦の主砲が火を噴いたのが見えた。太い砲身の先端部で爆炎が迸り、それを突き破った大型の砲弾が天空へと解き放たれる。けれどもその砲弾たちはすぐに高度を落として、大地に落下するだろう。

 

 その落下する場所がこの沿岸砲台群になるのは、想像に難くない。

 

「そっ―――――――総員退避ィィィィィィィィィィィッ!!」

 

 もっと早く退避させてくれ、と思いながら、自分が担当するスチーム・カノン砲から離れる。司令部の方へと向かって走り出した仲間たちを追いかけながら、全速力で突っ走る。

 

 信じられない話だけど、数時間前にこの軍港から出撃した艦隊と連絡が取れないらしい。もしかするとテンプル騎士団艦隊に遭遇して、あっという間に轟沈させられてしまったのではないだろうか。

 

 こっちの主力艦隊を無傷で打ち破った挙句、逆にこっちの本陣を叩き潰しに来たということなのか。

 

 化け物だ、あいつらは。

 

 未知の兵器を使い、敵兵たちを次々に蹂躙していく鋼の怪物たち。

 

 その怪物の餌食になるのは、このフランセン騎士団なのだ…………。

 

 もう一度敵艦隊を見ようと思った直後、後方に配備されていた沿岸砲台群たちが炎に包まれた。爆炎が重いスチーム・カノン砲を易々と吹っ飛ばし、崖の下へと突き落としてしまう。中には装填されていた砲弾や、砲弾の中に充填された魔力が誘爆して、敵の爆炎に手を貸してしまう砲台もあった。

 

 沿岸砲台が、どんどん爆炎で蹂躙されていく。

 

 自分が担当していた砲台も吹っ飛ばされたのを見た俺は、そのまま司令部へと向けて突っ走るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上陸用舟艇から軍港へと降りた兵士たちが、次々に総督府へと向けて突き進んでいく。黒と灰色の迷彩模様が施された軍服の肩の部分には、盾を角で貫くユニコーンのエンブレムが描かれたワッペンが付けられている。

 

 そのエンブレムは、”テンプル騎士団海兵隊”のエンブレムであった。

 

 ポーチの中にAK-15用のマガジンを収め、正式採用されているAK-15を装備した海兵隊の兵士たちが上陸用舟艇から降り、周囲を警戒しながら進撃していく。もちろん兵士たちの種族はバラバラであり、オークやダークエルフの兵士たちも隊列に混じっているのが分かる。

 

 フランセン共和国側は、沿岸砲台群が壊滅したにもかかわらず、テンプル騎士団側からの降伏勧告を受諾しなかった。そのためブルシーロフ提督は海兵隊を上陸させ、総督府を占拠する事を選んだのであった。

 

 上陸用舟艇から降りた指揮官が、腰に下げていた法螺貝を掴む。何故か身に着けている服と同じく黒と灰色の迷彩模様が施された法螺貝を加え、兵士たちに突撃命令を下す。

 

『ブオォォォォォォォォォォォォッ!!』

 

「「「「「Ураааааааааааааа!!」」」」」

 

「敵の指揮官を討ち取れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 テンプル騎士団の部隊の中でも、最も荒々しいと言われているテンプル騎士団海兵隊が、ついにフランセンの騎士たちに牙を剥いた。

 

 

 

 




※ジャック・ド・モレー級戦艦の艦名ですが、これは全て史実の方のテンプル騎士団団長の名前から取っています。

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