異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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業火と蹂躙の海

 

 巨大な船体の群れが、かつて吸血鬼たちの艦隊と死闘を繰り広げたウィルバー海峡を進んでいく。戦艦に匹敵する巨大な艦の周囲を航行するのは、小型の主砲と数多のミサイルを搭載したフリゲートの群れだ。合計で12隻のフリゲートに守られているのは、輪形陣の中心に居座る3隻の巨大な艦たちである。艦首は先端部へと行くにつれて、飛行甲板から飛び立つ艦載機を天空へと飛び立たせるために上へと曲がっており、ずらりと艦載機を搭載した飛行甲板の右側には艦橋がある。

 

 艦橋や船体に描かれているのは、テンプル騎士団のエンブレムであった。

 

 吸血鬼たちの春季攻勢によって、テンプル騎士団が保有する艦隊は大打撃を受けた。”第二次転生者戦争”と呼ばれているヴリシアの戦いを経験した乗組員たちや、虎の子の戦艦『ジャック・ド・モレー』を失わずに済んだものの、戦艦を2隻も失った上に、艦隊旗艦ジャック・ド・モレーや他の戦艦たちも、タンプル搭の軍港へとボロボロになって戻る羽目になった。

 

 春季攻勢が終結してから、テンプル騎士団は大損害を被ることになった原因を調査しつつ、軍拡と各拠点の再編成を始めた。吸血鬼たちとの死闘で多くの兵士たちや乗組員たちが命を落とすことになったものの、各地から保護してきた膨大な人数の奴隷たちが志願して入団してくれたおかげで、彼らの再編成は予想よりも早く進んでいたのである。

 

 大量の人材を入団させることに成功したおかげで、より大量の兵器を運用できるようになった。

 

 兵器を動かすには、それの扱い方を学んだ乗組員がいなければならない。すでに無人戦車を運用しているものの、全ての兵器を無人兵器にするわけにはいかないのである。

 

 更に春季攻勢で数多の兵士を葬ったことで、その兵器を”生産”する能力を持つタクヤは、莫大な量のポイントを獲得していた。吸血鬼たちから賠償金を得ることはできなかったものの、賠償金の代わりに容易に軍拡ができるほどのポイントを手に入れる事ができたのである。

 

 かつてテンプル騎士団艦隊と吸血鬼たちの艦隊が死闘を繰り広げた海を航行する艦隊たちは、そのポイントを使って生産された艦で構成された”新しい艦隊”であった。

 

 テンプル騎士団艦隊は、これでもかというほど武装を搭載した駆逐艦や戦艦による飽和攻撃を重視した艦隊となっており、空母はロシアのアドミラル・クズネツォフ級空母『ノヴゴロド』1隻しか保有していなかったのである。

 

 いくら艦艇の生産に必要なポイントの量が莫大とはいえ、空母の配備を”後回し”にしてしまったことで、テンプル騎士団艦隊はイージス艦や戦艦で構成された吸血鬼たちの艦隊による猛攻で大損害を被ってしまう。

 

 そこで、再編成の際に空母も増強されることとなった。

 

 フリゲートやイージス艦の群れに守られた空母と、敵艦を轟沈させるほどの破壊力を持つ対艦ミサイルを搭載された艦載機たちは、まさに海を支配する兵器と言っても過言ではないのである。

 

 輪形陣の中心を進むのは、アドミラル・クズネツォフ級空母『ノヴゴロド』。フランセン騎士団が出撃させた艦隊を迎え撃つために出撃した、テンプル騎士団機動艦隊の旗艦である。

 

 旗艦ノヴゴロドの後方を進むのは、同型艦の『ユージーン』と『エドワード』だ。春季攻勢(カイザーシュラハト)を迎撃する際に大きな戦果をあげ、戦死したパイロットたちの名前を冠した空母の甲板の上では、これでもかというほど対艦ミサイルを搭載された艦載機の群れが、出撃準備を進めていた。

 

 3隻のアドミラル・クズネツォフ級を守るのは、テンプル騎士団が運用していたソヴレメンヌイ級やウダロイ級ではない。艦隊の増強に伴い、敵の転生者が高性能なイージス艦を投入してきた場合でも迎え撃つことができるように、可能な限り新型の艦への更新が進められている。

 

 そのため、ソヴレメンヌイ級やウダロイ級は、次々に退役し始めていた。

 

 空母を囲んで航行しているのは―――――――ロシア製フリゲートの『アドミラル・グリゴロヴィチ級』6隻と、同じくロシア製フリゲートの『ネウストラシムイ級』6隻である。

 

 アドミラル・グリゴロヴィチ級はロシアの最新型フリゲートであり、ソヴレメンヌイ級よりもステルス性が更に強化されている。ソヴレメンヌイ級に搭載されていたキャニスターが搭載されていないせいですらりとしているように見えるが、ステルス性を強化した華奢な船体には無数のミサイルを装填したVLSがこれでもかというほど搭載されている。

 

 現在は8隻ほど保有されており、そのうちの2隻は練習艦ということになっている。

 

 アドミラル・グリゴロヴィチ級と共に空母を守る『ネウストラシムイ級』も、ロシアのフリゲートである。こちらもウダロイ級に搭載されていたようなキャニスターは搭載されていないが、魚雷や対潜ミサイルなどの対潜装備をこれでもかというほど搭載しているため、この艦を引き連れているだけで艦隊は堂々と大海原を航行する事ができる。

 

 こちらも8隻生産されており、そのうちの2隻は練習艦となっている。

 

 要するに、全ての新型フリゲートを空母の護衛のために投入しているのだ。

 

「やり過ぎじゃないですかね、同志バルフコフ」

 

「確かにな…………」

 

 CICのモニターに映っているフリゲートたちの反応を見つめながら、機動艦隊の指揮を執るバルフコフ大佐はお気に入りのアイスティーが入ったティーカップを拾い上げた。ティーカップの中のアイスティーが発する香りを確認し、さっぱりしているオルトバルカ産の紅茶だということを確認してからそれを口へと運ぶ。

 

 騎士団の中には香りが強烈なヴリシア産の紅茶を好む者やコーヒーを好む兵士もいるが、大半の団員たちはオルトバルカ産の紅茶を好んでいるという。

 

 バルフコフ大佐も、オルトバルカ産の紅茶に魅了されてしまった団員の1人であった。

 

「同志ナタリアのジャムはちょっと甘いよな…………」

 

「いえ、ジャムの話ではなくて…………我が艦隊の話です、同志」

 

 新型のフリゲートが12隻も実戦に投入されるのである。すでに何度か魔物の掃討作戦にも参加しているため、乗組員たちも実戦を経験しているが、”人間”を相手にするのはこの戦いが初めてになるだろう。

 

 もし虎の子のフリゲートを1隻でも失うことになれば、海軍は大打撃を被ることになる。

 

「徹底的に潰すためだ、同志。それにこの戦いは新しい艦のテストにもなる。―――――――ところで、敵艦の数は?」

 

「はっ、同志。タンプル搭へと侵攻を開始した敵艦隊は、戦艦7隻、装甲艦5隻、駆逐艦4隻で構成された艦隊です。レーダーにははっきりと映っていますよ」

 

「ふむ…………連中の艦にステルス性があれば、いきなり発見されずに済んだだろうな」

 

 そう言いながら再びティーカップを口へと運んだバルフコフ大佐は、ウィルバー海峡へと接近してくる敵艦隊の反応を見つめながら溜息をついた。

 

 かつてはフランセン騎士団が運用する戦艦や装甲艦を恐れていたが、テンプル騎士団に入団し、列強国が保有する兵器を遥かに上回る性能の兵器を扱うのが当たり前になってからは、騎士たちが運用する装甲艦や戦艦は全く恐ろしくない。

 

 こちらが装備しているのは、高性能な艦載機と遠距離から敵艦を攻撃できる対艦ミサイル。それに対しフランセン側の装備は、射程が極めて短いスチーム・カノン砲程度だ。しかも各国の海軍には”空母”という艦艇が存在しないため、対空戦闘を行う可能性は極めて低い。

 

 間違いなくこの戦いは、艦隊や艦載機たちが傷1つ付けられることなく幕を閉じるだろう。

 

 大佐が確信すると同時に、蒼いラインの入った黒い制服に身を包んだ乗組員が、大佐に敬礼しながら報告した。

 

「同志、Su-34FNの出撃準備が完了しました」

 

「よろしい、直ちに出撃させたまえ」

 

「了解(ダー)」

 

「あ、同志」

 

「はい、なんでしょうか」

 

 踵を返して立ち去ろうとする若いエルフの兵士を呼び止めた大佐は、空になったティーカップを彼に差し出しながらニヤリと笑った。

 

「アイスティーのおかわりを頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蒼い海原の真っ只中で、真っ赤な炎が産声を上げた。無数の火の粉や燃え盛る破片を周囲にぶちまけて荒れ狂う炎の根元で、火達磨になりながら海の中へと沈んでいくのは、先ほどまで艦隊の先頭を航行していた装甲艦だ。

 

 魔術師の魔術でも撃沈することは難しいと言われるほど分厚い装甲で覆われた味方の艦が、何の前触れもなく飛来した1本の鋼鉄の槍に貫かれたかと思うと、その槍に開けられた風穴から爆炎を噴き上げ、火達磨になってしまったのである。

 

 しかも内部で高圧の魔力が立て続けに爆発しているらしく、荒れ狂う魔力たちによって船体の装甲が呆気なく突き破られ、火の海と化した艦内の通路を晒し続けている。

 

「くそ、また味方艦がやられた!」

 

「敵の攻撃が飛来! 狙いは―――――――」

 

 マストの上で望遠鏡を覗きながら見張っていた乗組員が、敵の攻撃が飛来したことを告げようとした頃には、その飛来した槍が沈没していく装甲艦の上を通過して、必死にスチーム・ガトリングを連射し続けていた戦艦の船体を直撃していた。

 

 装甲艦よりも分厚い装甲を誇る戦艦にあっさりと風穴が開いたかと思うと、艦内で産声を上げた爆炎が戦艦の50mの船体を容易く抉ってしまう。しかもその風穴の真上にあった艦橋の中にまで爆炎が侵入したらしく、白と黒で塗装された艦橋の窓の向こうでは、火達磨になった乗組員たちが見えた。

 

「旗艦『コルセール』、轟沈!」

 

「なんなんだ、この攻撃は!?」

 

「敵艦は見えるか!?」

 

「見えませんッ!」

 

 ぼ、望遠鏡で見る事ができないほど遠距離からこんな攻撃を放っているというのか!?

 

 副砲に装填する筈だった砲弾を抱えたまま、僕は呆然としていた。

 

 おそらくこれは敵艦隊からの攻撃だろう。テンプル騎士団艦隊が保有している、クイーン・シャルロット級よりも巨大な戦艦による攻撃なのだろうか。

 

 しかも超遠距離から発射されている鋼鉄の槍は、望遠鏡で見る事ができないほどの距離から放たれているにもかかわらず、未だに1本も外れていない。敵の攻撃が飛来する度にこっちの戦艦や装甲艦を直撃し、あっという間に海の藻屑にしていくのである。

 

 圧倒的な射程距離を持っている上に、戦艦ですら一撃で轟沈するほどの破壊力と、超遠距離から正確に命中させるほどの命中精度を誇っているのだ。

 

 当たり前だけど、こっちの艦隊は主砲を未だに一発もぶっ放していない。スチーム・ガトリングはこれでもかというほどぶっ放しているけれど、鋼鉄の槍の速度があまりにも早過ぎるせいで全く命中しないのだ。しかもスチーム・ガトリングの射程距離はそれほど長くはないため、あの武器で迎撃するのは至難の業だろう。

 

 海面が、沈んでいく艦から漏れ出た重油でどんどん黒く染まっていく。火達磨になった船体がその重油に炎をぶちまけ、重油のせいで黒く染まった海面を泳いでいた生存者たちを焼き殺していった。

 

 火達磨になったままもがき、その炎を消そうとして海の中へと潜った乗組員たちは、二度と浮き上がってくる事はない。

 

「おい、とっとと砲弾をよこせ!」

 

「待ってください! 副砲で迎撃するつもりですか!?」

 

「とにかく弾幕を張るんだ!」

 

 無理だ、と思いながら、僕はその砲弾を副砲にぶち込む羽目になった。

 

 飛竜どころかエンシェントドラゴンすら置き去りにしてしまえるような速度で、立て続けに攻撃が飛来するのである。旋回速度が遅い上に連射ができない副砲を使うよりは、艦内にあるスチームライフルを乗組員に支給して、スチーム・ガトリングと一緒に弾幕を張った方がまだ迎撃できる確率は高いに違いない。

 

 そう言おうと思ったけれど、僕はまだ騎士団に入団して部隊に配属されたばかりの新人だ。ベテランの騎士が僕の意見を聞くわけがない。反論する事を諦めて大人しく副砲から離れ、近くに置いてある予備の砲弾を拾い上げる。

 

 球技に使うボールを鋼鉄にしてそのまま大きくしたような砲弾の中には、高圧の蒸気と魔力が充填されている。流し込む魔力の量で起爆させる時間を調節する事ができる仕組みになっているため、このようなタイプの砲弾を発射する兵器を扱う場合は、発射を担当する砲手と、装填を担当する装填手と、魔力を注入して起爆する時間を調節する”調節手”という3人の騎士が必要になる。

 

 さっきの砲弾は起爆させる時間を変更していないので、発射されてから10秒後に起爆することになっている筈だ。10秒後に爆音が聞こえてきたとしても、九分九厘敵の攻撃は容赦なく味方の艦を海の藻屑にしていくだろう。

 

 副砲であんな攻撃を迎撃するのは、不可能なのだから。

 

「くそ、外れた! フォーミダブルに向かってるぞ!」

 

 次の瞬間、スチーム・ガトリングで弾幕を張りながら奮戦していた戦艦フォーミダブルに、鋼鉄の槍が喰らい付いた。前部甲板に飛び込んだその一撃は、一流の漁師が放り投げた銛がクジラを串刺しにするかのように前部甲板を貫いてから起爆し、船体の装甲を歪ませてしまう。爆発した瞬間、前部甲板に陣取っていた主砲のでっかい砲塔の隙間から炎が飛び出したかと思うと、その炎がフォーミダブルの前部甲板を埋め尽くし、主砲の砲塔を天空へと吹き飛ばした。

 

 弾薬庫にあった砲弾が誘爆を起こしたのかもしれない。

 

 前部甲板を抉られたフォーミダブルが、早くも海の中へと沈んでいく。

 

 残ったのは、僕が乗っているこの戦艦だけだった。

 

「おい、マガジンを!」

 

 スチーム・ガトリングをぶっ放していた騎士が、装填手に命令して再装填(リロード)させる。スチームライフルの銃身を6本ほど束ねたような形状のスチーム・ガトリングの上にマガジンを差し込んだ装填手は、側面にあったレバーを思い切り引いてから下部のバルブを捻り、銃身の中に溜まっていた水分を排出する。

 

 あの武器は高圧の蒸気を使って矢を撃ち出す仕組みなので、定期的に銃身の中の水を抜き取らないと、その水が矢に絡みついて弾道を狂わせてしまう。だからマガジンの中の矢を撃ち尽くしたら水を抜き取るようにしなければならない。

 

「来たぞ!」

 

「撃てぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「おい、早く砲弾を!」

 

 はっとしながら砲弾を調節手に渡し、予備の砲弾へと手を伸ばす。砲手が近くにあるハンドルを大急ぎで回して副砲を旋回させるけれど、その副砲が火を噴くよりも先に、超遠距離にいる敵が放った鋼鉄の矢がこの戦艦を貫くことになるのは、火を見るよりも明らかだった。

 

 鋼鉄の槍を睨みつけながら、僕は息を呑んだ。

 

 先端部は尖っていて、胴体からは短い翼のようなものが生えているのが分かる。後端部には奇妙な形状の部品が取り付けられていて、その奇妙な部品から炎を吐き出しているのが見える。

 

 魔力の反応は全くしないから、多分あの兵器には一切魔力を使っていないのだろう。

 

 狼狽する艦長を睨みつけてから、僕は溜息をついた。

 

 出撃する前にあの艦長は、テンプル騎士団は小規模で貧弱な蛮族共だから、出撃して本部を艦砲射撃する前に降伏するだろうと言っていたけれど、艦砲射撃をする前に全滅してるじゃないか。

 

 砲手がハンドルを回し終えるよりも先に、船体が激震した。

 

 ドン、と猛烈な爆炎が装甲の割れ目から飛び出し、分厚い装甲を容易く抉っていく。舞い上がった破片が乗組員たちの肉体を貫き、大穴から飛び出した炎が仲間たちを次々に火達磨にしていった。

 

 予備の弾丸を拾い上げようとしていた僕は、いきなり甲板から飛び出した爆炎と爆発の衝撃波をお見舞いされる羽目になった。身体があっさりと吹き飛ばされたかと思うと、あの攻撃を喰らったにもかかわらずまだ副砲をぶっ放そうとしている先輩たちを置き去りにしようとしているかのように、そのままあっさりと海面へ吹っ飛ばされてしまう。

 

 重油や甲板の一部が漂っている海に落下してしまった僕は、激痛を感じながら近くの板にしがみつき、自分の乗っていた艦が傾斜していくのを見守るのだった。

 

 

 

 


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