異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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鋼鉄の飛竜

 

「同志諸君、タンプル搭にフランセンの連中が迫っている」

 

 蒼い光で構成された立体映像を投影する装置を操作しながら、今しがた装置の中から飛び出した蒼い光の映像を見つめる仲間たちの顔を見つめた。パイロットスーツに身を包んだ状態でずらりと並んでいる椅子に座っているパイロットたちの種族はバラバラだ。中には身長が当たり前のように2mを超えるオークの巨漢もいるし、小柄なドワーフもいる。

 

 装置に搭載されている小さなキーボードをタッチし、映像を切り替える。するとカルガニスタンの砂漠を再現していた蒼い光たちが唐突に崩壊し、新しい映像を構成し始めた。

 

 長い尻尾と巨大な翼を持ち、冒険者たちの攻撃を容易く弾いてしまう外殻に覆われた怪物。スチームライフルが開発されたことによって撃破されることが多くなってきたものの、冒険者たちや騎士の大半の天敵と言える存在の姿が、蒼い光たちによって再現される。

 

 その外殻で覆われた背中に跨っているのは、黄色い制服――――――蒼い光で交際されているせいで”黄色には見えない―――――――に身を包み、手綱を握っている騎士だった。

 

「植民地に駐留していた連中が、一斉にテンプル騎士団領へと侵攻を開始している。すでに総督府は我が騎士団に対し宣戦布告。これは明確な侵略行為だ。……………だが、同志団長は戦勝記念パレードへ出席しているため、”テンプル騎士団戦術規定第14条”に基づき、同志クランが指揮を執ることになった」

 

 間違いなくフランセンの連中はパレードの日を狙ったな、と思いながら、俺はブリーフィングを続ける。

 

 我が騎士団の総大将が不在でも、我々は敵を退けなければならない。いや、退ける前に”殲滅”することになるだろうな。この騎士団には容赦のない団員もいるし、戦力差があり過ぎるのだから。

 

「現在、フランセン騎士団の航空隊が第66番塹壕へと向かっている。戦力は中型飛竜が36体。そいつらを護衛しているのは、機動性の高い小型飛竜だ。レーダー及び魔力センサーによる反応では、小型飛竜の数は70体らしい」

 

 合計で106体の飛竜の群れが、背中に騎士を乗せてこっちに向かってきているのだ。普通の騎士団や冒険者たちがその戦力を耳にしたら、真っ先に武装解除して逃げるか降伏するに違いない。

 

 中型の飛竜の特徴は、小型の飛竜よりも厚い外殻による高い防御力と、口の中から吐き出す強力なブレスだろう。小型の飛竜よりもブレスの範囲と射程距離が伸びているため、敵の頭上を低空で飛びながら炎をまき散らし、あっという間に敵兵の隊列を火の海にすることが可能だという。

 

 ただ、身体がでかいせいで機動性が低いため、格闘戦になれば小型の飛竜にやられることも少なくない。そのため各国の騎士団では、後方から接近してきた敵を迎え撃つために、スチームライフルを装備したガンナーやライフルマンを乗せておくという。

 

 要するに、前世の世界の急降下爆撃機のようなものだ。

 

 そしてそいつらを護衛する小型の飛竜の特徴は、他の飛竜よりも優れている機動性だろう。こちらは体格が小さいせいで1人しか乗ることができず、ブレスの範囲と射程距離も短い。しかし調教が比較的簡単で戦場に投入しやすいため、発展途上国でも”運用”されている。

 

 こっちは戦闘機のようなものだ。

 

「我々は直ちに出撃し、第66番塹壕上空でこの飛竜編隊を撃滅する。この中には飛竜との戦闘を経験しているパイロットもいると思うが、飛竜の攻撃の射程距離は戦闘機と比べればはるかに短い。はっきり言うと相手にならん。……………だが、だからと言って高を括るのは絶対に許さん。油断せずに彼らを”歓迎”してほしい。―――――――質問はあるか?」

 

「はい、同志アルフォンス」

 

「どうぞ、同志シャルル」

 

 手を挙げたのは、黒と紅の2色でダズル迷彩を施されているのが特徴的なF-22たちで構成されている、”モードレッド隊”を率いる獣人のパイロットだった。短い金髪の中から伸びているのは猫の耳で、よく見るとパイロットスーツの後ろからは金色の毛で覆われた猫の尻尾が伸びているのが分かる。

 

 獣人は動物の遺伝子と人間の遺伝子を併せ持つ種族だ。魔物と人間の遺伝子を併せ持つキメラと似ているかもしれないが、あくまでも獣人は人間と動物の遺伝子を持った種族であるため、キメラとは別の種族なのである。

 

「飛竜を撃墜したら、撃墜数にカウントしてもいいですか?」

 

「構わん。好きなだけ撃墜して、どんどんエースパイロットになってくれたまえ」

 

 ちなみに、現時点で俺の撃墜数は262機だ。あの春季攻勢でかなりラファールを撃墜したし、その後の任務でも飛竜を何体も撃墜している。おかげで機首は撃墜マークで覆い尽くされてしまってるよ。

 

 部屋にはタクヤから貰った勲章が飾ってあるけど、そろそろ新しい保管用のスペースを用意しなければならなくなりそうだ。

 

「真っ先に奴らと戦うのは我々だ。……………………同志諸君、誉(ほまれ)ある一番槍の役目を全うせよ!」

 

『『『Ураааааааааааа!!』』』

 

 この戦いでエースパイロットが増えるだろうな。

 

 飛竜は驚異的な魔物だが、あくまでも彼らを脅威だと思っているのは、未だに剣で敵を攻撃したり、発動に時間のかかる魔術を使って対抗しなければならない冒険者や騎士たちだけだ。

 

 だが、コクピットに一流の技術を持つパイロットを乗せた戦闘機が飛び立てば、空戦の頂点に君臨するのは飛竜ではなく、科学力によって生み出された”鋼鉄の飛竜”たちである。防御力はそれほど変わらないだろうが、機動性やスピードは比べ物にならない。

 

 けれども、そのスピードと機動性の差を敵が思い知ることはないだろう。

 

 その前に、こっちがぶっ放したミサイルで乗っている飛竜もろともミンチになってしまうのだから。

 

 106体の飛竜を迎撃するために飛び立つのは、5機のユーロファイター・タイフーンで構成されたアーサー隊と、7機のF-22で構成されたモードレッド隊のみ。つまり、これでもかというほどミサイルを搭載した機体を操り、たった12機で106体の飛竜を迎撃しなければならない。

 

 この戦いが終われば、ここでブリーフィングを聞いているパイロットたちは全員エースパイロットになるだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カルガニスタンの砂は灰色だ。だから飛竜に跨って空を飛んでいると、自分の真下には灰色の大地が広がっている。

 

 灰色の砂の大地と、蒼い空の2つが埋め尽くすシンプルな世界。けれども飛竜に乗って戦場に向かえば、この大地が真っ赤に染まる。火の海と化した砂漠の中で火達磨になるのは、殆ど魔物の群れだ。けれども稀に手強い盗賊団を焼き殺す仕事を命じられることもある。

 

 跨っている飛竜にブレスを吐くように命令することもできるけど、俺に”支給”された飛竜の腹が空いていたら、接近してきた敵を食い殺すこともある。

 

 出撃する前に餌は与えてきたけど、多分食い足りないのかもしれない。先ほどから前方を睨みつけながら唸り声を発している自分の飛竜の背中を優しく撫でながら、身に着けているゴーグルを片手で押さえつつ前方を睨みつける。

 

 多分、テンプル騎士団の連中も飛竜の餌になるに違いない。

 

 飛竜は大食いだからな。下手したら、あいつらが保有している兵器まで食っちまうに違いない。

 

 可能であれば鹵獲するように命令されてるけど、飛竜が投入された以上は敵が原形をとどめることはない。多分、その命令は無理なのではないだろうか。

 

 ようやく飛竜が唸るのを止めたかと思うと、右斜め上を飛んでいた中型飛竜の背中にいる騎士が、ちゃんと餌を与えたのか、と言わんばかりにこっちを見ながら手を振ってきた。

 

 中型飛竜は1人乗りの飛竜よりも鈍重だが、ブレスの破壊力は比べ物にならない。あいつが低空飛行しながらブレスを吐き出せば、真下は火の海になってしまう。

 

 けれども小型の飛竜よりも鈍重なので、接近してきた敵を迎撃するために後ろにライフルマンが乗り込むのが当たり前だ。大昔から採用されている戦法らしく、スチームライフルが開発される前はクロスボウを持った騎士や、虎の子の魔術師が乗り込んでいたという。

 

 ちなみに俺の爺さんは、その飛竜の後ろで敵を迎え撃つガンナーだったらしい。

 

 ちらりと地上を見て見ると、灰色の大地に一本の長い線が刻まれているのが見えた。そろそろテンプル騎士団領に入るのだろうなと思いつつ腰の望遠鏡を取り出し、レンズに付着していた砂を吹き飛ばしてからそれを覗き込む。

 

「ありゃ何だ?」

 

 その一本の線は、大地に掘られた”穴”だった。大柄な男性でも隠れられるほどの深さで、その線がまるでテンプル騎士団領の目印だと言わんばかりに大地に穿たれている。

 

 奇妙な細長い穴の中にいるのは、黒い制服に身を包んだ兵士たち。制服のデザインはバラバラで、兜みたいな変な防具を装備している兵士の隣にはターバンを巻いた薄汚いハーフエルフがいる。そいつの隣にはでっかいオークが陣取っていて、スチーム・ガトリングに似た長い銃身の兵器を構えているのが見える。

 

 あの穴は何だ? あれがあいつらの砦なのか?

 

 地面に穴を掘った程度で、我々の猛攻を防げるとでも思ってるのか?

 

「―――――――これだから蛮族は」

 

 第一、あんな穴の中で密集していたらブレスにやられるじゃないか。あいつらは最新の戦術どころか、一般的な戦術すら知らないのか?

 

 呆れていると、編隊の先頭を飛んでいた隊長が飛竜の手綱を引き、翼を左右に振らせた。地上に陣取っているテンプル騎士団の守備隊を指差しているのを確認してから、急降下する際にゴーグルが外れないかチェックしておく。

 

 どうやら敵は飛竜すら持っていないらしい。”鋼鉄の飛竜”とやらが出撃しているのではないかと思ってたけど、あいつらが戦場に到着する前に地上部隊が飛竜の餌になっているのは想像に難くない。

 

 中型飛竜も翼を振り、隊長を乗せた飛竜が一気に高度を落とし始める。同じようにその編隊の飛竜たちも咆哮を発してから一気に高度を落とし、地上部隊へと急降下を始めた。

 

 テンプル騎士団の地上部隊はこっちに気付いていないのか、空を見上げて怯えている様子はない。

 

 そのまま焼かれてしまえ。

 

 俺たちの編隊の隊長が急降下を始めた、その時だった。

 

 ドン、という大きな音が、今しがた急降下していった中型飛竜の編隊の”先頭”から聞こえてきたのだ。

 

「!?」

 

 ぎょっとしながら急降下を注視し、ゴーグルに付着している砂を払い落としながら下を見下ろす。灰色の大地に急降下しようとしていた中型飛竜に乗った騎士たちも狼狽しているらしく、全員急降下を断念して高度を上げ、再び編隊を組んでいるところだった。

 

 ん? 中型飛竜の隊長が見当たらないぞ?

 

 そう思いながら下を見下ろしていた俺は、あの編隊が突っ込もうとしていた進路上に、いつの間にか爆炎が生まれていることに気付いた。大地を切り裂こうとしているかのように刻まれた白い煙のラインがその爆炎へと伸びていて、猛烈な風のせいで早くも崩れていく。

 

 その爆炎の中から落下していくのは、黒焦げになった飛竜の首や翼の残骸だった。

 

「―――――――え?」

 

 あれは飛竜の身体の一部……………?

 

 や、やられたというのか…………?

 

「おい、中型飛竜がやられたぞ!」

 

「地上からの対空攻撃か!?」

 

 いや、地上からの攻撃じゃない。そう思いながら、風のせいで崩壊していく白い煙を睨みつける。

 

 飛来したあの白い煙が、中型飛竜を粉砕したのだ。

 

 白い煙が飛来してきた方向を睨みつけていたその時、青い空の向こうに白い煙のようなものが浮かび上がり始めた。まるで飛竜が最高速度で低空を飛んでいる時のような轟音も聞こえてくる。

 

 ぎょっとしながら、俺は望遠鏡をその白い煙へと向ける。

 

「何だあれは………………!?」

 

 望遠鏡の向こうに見えたのは―――――――純白の煙を空に刻み付けながら疾駆する、金属製の太い槍のような奇妙な飛行物体だった。人間の胴体と同等の太さの胴体からは小さな翼のようなものが生えていて、先端部は尖っている。

 

 後端部から吐き出している煙が、先ほど消えた煙と同じものだということを見抜いた俺は、ぞっとしながら叫んだ。

 

「て、敵襲!」

 

「くそったれ……………ッ! 各員、敵の攻撃を回避せよ! 散開を許可する!」

 

 音響魔術で増幅された隊長の声を聞くよりも先に、手綱を引っ張って飛竜に回避するように命令する。即座に右へと急旋回しながらその金属の槍を睨みつけ、俺は舌打ちをする。

 

 多分、あれは敵の”鋼鉄の飛竜”の超遠距離攻撃だ。偵察部隊の報告では、轟音を発しながら飛翔する鋼鉄の飛竜どもは、翼の下にぶら下げた槍のようなものを発射し、遠距離の敵を正確に粉砕する事ができるという。

 

 しかもその槍は、回避しようとする敵を追尾する能力がある。

 

 案の定、先頭を進んでいた金属の槍が中型飛竜のうちの1体を追いかけようとするかのように進路を変えた。後ろに乗るライフルマンが大慌てでスチームライフルをぶっ放すが、飛竜を上回る機動性とスピードで飛来する槍にスチームライフルを撃ち込むのは至難の業だろう。

 

 連射する事ができれば弾幕を張って撃ち落とすこともできたかもしれないけれど、残念なことにスチームライフルは単発型だ。ぶっ放したらタンクからの蒸気の供給を一旦止め、銃口から矢を装填し、バルブを回して供給を再開しなければ発射できないのである。

 

 再装填(リロード)に20秒もかかってしまうのだ。

 

 全力で飛んでいる飛竜の背中でそんなことをしなければならないのだから、連射速度は低下してしまうに違いない。

 

 中型飛竜に乗る騎士は必死にそれを回避しようとしたが、機械の槍は無慈悲に中型飛竜の背中へと直撃した。背中に跨っていた2人の騎士を瞬く間に粉々にした猛烈な爆風が飛竜の背中を穿ち、外殻もろとも肉をあっさりと抉る。

 

 左側の翼まで爆発で捥ぎ取られてしまった飛竜が、絶叫しながら砂漠へと墜落していく。

 

「くそ、アーロンがやられた!」

 

「応戦しろ! 敵はどこにいる!?」

 

「みっ、み、見えない! 超遠距離から攻撃されてる! 敵はこっちの射程距離外だッ!!」

 

 射程距離外からの攻撃……………!

 

 立て続けに飛来する金属の槍が中型飛竜を吹き飛ばし、必死に飛び回っていた小型飛竜の胴体を抉り取る。中にはブレスで撃墜しようとしたり、味方が全滅する前に敵の攻撃が飛来する方向へと全力で突っ込み、超遠距離にいる敵の飛竜を仕留めようとしている味方がいたけれど、敵は超遠距離から容赦なく槍をぶっ放し、足掻き続ける飛竜と騎士たちを次々にミンチにしていった。

 

 息を呑みながら飛竜に速度を上げさせ、墜落していく飛竜たちを見下ろす。

 

 敵の攻撃はかなりスピードが速い。回避しようとしても躱し切れないし、敵の攻撃が早過ぎるせいで迎撃すらできない。しかもその攻撃力は、飛竜の外殻を一撃で粉砕するどころか、外殻の下にある肉まで抉り取ってしまう破壊力があるようだ。

 

 そんな強烈な攻撃を、敵の鋼鉄の飛竜は望遠鏡を使っても見えないほどの遠距離からこれでもかというほど放ってくるのである。

 

 勝負になるわけがない。

 

 まだ機械の飛竜の姿すら見ていないというのに、壊滅状態になっている味方を見つめる。必死に迎撃しようとするライフルマンや、飛竜の背中から飛び降りていく騎士たち。この高度から飛び降りれば、真下が砂とはいえ死ぬだろうなと思っていた俺は、遠距離から接近してくる槍がついに俺を狙っていることに気付いた。

 

 手綱を右に引っ張って急旋回を命じつつ、高度を下げていく。ちらりと後ろを振り向くと、俺を狙っている機械の槍は猛スピードのまま旋回して俺の後ろに回り込むと、その気になったら飛竜を追い越せるのではないかと思ってしまうほどの速度で後ろから追いかけてくる。

 

「だ、ダメだ……………!」

 

 間違いなく、あの攻撃で俺もミンチになる。

 

 鋼鉄の飛竜の姿を見るよりも先に、我が騎士団の航空隊が壊滅するなんて…………!

 

 一体テンプル騎士団の兵器は、どんな兵器なのだ……………!?

 

 もう一度後ろを振り返ろうとしたけれど、それよりも先に猛烈な爆炎と金属の破片のようなものが、俺もろとも飛竜を包み込んだ。

 

 手綱を握っていた両腕に金属の破片が突き刺さり、肉を切り刻んでいく。やがて衝撃波がその傷口を更に抉って身体を引き千切り、俺の肉体と飛竜の肉体をバラバラにしていった。

 

 

 


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