異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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テンプル騎士団の土地

 

 石鹸と花の香りを混ぜ合わせたような匂いに包まれながら目を覚ます事ができた時は、少なくとも平穏だ。任務の最中や移動中だったらこの甘い匂いはしない。

 

 瞼を擦りながら手を伸ばし、枕元に置いてある時計へと手を伸ばす。シンプルなデザインの時計を拾い上げて時間を確認し、まだ午前5時だということを確認してから時計を元の位置に戻した。二度寝できればいいんだけど、確か今日は午前7時から訓練があるし、午後からは俺が偵察部隊と一緒に偵察に向かうことになっていた筈だ。もう朝食の準備をしていた方がいいかもしれない。

 

 多分、6時くらいにはイリナも帰ってくる筈だ。

 

 ベッドから起き上がろうとしたんだけど、立ち上がろうとした時に腰に柔らかい何かが巻き付いていることに気付いた。人間の手足にしては長すぎるし、感触も皮膚とは異なる。それにその絡みついている柔らかい物体からも、甘い匂いがする。

 

 腰に絡みついているのは、真っ赤な鱗に覆われた柔らかそうな尻尾だった。その尻尾がベッドの毛布の中へと伸びているのを見た俺は、肩をすくめながらもう一度ベッドの上に横になる羽目になった。

 

「にゃあ…………タクヤぁ…………♪」

 

 腰に絡みついている尻尾を撫でると、ベッドの上で眠っている赤毛の少女が嬉しそうに微笑んだ。

 

 朝起きると、このように尻尾を俺の身体に絡みつかせているか、抱き着いたまま眠っているのは当たり前だ。

 

 甘えん坊だな、お姉ちゃんは。

 

 イリナが戻ってきてから朝食の準備をしても間に合うだろう。もう少しラウラとイチャイチャしてから朝食を作ることにしよう。

 

 そう思って彼女の頭へと手を伸ばし、2本の角が生えているラウラの頭を撫で始める。一応ラウラがお姉ちゃんなんだけど、彼女は弟に頭を撫でられるのが大好きらしい。眠ったままこっちに抱き着いてきたかと思うと、絡みつかせていた尻尾の先端部を左右に振り始めた。

 

 満足している時や機嫌がいい時は、彼女はこうやって尻尾を左右に振る癖がある。逆に機嫌が悪い時は、「こっちを見て」と言わんばかりに尻尾を縦に振る癖があるのだ。

 

 どうやら今は満足しているらしい。

 

 頭を撫でながら、ちらりと彼女の胸を見下ろす。胸が大きくなり始めてからラウラはパジャマのボタンをいくつか外して眠るようになった。ボタンをいくつか外さないと胸が苦しくなるらしいんだけど、そのせいで彼女の大きなおっぱいと黒いブラジャーがあらわになっている。

 

 彼女の胸を見つめたまま反対側の手を頭の上へと伸ばすと、俺の頭に生えている角はちょっとずつ伸び始めていた。

 

 本当に不便だよ、この体質は。

 

 どんどん伸びていく角を撫でながら溜息をつくと、小さい頃からずっと俺に甘えていたお姉ちゃんが、あくびをしながら瞼を擦り始めた。

 

「おはよう、ラウラ」

 

「にゃあ…………おはよう。…………ふにゅう♪」

 

 瞼を擦ってから微笑み、頬ずりを始めるラウラ。やがて彼女はしがみついていた腕から両手を離して起き上がったかと思うと、逃がさないと言わんばかりに今度はベッドに横になっている俺の身体の上にのしかかり、そのまま胸板に頬ずりを始める。

 

「えへへへっ、お姉ちゃんと同じ匂いだね♪」

 

「小さい頃からずっと一緒だからな」

 

 腰に巻き付けていた尻尾を離し、尻尾で俺の頭を撫で始めるラウラ。彼女の尻尾は俺の尻尾と違って外殻には覆われていないので、非常に柔らかい。何度か彼女の尻尾を枕代わりにさせてもらったことがあったんだけど、暖かい上に結構柔らかいので、すぐにぐっすり眠ってしまった。

 

 サラマンダーのメスは卵や子供を温める際に外殻が邪魔になるので、外殻が退化しているのだ。ラウラもそのサラマンダーのメスの特徴が反映されているらしく、外殻の生成が苦手らしい。

 

 彼女の尻尾を撫でていると、頬ずりしていたラウラがぺろりと頬を舐め始めた。びっくりして彼女の顔を見ると、彼女はニコニコと笑いながら容赦なく唇を奪い、舌を絡ませ始める。

 

「んっ…………」

 

 目を覚ましてからキスをするのは当たり前だけど、場合によってはそのまま彼女に搾り取られることもある。今日はどっちなんだろうか。下手したら襲われている最中にイリナが帰ってくるかもしれないんだけど。

 

 キスだけで済むことを祈っているうちに、ラウラは舌と唇を離してくれた。キスを終えたラウラの頭から生えている角もどんどん伸びているし、彼女の顔も赤くなっている。

 

 多分、今日は襲われるだろうな。

 

「ねえ、タクヤ」

 

「ん?」

 

「あのね…………喉が渇いちゃった」

 

 そう言ってから、自分の唇をぺろりと舐めるラウラ。唇から伸びた彼女の舌は、いつもよりも少しばかり長い。

 

 どうやらラウラは、紅茶が飲みたいわけではないらしい。

 

 すぐに両手を自分のパジャマのボタンへと伸ばし、ボタンを外していく。彼女と同じく白い肌がどんどんあらわになっていくのを見ていたラウラは、俺の首筋を見つめながら、まるで飢えている時に大量のご馳走を目にしたかのように息を吞んだ。

 

 そしてゆっくりと首筋を舐めてから、口の中に生えている犬歯をあらわにする。

 

 ラウラの口の中に伸びていた犬歯は―――――――吸血鬼たちのように、長くなっていた。

 

「はぁっ、はぁっ…………!」

 

「我慢できない?」

 

「う、うん…………はっ、早く…………飲みたいよぉ…………!」

 

 枕元に用意しておいたブラッドエリクサーの瓶を掴み取り、いつでもそれを飲んで血液を補充できるように準備してから、彼女の頭を撫でた。

 

「召し上がれ」

 

「!」

 

 そう言った直後、上にのしかかっていた最愛のお姉ちゃんが、俺の首筋に鋭い犬歯を突き立てていた。吸血鬼のような犬歯で容赦なく弟の首筋にちょっとした穴を開け、溢れ出た鮮血を荒々しく啜り始めるラウラ。先ほどまでベッドを包み込んでいた甘い香りが、段々と血の臭いに侵食されていく。

 

 激痛を感じながら、血を吸っているラウラを優しく抱きしめた。

 

 吸血鬼たちの春季攻勢(カイザーシュラハト)の最中に、ラウラは左腕と左足を失うという重傷を負う羽目になった。本来ならば義手と義足を移植して復帰する筈だったんだけど、彼女はタンプル搭を訪れていたフィオナちゃんになんと吸血鬼の細胞の移植を依頼し、彼らの再生能力と進化したキメラ・アビリティを身に着けて戦闘に復帰したのである。

 

 細胞の移植の恩恵で彼女の戦闘力は劇的に向上したが、その代わりにラウラの寿命は短くなってしまったという。しかもキメラは極めて変異を起こしやすい種族であるため、吸血鬼の細胞を移植すれば、その細胞を取り込んだ身体が予想外の突然変異を引き起こす危険があった。

 

 ラウラが俺の血を吸っているのも、その突然変異の1つだろう。

 

 おそらく、吸血鬼の細胞を移植したせいで、定期的に血を吸いたくなってしまったに違いない。けれどもちゃんと普通の食べ物を食べて満腹感を感じているため、吸血鬼のように血以外のものから栄養を吸収できない身体になってしまったわけではないようだ。

 

 首筋から静かに口を離し、傷口からまだ溢れている血を舌で舐め始めるラウラ。血が止まるまで首筋を舐めていた彼女は、呼吸を整えながら胸板に顔を押し付けた。

 

「ご、ごめん………吸い過ぎちゃった…………?」

 

「だ、大丈夫…………エリクサーは必要ないよ」

 

 イリナだったらもっと容赦なく吸っていただろう。

 

「美味しかった?」

 

「うんっ♪」

 

 尻尾を横に振り始めたラウラを抱きしめようと思ったんだけど、微笑んでいるラウラの眼が段々と虚ろになり始めると同時に、彼女の浮かべていた笑顔が不気味な笑顔に変質し始めたことに気付いた俺は、ぎょっとしながら両手を止めた。

 

「えへへへっ…………♪」

 

「…………」

 

「ねえ、タクヤぁ♪」

 

「ん?」

 

 俺の両手を押さえつけてから、柔らかい尻尾をズボンへと伸ばすラウラ。彼女が俺のズボンを脱がそうとしていることに気付いた俺は両腕に力を込めて抵抗しようとしたけれど、人間よりも力が強いキメラである上に、小さい頃から一緒に訓練を受けて鍛え上げられたラウラの握力に勝利するのは難しそうだ。多分、普通の人間の男性だったら手首を握りつぶされているのではないだろうか。

 

 キメラの女性と人間の男性が付き合ったら、人間の男性は間違いなく大怪我をすることになるだろう。

 

 彼女の口元にまだ俺の血がついている上に、目つきが虚ろになっているせいで、今のラウラはかなり怖い。

 

「いいでしょ?」

 

「待って。せめて薬は飲ませてよ」

 

「そんなの要らないよ」

 

「いや、飲まないと子供できちゃうって」

 

「ふにゅ? お姉ちゃんはいつでも子育てするよ?」

 

 彼女を説得しつつ抵抗しようとするんだけど、血を吸われたばかりだから両手に全く力が入らない。

 

「子供を作るのは結婚してからって言―――――――」

 

「もうっ。お姉ちゃんの言う事は聞かないとダメなのっ♪」

 

 や、ヤバい…………ズボンとパンツが脱がされそう…………!

 

 足掻き続ける俺の首筋を甘噛みし始めるラウラ。ブラッドエリクサーを飲んで血液を補充すれば逃げられるかもしれないけど、彼女に両手を押さえつけられているせいでエリクサーを飲む事ができない。こっちも尻尾を使おうと思ったんだけど、尻尾にも力が入らない上に、すぐに尻尾で抵抗しようとしていることを察知したラウラの尻尾に押さえつけられてしまう。

 

「いただきまーすっ♪」

 

「ふにゃああああああああああ!!」

 

 結局、イリナが帰ってきませんようにと祈りながら、今朝も彼女に搾り取られる羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巨大な会議室のテーブルの上に、蒼い立体映像が投影されている。参謀総長の座席にある小型の魔法陣を操作する度に形が変わっていくその立体映像を眺めてからティーカップを拾い上げ、ナタリア特製のジャムが入ったアイスティーを飲む。

 

 テンプル騎士団の兵士の大半は紅茶が好きらしい。だから、兵士たちは任務に行く前には水の入った水筒と、アイスティーの入った水筒を2つ持って行くという。

 

 この紅茶は香りが強烈だな。ヴリシア産か?

 

 ティーカップを巨大なテーブルの上に置き、傍らに置いてある資料を拾い上げる。

 

 本当ならば今日は円卓の騎士たちを招集して会議を開く予定はなかったのだが、俺が仲間たちと一緒にスコーンを食べながらテクニカルで偵察任務に行っている最中に、会議を開かなければならない状況になってしまったらしい。

 

 なんと、カルガニスタンを統治しているフランセン共和国の総督から、すぐにテンプル騎士団の拠点を別の場所に移転させるように勧告されたのである。

 

 カルガニスタンはフランセン共和国の植民地であるため、独立はしていない。だから各地で先住民たちがフランセン騎士団とゲリラ戦を繰り広げているのである。ウラルが率いていたムジャヒディンも、フランセンに反旗を翻した武装勢力の1つだった。

 

「団長、こんな勧告は無視しましょうよ」

 

「そうですよ、移転する必要はありません」

 

「そうなんだけど…………同志諸君、俺たちはあいつらの植民地に”勝手に拠点を作って”活動してるんだよ」

 

 そう、テンプル騎士団はその植民地のど真ん中に、統治している総督に許可を得ずに勝手に拠点を作っているのである。

 

 冒険者ギルドや傭兵ギルドを設立する際は、その街を統治している市長や領主に申請する必要がある。植民地に拠点を作る際は、その植民地を統治している総督に申請をしなければならない。

 

「確かに、俺たちは無断で拠点を作っちまったからな。だが、何で俺たちはギルドとして管理局に認められちまったんだ? 申請がない時点で許可されないだろ?」

 

 資料を見つめていたウラルが質問すると、アイスティーを飲んでいたクランが腕を組みながら説明し始めた。

 

「総督が変わったらしいのよ。以前までの総督は、テンプル騎士団がフランセン騎士団に協力することもあったから黙認してた上に、管理局にも許可を出すように指示を出してたらしいの。でも新しい総督はテンプル騎士団を嫌ってるみたいで、管理局に許可を取り消すように圧力をかけてるらしいのよ」

 

 俺たちを黙認してくれていた穏健派の総督のおかげで、テンプル騎士団は冒険者ギルドと傭兵ギルドとして活動する事ができたというわけだ。

 

 しかし、新しい総督は黙認するつもりはないらしく、管理局に圧力をかけているというのである。もし冒険者管理局が許可を取り消せば、テンプル騎士団はギルドではなくただの武装集団になってしまうだろう。組織の資金は傭兵として活躍している海兵隊の兵士たちと、ダンジョンに調査に向かっている兵士たちのおかげで手に入れる事ができている。だがその許可が取り消されれば、テンプル騎士団は資金を入手する事ができなくなってしまう。

 

「なんて奴だ」

 

「しかも、商人たちにテンプル騎士団への商品の販売を禁止するように指示しているらしいわ。幸い鉱石はタンプル搭の岩山で採掘できてるけど、他の資源を手に入れるのが難しくなってるのよ…………。オルトバルカ産の紅茶も底をついちゃってるわ」

 

 だから今日の紅茶はヴリシア産なのか。

 

 あまり好きじゃないんだよな、ヴリシア産の紅茶は。できるならさっぱりしてるオルトバルカ産の紅茶がいい。

 

「拠点を移転させるか、私たちの持っている兵器を提供すれば許可を出すらしいわね」

 

「武器の提供は絶対にしない」

 

 現代兵器を支給するのは、一緒に戦ってくれている同志たちだけだ。だからフランセン騎士団の連中には、絶対に銃は渡さない。

 

 けれども、拠点を移転させるのもかなり難しい。もう既に拠点の規模はかなり大きくなっているし、拠点を作れそうな場所を探さなければならない。

 

「どうするんだ? いっそのこと、フランセンと戦争するか?」

 

 紅茶を飲み干したケーターは、そう言いながらこっちを睨みつける。あいつはシュタージの中でも冷静な男だから、フランセンと戦争をするべきだと思っているわけがない。俺を試すためにわざと”戦争をするべきだ”と言ったのだろう。

 

 テンプル騎士団の戦力なら、フランセンの連中をカルガニスタンから追い出すのは簡単だ。けれども、彼らを追い出せば本国から大規模な兵力が派遣されるのは想像に難くない。下手をすればカルガニスタンの先住民たちまで巻き込んでしまう恐れがある。

 

「いや、戦争はしない」

 

 どうすればいいのだろうか。

 

 スペツナズに命令して総督を拉致し、移転の命令を撤廃させるか? けれども拉致すれば、フランセンに喧嘩を売る羽目になる。

 

 くそったれ………。

 

「お兄様、いい案がありますわ」

 

「カノン?」

 

 変な意見を言うつもりじゃないだろうなと思ったけど、カノンの表情は真面目だった。彼女は席から立ち上がってからこっちに向かってニヤリと笑うと、テーブルの中央に浮かんでいる立体映像を見つめながら言った。

 

「―――――――お金で何とかすればいいのです」

 

「…………はっ?」

 

 お、お金?

 

「このカルガニスタンの土地を、フランセンから買い取るのですわ。さすがに全土を買い取るのは無理でしょうけど、タンプル搭や拠点の周辺を買い取ってしまえばフランセンの統治は全く関係ありませんもの」

 

 確かに、土地を買い取れば総督から許可を受ける必要はない。それに総督が管理局に圧力をかけても、俺たちは”自分たちの土地”にいるのだから管理局も許可を剝奪できなくなる。

 

 さすが貴族だな、カノン。

 

「だが、タンプル搭の周辺を買い取ると言っても金は足りるのか?」

 

「そうですよ、同志カノン。土地を買うのは難しいのでは?」

 

 円卓の騎士たちがそう言うが、カノンはもう既に作戦を考えてあるらしく、微笑んだままシュタージのメンバーの方を見つめた。

 

「ご安心くださいな。金額は関係ありませんわ」

 

「どういうことだ?」

 

「上手くいけば銅貨1枚で土地を買い取れますわ」

 

 ちなみに、一般的な労働者の年収は金貨4枚か5枚と言われている。一般的な家をローン無しで立てるためには、金貨3枚を払わなければならない。カルガニスタンの土地をフランセンから購入するのであれば、それよりもはるかに高額の金貨を用意しなければならない筈だ。

 

 だから、銅貨1枚で買えるわけがない。

 

「どうするつもり?」

 

「シュタージの皆さんに協力してもらう必要がありますわね。もちろん、土地を購入する申請は総督ではなく本国の方にする必要がありますわ」

 

 …………とんでもない作戦だ。

 

 カノンの作戦を理解した俺は、予想以上に可愛い妹分が腹黒くなっていたことに驚きながら苦笑いしていた。

 

 シュタージはテンプル騎士団の諜報部隊だ。本国にエージェントを潜入させる事ができれば、本国にいる政治家のスキャンダルを全て調べる事ができるだろう。

 

 これは購入じゃなくて脅迫だぞ、カノン…………。

 

 

 

 

 

 


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