異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
蒼だけで彩られた大空を、7機の戦闘機たちが蹂躙していく。編隊を組んでいた漆黒の戦闘機たちは高度を上げると同時に散開すると、大空にエンジンの轟音と衝撃波を刻み付けながら飛び回り始める。
タンプル搭上空で飛行訓練を行っているのは、7機のF-22で構成された『モードレッド隊』と呼ばれる新しい航空部隊である。5機のユーロファイター・タイフーンで構成されたアーサー隊のように、他の航空部隊から選抜された優秀なパイロットで構成された精鋭部隊の1つであり、配備されているF-22たちには黒と紅のダズル迷彩が施されている。
レーダーで遠距離から標的を捕捉し、ミサイルをぶっ放すのが当たり前になった現代の航空戦ではそのような塗装はあまり意味がないかもしれないが、地上で戦っている味方たちはその特徴的な塗装で判別できるし、戦果をあげれば敵もその塗装を見た瞬間に震え上がるだろう。
ちなみにモードレッド隊のエンブレムは、”折れたエクスカリバーと2つの翼”である。アーサー隊よりも後に編成された精鋭部隊だが、模擬戦では何度かアーサー隊のメンバーを撃墜することに成功している。でもアーサー隊の隊長であるアルフォンスを撃墜したことは一度もないらしい。
散開して飛び回っていたモードレッド隊のF-22たちが、再び7機で編隊を組み始める。短時間ですぐに編隊を組み終えたF-22たちはそのまま旋回すると、各拠点の中でも特に着陸の際の難易度が高いと言われるタンプル搭の滑走路へ着陸するために、高度を落とし始めた。
テンプル騎士団の兵士たちの錬度は低いけれど、空軍のパイロットたちの練度は他の勢力からも高く評価されている。
「優秀なパイロットたちみたいですわね」
「ああ」
滑走路の方へと飛んでいく7機のF-22を見守りながら、俺は目の前に停車しているテクニカルの運転席へと乗り込むことにした。
テクニカルとは、要するに荷台や座席に機関銃を搭載したピックアップトラックの事だ。ただ単に車両に武装を積んだだけだから、軍用の戦車や装甲車と比べると火力や防御力はかなり劣ってしまうものの、車両に武装を搭載するだけで戦闘に投入できるため、高性能な戦車や装甲車を購入するよりもコストがかなり低いのである。
これも転生者の能力で生産した代物で、消費するポイントがかなり低い。T-90を生産するポイントの10分の1で生産できるため、テンプル騎士団の民兵や偵察部隊などにも配備されている。とはいえ戦車や装甲車よりも性能は低いので、さすがに魔物の討伐の際には投入されることはない。
目の前に停車しているのは、ピックアップトラックにこれでもかというほど武装を搭載したテクニカルだ。フロントガラスや側面の窓は取り外されており、代わりに覗き窓のついた古い戦車のような装甲で覆われている。助手席と後部座席の左右にはブローニングM1919重機関銃が合計で3丁も取り付けられており、荷台の上には迫撃砲と砲弾の入った箱が居座っている。エンジンの周囲には、エンジンが破壊されることを防ぐために装甲が取り付けられているけれど、多分あの装甲が防げるのはアサルトライフルやバトルライフルの銃弾が限界だろう。貫通力が高い徹甲弾や、より大口径の弾丸を放つ重機関銃の攻撃は防げないかもしれない。
運転席に座ってハンドルを握ろうとすると、カノンに手を掴まれた。
「お兄様、わたくしが運転しますわ」
「いやいや、ドルレアン家のお嬢様に運転させるわけにはいかないよ」
カノンはドルレアン領の領主になる貴族の娘だからな。
冗談を言うと、彼女は俺に運転させることにしたのか、助手席のドアを開け、がっちりとしたブローニングM1919重機関銃が居座っている助手席に乗り込んだ。助手席には運転席と違ってブレーキやアクセルはないけれど、その代わりに重機関銃用の弾薬が入った箱が2つほど居座っているから窮屈そうだ。
これでもかというほど武装を搭載されたテクニカルを走らせ、タンプル搭の検問所へと向かう。ゲードの近くで警備をしていた警備班の兵士がこっちに駆け寄ってきたのを見ながら、運転席の左側にある覗き窓を開けた。窓ガラスの代わりに覗き窓のついた装甲で覆われているので、車内は結構暗い。
「お疲れ様」
「お疲れ様です、同志団長。どちらへ向かうのですか?」
「建造途中のブレスト要塞を視察に行く」
「分かりました。護衛の車両を手配しましょうか?」
「いや、大丈夫だ」
AK-12の代わりに配備が始まったAK-15を装備している警備班の兵士にそう言うと、彼は敬礼をしてから検問所へと駆け戻り、ゲートの近くにあるレバーを上げた。
敵の侵入を防ぐために設置されているゲートが、金属音を奏でながらゆっくりと開いていく。分厚いゲートが開いたのを確認してからその兵士に敬礼し、再びテクニカルを走らせる。
吸血鬼たちによる春季攻勢カイザーシュラハトによって、テンプル騎士団は重要拠点の1つであるブレスト要塞を失う羽目になった。ブレスト要塞はタンプル搭の東西南北に配置されている要塞の1つであり、防衛ラインを構成する重要拠点である。
つまり要塞が壊滅して機能していないということは、ブレスト要塞方面の防衛ラインがかなり薄くなっているということを意味するのである。
考えられないけど、もし同じ方向から春季攻勢カイザーシュラハトに匹敵する戦力の敵が攻め込んで来たら、今度こそタンプル搭への攻撃を許してしまうかもしれない。だから周辺の前哨基地の戦力を増強しつつ、要塞の建造を急いでいるというわけだ。
今から俺とカノンは、その新しいブレスト要塞の視察に向かうのである。
視察に向かうことは事前に伝えていないため、要塞にいる団員たちはびっくりするに違いない。
分厚い城壁にも見える岩山の間にある道は、シャール2Cが並走できるほどの広さがある。同等の広さの道が3つあり、その道に2ヵ所ずつ検問所が用意されている。検問所の中には武装した警備班の兵士が待機しており、敵が襲撃してきた場合は応戦して時間を稼ぎ、迎撃部隊と合流して敵を返り討ちにすることになっているのだ。そのため、検問所には予想以上に多くの武装が配置されている。
2つ目の検問所の前で停車し、同じように覗き窓を開ける。さっきの検問所の兵士がこっちにも連絡してくれていたからなのか、覗き窓の外から俺とカノンの顔をチェックされただけで、その兵士は検問所のゲートをあっさりと開けてくれた。
この検問所のゲートは、シャール2Cの正面装甲と同じくらい分厚い。そのため160cm滑腔砲のAPFSDSをこれでもかというほどぶち込んでも、表面がほんの少しだけ窪むだけで済むのである。
ちなみに、タンプル砲を使用する時はこのゲートは全て開けることになっている。タンプル砲を発射する際の衝撃波があまりにも強烈すぎるため、ゲートを閉鎖したままだとこの分厚いゲートが衝撃波で吹っ飛ばされてしまうのだ。
合計で33基の薬室の爆発が200cmガンランチャーの砲口から飛び出すのだから、その衝撃波が戦艦の主砲の衝撃波を遥かに上回るほど強烈になるのは想像に難くない。下手したらシャール2Cまで吹っ飛ばしてしまうのではないだろうか。
APFSDSをこれでもかというほど叩き込まれても正面装甲を貫通されることのなかった怪物が、衝撃波であっさりと吹っ飛ばされる光景を想像しながら、ちらりと後ろを振り向いた。城壁のようにも見える岩山の向こうから、ほんの少しだけ巨大な要塞砲の砲身の先端部が覗いている。
「テンプル騎士団も大きくなりましたわね」
「ああ。最初はたった5人だけだったのにな」
モリガンの傭兵たちは、10人足らずの仲間たちと共に最後まで戦いを続けた。数多のクソ野郎を狩り、彼らに虐げられていた人々を救い続けた。
けれども、きっと彼らは世界を変えようとはしていなかったのだろう。若き日の親父は、いくら現代兵器で武装した最強の傭兵たちでも、10人足らずではこの世界を変える事ができないということを知っていたのかもしれない。
だからこそ俺たちは、大きくなろうとした。
この世界を変える事ができるように。
父たちの戦いをベースにして、俺たちは進化するのだ。
「ところで、天秤の在り処は分かったのか?」
「まだですわ。ステラさんたちが調査を続けていますが…………」
「そうか…………」
全ての鍵は、俺たちが持っている。しかしその鍵を使って手に入れることのできる天秤の在り処が、未だに判明していない。
”天空都市ネイリンゲン”と呼ばれる場所に保管されていることは明らかになったんだけど、その天空都市ネイリンゲンがどこにあるか分からないのだ。航空隊を派遣し、ネイリンゲンの上空を確認してもらったけど、ダンジョンと化したネイリンゲンの上空には何も見当たらなかったという。
何か条件でもあるのだろうか?
テクニカルを運転しながら、俺は唇を噛み締める。
あの春季攻勢カイザーシュラハトに敗北したことで、吸血鬼は壊滅状態となった。兵士の数が減った上にブラドまで失ったのだから、もう天秤の争奪戦を継続することはできないだろう。
だが、モリガン・カンパニーは全く損害を受けていない。
しかもあのモリガン・カンパニーのリーダーは、俺たちの親父ではなく、レリエルと相討ちになった親父の記憶と端末を受け継いだ、最古の竜のガルゴニスである。ドラゴンが生み出された時からずっと生き続けているため、天秤の事も知っているのだ。
だから、天秤がどこに保管されているかを知っていてもおかしくはない。しかも親父の能力まで受け継いでいるのだから、その気になればテンプル騎士団との同盟を破棄し、鍵を強奪するために攻め込んでくるだろう。
テンプル騎士団は部隊の再編成の真っ最中だ。今のところ攻め込んでくる気配はないが、いつ同盟を破棄されてもおかしくはない。
もしかしたら有利なのは、俺たちじゃなくてあっちかもしれないな…………。
「お兄様、どうしましたの?」
「いや、何でもない」
天秤を手に入れるために、親父を超えなければならないようだ。
かつてレリエル・クロフォードと相討ちになった、最強の転生者を。
新しいブレスト要塞の建造は、予想以上に進んでいるようだった。
要塞を取り囲む防壁は既に完成しており、防壁の上には重機関銃や迫撃砲などの兵器がクレーンで運び込まれている。しかも旧ブレスト要塞の防壁よりも更に分厚くなっているため、砲撃や爆薬で爆破するのは難しいだろう。
「すごい景色だな」
「わぁ…………! エイナ・ドルレアンでもこんな景色は見れませんわ!」
防壁の上から建造途中の要塞を見下ろしてはしゃぐカノン。真面目になっている時は冷静で礼儀正しい少女なんだけど、稀にこのようにはしゃぐことがある。それに起きたばかりの時は、寝ぼけて俺の事を「お兄ちゃん」と呼ぶこともあるのだ。
すぐに慌てて顔を赤くしながらいつもの口調に戻るんだけど、慌てている時のカノンも可愛らしい。
「そういえば、お前の髪型ってシンプルだよな?」
「えっ?」
はしゃぐカノンを見つめていた俺は、彼女の橙色の髪を見つめながらそう言った。彼女の髪は基本的にそれほど長くないし、シンプルである。
幼少の頃によく親父と一緒に帰属のパーティーやお茶会に出席したことがあるんだけど、そのパーティーやお茶会に出席していた貴族の女の子の髪型はかなり派手だった。だからなのか、貴族の女の子は派手な髪形というイメージがある。
今のところ、貴族出身の女の子でシンプルな髪形なのはカノンだけだ。
「貴族の子って、派手な髪形にするイメージがあるんだけどさ」
「ええ、確かに貴族の子は派手な髪形にしてますわ。でも…………わたくしはああいう髪型は嫌いですの。準備するのは面倒ですし、戦闘中に邪魔になりますから」
「興味もないのか?」
「ええ、ありませんわ。シンプルな髪形の方が動きやすいですもの」
ドルレアン家の人って変わってるのかな? それとも庶民的なだけなのか…………?
そういえば、カレンさんの髪型もそんなに派手じゃなかったよな。式典とかパーティーに出席する時はそれなりに派手にしてるみたいだけど、ギュンターさんの話では屋敷に戻るとすぐに元の髪型に戻していたという。
やっぱりカノンはカレンさんにそっくりだな。
変態になっちまったのはギュンターさんのせいだけど。
苦笑いしながら、俺は要塞の防壁の内側を見下ろす。
基本的な構造は旧ブレスト要塞と変わっていない。防壁の内側にはずらりと戦車の格納庫やヘリポートらしきスペースが並び、格納庫に囲まれた管制塔と広大な滑走路も準備されつつある。まるで防壁や装備されている兵器を増強したブレスト要塞を、旧ブレスト要塞の近くにもう1つ作ろうとしているようにも見える。
けれども、この新しい要塞には、旧ブレスト要塞にはなかった新しい設備が準備されている。
防壁の隅へと伸びていくレールを見つけた俺は、腰に下げていた双眼鏡をズームしながらそれを注視する。双眼鏡の向こうでは、屈強なオークやドワーフの男性たちがレールを担ぎ、凄まじい速度でそのレールを防壁に開いている穴の向こうへと繋いでいるところだった。
そう、列車用のレールである。
全ての重要拠点からタンプル搭へと線路を用意し、装甲列車を走らせることができるようにするのだ。しかも地下にも同じようにトンネルを掘って線路を用意することで、その装甲列車を緊急脱出に使うこともできるし、仮に地上の線路が魔物や敵の攻撃で破壊されてしまっても、線路の途中に用意されているトンネルの入り口から地下のトンネルへとルートを変更することで、脱線事故を回避する事ができる。逆に、敵に発見されないように地下を進んでから地上へと続くルートを使って地上に飛び出し、敵に奇襲攻撃を仕掛けることもできる。
更に、重要拠点が攻撃を受けている際に兵士たちを列車で派遣することもできるようになるのだ。
まだ装甲列車や列車砲は用意していないけれど、この線路が完成すればタンプル搭の防御力はより強固になるだろう。
もちろん、装甲列車にはシャール2Cに匹敵する巨大な主砲や対戦車ミサイルをこれでもかというほど搭載する予定である。
しかも、重要拠点には虎の子のシャール2Cを3両ずつ配備する予定だ。APFSDSの集中砲火でも貫通できないほどの分厚い正面装甲を持つ上に圧倒的な火力まで搭載しているあの超重戦車は、春季攻勢カイザーシュラハトの迎撃で大きな戦果をあげたため、更に4両も増産されることが決定しているのだ。
予定では、このブレスト要塞には『プロヴァンス』、『マリー・アントワネット』、『マクシミリアン・ロベスピエールの3両を配備することになっている。
この要塞や線路が完成すれば、テンプル騎士団の戦力は一気に上がるだろう。
だが、テンプル騎士団の目的はあくまでも蛮行を続けるクソ野郎共の討伐だ。転生者をぶち殺すためには派遣される兵士たちの錬度も高めなければならない。