異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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前世の記憶とキメラの少年

 

 母さんが他界してから、俺はバイトを始めた。

 

 あのクソ親父の酒とパチンコのために金を稼ごうと思ったわけじゃない。母さんが遺してくれた大金があるとはいえ、高校に卒業する前に使い切ってしまうかもしれない金額だったし、お構いなしにその金を使って酒を買ったりパチンコに行ったりするクズが家にいるから、働かなければ生活費が底をついてしまう恐れがあった。

 

 だから俺は高校に行きながら働いた。もちろん、クソ親父のためではなく自分のために。

 

 とっとと高校を卒業してから就職したい。もちろん、職場はできるなら県外が良かった。そうすればあの家から出て行けるし、上手くいけばあのクズ野郎が飢え死にするところを見る事ができるかもしれないのだから。

 

 夜遅くまでバイトするのが当たり前だったから、授業中に居眠りをしてしまうのは少なくはなかった。けれども成績は上位だったし、授業中に居眠りをしてしまっても近くの席の友達がよくノートを見せてくれた。

 

 入学したばかりの頃は早く3年経たないかなと思っていた。3年経って卒業すれば、もう父親に暴力を振るわれたり、あんなクズのために金を使う必要がなくなる。それにあのクズを1人にすれば、あいつを苦しめてやれるのだ。

 

 けれども冬休みが近づき始めた辺りから、もう少し学校生活を続けてみたいと思うようになった。

 

 その辺りから、友達が増えたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり俺は西側の銃の方が好きだなぁ…………。汎用性高いじゃん」

 

 そう言いながら、俺の隣に座っている男子が弁当の箱を開けた。箸を取り出して中に入っている卵焼きを拾い上げてから口へと運び、片手を傍らに置いてある水筒へと伸ばし始める。

 

 彼の名は『葉月弘人(はづきひろと)』。中学校の頃から一緒の親友で、休み時間や放課後は他の友達と一緒によくこういう話をする。俺も最初の頃は銃や兵器に全く興味がなかったんだけど、こいつとそういう話をしているうちに俺もミリオタになってしまった。

 

「いや、俺は東側だ。破壊力が大きい武器が多いし、最近は西側の銃みたいに汎用性も高くなってるからな」

 

「東側にも高性能な銃があるけどさ、小口径の弾丸の方が扱いやすいだろ?」

 

「でも口径が小さくなったらストッピングパワーが落ちちまうだろうが。できるだけ大口径の方がいいって。あと頑丈な武器が多いぜ、東側は」

 

「あー、確かにAK-47は頑丈だよなぁ…………」

 

 弘人は西側の銃が好きらしい。確かに汎用性が高くて扱いやすい銃が多いけれど、俺は頑丈な銃が多い東側の銃の方が好きなのだ。だからこういう話が始まると、いつも教室の真っ只中でミリオタ同士の冷戦が勃発するのである。

 

 ちなみに俺の友達の中で東側の銃が好きな奴は、よく遊ぶ12人のメンバーの中では俺ともう1人の友達のみ。

 

 同志、東側が不利であります…………。このままじゃ粛清されちゃう。

 

「さあ同志弘人、東側へカモン」

 

「遠慮するわ。お前こそ、ベルリンの壁に穴開けておくからいつでも西側へカモン」

 

「その穴越えたら粛清されるからやめときます」

 

 笑いながら持ってきた弁当箱をカバンの中から取り出し、さっき自動販売機で買ってきたお茶のペットボトルの隣に置く。

 

 今まで料理は母さんがやってた。いつも酒ばかり飲んでいるクソ親父は、当たり前だけど全然家事をしないクズなので、掃除や料理は俺の仕事だ。というか、母さんがやっていた仕事は全部俺がやる羽目になった。学校で勉強をしてからバイトに行き、家に戻って家事をするのはかなり大変である。しかも家事をしている最中は、クソ親父が不機嫌だとぶん殴られることもある。

 

 おかげで色んな事ができるようになったけどね。一番得意なのは料理だろうか。さすがに母さんみたいに美味い料理は作れないけれど、母さんが作っていた料理の味は今でも覚えているから、もっと勉強すれば母さんが作ってくれた料理の味を再現できる筈だ。

 

 というわけで、この弁当箱の中に入っている中身は全部自分で料理したものばかりだ。弁当箱の半分を埋め尽くしているのは白いご飯で、余裕がある時は上に梅干を1つ乗せることにしてる。でも今朝は時間がなかったから梅干は乗せてない。

 

 おかずは卵焼きとから揚げの2つだけ。トマトとブロッコリーも一緒に入れてある。

 

 料理を始めたばかりの頃は調味料をどれくらい入れればいいのか全く分からなかったから、味が濃すぎたりまったく味がしないこともあったけれど、今ではちょうど良くなりつつある。

 

 もちろんあのクソ親父の分の飯も俺が作らなければならない。でもあんなクソ野郎に上手い飯は食わせたくないので、わざと調味料の量を間違えたり、あいつの皿に乗せるから揚げはぶん殴られない程度に小さいやつを選んで乗せている。

 

 要するに、あいつには適当な料理(モンキーモデル)しか食わせてない。

 

 ざまあみろ。

 

 多分、あのデブは料理ができないんだな。

 

 俺は料理ができるから大丈夫だけど、もし結婚したら妻は絶対に敵に回さないようにしよう。というかあんなクソ親父みたいになってたまるか。

 

「お、美味そうじゃん!」

 

「1つ食う? でっかいやつだけ入れてきたんだ」

 

「でっかいやつだけ? 他のは?」

 

小さいやつ(モンキーモデル)

 

「お前は東側が好きなんだな…………」

 

 ちなみに調味料の量も減らしてあるので、それなりに味は薄くなってると思います。召し上がれ、クソ親父。

 

 ニヤニヤしながらちらりと弘人の弁当箱を覗き込んでみる。彼の場合はお母さんが作ってくれているからなのか、俺の弁当よりもおかずの数が多かった。小さめのハンバーグとかから揚げも入ってるし、野菜も多めに入ってる。

 

 明日からもう少し野菜増やそうかな…………。

 

「お、美味い! これお前作ったんだよな?」

 

「ああ」

 

「母さんの唐揚げより美味いかも…………。なあ、今夜俺の家で夕飯作っていけよ」

 

「”食っていけ”じゃなくて”作っていけ”かよ!?」

 

 今夜バイトなんですけど!

 

 俺の弁当箱の中から拾い上げたから揚げ―――――――しかも一番でかいやつだ―――――――を口へと運び、噛み砕きながら笑う弘人。俺は苦笑いしながらペットボトルを口へと運んだ。

 

「おい、それ一番でっかいやつじゃねーか!」

 

「いいじゃん。ほら、俺のハンバーグをやるからさー」

 

「まったく…………楽しみにしてたやつなのに…………」

 

 とりあえず、ハンバーグを貰っておこう。

 

 弘人が弁当箱に放り込んでくれたハンバーグを箸で拾い上げた俺は、口へと運ぶのを止めた。

 

 ちょっと待て。これ食いかけのやつじゃねーか!

 

「おい、食いかけのやつ放り込んでんじゃねえよ!」

 

「あー、お前の唐揚げマジで美味い♪」

 

「2個目を持って行くなよ! お、俺のおかずがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 卵焼きとなけなしの唐揚げだけで弁当箱の半分を埋め尽くしているご飯を完食しろと言うのか!? くそ、せめて梅干しがあれば難しくはなかった筈なんだが、さすがに卵焼き2つと小さめの唐揚げ1個でこのご飯を片付けるのは困難だ…………!

 

 あとで覚えてろよ、弘人ぉ…………!

 

 そんなことを考えながら箸で卵焼きを2つに分け、そのうちの片方を口へと運ぶ。

 

 多分、高校でもこいつと同じクラスになっていなければ、俺に友達はいなかったかもしれない。最悪の場合は虐められて自殺する羽目になってたかもな。

 

 家で虐待されてる挙句、学校で虐められるのは最悪だ。

 

 けれども、こいつや他の仲の良い友達のおかげで、俺は学校生活を楽しむ事ができてる。身体や顔から痣が消えた日はないけれど、学校にいる間はあのクソ親父の事を考えずに済むし、勉強と家事とバイトをしなければならないことを”辛い”と思うこともない。

 

 そう、弘人のおかげだ。

 

 こいつのおかげで、やっと学校生活が楽しいと思う事ができるようになった。

 

 こいつのおかげで、友達も増えた。

 

「そういえば、来月の修学旅行楽しみだな」

 

「ああ」

 

 土産は親族のおじさんやおばさんの分だけでいいか。クソ親父の分を買っていかなかったことを知ったらぶん殴られるかもしれないけれど、あいつの分は買わないことにしよう。

 

 修学旅行の行き先はどこだっけ。確か飛行機で行く筈だ。

 

 来月の修学旅行の事を考えながら、俺は次々にご飯を口の中へと放り込んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその修学旅行に行く途中で、水無月永人という少年は命を落とす羽目になる。

 

 墜落していく飛行機の中で、これから走馬灯の上映会でも始まるんじゃないかと思っていた。とはいってもたった17年の人生を楽しいと思う事ができたのは、母さんと一緒に親戚の家に泊まった時か、後半の学校生活くらいだろう。

 

 それ以外には、嫌な思い出しかない。

 

 大切な母の死。

 

 虐待。

 

 クソ親父の罵声。

 

 死ぬ前にそんなものをまた見せられるのかと思ったけれど、それを目にすることはなかった。

 

 代わりに―――――――俺は、異世界へと転生することになったのだ。

 

 虐待を受け続けた水無月永人という日本人の少年が死に、タクヤ・ハヤカワというキメラの少年として生まれ変わることになったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 がたん、という音と振動が、墜落していく飛行機の中の光景を強制的に終了させる。瞼を瞑っていたという事を自覚すると同時に、夢を見ていたのだという事を理解した俺は、右手を伸ばして瞼を擦りながら起き上がろうとする。

 

 いつも嗅いでいるオイルや火薬の臭いと、甘いジャムの匂い。多分このジャムはナタリア特製のジャムだろう。彼女のジャムは結構甘いから、たっぷりとパンに塗ると凄まじい甘さになる。アイスティーに入れるとアイスティーがジュースに早変わりしてしまうほどの甘さなので、アイスティーに入れるならほんの少しで十分なのだ。

 

 どうやら俺は眠っていたらしい。周囲を見渡してみると、テンプル騎士団の漆黒の制服に身を包み、支給されたばかりのAK-15やテンプル騎士団仕様のAK-12を装備した兵士たちが、兵員室の座席に座っているのが見えた。その兵士たちの傍らにある窓の向こうには、灰色の砂漠で埋め尽くされた大地と、白と蒼の二色で彩られた大空が広がっている。

 

 確か、転生者の討伐が終わってから帰る途中だった筈だ。最近は転生者の討伐を行うことが多かったから、疲れて眠ってしまったのかもしれない。

 

 俺はテンプル騎士団の団長なのだから、いつまでも眠っているわけにはいかない。そろそろ起きないと。

 

 というわけで瞼を擦りながら起き上がろうとしたんだけど、身体が動かない。

 

 前進が動かないというわけではない。手足は自由に動かせるんだけど、どういうわけなのか首の辺りが何かに押さえつけられているせいで身体を起こせないのだ。手枷や足枷のように硬い感触ではなく、ぷにぷにしてて暖かい感触である。できるならばそれを触ったまま二度寝してしまいたいくらい気持ちいい感触だ。

 

 これ何?

 

「ふにゅ? あ、おはようっ♪」

 

「ふにゅ…………お姉ちゃん…………?」

 

 ラウラ…………?

 

 ああ、首の上に乗ってるのはラウラの尻尾か。

 

 彼女の尻尾に触りながら、ニコニコしているラウラの顔を見上げる。

 

 どうやら、眠っている間に彼女に膝枕をしてもらっていたらしい。数秒前まで頭を乗せていたラウラの太腿をちらりと見た俺は、少しばかり顔を赤くしながら、反射的に頭に生えている角を手で押さえてしまう。

 

 感情が昂ると勝手に伸びてしまう不便な角は、やっぱりラウラの柔らかい太腿を枕代わりにして眠っていたという事を理解した瞬間、ちょっとずつ伸び始めていた。それを見下ろしていたラウラはニコニコと笑いながら再び尻尾を俺の首の上に乗せると、そのまま再び太腿の上へと戻してしまう。

 

「ラ、ラウラ?」

 

「疲れてるんでしょ? 大丈夫だよ、タンプル搭についたらお姉ちゃんが起こすから」

 

「…………あ、ありがと」

 

 ね、寝れるかな…………?

 

 後頭部に当たっている彼女の柔らかい太腿と、その太腿を包み込んでいる黒ニーソの感触を感じながら、強引に瞼を瞑る。

 

 さっきのように眠っている最中に膝枕をしてもらったのならば普通に眠ることができたと思うんだけど、甘い香りと柔らかい感触のせいでドキドキしているから、多分今回は寝れないと思う。

 

「羨ましいなぁ、団長…………」

 

「膝枕かぁ…………」

 

 ラウラ、出来ればこういう事は部屋でやってくれないかな?

 

 そう言おうと思ったけど、多分彼女にそう言ってもラウラは膝枕を止めないだろう。

 

 無駄だろうな、と思っていると、今度はラウラが子守唄を歌いながら俺の頭を撫で始めた。

 

 お姉ちゃん、恥ずかしいんだけど…………。

 

 けれども、こんなに優しいお姉ちゃんの弟として生まれる事ができたのは本当に幸運だと思う。以前の人生とは違って、今の父親―――――――正確には父親のふりをしているガルちゃんだ―――――――もちゃんと家族の事を考えてくれている最高の父親だし、母親も優しい。

 

 もし仮に前世の世界に戻ることができたとしても、俺はあの世界に戻ろうとはしないだろう。

 

 バイトと家事をしながら学校に通い、クソ親父から虐待を受けながら生活するよりも、下手をすれば命を落とす可能性はあるけれど、大切な仲間達や優しいお姉ちゃんたちと異世界のダンジョンを冒険する方が、スリルがあるし幸せだ。

 

 だから俺は、あの世界へ帰ろうとは思わない。

 

 それに、この世界には人々を虐げるクソ野郎がいる。前世の世界のように平和な世界ではないのだ。

 

 前世で散々虐げられる苦しみを経験したからこそ、そういう奴らを許すわけにはいかない。人々を守るためにも、彼らを虐げるクソ野郎は俺たちが狩らなければならないのだ。

 

 だからこそ俺は、親父から転生者ハンターのコートを受け継いだのである。

 

 前世の世界のように平和な世界ではないけれど―――――――俺はこの世界で生きていこうと思う。

 

 仲間たちと一緒に戦って、子供をしっかりと育てて、歳をとって死んでいこうと思う。

 

 きっと最高の人生になる筈だ。

 

 ”退役”する頃には、多分凄まじい量の敵の死体と空の薬莢が転がっているに違いない。けれども俺たちの遺伝子を受け継いだ子供たちを、戦いの中で帰り血まみれにさせないためにも、俺たちが血まみれになって戦わなければならない。

 

 それゆえに、俺たちは戦う。

 

 ナイフと、弾丸と、AK-15(カラシニコフ)で。

 

 

 

 

 

 

 

 


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