異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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赤い線とカウントダウン

 

 

「その身体は…………一体………!?」

 

 身体に穿たれていた筈の風穴を包み込んでしまった真っ白な皮膚を見つめながら、俺はぎょっとしていた。

 

 キメラには、吸血鬼のような再生能力はない。その代りに砲弾すら弾いてしまうほど強靭な外殻で身を守ることはできるけれど、その外殻もろとも貫通されたり、外殻で覆っていない部位を攻撃されれば普通の人間のように死んでしまうのだ。

 

 吸血鬼のように、”死”を希釈するような能力は一切ないのである。

 

 普通の弾丸に貫かれても死んでしまうし、銀の弾丸に貫かれても死んでしまうのだ。

 

 あのメイドに千切られる羽目になった手足は、その再生能力で”生やした”のだろう。しかし、その再生能力は一体いつ身につけたというのだろうか。手足を失ったことで彼女の体内で突然変異が発生し、再生能力を習得してしまったとでも言うのか?

 

 キメラは”突然変異の塊”ともいえる種族だ。天才技術者であるフィオナちゃんですら「どのような種族なのか傾向が全くつかめない」と言ってしまうほど不安定な種族であるため、変異を起こしてしまいやすいのである。実際に、俺もウィッチアップルを食わされたせいで性別を切り替える変な能力を習得しているし、外殻の模様を変える能力も習得している。

 

 もし仮にラウラが再生能力を身につけた原因が手足を失ったことなのだとしたら、俺まで手足を失っても再生能力を習得できるのだろうか。

 

 後方にいたお姉ちゃんに合うことができて嬉しいんだけど、彼女の姿を見るたびに心の中へと流れ込んでくる喜びを、心の前に立ちはだかる違和感が塞き止めようとする。

 

 けれども、ラウラにどうして再生能力を身につけたのか問い詰めている場合じゃない。目の前には再生している最中のブラドがいるのだから。

 

「…………ラウラ、援護は頼む」

 

 問い詰めるのは後回しにするという事を理解したラウラも、首を縦に振る。後ろの床に落ちていた彼女のゲパードM1を拾い上げた彼女は、長大な銃身の下部から伸びているグリップを捻ってから後方へと引っ張り、でっかい23mm弾の薬莢を排出する。腰に右手を伸ばし、ホルダーの中に納まっている銀の23mm弾をライフルに装填した彼女は、グリップを押し込んでから再び捻り、銃口のマズルブレーキの下に搭載されているスパイク型銃剣を展開してから後方へとジャンプした。

 

 ラウラのためにカスタマイズしたゲパードM1の23mm弾は、装甲車に搭載されている大口径の機関砲に匹敵する破壊力を誇る。弾丸の種類にもよるけれど、その気になれば装甲の厚いヘリを撃墜することも可能なのである。更にスパイク型銃剣も搭載されているため、接近してきた敵を返り討ちにすることもできるのである。

 

 母親であるエリスさんからハルバードや槍の扱い方を学んでいたため、ラウラもそのような得物での戦いを得意としているのだ。

 

 とはいえタンプル搭の諜報指令室よりも一回り狭い部屋の中での戦いになるため、あの得物では戦い辛いのではないだろうか。一般的な学校の教室の3倍の広さがあるとはいえ、SMG(サブマシンガン)やショットガンが猛威を振るう距離である。

 

 しかもオペレーター用のテーブルや天井から落下してきたデカいモニターの残骸も転がっているから、狙撃には全く適していない場所だ。彼女は銃剣付きのCz75SP-01やPPK-12も装備しているのだからそっちを使って接近戦をした方がいいのではないだろうか。

 

 いや、ラウラは俺たちを支援するつもりなんだ。

 

 元々彼女が得意としているのは後方からの超遠距離狙撃だ。狙撃で敵を確実に仕留めつつ、敵の動きを確認して前線で戦っている仲間に伝えてくれるのである。

 

「―――――――バカな、傷が再生しただと………!?」

 

 傷口の再生を終えたブラドも驚愕しているようだった。数秒前まで肉が剥き出しになっていたブラドの顔を睨みつけながら、俺はニヤリと笑う。

 

 俺にはとっても強いお姉ちゃんがいるんだよ、ブラド。

 

「なぜだ…………!? アリーシャが手足を奪ったんじゃなかったのか!?」

 

「随分と無能なメイドだったんだな、お前の部下は」

 

「黙れ…………ッ!」

 

 床に転がっていた自分のXM8を拾い上げ、その銃口をこっちへと向けてくるブラド。ホロサイトの向こうに映っている激昂したブラドの顔を冷たい目で見つめながら、セレクターレバーを3点バーストに切り替えた。

 

 彼女が再生能力を身につけて復帰してくれたとはいえ、彼女の手足を奪って絶望させたメイドと、そのメイドに命令を下したブラドを許すつもりはない。医務室のベッドで横になっていた手足のないラウラを目にした瞬間に感じた憤怒よりは少しばかり弱々しいけれど、怒りはまだ健在だった。

 

 目の前に立っているブラドがトリガーを引くと同時に、俺もトリガーを引いた。ブラドはいきなりフルオート射撃をぶちかますことを選んでいたらしく、あいつの人差し指がトリガーを引き始めた頃にはマズルフラッシュが銃口から飛び出していた。

 

 けれども、そのフルオート射撃の銃声を、一瞬だけより重厚な銃声がかき消す。

 

 ブラドのXM8に装填されているのは6.8mm弾である。5.56mm弾よりも口径が上だけど、テンプル騎士団が推奨している7.62mm弾と比べると、破壊力では7.62mm弾のほうが上なのだ。

 

 その7.62mm弾が、目の前から突き進んでくる6.8mm弾の群れに立ち向かおうとするかのように解き放たれる。たった3発の弾丸は瞬く間に6.8mm弾の群れとすれ違うと、その向こうでライフルを構えていた吸血鬼の少年の右腕に喰らい付き、肩の肉を食い千切った。

 

 鮮血が吹き上がり、立て続けに弾丸を放っていたXM8の銃口が揺れる。天井のモニターに6.8mm弾が班夏も喰らい付き、画面を叩き割る音を奏でる。

 

 キンッ、と外殻が弾丸を弾く音を耳にしながら姿勢を低くし、ブラドが体勢を立て直すよりも先にテーブルの陰へと飛び込む。散々弾丸に貫かれたり、水銀榴弾で腹を抉られたのだからそろそろ再生能力が衰え始めるんじゃないだろうかと思ったんだけど、ブラドが受け継いだレリエルの再生能力は予想以上に強力だった。並の吸血鬼どころかそれなりに強力な再生能力を持っている吸血鬼ならばとっくに再生能力が衰えていてもおかしくない筈なのに、あいつの肩の傷は当たり前のように再生しているのである。

 

 日光の下で、水銀と聖水をぶちかましてやるのが理想的なんだが、残念ながらここは地下だ。大口径の砲弾をぶち込まない限り貫通できないほど分厚い装甲と岩盤で守られた鉄壁の要塞を、歩兵が装備できる程度の武装や爆薬でぶち破れるわけがない。

 

 怒り狂いながら反撃してきたブラドを睨みつけつつ、残っているマガジンを確認して舌打ちする。

 

 ポーチの中に残っているマガジンはあと1つ。銃身の下のグレネードランチャーの砲弾も、さっき再生したばかりのラウラがぶちかましてくれたおかげであと1発しかない。室内戦を想定して持ってきたAA-12はブラドの攻撃で破壊されてしまったので、こいつを撃ち尽くしてしまったら隙を見てメインアームを装備するか、諦めてナイフとハンドガンで突っ込むしかない。

 

 手榴弾でも放り投げようと思ったその時、7.62mm弾の群れが再びブラドの身体を食い破った。

 

「ナタリア!」

 

「これ使いなさい!」

 

 再生能力が衰えていないのを見ていたのか、あの再生能力を削ぐためではなく、ブラドの動きを封じるためにナタリアはブラドの手足を狙ったらしい。銃を持っていた右腕と両足の太腿を撃ち抜かれたブラドが倒れている隙に、彼女は腰のポーチからベークライト製のマガジンを1つだけ放り投げてくれた。

 

 7.62mm弾を使用できるように改造された、テンプル騎士団仕様のAK-12のマガジンである。

 

 当たり前だけど、同じ弾丸を使用するAK-15でもそのマガジンを使うことはできるのだ。

 

「Спасибо(ありがとよ)!」

 

 ナタリアから受け取ったマガジンをポーチの中に突っ込み、再生を続けているブラドに容赦なく弾丸をお見舞いしているナタリアを3点バースト射撃で援護する。大口径の7.62mm弾が命中する度に肉のこびり付いた皮膚や内臓の一部が弾け飛び、床が真っ赤に染まる。

 

 多分、前世の俺だったら親友にこれでもかというほど弾丸をぶち込む羽目になるという事を予想できなかった筈だ。

 

 けれども、もう俺たちは親友じゃない。

 

 あいつは俺たちの仲間を傷つけたクソ野郎なのだ。

 

 フルオート射撃をしていたナタリアのAK-12から飛び出していたマズルフラッシュが消失する。エジェクション・ポートから立て続けに飛び出していた空の薬莢たちも姿を現さなくなったのを確認してから、瞬時に彼女のマガジンが空になったことを悟った俺は、ブラドの反撃を阻むためにセレクターレバーをフルオートに切り替え、フルオート射撃を敢行することにする。

 

 けれども、3点バースト射撃とフルオート射撃の同時攻撃よりも攻撃の数が減ってしまうのは火を見るよりも明らかだった。案の定、弾丸が抉った傷がすぐに塞がったかと思うと、先ほどまで肉片と鮮血を巻き散らしながらよろめいていたブラドが、筋肉繊維や内臓が剥き出しになった姿のまま後ろへとジャンプしつつ、空中で深紅のメニュー画面を開く。

 

 床の上に着地しつつ素早く画面をタッチし、新しい武器を装備するブラド。忌々しい吸血鬼の少年が選んだ得物は――――――――他の吸血鬼たちも使用している、MG3だった。

 

 MG3は大口径の7.62mm弾を凄まじい連射速度でぶっ放すことが可能な、極めて強力なLMGである。この銃の原型となったMG34とMG42も第二次世界大戦で連合軍の兵士たちに猛威を振るっていたという。

 

 キメラの外殻ならばその弾丸を弾きながら強引に突っ込むのは容易い。けれども、再生能力を持っているイリナやキメラであるノエルとは違い、俺よりも前に出ているナタリアにはそのような”身を守る能力”が1つもない。

 

 ブラドがその機関銃をナタリアに向けるよりも先に、俺は全力で突っ走っていた。身体中の皮膚をダズル迷彩を思わせる模様の外殻で覆いながらナタリアを机の陰へと突き飛ばし、俺もその机の陰に転がり込む。

 

 その直後、オペレーター用の机を7.62mm弾の群れが直撃し、猛烈な銃声が諜報指令室の中を満たした。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

「あ、ありがと…………」

 

「まったく…………俺の無茶する癖を真似したのか?」

 

「そっ、そんなわけないでしょ!? このバカ!」

 

「はははははっ。じゃあ、さっきのマガジンのお礼だと思ってくれ」

 

 そう言いながら手榴弾の安全ピンを引き抜き、未だに機関銃を連射してくるブラドに向けて放り投げる。銃声の聞こえてくる方向へと適当に放り投げただけだからこれがブラドに牙を剥くかどうかは分からんが、上手くいけば破片や水銀があいつの身体を貫いてくれるだろう。

 

 LMGの銃撃が途切れてくれますように、と祈った直後、先ほど放り投げた手榴弾が爆発を起こした。

 

「イリナぁ!」

 

「分かってるよ!」

 

 机に弾丸が命中する音が聞こえなくなったのを確認し、ナタリアの手を引っ張りながら遮蔽物の陰から飛び出す。けれども、銃撃が途切れたのはさっきの手榴弾がブラドを直撃したからではなく、水銀の斬撃の一部が彼の胸板を切り裂いたのが理由らしい。

 

 血まみれの胸板を見下ろしてからこっちを睨みつけたブラドが、MG3を構えてヴリシア語の罵声を発する。爆音の残響のせいで何と言っているのか全く聞き取れなかったけど、多分罵声だろう。

 

 そういう罵声は相手を痛めつけながら言え、バカ。

 

 後方で援護するタイミングを探していたイリナが、嬉しそうな顔をしながらRPG-7を構える。先端部に装着されているのは、まるで大昔の戦争で航空機に搭載されていた爆弾をそのまま小さくしたような形状の、対吸血鬼用の水銀榴弾だった。

 

「伏せろぉ!」

 

「きゃっ!?」

 

 手を引いていたナタリアと共に、何かの報告書と思われる書類が散らばっている床の上に伏せる。火薬とインクの臭いが混ざり合った変な臭いがする床の上に伏せた直後、ロケットランチャーを肩に担いでいたイリナが、ついにそのロケット弾を解き放った。

 

 バックブラストと水銀榴弾の発する炎が書類だらけの床を照らす。その光でイリナが発射したことを悟った俺とナタリアは、あの爆弾を思わせる水銀榴弾の中にこれでもかというほど詰め込まれた水銀に俺たちまで切り裂かれないことを祈りながら、床の上に伏せ続ける。

 

 運が良ければ周囲の机や倒壊したモニターの残骸が守ってくれるだろう。運が悪ければそのまま俺たちまで両断される羽目になるが。

 

 どっちだろうな、と思った次の瞬間、背後で猛烈な爆炎が産声を上げた。

 

 ブラドの立っていたすぐ近くの床に命中した水銀榴弾が、爆炎と水銀の斬撃を至近距離でブラドにぶちまけたのだ。従来の対人榴弾よりも炸薬の量が減っているものの、爆風で押し出されて斬撃と化す水銀の切れ味はかなり凄まじい。

 

 MG3の銃身がその斬撃で両断され、使い物にならなくなってしまう。頑丈な機関銃の銃身すら両断する斬撃に八つ裂きにされたブラドの身体が、爆炎に呑み込まれていく。

 

「た、倒したの…………?」

 

「いや、あいつは絶対生きている」

 

 しぶといんだよ、あいつは。

 

 メサイアの天秤の鍵を俺たちから強奪し、父親を天秤で復活させるという計画が頓挫してしまったとはいえ、あいつの士気は高いままだ。吸血鬼たちの指導者として最後まで戦わなければならないという使命と、俺への憎悪があいつの士気を維持させているのだろう。

 

「―――――――ナガトぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

「やっぱりな」

 

「しぶとい男ね…………!」

 

 爆炎の中から姿を現したのは、左腕と頭の左半分を失った焼死体だった。白かった皮膚は真逆の色になっており、いたるところで小さな炎が揺らめいている。服の燃え残りか、まだ焦げてない部分の肉が燃えているのだろうか。頭の左側は左耳から頭まで爆風で抉り取られているらしく、断面には黒焦げになった脳味噌と頭蓋骨があらわになっている。腹の左側も肉や内臓が抉り取られていて、先端部の欠けた肋骨が黒焦げになった皮膚から突き出ていた。

 

 再生が始まっているものの、焼死体にしか見えないグロテスクな姿である上に、ふらふらしながら爆炎の中から出てきたせいで、まるでゾンビのように見えてしまう。

 

 俺を殺すために蘇ったのか、ブラド。

 

 呻き声を上げながら、焼死体のような姿になったブラドがメニュー画面を開く。今度はPDWのMP7A1を装備したブラドが、黒焦げになった身体を再生させながら銃口をこっちへと向け、ニヤリと笑った。

 

 外殻で体を覆ったまま、ナタリアを庇う。

 

 PDWの弾丸なら弾けるだろうと思ったその時だった。

 

 銃口から弾丸が飛びだすよりも先に、奇妙な赤い光の線が目の前に表示されたのである。ブラドのレーザーサイトかと思ったんだが、俺の胸板から伸びているその線はMP7A1の銃口の中へと伸びている。普通のレーザーサイトは銃口から出るものではないから、これはあいつが装備したレーザーサイトではないだろう。

 

 ならば、これはなんだ? あいつの魔術か?

 

「ねえ、この線は何………?」

 

「ナタリアにも見えているのか?」

 

「ええ」

 

 何だこれは?

 

 その奇妙な線を見つめていた俺は、いつの間にか俺の胸板へと突き刺さっている赤い線の近くに、数字が浮かんでいることに気付いた。その数字に気付いた時は”5”と表示されていたんだが、すぐに”4”へと代わり、更に”3”へと変貌してしまう。

 

 ―――――――カウントダウンか?

 

 ブラドの銃口から伸びているという事は、これはあいつが銃弾を発射するタイミングを意味しているというのか? ということは、この赤い線はブラドの銃弾の弾道なのか………?

 

 歯を食いしばりながら再びナタリアの手を引き、その線の真正面から逃げる。

 

 その直後、MP7A1から放たれた弾丸たちが、まるであの赤い線以外の場所を通過してはならないというルールがあったかのように、先ほどまで俺の胸に刺さっていた紅い線と全く同じ弾道で壁へと向かって飛んで行ったのである。

 

「これって…………!」

 

 敵の弾道と攻撃までの予測時間を表示することで、”ちょっとした未来予知”が可能になる能力。

 

 こんな強力な能力を使えるのは、後方にいる彼女しかいない。

 

 けれどもその弾道やカウントダウンは、彼女しか見ることができなかった筈だ。仲間にも同じようにちょっとした未来予知をさせる能力ではない。

 

 そう思いながら、俺は攻撃を読まれていたことに驚愕するブラドを一瞥し、後ろの方にいるラウラを見つめた。

 

 ゲパードM1を持ったまま目を瞑っていた彼女が、そっと深紅の瞳を開けて告げた。

 

「―――――――”演算共有(データリンク)”、発動」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 傷だらけの戦艦ジャック・ド・モレーが率いる戦艦たちの群れが、一斉に砲塔をブレスト要塞へと向ける。倭国支部艦隊旗艦『こんごう』と別行動を取ることになった戦艦『金剛』も、吸血鬼たちに撃沈されずに済んだ戦艦『ソビエツカヤ・ロシア』の後方を航行しつつ、搭載された36cm砲をブレスト要塞へと向けていた。

 

 装填されているのは、圧倒的な攻撃力を誇るMOAB弾頭。さすがにタンプル砲のMOAB弾頭と比べると破壊力は劣ってしまうものの、敵の地上部隊を瞬時に消滅させてしまうほどの圧倒的な破壊力を誇っている。とはいえ砲弾を生産するために必要なポイントの量が多いため、タクヤからは「できるだけ使うな」と言われている。

 

 河で待機していた4隻のガングート級たちと合流したテンプル騎士団艦隊の全ての戦艦が、そのMOAB弾頭を主砲に搭載し、ブレスト要塞へと狙いを定めていたのだ。

 

「同志諸君、これで終わらせるぞ」

 

「全艦、砲撃準備完了」

 

「ブレスト要塞を攻撃している地上部隊に退避命令を。味方の退避が済み次第、我が艦隊は艦砲射撃を敢行する」

 

 生き残った戦艦たちが一斉にMOAB弾頭を放てば、間違いなくブレスト要塞は吸血鬼もろとも消え去ることになるだろう。

 

 味方部隊を艦砲射撃で”援護”する予定だったのだが、地上部隊の攻撃が予想以上に凄まじかったため、テンプル騎士団艦隊の任務は味方を”援護”することではなく、虎の子のMOAB弾頭で敵に”止めを刺す”ことに変貌していたのである。

 

 ジャック・ド・モレーのCICで指揮を執っていたブルシーロフ大佐は、目の前のモニターを睨みつけながら溜息をつくのだった。

 

 

 

 

 

 


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