異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

473 / 534
蹂躙と強行突破

 

 サラマンダーの角で作られた大剣が、吸血鬼の頭をヘルメットもろとも両断する。先端部に行くにつれて、溶鉱炉の中に放り込まれた金属のように真っ赤になっている刀身を強引に引き抜いたエミリアは、吸血鬼たちの返り血を浴びながら更に突撃していった。

 

 モリガンやモリガン・カンパニーでは、リキヤの能力によって生産された銃が採用されており、大半の兵士たちが銃を使っている。そのため、実質的に組織内では”剣”は一部を除いてほぼ全て退役してしまっており、出番は式典の時か、騎兵隊に支給されている軽量化されたロングソードくらいである。

 

 それゆえに、銃が主役になりつつある戦場で未だに剣を振るっているのは、魔王の妻であるエミリアくらいであった。

 

 彼女も銃を使用するが、騎士団にいた頃から剣を愛用しているからなのか、未だに22年前に作られたサラマンダーの大剣を愛用しているのである。

 

 エミリアが振るっている剣は、サラマンダーの角を加工して作られた逸品だ。サラマンダーは基本的に火山に生息している炎属性のドラゴンの一種であり、戦闘力だけならばエンシェントドラゴンに匹敵すると言われる強敵である。そのためサラマンダーの討伐に成功した傭兵や冒険者はごく少数で、討伐に成功すれば最強クラスの傭兵たちの仲間入りをするというわけだ。

 

 サラマンダーの外殻は基本的に堅牢であり、戦車砲を使わない限り貫通することは困難であると言われている。その堅牢な外殻の中でも一番硬い部位が頭から生えている大剣のような角の部分であり、仮に討伐に成功して角を持ち帰ったとしても、それを加工するのは極めて困難と言われている。

 

 エミリアの剣は、そのサラマンダーの角を加工して作られているため、敵兵の頭をヘルメットごと切り裂いた程度では全く刃こぼれを起こさない。しかも耐熱性にも非常に優れているため、炎や雷を纏わせながら振るっても切れ味に全く悪影響がないのだ。

 

 最強クラスの大剣と言っても過言ではないが、あくまでもサラマンダーの素材を使った大剣であるため、吸血鬼を仕留めるためには刀身に水銀や聖水を塗る必要がある。

 

 仕留めた吸血鬼の鮮血を手で拭い去り、懐から取り出した瓶の蓋を開け、真っ赤な刀身に聖水をぶちまける。吸血鬼たちが大昔から忌み嫌う聖水で濡れた刀身を振るったエミリアは、左手を腰のホルスターに伸ばし、その中に納まっているPP-2000を引き抜いた。

 

「突撃ぃッ!!」

 

『『『『『Урааааааааа!!』』』』』

 

 銃剣を展開したアサルトライフルを構えた兵士たちと共に、防壁が倒壊している部分から要塞の内部へと突入していくエミリア。数名の兵士たちがXM8のフルオート射撃で必死に抵抗してくるが、彼らの銃がマズルフラッシュを発する頃にはすでにエミリアはジャンプしていた。

 

 空中で敵兵に狙いを定め、PP-2000のフルオート射撃でズタズタにする。銀の9mm弾で蜂の巣にされた敵兵を一瞥しつつ、落下しながら右手の剣を思い切り振り下ろす。

 

 大剣の刀身が敵兵の鎖骨を両断する感覚を感じながら、目の前で大剣に肩を切り裂かれている敵兵から強引に刀身を引き抜く。左手のPP-2000の銃口を血まみれの敵兵に向けてトリガーを引き、止めを刺した彼女は、姿勢を低くしたまま要塞の中へと突っ走った。

 

 エミリアの戦闘力は、レベルが極めて高い転生者に匹敵するほどである。ラウラやタクヤが生まれるよりも前から、夫(リキヤ)と共に転生者を狩り続けていた猛者であるため、レベル500未満の転生者であれば瞬殺するのが当たり前なのだ。

 

 テンプル騎士団が敢行した奇襲とMOAB弾頭の爆破で、要塞の内部はまるで廃城のようになっていた。巨大な防壁には巨大な亀裂がいくつも入っており、砲弾を叩き込まれただけでそのまま倒壊してしまいそうなほどボロボロになっている。要塞の内部に用意された広大な飛行場の滑走路は爆風で抉られており、吸血鬼たちが用意した仮設の管制塔も倒壊してしまっていた。

 

 この要塞を再建するのは大変だろうな、とテンプル騎士団に所属するドワーフたちの事を考えた直後、飛来した数発の12.7mm弾たちが、エミリアのすぐ近くに着弾した。

 

 爆発でズタズタにされた飛行場に転がっている瓦礫を使って作られたバリケードの向こうでブローニングM2重機関銃を構えている敵兵に狙いを定めたエミリアは、その敵兵を始末することにした。モリガン・カンパニーの兵士の中には身体が頑丈なハーフエルフやオークの兵士たちも含まれているが、いくら5.56mm弾が被弾しても耐えられるほど頑丈な兵士たちでも、対物(アンチマテリアル)ライフルの弾薬にも使われている大口径の弾丸には耐えられない。

 

 味方が薙ぎ倒される前に、あの重機関銃を排除する必要があった。

 

 左手に持っていたPP-2000の弾丸をばら撒きつつ突っ走る。照準器を除きながら放ったわけではないため、弾丸は全く命中しない。敵を排除するどころか、その射手にエミリアが迫っていることを知らせた程度であったが、重機関銃の攻撃がエミリアへと集中すれば他の兵士たちが狙われることはない。

 

 そしてエミリアが重機関銃の射手の排除に成功すれば、エミリアも狙われることはなくなるのだ。

 

『くそ、撃て! あの剣士を狙うんだ!』

 

『あの女、魔王の妻じゃないのか!?』

 

『蒼い髪の剣士を討ち取れ! 魔王の妻だッ!』

 

 マガジンが空になるまでフルオート射撃を続けた彼女は、PP-2000を素早くホルスターの中へと突っ込み、両手で大剣の柄を握った。

 

 切っ先を地面に擦りつけ、大地が切り刻まれる音を響かせながら肉薄していくエミリア。吸血鬼の射手たちが必死に彼女を狙うが、彼女が振り上げた強烈な剣戟で12.7mm弾の群れがあっさりと両断されてしまう。

 

「…………生温い攻撃だな」

 

 若い頃に、エミリアは何度も死闘を経験していた。

 

 レリエル・クロフォードとの戦いや最古の竜ガルゴニスの戦いで、何度も死にかけたのだ。それゆえに、エミリアからすれば12.7mm弾の弾幕は生温い攻撃でしかない。

 

 立て続けに飛来した大口径の弾丸が、大剣に弾かれて火花を生む。弾丸を弾かれていることに気付いた射手たちがぎょっとした頃には、肉薄したエミリアが左から右へと薙ぎ払った強烈な一撃が、彼らの首へと食い込んでいた。

 

『ぎっ――――――――』

 

 ぶちっ、と肉が裂ける音を奏でながら、骨をあっさりと切断された兵士の首が鮮血を巻き散らして転がり落ちる。首から上を切断されて痙攣しながら崩れ落ちる兵士の身体を蹴飛ばしたエミリアは、一旦愛用の大剣を地面に思い切り突き立てて固定すると、その兵士が使っていたブローニングM2重機関銃のグリップを握って180度旋回させた。

 

 装填されている弾薬は対吸血鬼用の銀の弾丸ではないため、これを撃ち込んでも吸血鬼たちは平然と再生をするだけだが、再生している間は足止めになる筈である。ちらりと味方の様子を確認し、進撃を支援することはできるだろうと判断したエミリアは、味方の重機関銃を向けられてぎょっとしている敵兵の群れへと12.7mm弾を放った。

 

 大口径の弾丸たちに貫かれた吸血鬼の兵士たちの肉体が、次々に弾け飛んでいく。12.7mm弾が纏っていた運動エネルギーでズタズタにされた肉片から筋肉繊維や骨が伸び始めたかと思うと、段々と弾け飛ぶ前の兵士たちの身体に逆戻りしていく。

 

 しかし、その兵士たちが再生を終えて立ち上がるよりも先に、肉薄したモリガン・カンパニーの兵士たちが銀色のスパイク型銃剣を突き立て、吸血鬼たちに止めを刺していた。

 

 モリガン・カンパニーで正式採用されているAK-12は7.62mm弾を発射できるように改造されており、ほぼ全てのライフルに折り畳み式のスパイク型銃剣が標準装備されているのだ。圧倒的な数の歩兵部隊での銃剣突撃や白兵戦を想定しているのだが、それを取り外している兵士も少なくはない。

 

 銃床で殴りつけられた吸血鬼の頭に銃口を押し付けた兵士が、「よくも妻と子供を!」と叫びながら、7.62mm弾で敵兵の頭をグチャグチャにしていく。そのすぐ近くでは、倒れている吸血鬼の兵士の上に乗った人間の兵士が、罵声を発しながら吸血鬼の兵士を何度も殴りつけている。

 

 あの兵士たちは、グランバルカ号の事件で家族を失った兵士たちなのだ。

 

 この戦いには無関係だったにもかかわらず、吸血鬼たちの理不尽な攻撃で最愛の家族を失ったのである。

 

 彼らの怨嗟に呑み込まれた吸血鬼たちは、蹂躙されるしかなかった。中にはアサルトライフルの銃床で殴りつけて反撃し、負傷した味方に肩を貸して逃げようとする兵士もいるが、モリガン・カンパニーの兵士や殲虎公司(ジェンフーコンスー)の兵士たちは全く容赦がない。

 

 逃げようとする兵士の足を撃って転倒させると、そのまま撃てば止めを刺せるにもかかわらず、身動きが取れなくなった兵士たちを傍らの瓦礫やかぶっていたヘルメットで痛めつけ始めたのである。

 

 殴りつけられている仲間を助けるために振り払われたスコップが、モリガン・カンパニーの兵士の頭を粉砕する。脳味噌の残骸がこびりついたスコップを手にした吸血鬼が他の兵士にも襲い掛かるが、すぐに殲虎公司(ジェンフーコンスー)の選抜射手(マークスマン)に頭を撃ち抜かれ、崩れ落ちる羽目になった。

 

 ブローニングM2重機関銃から手を離したエミリアも、その白兵戦の中へと突っ込んでいく。

 

 家族や仲間を失った味方の怨嗟には呑み込まれずに剣を振るい、吸血鬼たちを屠っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今しがた放り込んだ手榴弾の爆音を聞いてから、ショットガンを構えつつ遮蔽物から飛び出す。手榴弾の中に詰め込まれていた爆薬と対吸血鬼用の水銀がぶちまけられたバリケードの向こうには、手足を失った兵士たちや内臓があらわになっている吸血鬼の兵士たちが転がっていて、俺たちがバリケードを越えてきたにもかかわらず、呻き声や絶叫を発していた。

 

 手足を失っている兵士の大半は若い兵士だ。同い年なんだろうか、と思ってしまうけれど、吸血鬼の寿命は人間よりもはるかに長い。吸血鬼の女性と結婚すれば、自分がお爺さんになっても、結婚した相手はずっと出会った時の容姿のままだという。

 

 だからこの若い兵士たちも、もしかしたら100年以上生きている吸血鬼なのかもしれない。人間だったら100年経つ前に死んでしまう人が多いけれど、イリナが言うには、吸血鬼からすれば100歳の吸血鬼は人間で言うと19歳か20歳の若者らしい。

 

 両足を失った挙句、腹に手榴弾の破片が突き刺さっていた吸血鬼の兵士が、口から血を吐きながらハンドガンを引き抜く。咄嗟にAA-12をその兵士に向けてトリガーを引き、止めを刺す。

 

 薬莢がエジェクション・ポートから排出され、瓦礫だらけの床に落下する音を聞きながら、要塞内部に突入する前に戦ったLMGの射手を思い出した。傷口から内臓が出ているというのに、その兵士は口から血を吐きながらMG3をぶっ放してきたのである。

 

 吸血鬼たちの士気は、予想以上に高い。

 

 それゆえに、容赦をしてはならない。

 

 降伏する兵士は受け入れるべきだけど、傷ついた兵士を助けようとすれば、下手をすれば手榴弾で自爆されて道連れにされてしまう恐れもあるのだ。

 

 AA-12からドラムマガジンを取り外し、最後のドラムマガジンを装填する。コッキングレバーを引いて再装填(リロード)を終えたのを確認してから、通路の向こうを睨みつけつつ武器をAK-15に持ち替えた。

 

「…………この奥だ。ブラドの臭いがする」

 

「す、凄い嗅覚ね…………血と火薬の臭いしかしないわよ?」

 

「ああ。おかげでちょっとしか臭いがしないけどな」

 

 ラウラのように聴覚と視覚が発達してるわけではないが、嗅覚ならば俺の方がはるかに上なのだ。おかげでラウラの手足を奪ったクソ野郎を追跡する時に、この嗅覚がかなり役立った。

 

 ブラドの野郎はこの通路の奥にいるに違いない。80cm列車砲(ドーラ)の砲撃でブレスト要塞の中央指令室は壊滅しているため、仮設の指令室を用意している筈だ。吸血鬼の兵士たちもその近くに立て籠もっているに違いない。

 

 呻き声を上げている敵兵にAK-15で止めを刺し、仲間たちに「続け(ザムノイ)」と言ってから、太い配管やケーブルが剥き出しになった薄暗い通路の中を突っ走る。

 

「確か、こっちには諜報指令室があった筈よ」

 

「そっちは健在らしいな」

 

 隣を走っているナタリアにそう言われた俺は、ブラドたちが立て籠もっている場所を予測した。諜報指令室は諜報部隊(シュタージ)が潜入しているエージェントたちの指揮を執るための指令室である。タンプル搭の指令室よりも規模が小さいため、ブレスト要塞で勤務しているシュタージのメンバーの人数は、オペレーターだけならばたった3人だけだ。

 

 タンプル搭まで逃げてきた生存者の中には、その3人もいた。彼らの報告で諜報指令室が無事であることは確認してある。地上に展開している守備隊はもう指揮を執れる状況ではないだろうが、味方に指示を出す際の都合がいいのは十中八九そこだろう。

 

 以前に視察にやってきた時の事を思い出しつつ、ブラドの臭いがする方向が諜報指令室の方向と合っていることを確認した直後、通路の向こうから飛来した1発の弾丸が、近くを走っていたハーフエルフの兵士の頭を貫いた。

 

「は、ハンス!」

 

「…………!」

 

 強襲殲滅兵の制服を身に纏ったハーフエルフの兵士が、脳味噌の破片を床にばら撒きながら崩れ落ちていく。

 

 やがて、通路の向こうから無数の5.56mm弾や6.8mm弾の弾幕が襲い掛かってきた。大慌てで近くにある遮蔽物の陰に隠れて攻撃を回避したけれど、逃げ遅れたオークの兵士が無数の弾丸をこれでもかというほどぶち込まれる羽目になった。

 

 筋肉だらけの身体に凄まじい勢いで風穴が開いていき、巨大なオークの兵士が崩れ落ちていく。

 

「くそ…………!」

 

 太い配管の陰からAK-15を突き出し、セミオートで敵兵を狙撃する。しかしこっちに狙われていることを察知したのか、吸血鬼の兵士が咄嗟にバリケードの陰に隠れてしまったせいで、7.62mm弾は彼の後方にあったケーブルを何本か千切っただけだった。

 

 諜報指令室の周囲に構築されたバリケードには、20名ほどの負傷兵たちが集まっていた。頭や腕に包帯を巻いた兵士がMG3をこっちに向け、ひたすらフルオート射撃をぶっ放し続けている。その傍らにいる兵士もバイポッド付きのXM8で5.56mm弾をばら撒き、銃声と跳弾する音を通路の中に響かせる。

 

「タクヤ」

 

「どうした?」

 

 配管の陰に隠れながらホロサイトを覗いていると、傍らでRPK-12で反撃していたステラが言った。

 

「ここはステラたちに任せてください。援護しますので、強行突破をお願いします」

 

「ヴリシアの時みたいに突っ込めってことか」

 

 確か、宮殿で戦った時も強行突破をする羽目になったような気がする。あの時のメンバーは俺とラウラとノエルの3人だったな。

 

 イリナがフラグ12をぶちまけるが、今までのバリケードよりも分厚いのか、バリケードの材料にされている配管の一部が吹っ飛んだだけだ。あのままフラグ12をぶち込み続けても、あのバリケードはそう簡単に陥落することはないだろう。

 

「ナタリアとノエルちゃんもお願いします」

 

「ちょっと待ってよ。じゃあ誰が指揮を執るの!?」

 

 確かに、ナタリアまで連れて行くのは反対だ。彼女がいれば突入した部隊をしっかりと指揮してくれるが、いくら『ミダス王の左手』を持っているとはいえ、彼女まで連れて行けばこっちの戦力が一気に弱体化してしまう。

 

「いや、指揮なら俺が執る」

 

「ウラル…………」

 

 AN-94のマガジンを交換しながら、スペツナズの隊長であるウラルがこっちを見て笑った。

 

 ウラルはテンプル騎士団に入団する前はムジャヒディンを指揮していた男だ。仮にナタリアを連れて行ったとしても、彼ならば味方をちゃんと指揮してくれるに違いない。

 

「イリナ、お前も行くんだ」

 

「ぼ、僕も!?」

 

「ああ、そうだ。ちゃんと”彼氏”を守ってやれ!」

 

 か、彼氏ぃっ!?

 

 ちょっと待て! 何で今そういう事言うんだよ!?

 

「かっ、か、彼氏っ!? た、確かに…………た、タクヤの事は好きだけど…………!」

 

 ちらりと彼女の方を見ると、イリナは顔を真っ赤にしながらすぐに目を逸らしてしまった。

 

「よ、よし、メンバーは俺、ナタリア、ノエル、イリナの4人だ。これより強行突破する」

 

「お前ら、同志団長たちを掩護するぞ! セレクターレバーをとっとと切り替えろ!」

 

「「「了解(ダー)!!」」」

 

 俺もセレクターレバーをフルオートに切り替え、突撃する準備をする。呼吸を整えながら仲間たちを見渡していると、同じようにセレクターレバーを切り替えていたナタリアがこっちを見ていたことに気付いた。

 

 イリナが俺の事を「好き」って言ったことが気になるのだろうか。

 

 彼女の頭を優しく撫でると、ナタリアの顔がちょっとだけ赤くなった。

 

「…………ちゃんと私も見なさいよね、バカ」

 

「分かってるって。―――――――よし、突っ込むぞ!」

 

撃て(アゴーニ)!!」

 

 突入する4人が姿勢を低くして走り始めた直後、遮蔽物の陰に隠れていたスペツナズや強襲殲滅兵たちが一斉に銃を突き出し、敵のバリケードに向けてひたすら撃ちまくり始める。あらゆる銃の銃口からマズルフラッシュと弾丸が躍り出し、バリケードに激突する音を奏でる。

 

 その弾丸の真っ只中を、俺たちは突っ走った。敵が放った弾丸を外殻で弾き飛ばしながら突き進み、パイプや巨大な配管を積み上げて作られたバリケードをよじ登る。こっちにライフルを向けてきた敵を撃ち殺そうとしたけど、俺が銃を向けるよりも先に、後方から飛来した1本の投げナイフがその敵兵の眉間に突き刺さっていた。

 

 ナタリアの投げナイフだろう。ちらりとそっちを見てみると、投げナイフを手にしたナタリアがもう一度ナイフを投擲し、MG3の射手の眉間に銀のナイフを命中させているのが見えた。

 

 その隙にバリケードを上り、右足に装備したナイフの刀身を展開。バイポッド付きのアサルトライフルで応戦していた敵兵の首にそれを思い切り突き立てて始末しつつ、AK-15のマガジンに入っている7.62mm弾を周囲にいる敵兵たちにお見舞いする。

 

 このままバリケードの内側にいる敵兵を始末できるんじゃないかと思ったが、こっちはたった4人だ。しかも敵兵は予想していたよりも多かったらしく、バリケードの内側では20人どころか30人ほどの兵士たちが応戦を続けていた。

 

 ここで戦うよりも、大人しく突破した方がいいらしい。

 

 左手でLP-14を引き抜き、ノエルやナタリアたちを掩護する。彼女たちに銃口を向けた敵兵の頭に銀の9mm弾をお見舞いして始末し、その近くにいた敵兵にも弾丸をプレゼントする。

 

「いいわよ!」

 

「よし!」

 

 ナタリアとノエルが応戦している隙に、吸血鬼たちのバリケードに囲まれていた金属製の扉を睨みつける。様々な言語で書かれたプレートは敵兵たちの血で汚れていたが、”諜報指令室”と書かれているのは見えた。

 

 確かに、この中からブラドの臭いがする。

 

 思い切り扉に蹴りを叩き込むと、金属製の扉は予想以上にあっさりと指令室の中へと吹っ飛んで行った。そのドアを蹴破った音でバリケードの中の兵士たちが気付いたらしく、一斉にこっちに銃口を向けてきたが、敵兵の銃口がマズルフラッシュを発するよりも先に、俺たちは諜報指令室の中へと飛び込んでいた。

 

 床には天井から外れたケーブルや配管が転がっており、オペレーターたちの座席には置き去りにされた書類やモニターの画面の破片が散らばっている。

 

 タンプル搭の諜報指令室よりも一回り小さな諜報指令室に設置された巨大なモニターには、外での戦闘の様子が映し出されていた。モリガン・カンパニーや殲虎公司(ジェンフーコンスー)の兵士たちに蹂躙されていく吸血鬼の兵士たち。音声はないが、もし仮にあったとしたら、彼らの断末魔や罵声で支配されていた事だろう。

 

 その映像を見上げていた吸血鬼の少年が、ゆっくりとこっちを振り返る。

 

 彼と戦うことになるのは、ヴリシア以来だ。

 

 前世の友人だった男を睨みつけながら、俺はPL-14を構えた。

 

「―――――――遊びに来たぜ、ブラド」

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。