異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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爆炎と室内戦

 

 

 室内戦で最も猛威を振るう武器は、間違いなくショットガンだろう。至近距離で散弾をぶち込まれれば、敵兵はほぼ確実に蜂の巣になるのだから。

 

 ショットガンを持ってきてよかったと思いつつ、12ゲージの散弾をこれでもかというほど連射する。AA-12の銃口からマズルフラッシュが躍り出る度に、銃口の向こうに立っていた敵兵や要塞の通路に散弾が直撃し、破片や肉片を周囲にまき散らす。

 

 太いパイプやケーブルが剥き出しになった通路の向こうで、吸血鬼たちがバリケードを用意しているのが見えた。その辺の天井から剥がれ落ちたパイプの一部やひしゃげて使い物にならなくなったコンテナをこれでもかというほど積み上げてちょっとした隔壁を作り、その形状がバラバラな部品で作られた隔壁の隙間から銃身を突き出し、こっちにフルオート射撃をお見舞いしてくる。

 

 幸い敵兵がぶっ放しているのは小口径の5.56mm弾らしい。小口径の弾丸ならば外殻でも防げるし、相手に武器を提供している転生者―――――――十中八九ブラドだろう―――――――のレベルが俺よりも低く、攻撃力のステータスが俺の防御力のステータスを下回っていれば、銃弾の殺傷力はさらに低下する。

 

 ブラドよりもこっちのレベルが上回っていれば強行突破しても問題ないんだが、吸血鬼たちはこの春季攻勢のためにディレントリア公国に隠れながら準備をしていたのだ。ブラドが自分のレベル上げを怠っていたとは思えない。

 

 というわけで、いつも通りの戦い方をするしかないのだ。

 

 近くにある通路へと飛び込んで、通路に積み上げられたバリケードの隙間から放たれる弾幕を回避する。凄まじい数の5.56mm弾が通路の壁に喰らい付く甲高い音を聞きながら、手榴弾が入っている腰のポーチへと手を伸ばす。

 

 その手榴弾の安全ピンに指を伸ばした直後、5.56mm弾の群れの真っ只中を、通路の反対側から飛来した1発の40mmグレネード弾が飛翔していった。

 

 無数の5.56mm弾とすれ違いながら突っ込んで行ったグレネード弾が、敵兵たちが死守しようとしていたバリケードを直撃する。かつては天井から突き出ている配管の一部だった部品を直撃したグレネード弾はすぐに起爆すると、人間の肉体を容易く千切り取ってしまう獰猛な爆風と水銀の斬撃をばら撒き、バリケードの近くで射撃を続けていた数名の兵士たちをズタズタにしてしまう。

 

 あれは水銀榴弾か…………!?

 

 もしかしたら吸血鬼たちが鹵獲したものを使ったのかと思ったが、もし吸血鬼たちならばバリケードを盾にしながら必死に応戦している味方を吹っ飛ばすわけがない。

 

 爆風で左半身を抉られた敵兵が、絶叫しながらバリケードの陰から飛び出してくる。咄嗟に左手をPL-14のホルスターに伸ばしてハンドガンを引き抜き、その苦しんでいる敵兵の頭に銀の弾丸をぶち込んだ。ぴたりと絶叫が止まり、水銀の斬撃と爆発で左半身をズタズタにされた吸血鬼の兵士が破片だらけの床に崩れ落ちる。

 

 今のをぶっ放したのは誰だ?

 

 後続の味方が追いついたのだろうかと思いながら後ろを振り向いてみると、散弾で頭や心臓を吹っ飛ばされた吸血鬼の死体が転がっている通路の向こうから、いつも目にしている真っ黒な制服や黒と紅の迷彩模様で彩られた制服を身に纏った兵士たちが走ってくるのが見えた。

 

 漆黒の軍帽をかぶったナタリアの隣を突っ走りながら、AK-12にそっくりなショットガンの銃身の下にぶら下げられているグレネードランチャーにグレネード弾を装填している少女を見た瞬間、俺はさっきの援護射撃をぶっ放したのが誰なのかを理解する。

 

 炸裂弾を好むのは、イリナしかいない。

 

 しかもグレネードランチャーが通過していったのは、5.56mm弾の弾幕を回避するために通路に隠れた数秒後である。そろそろ手榴弾を放り投げて強行突破しようかなと思ったタイミングで、イリナの正確な援護射撃が敵のバリケードを直撃したのだ。

 

 炸裂弾やグレネード弾ばかり装備しているため、味方を巻き込んでしまうのではないかと思ってしまうけれど、イリナは今まで一度も味方を爆発に巻き込んだことはないという。それどころか爆発の範囲や威力を熟知しており、敵の群れのどこに爆発する魔術や炸裂弾を放り込めば効率的に敵を撃破できるかすぐに理解してしまうらしい。

 

 一見するとかなり無茶な装備のように見えるけれど、彼女の豪快な援護射撃はかなり頼もしい。

 

「助かったよ。Спасибо(ありがとな)」

 

「どういたしまして。…………それにしても、突撃し過ぎだよ。僕たちを置いて行くつもり?」

 

 みんなが敵に殺されないように事前に”掃除”してただけだよ、イリナ。

 

 けれども、イリナやナタリアたちと一緒に要塞の内部に辿り着いた仲間たちを見た俺は、唇を噛み締めながらAA-12のグリップを思い切り握りしめた。

 

 強襲殲滅兵の人数が、さらに減っているのである。

 

 要塞に突入する前にかなりの数の敵兵を血祭りにあげた筈なんだが、体勢を立て直した敵に反撃されてしまったのだろうか。やけに血まみれの銀のスパイクがついた棍棒を持っているオークの兵士の身体にも穴が開いており、敵の5.56mm弾が何発も被弾していることが分かる。

 

「同志、戦えそうか?」

 

「…………ええ、同志団長」

 

 傷だらけのオークの兵士に声をかけると、がっちりした体格のオークの男性はニヤリと笑いながらヒーリング・エリクサーの容器を取り出した。試験管にも似た容器の栓を外して口へと運び、ピンク色の液体を口の中へと流し込む。

 

 すると、5.56mm弾に抉られた傷口が急に塞がり始めた。傷口の反対側の肉が伸び始めたかと思うと、その肉が反対側の肉と絡みついて穴を塞ぎ、その肉を再生し始めた皮膚が覆っていく。

 

 まるで吸血鬼の再生能力のようだ。フィオナちゃんが生み出したエリクサーは、弱点で攻撃されない限り”死”を希釈できる彼らの能力を疑似的に再現しているのである。吸血鬼と違って再生できない傷は一部を除いて存在しないものの、彼らのように何度も再生できるわけではない。一口飲めば傷が塞がるが、容器の中身が空になれば疑似的な再生能力を使うことができなくなるのだ。

 

「お供しますよ」

 

「…………無理はしないでくれよ、同志」

 

「団長こそ」

 

 オークやハーフエルフの兵士は勇敢な兵士が多い。相手が複数の機関銃で弾幕を張っても、全く怯えずに雄叫びを上げながら突っ込んで行くほど勇猛な兵士ばかりであるため、騎士団では奴隷のオークやハーフエルフだけで編成した部隊を激戦区に突っ込ませることも少なくないという。

 

 今しがた回復したオークの兵士に俺の持っていたエリクサーを1本渡してから、通路の向こうへとAA-12の銃口を向ける。

 

「行くぞ。ブラドを排除すれば俺たちの勝ちだ」

 

 もう少しでチェックメイトだ。ブラドに俺が勝つことができれば、吸血鬼たちの装備は消滅して丸腰になり、戦闘を続けることはできなくなる。現代兵器があるからこそ圧倒的なモリガン・カンパニーと殲虎公司(ジェンフーコンスー)に抵抗を続けることができていたというのに、何の前触れもなく丸腰になってしまうのである。

 

 自分が習得した魔術で応戦しようとする吸血鬼もいるかもしれないが、種類によっては詠唱が必要である上に、銃よりも射程距離が劣る魔術では戦車部隊や地上部隊を食い止められないのは火を見るよりも明らかだ。

 

 投降したとしても、連合軍は彼らへの攻撃を続けるだろう。

 

 モリガン・カンパニーの原型となったモリガンは、そういう組織だ。

 

 負傷兵や降伏した敵にも攻撃を続け、必ず皆殺しにする。それゆえに第一次転生者戦争では、敵の守備隊の捕虜は0名で、戦死した人数は守備隊の人数と同じだったという。

 

 ブラドを排除してから降伏勧告をすれば、彼らは降伏してくれるだろうか。親父―――――――正確には親父の姿をしているガルゴニスだ―――――――には猛反発された挙句、受け入れた捕虜を全員殺すように要求されるかもしれないが、俺たちはモリガン・カンパニーの”下”じゃない。

 

『くそ、敵は第7隔壁を突破!』

 

『撃てぇ!! ここから先に行かせるなッ!!』

 

 要塞の内部に俺たちが侵入したことを察知したらしく、通路の向こうから10人以上の吸血鬼の兵士たちがこっちに突っ走ってくる。先ほどイリナがグレネード弾で大穴を開けたバリケードを盾にしながら銃撃を始めた敵兵を睨みつけつつ、味方を連れて咄嗟に通路の陰へと再び隠れた俺は、舌打ちしながら手榴弾の安全ピンへと手を伸ばす。

 

 くそったれ、ラウラがいてくれればエコーロケーションで瞬時に索敵できるんだけどな………。

 

 ラウラの能力に甘えてる場合じゃないか。

 

 手榴弾を取り出して安全ピンを引っこ抜こうと思ったその時、後ろにいたイリナがニヤニヤしながらこっちを見上げていることに気付いた。

 

「―――――――僕の出番だよね?」

 

 そう言いながら、彼女は自分のAK-12/76をトントン、と軽く叩く。

 

 AK-12/76はAK-12を改造して散弾が発射できるようにしたモデルであり、非常に信頼性が高い高性能なショットガンである。けれども彼女が持っているショットガンは散弾を発射するのではなく、炸裂弾であるフラグ12を発射するように改造されている上に、銃身の下には40mmグレネード弾を発射可能なロシア製のグレネードランチャーが搭載されている。

 

 つまり、敵を木っ端微塵にすることに特化した銃だという事だ。

 

 しかもその気になれば中距離の敵をフラグ12で”爆撃”できる、圧倒的な火力を誇る得物である。

 

「イリナ、俺が援護する」

 

 通路の反対側にあるでかい配管の陰に隠れていたウラルがこっちにそう言いながら合図した直後、スペツナズに支給されているAN-94のセレクターレバーをフルオートに切り替えた。テンプル騎士団では大口径の弾薬を使用する事を推奨しているんだが、基本的に相手が人間の兵士ばかりになるスペツナズの兵士たちには、小回りが利く小口径の5.45mm弾を支給しているのだ。

 

 そのため堅牢な外殻を持つ魔物との戦いは苦手だが、少なくとも相手も”人類”なのであれば、凄まじい殺傷力を誇る小口径の弾丸たちは猛威を振るう。容易く皮膚と肉に風穴を穿ち、内臓をグチャグチャにしてくれるに違いない。

 

「ステラ、弾幕を!」

 

了解です(ダー)

 

 通路の陰からRPK-12の銃身を突き出したステラが7.62mm弾のフルオート射撃をぶちかますと同時に、反対側に隠れていたウラルもAN-94のフルオート射撃を開始する。まるで敵が発する銃声を押し返そうとするかのように鳴り響く銃声の真っ只中を、小口径と大口径の弾丸たちが疾駆していった。

 

 バリケードに弾幕を叩き込み始めたのを確認してから、今度はイリナが飛び出す。

 

 フラグ12がこれでもかというほど装填されたマガジンが装着されている獰猛なショットガンを構えた彼女は、無数の5.56mm弾の群れの中でニヤリと笑ってから―――――――マガジンの中の炸裂弾たちを、解き放った。

 

 チョークの代わりにマズルブレーキを装着された銃口から、散弾の代わりに強力な炸裂弾たちが立て続けに放たれる。

 

 普通の銃弾は敵に命中したら風穴を開けるだけだけど、こいつは炸裂して敵を抉るため、破壊力は別格だ。

 

 バリケードの一部に命中したフラグ12―――――――対吸血鬼用に水銀が充填されているようだ―――――――が、爆発と水銀の斬撃でバリケードを抉っていく。積み上げられた太い配管やひしゃげたコンテナが、フラグ12が着弾する度に凄まじい勢いで欠けていったかと思うと、それを盾にしていた吸血鬼の兵士たちの絶叫が聞こえてきた。

 

 爆炎と水銀の斬撃を喰らったらしく、バリケードの向こうから銃撃していた敵兵たちの肉体がどんどん木っ端微塵になっていく。

 

 顔面にフラグ12を叩き込まれた敵兵の頭がヘルメットもろとも砕け散り、鮮血と脳味噌の破片を周囲にまき散らしながら崩れ落ちていった。そのすぐ近くに倒れていた敵兵の足元に着弾したフラグ12から水銀の斬撃が飛び出し、爆風に押し出された斬撃が吸血鬼の兵士の右足の太腿を両断してしまう。ぐらり、と体勢を崩してしまったその兵士が絶叫をしたが、立て続けにすぐ近くにフラグ12が着弾した瞬間にその絶叫が聞こえなくなってしまった。

 

 マズルフラッシュで彩られていた灰色のバリケードが、今度は爆炎と血飛沫で彩られていく。

 

 まるで戦闘ヘリの機関砲の掃射を彷彿とさせる、豪快な攻撃だった。やがてマガジンの中の炸裂弾を撃ち切ったらしく、熱を纏った薬莢を吐き出し続けていたエジェクション・ポートがぴたりと止まる。最後の1つの薬莢が破片と血飛沫まみれの床に落下すると同時に、イリナは今度は銃身の下に取り付けられているグレネードランチャーをぶっ放しやがった。

 

 炸裂弾の連射もかなり凶悪だけど、40mmグレネード弾も凄まじい破壊力を誇る。人間の兵士がこいつをお見舞いされればあっという間に爆風と破片にズタズタにされて黒焦げのミンチになっちまうし、強靭な外殻を持つ魔物も外殻を粉砕される羽目になるだろう。

 

 対吸血鬼用に水銀を内蔵した砲弾が床に着弾した直後、緋色の炎がバリケードの向こうで煌き、飛び散った水銀の斬撃がまだ応戦していた吸血鬼の兵士の肉体をあっさりと両断してしまったのが見えた。

 

 爆発の衝撃波で押し出された水銀は、ちょっとした斬撃だ。あくまでも対吸血鬼用の砲弾だけど、対人戦でも有効かもしれない。とはいえ水銀を内蔵するために炸薬の量が減ってしまうし、水銀のせいで砲弾の重量が増してしまうという欠点があるので、本格的に運用する前にテストした方がいいだろう。

 

「よし、前進!」

 

ほら急げ(ダヴァイダヴァイ)!!」

 

 圧倒的な火力だな、イリナは。

 

 マガジンを交換している彼女の肩を軽く叩いて「よくやった」と言ってから、AK-15を装備した俺は要塞の奥へと進んでいった。

 

 要塞の奥にいるブラドと決着をつけなければならない。

 

 あいつを消せば敵の兵器が全て消失する筈だ。それに、あいつと決着もつける必要がある。

 

 親父とレリエル・クロフォードが遺した怨嗟を、ここで終わらせるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 甲板に大穴を開けられたり、傾斜した戦艦たちがタンプル搭へと向かって上っていく。駆逐艦や戦艦は様々な塗装が施されており、中には通常の塗装ではなくダズル迷彩を施された戦艦も見受けられる。

 

 もっとも損傷しているのは、その艦隊の先頭を進む巨大な戦艦だろう。黒と灰色と蒼の三色で彩られた巨体にはいたるところに大穴が空いており、巨体が右舷へと傾斜しているのが分かる。艦橋の両脇にずらりと並んでいた対艦ミサイル用のキャニスターはほぼ全て破壊されており、ひしゃげた金属の塊と化した残骸たちが戦艦の甲板を覆っていた。

 

 その先頭を進む艦の艦首はかなり抉られており、前部甲板は金属の破片と海水で埋め尽くされていた。前部甲板の第二砲塔は艦首へと向けられているものの、第一砲塔は被弾した際の衝撃でやや右側を向いたまま止まっており、使用不能になっていた。

 

 吸血鬼たちの艦隊を打ち破ったテンプル騎士団艦隊旗艦ジャック・ド・モレーは、いつ沈んでもおかしくないほどの損害を被っていたのである。

 

 右舷に20度以上傾斜している上に、損傷のせいでたった6ノットでしか航行できない状態である。しかし乗組員たちのダメージコントロールが功を奏し、まだ艦砲射撃で地上部隊を掩護することは可能であった。

 

「各員、戦闘配置!」

 

「第二砲塔、第三砲塔、砲撃用意! 第一砲塔の砲手は第二、第三砲塔の砲手の補助に当たれ!」

 

「第二砲塔、第三砲塔、MOAB弾頭を装填! 目標、ブレスト要塞中央部!」

 

 ジャック・ド・モレーやソビエツキー・ソユーズ級に搭載されているMOAB弾頭は、スオミ支部の決戦兵器である”スオミの槍”や、本部の決戦兵器である”タンプル砲”に装填されるMOAB弾頭をそのまま小型化した強力な砲弾である。

 

 決戦兵器のような圧倒的な火力ではないものの、地上部隊に大打撃を与えることができる獰猛な代物であった。

 

 他の艦に助けられずに、自力でジャック・ド・モレーは河を上っていく。

 

 彼らには、まだ任務が残っているのだ。

 

 テンプル騎士団の領土を奪った敵から、ブレスト要塞を奪還するという重大な任務が。

 

 

 

 

 

 

 

 


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