異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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鮮血の戦場

 

 灰色の砂漠の中に鎮座していた巨大な要塞が、炎に包まれている。春季攻勢が始まる前まではテンプル騎士団の”重要拠点”の1つであったブレスト要塞の周囲に屹立しているのは、ブレスト要塞を守るために建設された防壁よりもはるかに高い、爆炎の壁たち。

 

 モリガン・カンパニーの砲兵隊による榴弾の砲撃で、要塞の周囲に埋められている対戦車地雷の群れを”駆除”しているのだろう。地雷の群れを排除するために420mm迫撃砲の水銀榴弾をこれでもかというほど叩き込むのはやり過ぎとしか言いようがないが、あの巨大勢力はそれほど怒り狂っているのだ。

 

 爆炎の壁の残滓をメインローターで切り刻み、要塞へと接近していく。

 

 地雷の処理が終わったのか、地上から兵士たちの雄叫びが聞こえてきた。それなりに低空を飛んでいるとはいえ、Ka-50ホーカムのコクピットの中にまで兵士たちの雄叫びが微かに聞こえてくるとは思っていなかった俺は、ぞくりとして大地を見下ろしてしまう。

 

 指揮官のホイッスルを聞いた兵士たちや戦車たちが、対戦車地雷が撤去された場所から一斉に進撃を開始する。灰色の砂漠がモリガン・カンパニーの漆黒の軍服を身につけた兵士たちに埋め尽くされており、まるで日の光が当たっていないかのように真っ黒になっている。

 

 進撃していく場所は、もちろん団長たちの奇襲で倒壊した東側の防壁だ。戦車ならば並走できるほどの穴が開いているが、吸血鬼共はやっぱりそこから侵入させるつもりはないらしく、早くもその穴の開いたヵ所に土嚢袋や周囲に転がっていた瓦礫を積み重ねてバリケードを作り、その上に機関銃や戦車を配置して抵抗しているらしい。

 

 バリケードに居座るレオパルトから放たれた多目的対戦車榴弾(HEAT-MP)が、漆黒の軍服を身に纏った兵士たちの隊列を穿つ。爆炎と破片が兵士たちの身体をあっさりと引き千切り、鮮血と肉片の混じった爆炎が周囲に飛び散っていく。

 

 立て続けに周囲に設置されたMG3たちが火を噴き、兵士たちを次々に撃ち抜いていく。しかし、無数の兵士たちは仲間が蜂の巣にされているというのに、全く突進を止めなかった。

 

 彼らは怒り狂っているのだ。

 

 グランバルカ号に乗っていた家族たちの仇を取るために、彼らはこの戦場へとやってきたのである。

 

 地上で繰り広げられているのは、死に物狂いの守備隊と、怒り狂った兵士たちの”狂った戦争”だった。

 

 俺の任務は、その狂った戦争に参加している兵士たちを機関砲とロケット弾の掃射で支援してやることである。

 

「ハンター4-2、攻撃に移る」

 

『了解(ダー)、幸運を』

 

 味方のヘリたちも散開し、地上部隊の支援や他のヘリを狙っている対空機関砲へと攻撃を始めている。

 

 一緒に高度を更に少しばかり落とした味方のホーカムが、対戦車ミサイルの準備をする。機関銃を排除すれば歩兵たちの被害は激減するだろうが、戦車が健在ならば突撃していく兵士たちは片っ端から肉片にされてしまうのは想像に難くない。異世界の科学力が生み出した戦車という兵器は、分厚い装甲で守られている上に、歩兵たちを薙ぎ払う機関銃と強力な戦車砲を兼ね備えた怪物なのだから。

 

 俺もロケットポッドと機関砲の準備をしつつ、仲間のホーカムと一緒に高度を下げた。

 

 メインローターの音で気付いたのか、レオパルトのハッチから顔を出した乗組員が、ハッチの近くに搭載されているMG3をこっちに向けて連射してきやがった。7.62mm弾はこのヘリには通用しないし、ヘリは戦車の天敵だ。砲塔がまだ味方の歩兵部隊の方へと向けられているのを確認した俺は、MG3の弾丸が何発か被弾しているにもかかわらずそのまま突進する。

 

『くたばりやがれ!』

 

 無線機から味方の罵声が聞こえてきたかと思うと、隣を飛行していたホーカムのスタブウイングに吊るされていた対戦車ミサイルが切り離され、炎と白煙を吐き出しながらバリケードで奮戦する戦車へと向かって飛んで行った。

 

 ミサイルの発射を終えたホーカムが進路を変え、退避を始める。俺も退避したいところだったけれど、こっちの任務は歩兵を掃射で排除する事だ。敵兵たちをミンチにするためにロケットポッドと機関砲をこれでもかというほど搭載してきたのだから、ここで退避するわけにはいかない。

 

 その時、味方のホーカムが放ったミサイルが、敵の戦車に直撃するよりも先に砕け散ったのを見た俺は、ぎょっとしながらその戦車を睨みつけた。

 

 ―――――――おそらく、アクティブ防御システムだ。

 

 くそったれ、ミサイルが迎撃されたのか!

 

 舌打ちをしながら速度を落としつつ、バリケードにいる敵兵の群れの真っ只中に照準を合わせる。対戦車ミサイルは通常のミサイルと変わらないが、機関砲の砲弾やロケットポッドに収まっているロケット弾たちは対吸血鬼用に水銀や聖水が詰め込んである。

 

 ミサイルをぶっ放したのが俺だと勘違いしたのか、戦車の砲塔の上の機銃が再び火を噴く。キャノピーや機首に弾丸が命中する音がする度にぞっとしてしまうが、向こうの弾丸は7.62mm弾だ。対人戦では猛威を振るう大口径の弾丸だが、ヘリの装甲を貫通するほどの貫通力はない。

 

「―――――――くたばれぇッ!!」

 

 発射スイッチを押した瞬間、スタブウイングの下に居座るロケットポッドたちが、搭載されていた無数のロケット弾を連射し始めた。筒状のロケットポッドから飛び出したロケット弾たちが白煙を刻み付けながら、レティクルの向こうにいる敵兵の群れに牙を剥く。

 

 そのロケットたちがバリケードの周囲に喰らい付いた瞬間、モリガン・カンパニーの兵士たちへと向けて放たれていた機関銃の掃射がぴたりと止まった。

 

 さすがに対戦車ミサイルのような圧倒的な攻撃力はないものの、ロケット弾は一発で歩兵を粉々にするほどの威力を誇る。それをこれでもかというほどバリケードの周囲にぶちまけたのだから、あの射手たちが無事で済むわけがない。

 

 案の定、バリケードの周囲は真っ赤に染まっていた。千切れ飛んだ肉片や内臓の一部が灰色の土嚢袋をピンク色や真っ赤に染め、その周囲にバラバラになった死体が転がっている。

 

 続けて機関砲をお見舞いしてやろうと思ったんだが――――――――コクピットの中に電子音が響き渡ったのを聞いた瞬間、舌打ちしながら操縦桿を倒した。

 

 ロックオンされているらしい。おそらく、敵兵に支給されていたスティンガーだろう。

 

 攻撃のチャンスを台無しにしやがって。

 

 キャノピーの外を見下ろしながらミサイルを確認する。発射された地点は、今しがたロケットポッドで吹っ飛ばした場所のやや後方だ。仲間の仇を討つために、敵兵がスティンガーを持ってきたに違いない。

 

 回避が終わったら機関砲で吹っ飛ばしてやる、と思いながら、フレアをばら撒きつつ回避する。こっちを追尾してきた獰猛なスティンガーミサイルが逸れていったのを確認してから機体を旋回させたその時だった。

 

 地上で、敵兵がパンツァーファウスト3をこっちに向けているのが見えたのだ。

 

 パンツァーファウスト3は対戦車用のロケットランチャーである。スティンガーミサイルのようにロックオンできるわけではないため、いくら戦闘機よりも動きが鈍いとはいえ、空を飛び回るヘリを攻撃する兵器ではない。

 

 だから当たるわけがないだろう、と高を括ったが、俺はぞっとしていた。

 

 ―――――――もしかしたら喰らうかもしれない。

 

 こっちは高度を落としている上に、旋回するために速度まで落としているのだ。相手が射撃の技術が高い兵士だったら速度の落ちている隙だらけのヘリに命中させるのは容易いだろう。

 

 白煙を吐き出しながらロケット弾が接近してくる。操縦桿を倒して回避しようとしたが、機体が旋回を始めた頃には、Ka-50ホーカムが激震していた。

 

 多分、今の攻撃が命中したんだろう。どこに命中したんだろうか。

 

 必死に操縦桿を引くが、機体がもう動かない。ぐるぐると回転しながら高度を落としていることを知った俺は、キャノピーの向こうを見つめながら息を吐いた。

 

「―――――――ごめんな、アリシア…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 弾薬が入った箱を抱えながら仲間の所へと戻った俺は、目を見開きながら仲間たちのズタズタにされた死体を見下ろしていた。

 

 仮設の弾薬庫―――――――以前は食糧庫に使われていたらしい―――――――の中にある7.62mm弾の箱を取りに行っている間に、仲間たちが敵のヘリの攻撃でバラバラにされていたのである。

 

 先ほどまでMG3で敵の歩兵部隊を攻撃していたルドルフはヘリの攻撃で上半身を吹っ飛ばされてしまったらしく、土嚢袋の後ろには腸や骨盤の一部が露出したルドルフの下半身が転がっている。その周囲に転がっているのは、ルドルフの上半身の一部だろうか。

 

「あ…………あぁ…………!」

 

 怒声を発しながらモリガン・カンパニーの兵士たちに攻撃を続けていた仲間たちは、全員死んでいた。

 

 雄叫びを上げながら突っ込んでくる敵兵の弾丸が、土嚢袋に牙を剥く。反射的に抱えていた箱をルドルフの死体の近くに置き、中から7.62mm弾が連なっているベルトを引っ張り出してから、MG3のカバーを開けてその中にベルトをぶち込む。辛うじて射撃はできそうだ。

 

 コッキングレバーを引いて射撃準備を終えてからグリップへと手を伸ばしたその時、俺は”先客”がまだグリップに残っていたことに気付いた。

 

「ルドルフ………」

 

 敵のヘリに殺された射手(ルドルフ)の腕が、この銃は俺のものだと言わんばかりに、まだMG3のグリップをしっかりと握っていたのである。

 

 血まみれの彼の手をグリップからそっと外し、後ろに転がっている彼の下半身の近くに置く。

 

 絶対、仇を取ってやるからな…………。

 

 照準器の向こうから突っ込んでくるのは、モリガン・カンパニーの兵士たちだ。中にはT-14にタンクデサントしながらこれでもかというほど7.62mm弾をこっちに向かってぶちまけている兵士もいる。対戦車地雷の排除に手間取るだろうと思っていたんだが、どうやら敵は必要最低限の範囲の地雷だけを撤去し、そこから進撃してきたらしい。

 

 バリケードの近くにいたレオパルトが主砲同軸の機関銃を放ち、兵士たちの群れやタンクデサントしている兵士たちを木っ端微塵にする。たちまちT-14の砲塔や車体が敵兵の内臓と鮮血で真っ赤に染まり、禍々しい塗装に早変わりしてしまう。

 

『『『『『Ураааааааааааа!!』』』』』

 

 血まみれになったグリップを握り、照準をモリガン・カンパニーの兵士たちに合わせる。そして呼吸を整えてから、俺はトリガーを引いた。

 

 マズルフラッシュと共に銃口から躍り出た弾丸が、照準器の向こうにいる敵兵たちを蜂の巣にしていく。瞬く間に突っ込んでくる敵兵の隊列から血飛沫が上がり、7.62mm弾に貫かれた兵士たちが倒れていったが、何度も機関銃で掃射しているというのに敵が全く減っているように見えない。

 

 戦車の上でタンクデサントしていた兵士が胸を撃ち抜かれ、砲塔の上から転落していく。反撃するために顔を出した兵士の頭を撃ちぬいた瞬間、叩き割られた頭蓋骨から脳味噌の破片が飛び散り、T-14の砲塔をピンク色の脳味噌の破片で彩った。

 

 多分、こっちの弾がなくなる方が先だろうな…………。

 

 幸い敵は吸血鬼じゃないから、殺した敵兵の装備を鹵獲すれば戦い続けることはできるだろう。けれどもこのMG3の弾薬がなくなってしまえば、俺の装備はコルトM1911A1とナイフのみ。俺の任務はルドルフと一緒にLMGで敵を薙ぎ倒す事だったから、手榴弾は支給されていない。

 

 その時、敵の戦車の砲口から飛び出した物体が俺の頭上を掠めた。ぎょっとした次の瞬間、後方で主砲同軸の機関銃を放ち続けていたレオパルトの銃声がぴたりと止まったかと思うと、装甲を砲弾が貫通する音と、金属が溶けたような強烈な臭いがバリケードの周囲を一時的に支配する。

 

「!」

 

 今しがた頭上を掠めたのは、敵の戦車の放ったAPFSDSだった。どうやらそのAPFSDSが後方のレオパルトの砲塔に直撃したらしく、俺と一緒に敵の歩兵を薙ぎ倒してくれていた戦車は黒煙を吐き出しながら動かなくなっていた。

 

 砲塔に大穴を開けられた戦車を一瞥してから、再びトリガーを引く。

 

 味方の戦車の砲撃ならあの敵の戦車たちを撃破できたはずなんだが、LMGだけでは敵の戦車部隊と無数の歩兵たちを食い止められるわけがない。

 

 でも、撤退するわけにはいかない。ここを突破されれば敵の大部隊が要塞の中に入り込んでくるのだから、ここで敵部隊を食い止めなければならない。

 

 歯を食いしばりながらトリガーを引き続けていたその時、敵の戦車の砲塔が火を噴いた。

 

 方向はこっちを向いていたから、狙っているのが俺だという事はすぐに理解できた。戦車は撃破された挙句、他の兵士たちも全滅してしまっているのだから、せめて砲弾じゃなくて銃弾で殺してくれと思った次の瞬間、その砲弾が土嚢袋のすぐ近くで炸裂し、爆風と水銀の斬撃を周囲にばら撒く。

 

 鞭で胸板を思い切り叩かれたような感覚がした直後、鮮血が自分の胸板から飛び出す。

 

 くそったれ、水銀榴弾をぶち込みやがって…………。

 

 もう一度LMGで反撃してやろうと思ったが、もう腕は動かない。足に力を入れて踏ん張ろうとしたんだが、足も全く動かなかった。

 

 そのまま仰向けに倒れる羽目になった俺は、太陽が昇り始めた空を見上げながら歯を食いしばった。

 

 青空よりも、星空の方が好きなんだよね…………。

 

 だから死ぬ前に、青空よりも星空を見たかった。

 

 春季攻勢(カイザーシュラハト)に参加する前に、ディレントリアで妻と一緒に見たような、綺麗な星空を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 

『ゲェ―――――――』

 

 左から右へと思い切り振り払った棍棒が、吸血鬼の頭を思い切り叩き割った。ヘルメットの破片や肉片を浴びながらその死体を蹴り倒し、左手のPL-14を敵兵に叩き込む。

 

 MOAB弾頭の爆発で空いた穴を仲間が昇り終えたのを確認してから、俺は吸血鬼の群れへと雄叫びを上げながら突っ込んで行った。

 

 先行した同志団長は既に要塞の内部へと突入して室内戦を始めているらしく、要塞の内部からショットガンの銃声と敵兵の断末魔が聞こえてくる。団長が敵を攪乱しつつ囮になってくれたおかげで、強襲殲滅兵やスペツナズの兵士たちが昇っている最中に襲撃されることはなかったのだ。

 

 戻ったら団長にお礼を言わないとな。

 

 あの人は全く差別をしない人だった。オークやハーフエルフは差別される挙句、奴隷にされて過酷な労働をさせられるのが当たり前だと思っていたんだが、あの人は俺たちを商人たちから助けてくれた上に、仲間にしてくれたんだ。しかも騎士団の連中みたいに酷使せずに、大切に扱ってくれる。

 

 だからこそ、あの人のために尽くしたい。

 

 他の奴隷だった兵士たちも同じことを考えているだろう。

 

 俺たちを救ってくれたからこそ、あの人に恩を返したいのだ。

 

 吸血鬼の兵士が放った弾丸が俺の胸板を貫く。けれども身体が頑丈なおかげなのか、激痛に耐える事さえできればまだ走り回ることはできそうだ。人間の兵士だったら倒れていたに違いない。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 

『く、くそ、あのオークの突撃歩兵を止めろ!!』

 

『ダメです、何発叩き込んでも止まりません! 頑丈すぎます!!』

 

 またしても敵の弾丸が胸板や肩に喰らい付いたが、俺はそのまま突進した。必死にフルオート射撃を続ける敵兵に肉薄して棍棒を振り上げ、顔面を砕く。そのままくるりと反時計回りに回りつつ左足の蹴りで他の敵兵の体勢を崩し、転倒した敵兵の頭に銀の9mm弾をお見舞いする。

 

 同志が支給している銃という兵器は確かに強力な武器だ。けれども、奴隷だった頃から使ってきた得物だからなのか、俺は銃よりも棍棒の方が扱いやすい。

 

 弾切れになったPL-14をホルスターの中へと戻し、血まみれになった棍棒の柄を両手で握る。雄叫びを上げながらそれを思い切り薙ぎ払った瞬間、小柄な―――――――オークの男性の平均的な身長は2mなので、他の種族は全員小柄に見える―――――――吸血鬼の兵士が3人ほど吹っ飛んで行った。

 

「どうしたぁ!? 弱すぎるぞ、吸血鬼共ッ!!」

 

 背中に背負っていたPPK-12を左手で持ち、フルオート射撃で敵兵の群れを薙ぎ払う。

 

 他の強襲殲滅兵たちも奮戦していた。支給された武器だけでなく、奴隷だった頃から使っていた銀のロングソードやトマホークで敵兵と白兵戦を繰り広げている兵士たちもいる。中には5.56mm弾が立て続けに命中しているにもかかわらず、敵兵に突っ込んでハルバードを振り回している同胞(オーク)もいた。

 

 銃剣を装着したXM8を構えながら突っ込んできた敵兵を棍棒で叩き潰し、その死体を踏みつけながら先へと進む。

 

 その時、やけにでかい弾丸が胸板に突っ込んできた。

 

「ぐっ…………!?」

 

 7.62mm弾よりもでかいかもしれない。

 

 鮮血を噴き出した胸板を片手で押さえつつ前方を睨みつけると、他の兵士たちのライフルよりもやけに大きなライフルを構えた吸血鬼の兵士が見えた。

 

 大型のスコープとマズルブレーキが装着されたライフルで、長い銃身の下にはバイポッドが装着されているのが分かる。スナイパーライフルにも見えるが、一般出来なスナイパーライフルよりも明らかに大型だ。

 

 多分、バレットM82A3だろう。

 

 5.56mm弾や6.8mm弾なら耐えられるけれど、さすがに12.7mm弾には耐えられない。

 

「ははははっ…………」

 

 遮蔽物へと隠れようとしたが、足を踏み出した瞬間に、その足が12.7mm弾の狙撃で千切れ飛んだ。

 

 そのまま倒れる羽目になった俺は、片手で胸板を押さえながら呼吸を整える。紅と黒の迷彩模様の制服に身を包んだハーフエルフの兵士がこっちを見て走って来ようとしているのが見えるが、俺は首を横に振る。

 

 助けに来たら、あいつまで狙撃されるからな…………。

 

 その兵士が悔しそうな顔をしながら雄叫びを上げ、マチェットで敵兵の首を両断したのを見守ってから、俺は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 


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